95 / 119
第二十八話 “鉤狼”のガルム/黄龍ティファレト
③ I am your father
しおりを挟む灼ける。
灼ける。
身体が灼ける。
『獄炎の欠片』によって発生した“火”の渦は、今なお私を覆っていた。
戦神の鎧が持つエネルギー吸収効果よってある程度は防げているが――ここまで炎に包み込まれては、完全に燃え尽きるまで、そう時間はかからないだろう。
美咲さんのように“全身鎧”として着込んでいれば違ったのだろうが。
不思議と、痛みは感じなかった。
人が感じられる痛覚の許容量を超えてしまったのかもしれない。
周囲の空気が燃やされ、脳へ酸素が届かなくなったことも原因か。
意識が朦朧とする。
思考が停止していく。
これが敵によるものではなく、味方によって齎されたのだという、ぐだぐだ感極まる事実も、最早私にはどうでもいいことだ。
……本当にどうでもいいことなのだ。
(――っ――ちっ――いちっ――)
ああ、なんだ。
誰かの声が聞こえてくる。
(――いちっ――せ――ちっ――せいいちっ――誠一っ――)
あ、貴方は……父さん!
十年前に亡くなった父さんじゃないか!
(誠一、クラスの麗奈ちゃんな、そろそろ子供を孕める身体になっていると思うんだ。
今度、家に連れてきなさい)
ああ、父さん――
(誠一、セックスをした代償に金を払うなんてことしてはいけない。
女はな、男に犯されるために生きているんだ。
セックスしてやること自体が、女への報酬なのさ)
これが、走馬燈か――
(さあ、誠一、こっちに来なさい。
今日は近所の雌共を集めた。
どっちが多く孕ませられるか、競争しようじゃないか――)
父の幻影が、手を伸ばしてくる。
私もまた、その手を取ろうと腕を伸ばす。
父さん、私も今そっちに――
私の手を父が握ってきた、その瞬間。
「逝くなぁっ!!」
「!?」
誰かの声で、一気に現実へ引き戻された。
「はぁっ、はぁっ、無事か、親友!?」
「……ど、どうにか」
あれから。
私はティファレトの手で『獄炎の欠片』から救出された。
広場では、未だにエネルギーの奔流が渦巻いている。
あと少しあの場所に留まれば、私はこの世から旅立っていたことだろう。
「クロダさん、御無事で何よりです」
「ご心配おかけしました」
心配そうな顔で私への手当を続けるローラさん。
そんな彼女へ、ティファレトが詰め寄る。
「いや、心配顔してるけどな?
あれやったの、お前なんだからな?
分かってんのか、おい?」
「どうしてあんな効果になってしまったのでしょうね?」
「おい親友!
この女、反省してねぇぞ!!」
それは別に構わない。
例え私もろともでも、龍が倒せたのなら今後の計画に大きな支障はないのである。
ただ――
「――やはり、理由が気になりますね。
どうして、こんなことになったのか」
『獄炎の欠片』にここまでの効果範囲は無いはず。
いったい何が起きたというのか。
「だ・か・ら!
この女のせいなんだって言ってんだろ?
大方、<範囲拡張>でも使ったんだろう」
<範囲拡張>とはその名の通り、マジックアイテムの効果範囲を広げる<錬金術師>のスキルである。
確かに、『獄炎の欠片』を確実にティファレトへ当てるため、使用を指示してはいたが。
しかし、
「そんなまさか。
私のレベルでは、こんなにまで拡大できませんよ」
そう。
ローラさんはまだ冒険者になりたてのため、当然スキルの熟練度も低い。
故に、効果量も微々たるものであり、これ程の大惨事を引き起こすことなどできはしない。
だがティファレトはなおも続ける。
「その認識がおかしいんだっつーの。
おい女、ちょっと自分の冒険者レベルを確認してみろ!」
「は、はい?」
人狼に促され、戸惑いながらも冒険証を取り出すローラさん。
――すぐに、彼女の顔色が変わった。
「ええぇええええっ!?
91になってます!!」
「きゅうじゅういちっ!!?」
私の顔色も変わった。
なんだそれ。
私のレベルより高いじゃないか。
「ど、どうなってしまったんですか!?
昨日確認した時はまだ15位だったのに!
私の身体に何が!?」
「ひゃはははは!!
んなもん決まってんだろうが!!」
ティファレトが高笑いをあげる。
こいつ、ローラさんのレベルについて知っていたのか?
「ついさっきまで、この女は俺様の精液をたらふく飲んで、注がれたからな!
