上 下
94 / 119
第二十八話 “鉤狼”のガルム/黄龍ティファレト

② 変身は男の浪漫

しおりを挟む

 拝啓、皆様。
 前回よりこの方、いかがお過ごしでしょうか。
 私は現在――

「おりゃぁっ!!」

「ぐほっ!?」

「だりゃぁっ!!」

「がはっ!!」

「どっせぇっ!!」

「げぼっ!?」

 ――絶賛、サンドバック中です。

 などと冗談言っている場合ではない。
 やばい。
 完全にやばい。
 体毛が赤く変わった人狼ティファレトに、成す術も無くボロボロにされていた。

「どうしたどうした!?」

「ぐっ!? がっ!? げっ!?」

 左右からの連打に、身体が右へ左へ弾かれる。
 脳が揺さぶられ、意識が朦朧と。
 既に体中が激痛に苛まれており、どこをどう殴られたのか把握ができない。

 私が今生きていられるのはケセドの契約文字によるものだ。
 これが無ければ、もう二桁回数は殺されていただろう。
 幸いというか、奴が纏う炎は契約文字と戦神の鎧でほぼ無効化できたが。

 攻撃の速度と威力が飛躍的に向上している。
 しかも、ティファレトはこれまでと戦い方まで変えていた。

「おらっ!」

「うぐっ!?」

 中段突き。

「しゃらっ!!」

「がふっ!?」

 上段突き。

「おらよっ!!」

「ぐっ!? がっ!?」

 足払いから肘打ちへのコンビネーション。

 ――これまで行っていた本能的な戦いとは異なる、効率的な動きだ。
 黄龍ティファレトは、“拳法”――細部は異なるが、空手に近いか?――を扱っていた。
 自分のポテンシャルを最大限発揮できるよう、“技”を使っているのだ。
 まるで、人間のように。

 “白い時”とは余りに違う、初見の事柄・・・・・
 “社畜”の効果デメリットも加わり、とても対処できそうにない。

「おらおらぁっ!!」

 ――できそうにない。
 本来ならば・・・・・

「むんっ!!」

 振り下ろされた狼の手刀を、片手で受け流す・・・・

「せやぁっ!!」

 そしてもう一方の腕で、拳をお見舞いした。

「なにっ!?」

 予想だにしていなかったのか、ティファレトはその攻撃をモロに食らう。
 契約文字の効果も上乗せされた高速の打撃は、人狼の胸を大きく抉った。

 ……やはりか。

「――へ、随分と慣れる・・・のが早かったじゃねぇか」

「お陰様でな」

 相手の動きが止まったのを見計らい、懐から治癒ポーション取り出し、一気に飲み干す。
 全快――には程遠いが、かなりマシになった。

 奴の想像より早く私が対応できたのは、奴が“拳法”を使ったからだ。
 動物的な動作に比べて、体系だった動作は理解しやすい・・・・・・
 空手を学生の頃に齧ったことがあるのも、大いに役立った。
 もし、ティファレトがまた系統の異なる“本能的な戦法”を取ってきたら、こうはいかなかっただろう。

 それに加えて――

「うぉおおおっ!!」

「おっ?
 今度はそっちの番ってか?」

 <射出>で加速し、一気に肉薄。
 そのまま超速の連撃を繰り出す。

 右拳。
 左肘。
 右蹴り。
 左膝。
 右鉤突き。
 左貫手。
 右回し蹴り。
 左蹴り上げ。

「グッ! ヌッ!? ヌっ!? ヌッ!?」

 攻守逆転。
 私の責めに、人狼は初めて“防御”に回った。

 ――やはり、予想していた通りだ。
 ティファレトの・・・・・・・防御能力が落ちている・・・・・・・・・・

 “白い時”はダメージを受けても即再生して動き続けていた。
 しかし“赤くなった今”、目に見えて再生速度が鈍っている。
 私を殴った時・・・・・・にできた傷がなかなか癒えないのを見て、もしやと思ったのだ。

