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第9話 彼が本気になったなら

① 魔女、やらかす(H)

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「見て下さいよ、お二人とも!
 ここが噂に名高いカーンデァル山の山頂ですよ!
 凄い絶景ですね!!」

 イーファの言う通り、ここは山の頂だった。
 確かに良い景色だ。
 麓に広がる大森林も一望できる。

「……ああ」

「……そうですね」

 対して、ヴィルとエルミアの返答は無感情なものであった。
 しかしイーファはそのことに気付かず。

「初代の勇者はここで神託を受けられたとか!
 この場所から勇者の冒険が始めったんですよ!
 歴史の追体験している感じで、アタシ感動しちゃいます!!」

 聞いてもいないのに熱弁をふるう。
 目が有り得ない程輝いていた。

「……ああ」

「……そうですね」

 一方で、ヴィルとエルミアの目は死にかけている。

「なぁ、エルミア」

「……はい」

 元気なイーファを置いて、会話を始めた。
 二人共、口調がとても疲れている。

「俺達、王都に向かってるんだよな?」

「……そうですね」

「俺の記憶が確かなら、カーンデァル山って王都と逆方向じゃなかったか」

「……そうですね」

「何で俺達、ここにいるんだ……?」

「……なんででしょうね」

 全ては、『アタシ、近道知っているんです!』とか言い出したイーファに道案内を任せたことに原因がある。
 途中で薄々おかしいと気づいていたのだが、彼女が凄まじい行動力を発揮して反論を封じられてしまった。
 結果、深い森を潜り抜け、険しい山々を踏破し、ヴィル達は勇者発祥の地へと足を踏み入れることになったのだ。
 まさか彼女の勇者フリークが、ここまでだったとは。

「あー! この岩、ひょっとして聖剣が刺さってた岩なんじゃないですか!?
 ここで剣を抜いた時、啓示が降りてきたわけですよね!!
 それまで世捨て人だった勇者が、己の運命に目覚めた瞬間だったと――」

 向こうでは、まだイーファが騒いでいる。

「…………」
「…………」

 ヴィルとエルミアは、何をするでも何を考えるでもなく、ただその姿を眺めていた。






 で、最終的に。

「や、やめて下さい、先生!
 なんでこんなことするんですか!?」

「君が馬鹿なことをしたからだ」

 おしおきすることと相成った。
 ヴィルは、むき出しになった柔肉を口に含む。

「あぁああっ!! ダメ、ダメです!!
 そこ、噛んじゃダメェっ!!」

 ビクビクと震える赤毛の少女。
 だが手を緩める気はまるでなかった。
 というか、こんなもので済まそうとは微塵も思えなかった。

「あらあら、イーファ。
 こんなに美味しそうな汁が出てしまっていますよ?」

「やあぁぁぁぁ――エルミアさん、許して、許してぇぇぇ――
 ひぁぁああああっ!!」

 エルミアも容赦しない。
 雌から流れ出た液を、チュルチュルとすする。
 今は聖女モードだというのに、かなり嗜虐的だ。
 それ程、彼女も腹に据えかねた、ということだろう。