最強の人狼種の精子を介して、生命を司る黄龍ティファレト様の力を浴び続けていたわけだ!!
そりゃ、この女程度なら、限界まで力が引き出されるってもんよ!!」
「――な、なんと」
そんなことができるのか!
コツコツと魔物を倒してレベルを上げていたのか馬鹿馬鹿しくなってくるな!
「と、ということは、ひょっとして私、クロダさんやミサキさんより強くなってたりするのでしょうか?」
「あん?
んなわけねぇだろ。
レベルってのは、“どれだけ潜在能力を解放できたか”を示す指標だ。
同じレベルでも人によって強さは千差万別。
ひゃはははっ! 弱ぇ奴はどこまでいっても弱いままってことだな!」
――その通りではあるのだが。
腹の立つ言い方をする奴だ。
「んで、美咲は強さの限界が他の人間共とは比べ物にならん位高い。
知ってるか?
あいつ、7年前に魔王と戦ってた時、レベルは20行ってなかったんだぜ?」
「え!?」
「ま、マジですか」
初耳だった。
規格外に過ぎる。
「親友の場合、限界はそう高いわけでもないし、しかも素のステータスが低い<魔法使い>だからな。
ただ殴り合うだけなら、この女でも案外いい勝負はできるかもしれねぇ。
親友の強さは“社畜”による超絶技能に集約されてるからなぁ」
「な、なるほど」
ローラさんは、ティファレトの説明を素直に聞き入っていた。
敵の言葉を簡単に信じてしまうのは危険かもしれないが、間違ったことを言ってはいないので問題は無いだろう。
「でもこんな力を私に与えて、いったい貴方は何をしようと――ま、まさか!」
ローラさんが、何かに気付いたようだ。
「――まさかこの力で、キョウヤ様を暗殺しろ、と?」
「違うぞ?」
あっさりティファレトは否定した。
「そんなこと言っておいて本当は?」
「だから違うって」
「えー」
どうしてそんな残念そうなんですか、ローラさん。
「だいたい、お前じゃどう足掻いたところで美咲を殺すことなんざできねぇよ。
身の程を知れ」
「む、むぅ。
……試してみる価値はあると思うのに」
「こ、この女、怖いことをさらっと言いやがったぞ」
一瞬、人狼がたじろぐ。
凄いやローラさん。
しかし今のは、奴に対して精神的優位に立つためにああいった言動をしたのであって、きっと本心からの発言ではないはず。
――本心じゃないですよ、ね?
とはティファレトもすぐに気を取り直したようで、
「ひゃははははっ!!
そんなことより、まだ気づかねぇのか!?
てめぇの身体の異変によ!!
俺様が、ただレベルを上げただけだと思ったのか!!」
「何っ!」
聞き捨てならない。
ティファレトめ、ローラさんの身体に何を仕掛けたというのか。
「わ、私に、いったい何を――?」
怯える彼女に、ティファレトは顔をいやらしく歪ませながら、
「ひゃははははっ!!
教えてやるよ!!」
ボロン、とそのイチモツを見せつけた。
で、でかい!
そして太い!
男根!
恐ろしい程に、男根!!
こ、こんな猛々しい雄を見てしまったら、ローラさんは盛りの付いた雌犬に成り果て――
「えい」
――彼女は躊躇うことなく、人狼の肉棒へ“薬品”を振りかけた。
「あぁああああああああああああっ!!!!!!???」
途端、のたうちまわるティファレト。
奴の股間は、じゅうじゅうと音を立てながら焼け、煙を上げている。
……きょ、強酸か何かを使ったのだろうか?
他人事ながら、見るだけで股間の竦む光景だった。
「ひゅーっ…ひゅーっ…ど、どうだ、これで分かっただろう?」
「貴方の馬鹿さ加減が、ですか?」
どうにかイチモツの薬傷を治した人狼の言葉を、ローラさんはばっさりと切り捨てた。
「そうじゃねぇよ!!
ほらぁっ、いつものお前なら、俺様の巨ちんを見ようものなら勝手に股濡らしてアヘアヘ喘ぎ出しただろうが!」
「そんなことは!――――無い、とは言い切れませんけど」
言い切れないどころか、確実に“そうなって”いただろう。
ローラさんに刻まれた調教の痕は、彼女に雄への従属を強制させる。
だが今回は、その傾向が見られなかった。
これはいったい?
「言ったはずだ。
俺様は生命を司る黄龍ティファレト。
俺様の力に当てられりゃ、どんだけきつい“後遺症”だろうと、立ちどころに治るって寸法よ」
そ、それでは――
「――ローラさん?」
「は、はい。
言われてみれば、今は意識がいつもよりはっきりしているような。
頭の中の靄が晴れたと言いますか……」
彼女を蝕んでいた後遺症が、治った?