 おそらくだが、奴はそれまで防御に回していた“力”を、攻撃に割り振った・・・・・・・・のではないだろうか。
 純粋な強化ではなく、能力変更パラメータチェンジ
 奴の言った形態変化フォームチェンジは、そのものズバリだったわけか。

「せりゃぁあああっ!!」

「う、お、お、お、お――っと!?」

 この好機は逃さない。
 すかさず追撃を仕掛ける。

 私の拳が、脚が、人狼の肉を抉っていった。

「こいつは、きつい、な――――おいっ!!」

 形勢不利と見て、ティファレトが大きき後退する。
 だが逃がす訳にはいかない。
 <射出>によって加速された動きで、人狼を追う――が。

「ぬぅううああああああっ!!」

 ティファレトの雄叫び。
 同時に、またしても奴の“色”が変わった。
 今度は――青。

「ひゃ、ははははっ!!
 さぁ、今度はどうするっ!?」

 青い狼は私を迎え撃つように動き――速い!?
 “風迅”の全速力ですら奴に追いつけない。
 ――今度は速度特化か!?

「く、くそっ!」

 “水飛沫”を残しながら縦横無尽に駆け巡るティファレトの姿を、必死で捕えようと試みる。
 ――しかし、目で追うことすら困難だった。
 速度だけならデュストの“光迅”が上だが、“機動性”ではこちらの軍配が上がる。

「どこ見てやがるっ!!」

「!!?」

 思考の直後。
 すぐ横から、人狼の声が聞こえた。
 気付けば、もう手の届く位置に奴の姿はあった。

「食らっときなぁっ!!」

「くっ!!」

 籠手でガードしようとする――が、無理!
 人狼の速度に、とてもついていけない!
 奴の爪が、私の顔に直撃する――――あれ?

「おらおらおらぁっ!!
 まだまだいくぜぇっ!!」

「…………」

 次々に襲い来るティファレトの攻撃。
 その様は中国拳法のそれに似ていた。
 私はそれを棒立ちになって受け続ける。

「おらおらおらおらっ!!」

「…………」

「そらそらそらそらっ!!」

「…………」

「どらどらどらどらっ!!」

「…………」

 えーと。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 人狼もようやく気付いたようで――いや、とうの昔に気付いていたのかもしれないが――叫びを止めた。
 一応、手は出してきている、が。

 一切の誇張抜きで、痛くも痒くも無い。
 ……ティファレトの攻撃は、契約文字の前によって“完全に”無効化されていた。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 私達に訪れる沈黙。
 先にそれを破ったのは人狼の方だった。

「スピードに特化し過ぎちまったぁっ!!?」

「阿保かっ!!」

 どうも、速度に“力”を割り振り過ぎて、ケセドの契約文字を突破するだけの攻撃力を残していなかったらしい。
 お粗末にも程がある。

「な、ならこれはどうよっ!!」

「まだ変わるのか!?」

 三度、狼の体色が変化する。
 次の色は緑だ。
 奴を中心に、旋風が巻き起こった。

「ひゃははははぁっ!!
 この形態フォームは感覚特化だぁっ!!」

「か、感覚特化?」

 それは――――この状況でどんな意味があるんだ?
 まあ考えても仕方ない。
 未だ至近距離にいるティファレト目掛け、直突きを放つ――が。

「ふっ、見え見えだぜっ!!」

 拳は、あっさりと払われた。
 攻撃を止めるのではなく、“流す”動き。
 詳しいわけでは無いが、その所作は太極拳に酷似していた。
 突きの軌道を変えられたことに気付けない程の、流麗な“受け”。

 感覚を強化したと言うだけあって、私の動きを完璧に把握されたのだろうか。
 だとすれば、考えた以上に厄介な能力だ。
 ――と。

「――?」

 私は怪訝な顔をした。
 ティファレトが硬直している。
 のみならず、顔を苦し気に歪めていた。
 その目は、己の手を――私の拳を払ったことで契約文字により多少の傷を負った、己の手を見つめていた。
 そして。