 今3人は森の中、やや開けた広場のような所にいた。
 ここで、ささやかな“饗宴”を興じているのだ。

「……ここは大分固くなってるな」

「あっ!! ああっ!!
 齧らないで下さっ――ひぁああああああああっ!!!」

 しっかりと“準備”したためか、大分固くなってしまった・・・・・・・・・部分に歯を立てる。
 イーファが悶えるが、知ったことではない。

「ん、ふぅ――はむっ――
 ふふふ、美味しいですよ、イーファ」

 エルミアもまた、雌の肉へ食らいつき出す。

「あーっ! あーっ! あーっ!!
 止めてぇえっ!! 止めてぇえええ!!」

 とうとう泣き出す。
 それでも二人の手は動きを止めない。
 イーファは、感極まって叫び出した。

「限界っ!! もう、限界なんですっ!!
 お願いします、先生、エルミアさんっ!!」

 少女の嘆きが、辺りに響く。
 聞いている者など、誰も居まいが。
 それでも、彼女は続ける。

「――アタシにもその“料理”食べさせ下さいぃぃいいいいっ!!!」

「駄目だ」←野牛のステーキ堪能中
「駄目です」←雌鳥の煮汁堪能中
「ううぅぅぅ――」←お預け中

 彼等は現在、食事中であった。





 そして。

「あー、食った食った。
 エルミアの料理は最高だな」

「お粗末様です」

「はぅぅぅぅ」

 結局イーファは、最後まで料理にありつけなかったのだった。

「酷い……酷すぎます……
 なんで、なんでこんなことを!」

 さめざめと涙を流し、赤毛の少女が訴える。
 ちなみに彼女は食事中、動けないように縄で縛られていたのだが、それは今も継続している。

「自分の欲望を優先して、目的地から大きく離れるような旅程を組んだからだろうが。
 どうするんだ、王都への到着が大分遅れたぞ」

「そ、それは、その、申し訳ないです……
 でもでも、情熱が抑えられなくなることって誰にでもありますよね!?」

「人に迷惑をかけない範囲でならな」

「はぅっ!」

 言い訳をズバっと切り捨てる。
 イーファは俯いて、

「ううぅぅぅ……お仕置きと聞いて、いつもより激しく抱かれるのを期待してたのに……」

「最近、それがお仕置きにならなくなってきたからなぁ」

 しみじみと呟く。
 割と毎日のようにハメ倒しているせいで、今の彼女はちょっとやそっとのプレイで根をあげなくなった――どころか、普通に楽しんでしまう。
 日に日に激しい責めを要求するエルミアが原因の大半を抱えているような気もするが。

「それにしたって、ご飯抜きとか……うう、お腹空きましたぁ」

「その空腹の辛さこそが罰なんだ。
 しっかりと反省しろ」

 しかし、今回イーファの食事を無しにしたのは、別の理由もあって――

「――実際問題として、そろそろ食料が底を尽きそうなんだよなぁ」

 そういうことなのであった。
 勇者マニアな少女が思い切り本来のコースを捻じ曲げたせいで予定していた町に辿り着けず、ヴィル達は食料を補充する機会無く、ここまで行軍してしまった。
 寧ろ彼女へ罰を与えたのは、こちらの理由が大きかったりする。

「周囲は森なのですし、ここで食料を現地調達するわけには参りませんでしょうか?」

「俺、狩りは苦手なんだよなぁ」

 エルミアの提案へ、ややバツが悪そうに答える。
 普通の動物は、ヴィルの気配を感じると全力で逃げてしまう。
 ある程度の強さを持つ魔物であればそうでも無いが、しかし魔物の調理方法など青年は知らない。
 その上、

「……この辺りの植生も知らないから、どれが食べられる植物か分からんし」

 彼の故郷である帝国の植物であれば、食べられるか食べられないかを見分ける程度のサバイバル技能は身に着けているのだが。
 如何せん、遠く離れた王国の地では、その技能が通用しない。