ティファレトは、このためにローラさんを……?
「き、貴様、まさか――」
「おっと。
俺様はただ、好みの雌を犯しただけだぜ?
その結果、雌がどうなろうと――初期状態に戻っちまったとしても――俺様の知ったことじゃねぇさ」
「ティファレト――」
気のせいか、人狼の顔が優しい微笑みを浮かべたように見えた。
「いえ、繰り返しますけど無理やりしたら犯罪者なんですからね?
そもそも、私の身体を治すのにレイプする必要あったんですか?」
暖かくなった(気がする)空気を、ズバッと切り裂くローラさん。
――ま、まあ、そうなのかもしれないけれども。
もう少しこう、この温い流れを大事にしてもいいのではないだろうか。
いや無理か。
「いいじゃねぇか別に。
細かいこと気にすんなって」
朗らかに笑うティファレト。
その表情からは、奴の真意が測れない。
本当にただ犯したかっただけなのか、それとも何らかの策謀の一環なのか。
普通に考えれば後者なのだが、ここまでの言動を見るに前者の可能性も否定できない。
――考えても仕方ないことか。
さて、色々と話し込んでしまったが。
「……ティファレト。
そろそろ戦闘を再開しよう」
人狼に対して拳を向ける。
少し和んでしまったものの、奴との戦いは継続中。
未だ決着はついていないのだ。
「ん?
ああ、いいよ、戦いは親友の勝ちで。
あのままやってりゃ、ギリギリで親友が勝ってただろう」
「……は?」
気を引き締める私に対し、余りにも淡泊に自分の負けを宣言してきた。
「他の六龍の支配を諦めるのか?
陽葵さんの身体に移る、と?」
「何言ってんだ親友。
さっきの爆発で頭イカレちまったのか?
“この戦い”は、“勇者の戦い”じゃなかっただろうが」
……あ。
そういえばそうだったか。
これは、“ティファレト”を倒すために始めた戦いだった。
故に、敗北したとしても陽葵さんに入る必要は無い。
「いやしかし、この戦いの目的を鑑みるに、敗北を宣言した以上お前には消えて貰わないと」
「ん? なんだ、敗者をこれ以上いたぶろうってか?
それなら俺様にも考えがあるぞ」
「――何をするつもりだ」
身構える。
まあ、今の提案を受け入れるわけが無い。
人狼は戦う力を十分に残しているのだから。
奴が何かしてもすぐ対処できるよう、十二分に注意を注ぎ込む。
しかしティファレトは――
「何をするって?
決まってんだろ――逃げるんだよ!」
「はい?」
――思いもかけないことを口にした。
「戦って勝てない相手からは逃げる。
当然のことだな」
「に、逃げる――?」
「親友も分かってんだろ?
単純な速度じゃ、俺様の方が圧倒的に上だ。
親友は、俺様を絶対に捕まえられねぇ」
――その通りだ。
しかし、六龍が人間相手に逃げを打つのか?
「ひゃははははっ!
俺様にそういう“プライド”を期待しても無駄だぜ!
言ったろ、六龍のギャグ担当だってな!」
……これまた、手強いギャグ担当も居たものだ。
「つまり貴様は、自分以外の勇者が戦いが終わるまで身を隠す、と?」
実に有効な手ではある。
しかし、私がそれを口にした途端、ティファレトは露骨に不機嫌な顔をした。
「んなわけあるか。
俺様がそんな情けねぇ戦法とるわけがないだろうが。
だいたいな、もう“勇者の戦い”なんざ起きねぇよ」
「なんだと?」
いきなり何を言っているんだ?
まだ勇者はガルムを除いても2人残っている。
龍に至ってはまだ5匹だ。
訝しむ私を嘲笑うように、ティファレトは続けた。
「当たり前だろうが。
いいか親友。
お前は、“人の身であっても龍を倒せること”を証明しちまったんだぞ?