「うぉおおおおおおっ!!?
 手がっ!!? 手が焼けるように痛いっ!!!?」

 その場で、地面をのたうちまわり出した。
 ……おい。

「ひょっとして、痛覚まで強化した、とか?」

「ひゃははははは、その通りだぁっ!!
 やっちまったぜぇっ!!
 うぁああああっ!! マジ痛ぇえええええっ!!!」

 ごろんごろんと転げまわる。
 六龍の威厳など、まるで見えない有様であった。
 最早、間が抜けているとかそういうレベルですらない。

 ……い、いや、これは絶好のチャンス!

「うりゃうりゃうりゃうりゃっ!!」

「あっ! コラっ!! 今攻撃してくんなっ!!
 しかもヤクザ蹴りとかお前っ!!
 ぎゃっ!! いってぇっ!! 痛いっ!!
 やめっ!! やめろぉっ!!?」

 どれだけ泣き言を喚こうが、お構いなしである。
 ダウンしている人狼相手に、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。
 痛みが増大しているせいか、見た目の怪我以上にティファレトは痛がっていた。
 もうこのまま押し切れそうな気すらする。

「ん?」

 蹴った脚に硬い感触。
 まるで金属を叩いたような。
 これは――?

「ふ、ふふふのふ。
 これぞ、4つ目の形態」

 人狼の不敵な声(若干震えていたが)。
 見れば、いったい何時変化していたのか、ティファレトの身体が紫色になっていた。
 その毛並が、金属的な輝きを帯びだす。

「防御を高めたか」

「ひゃははは、その通りだ。
 もう、親友の攻撃は通らねぇぜ?」

 次から次へとよくもまあ。
 だが冷静に考えて、これは私にって相当危険な能力だ。
 こうも多彩に仕掛けられては、“社畜”の効力が発揮できない。
 慣れるルーチン化する前に、別の戦闘スタイルに変わってしまうからだ。
 ただでさえ、ガルムではなくティファレトがいきなり出てきたため、“勇者殺しヒーロースレイヤー”(命名:美咲さん)が使えないというのに。
 もしケセドの契約文字が無かったならば、抗うこともできず敗北していたことだろう。

「……んん?」

 そこで私は、あることに気付いた。
 白、赤、青、緑ときて、紫。
 最初は六龍の力でもモチーフにしているのかと思っていたのだが、この配色、ひょっとして――

「ひゃはははは。
 気付いたようだな、親友」

 私の態度に何かを感じ取ったのか、ティファレトが笑い出す。

「貴様、まさか、その力は――!」

「そう――――仮面ラ●ダーク●ガだ」

「はっきり言いやがった!!」

 少しは伏せろよ!!
 いや伏字は使っているけれどそういう問題では無く!!

「なんで六龍が日本の特撮番組を知っているんだ!?」

「ひゃははははっ!!
 そんなもん、好きだからに決まってんだろうが!!」

「答えになってない!!」

 一応、地球のことはかなり前々から認識していたという話なので、日本の文化についても把握していておかしくはないが!

「いや知ってるとしたところで、何故●イダーの真似事を!?
 意味があるのか、それ!?」

「ああっ!?
 お前、五●雄●の悪口は俺様が許さねぇぞ!!」

「悪口を言うつもりは無いけれども!!」

 だからと言って、特撮の真似事は如何なものかと思う。

「なに呆れ顔してやがる!!
 親友が使う“疾風迅雷”だって、ありゃただのライ●ーキックだろ!?」

「バラすなぁっ!!」

 言われなければ気付かれないのに!
 黙ってろよ、そういうことは!