「あ、それなら任せて下さい!
 アタシ、分かります!
 授業でやりましたから!」

 そこへ、大きな胸を反らしながらイーファが発言してくる。
 これまでの汚名返上のつもりなのだろうが……

「……教科書知識が当てになるのか?」

「フィールドワークだってしましたから、大丈夫ですよぉ!」

 ヴィルの偏見も入るが、こういうのは実際に現地で行動しなければ習得できないものなのだ。
 だがそれを指摘しても、イーファは自信満々。
 ならば、と質問してみる。

「じゃあ、あそこにある草は食べられるのか?」

「あれはペソペソ草ですね。
 食べると強烈な吐き気を催し、最悪死に至ります」

「じゃあ、あっちになってる実は?」

「あっちはヴェーンの実ですね。
 食べると全身が痺れ、最悪死に至ります」

「……そこに生えてるきのこは?」

「それはベニフレアダケですね。
 食べると激痛が襲い、まあ死にます」

 すらすら得意げに答えてくれるイーファ。
 こちらは頭が痛くなってきたが。

「あー、つまり総合すると?」

「ええ!
 この辺りに食べられる植物は無いって、断言できます!!」

「………そうか」

「な、なんですか、その可哀そうな子を見るような目は!?」

 その通りなので、説明は要らなそうだ。

「しかしどの植物も毒持ちってどうなってるんだ、この森。
 呪われてるんじゃないのか?」

「仮にも勇者に関わる地でなんてこと言うんですか、先生!
 確かに毒のあるモノが多いですけど、中には食あたりするとか幻覚を見るとか、症状の軽いやつもありますよー!」

「何の慰めにもならんわ!!」

 一喝し、結局問題は解決の見込みがないことに頭を抱える。
 とはいえ、ヴィルは多少の毒に耐えられるよう訓練を受けているので、最悪の場合自分はそこらの雑草でも食べ、食料は全てエルミアとイーファに回せばどうにかなるだろう。
 ……余りやりたくはないが。

「近場に集落でもあればなぁ」

「私に心当たりは無いですね」

「ガイドブックにも書いてありません」

 そのガイドブック、近い内に取り上げておいた方がいいかもしれない。
 だが今は――

「――そろそろ、寝よう。
 大分夜も更けてきた」

 敢えてイーファに見せつけるよう食事を摂っていたので、いつもより時間がかかってしまったのだ。
 辺りは既に真っ暗。
 獣や虫の鳴き声がどこかから聞こえる。
 食糧事情も考えれば、さっさと眠って体力を温存するべきだ。

 ヴィルは荷物袋から寝具――携帯用ベッドというマジックアイテムを取り出した。
 前々からエルミアが使っていたのだが、余りに便利なため自分用にも調達したのである。
 直方体の白い物体、といった形状のアイテムを地面に置き、呪文を唱えればあっという間に人が寝転がれる大きさにまで膨らむ。
 これで、ふかふかベッドの完成だ。

(こんな野宿でも宿並み環境で横になれるんだから、旅も便利になったもんだ)

 しみじみと思う。
 彼はその上に乗って、

「よし、いいぞエルミア」

「はい」

 呼ばれた少女もまた、慣れた仕草でベッドに上がる。
 するすると着ているローブを脱ぎ、下着姿へ。
 エルミアの白く華奢で、しかし出るとこはしっかり出ている肢体が目の前へ現れる。
 彼女はそのままこちらへしな垂れかかり――

「ヴィル――んっ」

 キス。
 唇の柔らかい感触が直に伝わる。
 ほのかに甘い匂い。
 銀糸のような長い髪が、ヴィルの肩にかかる。
 辛抱堪らず、エルミアの身体を抱きしめて――

「あ、あれ? 今日もするんですか?」

 ――横から、デリカシーの無いイーファのツッコミが入った。

「そりゃするよ」

「これをしないとぐっすり眠れませんから」

 二人そろって返答する。
 最早エルミアを抱くのは、毎日の習慣にまでなってしまった。
 彼女も口にしているが、一日一回はヤっておかないと明日の調子が悪くなる、ような気がする。

 では改めて続きを――と動き出したところで、

「いやいや、おかしくないですか?
 体力、温存しなくちゃなんですよね?
 セックスしたら消耗しちゃいますよ?」

「そうしなくちゃいけなくなった原因は、君なんだが」

 食い下がるイーファを一刀両断する。

「そ、そうかもしれませんけど!
 だったら、アタシも!!
 アタシも抱いてくれないですかね!?」

「駄目だ」

「何故!?」

 ショックを受ける赤毛の少女へ、止めを刺す。

「お仕置き中だから」

「はぅぅううううううっ!!?」

 がっくりと首を垂らすイーファ。
 そんな彼女は置いておいて、ヴィルとエルミアは交わり始める。

「あっ! あっ! ヴィルっ!! そこ!! すごいっ!!
 はあぁぁぁあああああああっ!!!!」

 その嬌声は、一先ずイーファが寝落ちするまでは続けていた。



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