それを知っちまった龍共が、真っ正直に戦うとでも思ってんのか。
1000年以上続くグラドオクス大陸の歴史の中、延々と引きこもり続けてた龍共がよぉ」
……いや、自分で言うのもなんだが、私の勝率は現状でも相当低いと思うんだけれども。
考えが顔に出ていたのか、人狼は私の疑問に答えてくる。
「だとしても、だ。
六龍相手に人間が1%でも勝算があるだなんて、龍達は思ってもみなかったのさ。
だから、その可能性を提示しただけで一気に尻すごみしちまう。
情けないったらありゃしねぇぜ」
肩を竦め、やれやれと首を振るティファレト。
“自分は違う”とでも言いたげな仕草だ。
「今頃、“勇者の戦い”を起こさずに親友を殺す手段を模索している頃だろう。
エゼルミアを解放したのには、そういう“裏事情”もある。
ひゃははは! その結果、親友には“ケセドの契約”という心強い武器が追加されちまったんだから世話ねぇわな!」
人狼はひとしきり笑った後、
「――全て、境谷美咲の思惑通りだ」
心底つまらなそうに、吐き捨てた。
全く持ってその通りなので、特に口を挟まない。
「本っ当に自分の思うがまま盤上を動かしやがったな、あの女。
穴だってちらほら見える計画だったってーのに、きっちり実行できちまうから笑えねぇ。
どうなってんだよあの女は、本気でよぉ」
「随分と、キョウヤ様のことを買っているのですね?」
これはローラさんの発言。
ティファレトは割って入られたことを特に気にする風でも無く、彼女の質問に答える。
「買わざるを得ないだろう。
まだ青臭ぇガキの時分に異世界へたった一人で召喚されて、世界を救った挙句、神様にまで喧嘩売ってきた奴だぞ?
しかも7年前の時点で危うく勝ちかけてたからな。
ベルトルを絞め殺したヴィルバルトだって、ここまで無茶苦茶な性能しちゃいねぇよ」
「ヴィル?」
「気にすんな、こっちの話だ。
ともあれ、ここまで状況が整った時点で美咲の勝利は揺るがねぇ。
一応、デュストは勇者の中じゃ親友に対して“一番勝率が高かった”んだが、それでも親友があっさり勝っちまうしなぁ。
なんかもう、どうにもなんねぇな、コレ」
いや、デュストとの戦いは“あっさり”なんて一言で片づけられてしまう程容易いものでは無かったのだが。
しかし現実に勝ってしまっている以上、何を言えるわけでもない。
だから、私は別のことを口にした。
「そう考えていたのであれば、何故お前は私との戦いに望んだ?」
「一応、白黒ハッキリしときたかったのさ、親友とは。
あわよくば――とも、思わないでも無かった。
何もせずにあの女の思惑通り行かせるのも癪だったしな。
結果は、親友の勝ちだったわけだが。
しかし仮に俺様が親友に勝ったとしたら今度は他の龍共を調子づかせちまう訳で、それはそれで癇に障る。
ひゃははは、割と手詰まりだったな、俺様も!」
「ま、待って下さい。
なら、どうして“神格を消去する”ケセドの契約文字をクロダさんに?
確か、貴方が手引きしたんでしたよね?」
今度はローラさんが疑問を呈す。
「あの契約は、あくまで“室坂陽葵を助けるための代物”であって、“勇者の戦い”には本質的に関係ないからな。
うぜぇ連中が消えれば俺様も気分良いし」
この理由は、以前聞いていた。
こちらとしても龍同士が敵対しているのは有難いので、ティファレトの助力を受け入れたわけだ。
「とにかく、もうこの“戦い”の動向は見えた。
結末が決まりきった勝負ほどつまんねぇものはねぇ。
室坂陽葵の器には興味はあるが、アレも結局ケセドの用意したもんだからなぁ。
そこまで食指は動かん」
「……何のために“勇者の戦い”へ参加したんだか」
こいつの口振りからして、いっそのこと我関せずでいればよかったのでなかろうか。
無論、今語っていない“理由”があるからなのだろうが。
私の考えを察したか、ティファレトは顔をニヤリと歪める。
「何のために、か。
ひゃははははっ!! 教えてやる!!
俺様の目的はなっ!! 親友、お前の身体だよぉっ!!」
「なにっ!!」
「ええっ♪」
私とローラさんが同時に驚きの声を――って。
「あの、ローラさん?
どうして満面の笑みなんですか?」
「え? いえ、だって、クロダさんの身体が目当てだなんて言われたら――」
顔を赤くしてもじもじし出すローラさん。
いや、ちょっと待て。
「違うぞー。
そんな意味で言ったんじゃないぞー?」
「えー?」
ティファレトに指摘され、露骨に不満顔をする。
「ちょっとローラさん、今、シリアスな場面なんですよ?」
「なんですぐいやらしいことを連想するかね、この女は
空気読んで欲しいぜ、まったく」
「……うぅ、非常識な人達に常識を諭されるとは」
彼女はがっくり肩を落とした。
それはさておき。
「私の身体が目当て、だと?」
「そうさ。
まだ気付いてねぇんだろうなぁ。
室坂陽葵ほどじゃねぇが、親友、お前も六龍に高い適性を持っているんだぜ?