「そうだよ!
 私だって、●面ライダ●好きだよ!!
 というか、特撮ものは全般的に見ていたよ!!
 昔憧れてたヒーローの真似をして何が悪い!!?」

「――いや。
 悪くなんかねぇさ。
 男の子だもんな」

 優し気な口調で慰めてくるティファレト。
 その台詞に、心の枷が解かれていくのを感じる。

 いや、どうしてもね。
 この年齢になってもまだ子供向け番組が好きっていうとね。
 世間の目が気になってね。

 一瞬空気が弛緩したようにも感じたが、すぐに身を引き締める。

「さあ与太話はここまでだ!
 俺様の鉄壁な防御、どう攻略するつもりだぁ!?」

「くっ!」

 試しに打突を繰り出すも、全て毛皮に弾かれる。
 契約文字も発動しているのだが、その力をもってしても傷一つ付けられない。

「無駄無駄ぁっ!!
 屁でもねぇぜ、そんなパンチなんざぁっ!!
 なんなら“疾風迅雷”でもやってみるか?
 あんな大技を俺様相手に決められると思うんならなぁ!?」

 ――確かに、“疾風迅雷”であれば今のティファレトにも痛撃を浴びせられるだろう。
 だがあの技は酷く『前準備』が長い。
 相手に警戒されていては、当てることなど不可能だ。

 どうしたものか……

「――――」

「んー?
 どうしたぁ。
 打つ手なしか、おい?」

 無駄と分かってはいるが、さらに打ち、殴り、蹴る。
 ――全て徒労に終わったが。

「ひゃはははっ!
 本気で何もできねぇのかよ!!
 そんじゃ、こっちから行くぜぇ!!」

 私の攻撃を全て跳ね除けたティファレトが、動き出す。
 すぐさま防御を固めた。
 今の奴は防御特化、凌げないことも無いはずだ。

「…………」

 ん?

「…………」

 おや?

「…………」

 人狼が、動かないぞ?

「…………」

 いや、動こうとはもぞもぞしてはいるようなのだが。

「…………」

 なんなんだ?

 ――しばししてから、ティファレトが口を開いた。

「……か、身体を硬くし過ぎて……動けなひ」

「……………………」



 ――決戦奥義“疾風迅雷”



 ティファレトを中心に、光の柱が聳え立った。






「やりましたね、クロダさん!」

 見守っていたローラさんが駆けてきた。
 決着がついたことに安心したのか、満面の笑みを浮かべている。
 人狼は、今なお燃え盛る炎の中だ。

「途中から酷くぐだぐだで緊張感がまるで無かったですけれど」

 なんだか今日のローラさん、言葉に刃があり過ぎませんかねぇ?
 自分を酷い目に遭わせて犯人が消えた、安心感から来るものだと思っておこう。

 ――と、その時。

「あああああああっ!!
 死ぬかと思ったぁっ!!」

「きゃあっ!?」

「しぶとい!?」

 炎の中から、狼が立ち上がる。
 “疾風迅雷”を受けてまだ無事なのか!
 いくら何でも硬すぎるだろう!?

「ひゃははははっ!!
 詰めが甘いぜ!
 もう1、2発叩き込めば、勝負は決まってたのになぁ!?」

 無茶を言う。
 あんな大技、そうそう連発できるか。

「まあしかし、だ。
 俺様をここまで追い詰めるとは。
 流石親友、やるじゃねぇか!」

「いや、後半はほとんどそちらの自爆だが」

「コントでもやってるのかと思ってました」

 さり気無く酷いことを言うローラさん。
 だがティファレトは動じず、

「へ、コントか、そいつはいい。
 六龍のギャグ担当とは、この俺様のことよっ!!」

「ぬぅっ!?」

 強い!
 あっさり認めた!!
 この器のデカさ、ガルムとは桁違いだ!

「驚くところ間違えてますよ、クロダさん」

「そうですかね?」

 一応説明しておくと、まだガルムの身体から抜け出していないティファレトには、“神格消去”の契約文字を撃ち込めない。
 奴が“疾風迅雷”を食らって無事なのは、その辺りも関係している。
 それを差し引いても、驚異としか言いようのないタフネスだが。

 ともあれ。

「戦闘はまだ終わっていないようです。
 離れていて下さい、ローラさん」

「そうだぞ。
 近くに居たら巻き込まれちまうからな」

 私とティファレトが彼女に離脱を促す。

「……なんだか、本当に息が合ってますね、お二人共」

 訝し気な顔をしながら、ローラさんは広場の外へと退避していった。
 去り際、私へと意味深な視線・・・・・・を送りながら。

「さぁて。
 続きをおっぱじめるか」

「―――」

 人狼の言葉に応じず、無言で構えを取る。
 奥義が通用せず絶体絶命――に見えるかもしれないが、然にあらず。
 ティファレトも決して無傷では無いのだ。
 いや、傷の深さは深刻とすら言える。
 体中至るところに傷痕や火傷痕が残り、再生が追い付いていない。
 平然と振る舞っているものの、相当厳しい状態のはずだ。

「ひゃははは、その面。
 今の俺様相手なら十分勝機があると思ってんな?」

「……違うか?」

「いや、違わねぇ。
 確かにこっちもいっぱいいっぱいさ」

 軽く認めるティファレト。
 その“潔さ”には、好感すら抱いてしまいそうだ。

「だがなぁ、親友。
 俺様はまだまだ全部見せたわけじゃねぇぞ?」

「――まだ、あるか」

 覚悟は、していた。
 憑依しているガルムもまた、多彩な技を持つことで知られる勇者だったのだから。

「2000の技を持つ男と呼んでくれ」

「駄目だ」

「そっかー」

 その呼び名は権利上問題があるからね。

「ひゃははは!
 親友なら――特撮好きのお前なら分かるだろう!
 この“上”の形態があることを!」

「ま、まさか!」

「そう――ライジ●グフォー●だ」

「…………」

 だから隠せって。
 せめて黄金の力とか、そんな具合に。

「本当は身体の一部位を他の獣の形に変形させて、鷹・虎・バッタとかもやってみたかったんだが」

「この期に及んで別ネタも持ってくるのか……」

「魔物と融合ユーゴーして、“力、お借りします”とかなぁ」

「そろそろコメントするのが辛くなってきたぞ」

 ウ●トラ●ンネタまで振られても、その、なんだ、困る。
 というか、時代設定的に私はそれを知っていていいのだろうか?

「時間も無いことだし、その辺のお披露目はまたの機会にしよう」

「心底そんなもの見たくない」

 こいつとの再戦なんぞ御免被る。

「じゃあ行くぜぇっ!!
 俺様の真の力、見て貰おうか!!
 ――超・変・身っ!!」

 とうとう伏字無しでやりやがった!!

 ――などと突っ込む間も無く。
 ティファレトが、金色の狼へと変貌していった。

 すかさず私は、

「ローラさん、今です!」

「はいっ!」

 ローラさんへ“合図”を送ると、全力で後方へ退避。
 地面に身を伏せ、衝撃に備えた・・・・・・

「あん?」

 人狼が訝しむが、もう遅い。
 ローラさんの投げた“爆弾”は、既に奴のすぐ傍らに転がっている。

 “爆弾”。
 無論、日本でいう本来の意味の物品では勿論無い。
 『獄炎の欠片』と呼ばれる赤い結晶で、使用すると周囲に莫大な破壊エネルギーをまき散らす――まさに、“爆弾”だ。
 最上級の攻撃用マジックアイテムであり、いざという時のため、ローラさんがアンナさんより預かっていた代物である。

 傷を負って万全の状態にない、しかも“変身”のため無防備になっている今なら、ティファレトにも十分な効果があるはず。
 この隙を作るために、ここまで奴が“変身”する際、敢えて攻撃を行わなかったのだ!

「うぉおおおおおっ!?」

 ティファレトも、投げ込まれたソレが何か、すぐに理解したようだ。
 慌てて距離を取ろうとするも、それより早くマジックアイテムが効果を発動した。

「バカな――――!?」

 “結晶”から爆発的に放たれる赤黒い光へと、人狼が飲み込まれていく。
 その光はさらに勢いを増していき――

「――あれ?」

 私も飲み込まれた。
 え、嘘?
 ちゃんと距離、取りましたよね?

「ば、馬鹿なぁあああああっ!!?」

 ティファレトと共に、灼熱地獄へと引き込まれる。

「あ、あら?
 効果範囲が伺っていた仕様より広いみたいですね?」

 そんなローラさんの呟きを聞きながら。



 第二十八話③へ続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

近況ボードも投稿するん? ボケ老人(笑)の夢の軌跡報告書! 結果が全てと言い切る営業マンがお送りします!

虎口兼近
エッセイ・ノンフィクション
寄る年波には勝てないボケ老人(笑)が、妄想ファンタジー歴史シミュレーションゲームの現実でのゲーム化を目指す! エタるより老い先短い方が心配(笑)な老人が、運命に抗い、悪戦苦闘する、リアルな挑戦の物語。 果たしてボケ老人(笑)は、物語を完結させる事が出来るのか? はたまた、完結までお亡くなりにならずに、生きられるのか? ボケ老人(笑)の、涙と、汗と、笑いの、物語開幕です!  あなたの人生の天啓に、如何でしょうか? 結果が全てと言い切る営業マン、虎口兼近がお送りします。

私が悪役令嬢? 喜んで!!

星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。 神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。 だったら悪女を演じてやろうではありませんか! 世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!

ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

三園 七詩
ファンタジー
美月は気がついたら森の中にいた。 どうも交通事故にあい、転生してしまったらしい。 現世に愛犬の銀を残してきたことが心残りの美月の前に傷ついたフェンリルが現れる。 傷を癒してやり従魔となるフェンリルに銀の面影をみる美月。 フェンリルや町の人達に溺愛されながら色々やらかしていく。 みんなに愛されるミヅキだが本人にその自覚は無し、まわりの人達もそれに振り回されるがミヅキの愛らしさに落ちていく。 途中いくつか閑話を挟んだり、相手視点の話が入ります。そんな作者の好きが詰まったご都合物語。 2020.8.5 書籍化、イラストはあめや様に描いて頂いてております。 書籍化に伴い第一章を取り下げ中です。 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第一章レンタルになってます。 2020.11.13 二巻の書籍化のお話を頂いております。 それにともない第二章を引き上げ予定です 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第二章レンタルになってます。 番外編投稿しました! 一章の下、二章の上の間に番外編の枠がありますのでそこからどうぞ(*^^*) 2021.2.23 3月2日よりコミカライズが連載開始します。 鳴希りお先生によりミヅキやシルバ達を可愛らしく描いて頂きました。 2021.3.2 コミカライズのコメントで「銀」のその後がどうなったのかとの意見が多かったので…前に投稿してカットになった部分を公開します。人物紹介の下に投稿されていると思うので気になる方は見てください。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
 猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。  しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。  その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

【完結済】聖女が去った、その後は──聖石の指輪が導く未来──

鳴宮野々花
恋愛
※25000文字くらいの短編です。  まだ人々が魔力を有していた何世代も前の時代から、ハミル侯爵家は“聖石の指輪”を身に着けた女性、“聖女”たちの力に守られ、多くの財を成し、その地位を築き上げてきた。けれど時を経て、魔力を持つ人間は世界からほぼいなくなる。  ハミル侯爵家の娘ミシュリーは両親が事故で亡くなった後、母方の弟が婿入りし爵位を継いでいるベイリー伯爵家に引き取られる。そこには同い年の娘ラヴェルナがおり、ミシュリーの存在を疎む。  やがてミシュリーは義父母の根回しにより、聖石の指輪を持ってフィールデン公爵家に嫁ぐことになる。けれど夫デレクはミシュリーを嫌い、やがてラヴェルナと恋仲に。二人はミシュリーから聖石の指輪を奪い、ミシュリーをフィールデン公爵家から追い出そうと画策する────── ※※ものすごく緩ーーい設定ですが、気にならない方のみお楽しみくださいませ。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿予定です。

処理中です...