六匹の龍全ては無理でも――俺様一人が、全力を振るうには十分な適性をな!!」
「んなっ!?」
初耳だぞ!
美咲さんはそんなこと一言も――
「ひゃはははっ!! 美咲の奴が分かるわけねぇだろう!!
あいつ、龍の力への適性だけはこれっぽっちも持ってねぇからな!!
いくらあの女が化け物でも、知覚できねぇもんに対処のしようはねぇ!!」
「――で、では、貴様の目的は」
「そう!
最初っから、親友だったのさ!!
その身体を手に入れるために、お前に近づいたんだよぉっ!!」
「な、なんと」
だがそうだとするならば、辻褄は合う。
ガルムが私を強くしようとしたのも、私に協力してくれたのも。
全ては、私の身体を手に入れるためか。
「ひゃはははははっ!!
どうよ親友、今までずっと蚊帳の外で寂しかっただろう?
勇者のイザコザも異世界の存亡も、お前にとっちゃ対岸の火事だからな。
だが安心しろ、これからは親友も立派な“当事者”だっ!!」
「くっ!!」
言われれば。
これまで私は、どこかこの“戦い”を冷めた視点で見ていたかもしれなかった。
命のやり取りこそあるものの、結局のところ私に深く関係するものではない、と。
まさか、このような形で深く関わることになろうとは――!
「あ、質問いいですか?」
「ん、なんだ?」
ローラさんが手を上げてから喋り出す。
「ヒナタさんが龍への高い適性を持っていることは納得ができるんです。
何せ、魔王と龍の間に出来た息子さんなんですから。
でも、クロダさんが龍適性高いのは、いったい何故なのでしょう?」
「うーん、良い質問だっ!
いや寧ろその質問を待っていた!!
待っていたぞ!!」
なんだか嬉しそうなティファレトだ。
「ひゃははは!!
教えてやろう!!
親友が、どうしてここまで高い龍適性を持っているのか!!
それは――!!」
高笑いと共に――人狼の姿が変わっていく?
人狼から、人の形態になろうとしているのか。
今更、どういうつもりだ。
「――なぁ、親友」
数秒か、それとも数十秒か。
短時間で、ティファレトの“変身”は終わった。
私の目の前には、一人の人間が立っている。
黒い髪に、中肉中背な中年の男。
その姿を見て――
「……!!?」
――私は、絶句した。
ちょっと待て。
冗談がきつい。
これはあり得ない。
あってはならない。
こいつは――この人は――
「俺様が誰か、分かるか?」
――分かる。
分かってしまう。
彼は、私の――
「………父さん」
私の、父親だった。
亡くなったはずの、父と同じ容姿だった。
「そうさ、父親さ。
紛れも無く本物の、お前の父親だ。
親友、お前はな――俺様が自由に動く器となるために、作られた存在なんだよぉっ!!」
「――うそ、だ」
頭が真っ白になる。
理解が追い付かない。
私の、父親が、ティファレト?
いや、今やつのガルムの身体を借りているのだから、ガルムが私の父ということになるのか?
駄目だ、まるで思考が動かない。
横を見れば、ローラさんもまた驚きの顔を――
「あ、やっぱりそうだったんですね」
――あれ?
ローラさん、平然としてます?
「あの、ローラさん。
ここ、凄く驚くところですよ?
驚天動地の大事実ですよ?
なんでそんなに冷静なんですか」
「そうだぞ!!
ここまで引っ張んたんだからもっと驚いてくれないと困るだろう!!」
私の台詞に、父さ――ティファレトも便乗してきた。
しかし彼女はしれっと、
「だって、そんな感じしましたもの。
妙に息が合ってましたし、お二人共そっくりな生粋の変態でしたし。
却って納得しました。
常々、クロダさんのような変態が自然発生するわけが無いと思ってましたから」
毅然とした態度で台詞を紡ぎ続けるローラさん。
なんだか私、盛大にディスられているような?
「だいたいですね。
既に魔王と龍の混血であるヒナタさんが居るわけですから、今更龍の子供なんですとか言われても新鮮さがないですよ」
「し、新鮮さが――」
「無い――?」
思いもよらぬ駄目だし!
そんな彼女の言葉にこそ我々は驚愕し、共に返す言葉を失くしてしまうのだった。
第二十八話④へ続く
0
お気に入りに追加
3,406
あなたにおすすめの小説


クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる