社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

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第二十七話 それぞれの思惑

① 意外な来訪者

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「さあ皆さん。
 これから六龍と如何に戦っていくか、お話合いいたしましょう?」

 セレンソン商会の一室。
 対勇者の関係者が集まったここで、その“女性”は高らかに会議の始まりを宣言した。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 それに対して誰も返事できないでいると、

「どうなさいました?
 今後を決める、大事な会議ですのよ?
 もう少し、“やる気”を出していきませんと」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 皆、無言。
 ただその“女性”を凝視している。

「――だんまり、ですか。
 この覇気の無さはどうしたことです。
 そんな調子では、勇者、引いては六龍と戦っていけませんよ?」

「…………おい」

 見かねて――いや、我慢できなくなって、か?――美咲さんが口を開く。

「どうしてお前がここにいる、エゼルミア・・・・・

「勇者が悪の龍を倒そうとするのは当然でございましょう、ミサキさん」

 睨む美咲さんに対し、にっこりと笑いかける長い銀の髪を持つ美しいエルフ――即ち、“全能”のエゼルミア。

 そう。
 残りの勇者との戦いを話し合う場に、当の勇者エゼルミア本人がさも当然のように姿を現していたのだ。
 全員が全員――美咲さんでさえ、余りのことに言葉が出せなかった。

「……おい、誠一。
 獲物が現れたぞ。
 狩る準備をしろ」

「あ、はい」

 美咲さんに言われるまま、とりあえずいつもの籠手と脚鎧を装着する。
 そんな私を見て、エゼルミアさんは(実にワザとらしく)慌て、

「いけませんわ、クロダさん。
 ふふ、ふふふふ、か弱い女性を虐めるような真似をしては。
 ワタクシ、困ってしまいます」

「――まったく困ったように見えないのですが」

 慎重にエゼルミアの動向を伺う。
 相手は現存する全てのスキルを身に付けた勇者だ。
 こちらの想像を超えた一手を打ってくる可能性がある。

「ふふふ、ふふ、そんな怖い顔しないで下さいまし。
 ワタクシ、アナタ方の味方となりに来ましたのよ?」

「それを信じろと言いますか?」

「ええ、信じて頂きたいものです。
 何しろ――今のワタクシには龍が憑いておりませんから」

 この女性、いきなりとんでもないことを言いだした。

「ほ、本当ですか?」

「騙されるな、誠一。
 口八丁言ってるだけだろう。
 何しろ、我々にはその真偽を確かめる術がないことを、この女は知っているのだから」

 美咲さんが釘を刺してくる。
 彼女の言う通り、人の中に隠れた龍の存在をこちらから確認する技術を私達は保有していなかった。
 龍が力を顕現すれば話は別だが。

「そう疑わないで下さいな。
 ワタクシ、龍から見捨てられてしまいましたの」

「み、見捨てられた、ですか?」

 どういうことだろうか。

「クロダさん、アナタの力はデュストとの戦いで龍に知られることとなりました。
 “爆縮雷光”と“風迅”、“勇者殺し”に“疾風迅雷”――そして、ケセドの“契約文字”。
 それは龍達に脅威を覚えさせるに十分なものでした。
 そして、私に憑りついていた龍――白竜ケテルは判断しましたの。
 ワタクシでは、クロダさんに決して勝つことができない、と」

「……そうでしょうか?」

「謙遜なさらないで下さい。
 ワタクシは全てのスキルを修めておりますが、スキルなど結局のところ発動できなければ無意味。
 クロダさんは<射出>を驚異的な熟練度に高めておりますから、ワタクシが何かするよりも先にアナタは動けるのです。
 そんな、ただでさえ相性が悪いところへ、“勇者殺し”などという技能まで習得されてしまいましては。
 ワタクシに勝ち目なしとケテルが考えるのも、無理はありません」

 ……まあ、間違いではない。
 そもそも私が<射出>の熟練度を徹底的に上げたのは、エゼルミア対策という一面もあったのだ。
 熟練度が高ければ高い程、スキルの発動は早くなる。
 つまり、熟練度100である彼女のスキルは、熟練度524である私の<射出>より必ず発動が遅くなるのだ。

 全能を謳われるエゼルミアが“何の対策も立てないまま”“真っ向から”挑んでくるというのであれば、勝つのは私だろう。
 ――そんなこと、まずありえない話なのだが。

「晴れて自由の身になったワタクシは、今まで龍に操られていた己を恥じながらも、僅かばかりであろうとアナタ方の力になろうと、こうして馳せ参じたわけです。
 ふふ、ふふふふふ、納得して頂けましたでしょうか」

「いや、まったく」

 美咲さんがにべもなく切り捨てる。

「色々つっこみどころ満載だが。
 だいたい、本当に見捨てられたのなら、奴がお前を無事に・・・解放するはずが無いだろう」

「ふふふふ、そうかもしれませんわね?」

「……いい加減にしろよ、エゼルミア」

「そんなに睨まないで下さいな。
 そもそも、ワタクシがあれこれ説明せずとも、キョウヤさんは察しはついているのでしょう?
 何故、ワタクシから龍が離れたか」

「……ケセドの“契約文字”か」

「ふふふ、その通りですわ」

 あっさりと認めるエゼルミア。
 ……なるほど、つまり彼女が私達の側へ来たのは。

「ケセドから貰った“契約文字”――魔素を浄化する力をご所望ですか」

「あらあら、いきなり核心をついてはいけませんわよ、クロダさん。
 こういうことは、もっともったいぶらなくては」

「こっちはお前と延々問答するつもりは無いんだ」

 曖昧な返答をするエゼルミアに、美咲さんは苛立ちを隠さない。
 と、そこへ。

「あー、すまんのぅ。
 どうにも、話が見えないのじゃが」

 同席していた冒険者ギルド長のジェラルドさんが口を開いた。
 確かに、今の会話では事情が分かりづらいか。
 もう一人の出席者――事情を全て把握しているアンナさんでさえ、どうにも話についていけてない気配を漂わせている位だ。
 私が説明をしようとするのを制して、美咲さんが語り始める。

「まず、エゼルミアとデュストは根本的に立ち位置が違う。
 デュストはゲブラーと対立していたが、エゼルミアはケテルと半ば“同志”のような関係になっていた」

「んなっ!?
 勇者は龍に操られているわけではなかったのか!?」

 ジェラルドさんが絶句した。

「全員がそうという訳ではないということだ。
 エゼルミアが魔族を排除しようとしていることは知っているな?
 一方でケテルは“魔素をこの世界から完全に取り除く”ために動いている。
 つまり、こいつらは目的がある程度一致しているのさ」

「規模が大分違いますけれどもね。
 ワタクシはただ魔族を絶滅させたいだけですが、ケテルはこの世界のあらゆる“魔素に汚染された存在”を消そうとしていますわ。
 魔族は勿論のこと、魔素から齎された力を扱う人間も、果ては魔素で歪んだ他の・・六龍すら」

 エゼルミアが自ら補足する。
 魔素の力によって生活が成り立っているこの世界において、魔素の完全な排除は社会の崩壊を意味する。
 大部分の人間も“消される”上に、残った人々も生きていけるかどうか。
 ケテルの目的は六龍の中で最も危険なものと言えるだろう。

「一番の問題は自身に匹敵する力を持つ他の六龍でした。
 当初の目論見では、五勇者の戦いに勝利し六龍を束ね、その権限を持って自分以外の・・・・・六龍を消し去ろうとしていたのですが。
 そんなことをせずとも六龍を抹消できる方法が提示されてしまいましたのよ」

「ケセドの“契約”によって六龍が浄化できるのであれば、五勇者の戦いに乗る必要も無いということか」

 美咲さんの確認に、エゼルミアは首を横に振った。

「いえ。
 五勇者の戦いも続行するようでしたわよ。
 2つ手段があるのならば、両方とも実行した方が確実だろうというだけのことですわ。
 今頃、ネツァクかティファレトと――まあ、おそらくネツァクでしょうけれど――“交渉”していることでしょう」

「そしてお前は奴の“同志”として、ケセドの契約文字を奪いに来たか?」

「まさか。
 ワタクシが何かをしなくても、クロダさんは龍を“浄化”していくわけですから。
 ワタクシはただ、クロダさんが滞りなく仕事ができますよう、サポートしたいだけですわ」

「真っ先にケテルが浄化されるかもしれんぞ」

「そこはそれ。
 ケテルはケテルで上手くやることでしょう。
 そこまで面倒を見てあげるつもりはありませんわ」

「……ふむ」

 そこで、美咲さんとエゼルミアとのやり取りが一段落したようだ。

「――勇者も六龍も、一枚岩ではないということかのぅ」

 説明を聞いていたジェラルドさんが、納得したように言葉を零す。
 彼の言うように、六龍はそれぞれの思惑で動いており、彼らの中で仲間意識は決して高くない。
 ケセドは龍を倒す手段を私に与えたし、ケテルのように同族を殺そうと考えている奴もいる。
 ――だからこそ、つけ込む隙もあるわけだが。

 そして残念なことに、勇者もまたただ操られているだけではないのだ。
 デュストは反撃を企てていたが、一方でエゼルミアは龍と協調していた。

「そういうわけですので、ワタクシがアナタ方の味方になることを信じて貰えましたかしら?」

「お前の方にメリットがあるのは分かった。
 だが、私側にお前を受け入れるメリットが無いぞ。
 知っての通り、誠一はお前達を倒すに十分な力を備えている。
 その上、今は私も居る。
 今更、助力が必要だと思うか?」

「ふふふ、ふふ。
 ミサキさんらしくありませんわ、分かりきった問いをするなんて。
 仮に・・クロダさんは勇者に必ず勝てるとしても、相手はそうそう真向勝負を仕掛けてきますでしょうか?
 人質をとってもいいですし、暗殺をしたっていい。
 毎日食べるお料理一つ一つに毒が入っていないか確認するのは大変ですし、奇襲を警戒して夜眠れずに過ごすのも辛いですわよ?」

「……まあ、それを一番やりそうな・・・・・・・・・・お前の動向が、傍で確認できるというのは安心といえば安心か」

「分かって頂けて嬉しいですわ!」

 え?
 いや、そういう納得の仕方でいいんですか?

「あの、美咲さん?
 流石にこの流れでエゼルミアさんを味方に引き入れるというのは――」

「ふふ、ふふふふ――不安ですか?」

「――率直に申し上げて、かなり」

 エゼルミアが私達に協力する必然性は理解できたが、だからといって信用できるかどうかは別問題だ。
 美しい女性を疑うのはポリシーに反するものの、これは仕方が無いのでなかろうか。

「ふふ、ふふふ、そう仰ると思いました。
 でも、“この提案”を聞けば首を縦に振って下さると信じていますわ」

「……?」

 そんな前置きをして、エゼルミアが語った内容は――







 その後。
 打合せは(信じられないことに)滞りなく終わり。
 私達は商会を後にしようとしたのだが。

「ふーーっふっふっふ。
 会議は終わったようですねー?」

 店の出口で、エゼルミアと同じ五勇者の一人である、イネス・シピトリアが不敵な顔で待ち受けていた。

「ああ、葵さん。
 こんにちは」

「はい、こんにちは♪
 ご無沙汰しておりました、誠ちゃん♪
 入院中にお見舞いへ行けず、ごめんなさいです。
 本当は一日中看病したかったんですけど、細かい雑務が色々降ってきちゃいまして!
 許して下さいとは言いません。
 お詫びに、これからずっと誠ちゃんの隣で過ごすことを誓――――うべらっ!?」

「いきなり現れて何を口走っているんだ阿呆女」

 私に抱き着きつこうとしてきたイネス、もとい葵さんを、足蹴にする美咲さん。
 む、むう、残念。
 もう少しで葵さんの感触を味わえると思ったのに。

 彼女の肢体もまたきっちり出るとこ出ていて、非常に男好きしそうな形に整っている。
 美咲さんの身体を芸術的に美しいと表現するなら、葵さんの身体はただひたすらエロを追求したと表現していい。
 これは別に、どちらかを称賛しているのではない。
 皆違って、皆良い。
 それでいいじゃないか。

「おい、誠一」

「はい?」

「今、変なことを考えなかったか?」

「い、いいえ! そんなことは決して!!」

「――そうか」

 美咲さん、鋭すぎやしないだろうか。
 それとも、私が分かりやすすぎるのか。

「ちょ、ちょっと!
 何すんですか、この暴力女!?」

 起き上がった葵さんが、美咲さんに抗議するも。

「何するも何も、お前は敵だろう。
 敵なら倒さなければ」

「だからっていきなり女の子の顔を蹴ります!?」

「“女の子”なんて言える年齢じゃないだろ。
 私より年上の癖に」

 まあ、葵さんは私と同い年のはずなので、美咲さんよりは年長か。

「あーっ!!?
 言いましたね!!?
 女の子に一番言っちゃいけないNGワードを言っちゃいましたね!?
 デリカシー無いにも程がありますよ!!」

「女が女に言う分には問題ない」

「そんなわけないでしょ!?
 だから友達いないんですよ、このボッチ!!」

「友人ならたくさんいるぞ。
 “私達、友達だったはずだよね”と何度も言われたことあるからな」

「うわ、なんか普通にかわいそう」

 ……どことなく、仲が良さそうだな、この2人。

「っていうか、何か反応薄くありません?
 仇敵であるアタシがいきなりの登場ですよ?
 誠ちゃんが普通に対応してくれるのは嬉しいからいいとして、アナタはもっと慌てふためいてくれないと」

「いや、だってエゼルミアが来た後だったからなぁ」

「え」

「――あらあら、イネスさん、ごきげんよう」

 さらっと会話にまざるエゼルミアさん(一応味方側なので、敬称を付けることにした)。
 先程まで少し後ろに居たせいか、葵さんは彼女の存在に気付いていなかったようだ。

「な、なななな、なんでアナタがここに!?」

「一身上の都合でミサキさんの味方をすることにしたのです」

「えぇええええ――」

 口をあんぐりと開ける葵さん。
 いや、勇者達で話し合ってなかったのか、その辺のこと。
 もう少し仲間意識というか、コンビネーションというかを、しっかりした方がいいのでは。

 ……いや、そうすると私達が苦しくなるので、これくらい杜撰な方がありがたいのか。

「で、お前は何のために来たんだ。
 今からここで“り合う”のか?」

「誠ちゃんと“ヤり合う”のは本懐ではあるんですけど――」

 気のせいか、2人で単語の意味するところが大分違う気がする。

「――今日来たのは、残念ながら別の用件でして」

「2匹の龍の力を手に入れたから、自慢しに来たのですね?」

 エゼルミアさんが途中で遮る。

「あー、アタシが言おうとしてた台詞だったのに!?」

「ワタクシがここに居る時点で、バレていそうなものだとおもわなかったのですか?」

「ううぅぅ……」

 その指摘に、葵さんががっくり肩を落とす。
 要するに、エゼルミアさんに憑いていた白龍ケテルは、葵さんに鞍替えしたということか。

「…………」

 ――ほんの一瞬だけ、美咲さんの顔が痛ましそうに歪む。

「ま、まあとにかくそういう訳で、アタシはパワーアップしたんです。
 キョウヤ、もうアナタなんかに負けません!
 かつてアナタに受けた屈辱、100倍にして返してやりますよ!!」

「いや、負けるも何も今現在私は“呪縛”でお前達に手が出せないし、そもそもお前の敵は誠一だろう」

「アタシが誠ちゃんの敵になるわけないでしょう!?
 いえ、まあ一応、戦わなくちゃいけないわけなんですけど、そこはそれ。
 アタシの敵は過去も未来もずっとアナタだけですよ!!
 ふふん、“呪縛”があるのにこっちの世界へ来たのが運の尽き!
 簡単には殺してあげませんからね、すっごい酷い目に遭わせてあげます!
 さあ、怯えるに怯えまくるがいいのです!!
 お嫁にいけない身体にしちゃる!!」

「嫌われたものだなぁ」

 よくよく考えるとかなり危機的状況だと思うのだが、美咲さんは揺るがない――が。

「……んん?」

 美咲さんと葵さんのやり取りの最中、私はあることが気になりだした。

「待って下さい。
 先程、美咲さんは葵さんを思いっきり蹴り飛ばしましたよね?
 ひょっとして“呪縛”、解けているのではないですか?」

「あれはコミュニケーションの一環として処理されたのだろう」

 あっさりと返してくる美咲さん。
 だが葵さんは納得いかなかったようで。

「そんなコミュニケーションがあってたまりますか!?
 ――あ、いや、でもだとするとキョウヤは今アタシを攻撃できてしまう……?」

 先程までの自信はどこへやら。
 葵さんの顔に不安がよぎった。

「では試してみよう――“爆縮雷光”」

「「「――え?」」」

 その場にいた全員が同じ反応をした。
 美咲さんが、実にあっさりした動作で奥義をぶっ放しやがったのだ。

 彼女の掌で生まれた雷光プラズマが、一直線に葵さんへと向かう。
 私が使用した時とは異なる、洗練された一条の光。
 ……悠長に解説している場合ではないか。

 私は咄嗟に地面に伏せ、直後に来るであろう爆発に備える。
 雷光が対象葵さんに接触した瞬間、当たりは光に包まれた。

「なぁああああっ!!?」

 爆風に吹き飛ばされそうになるのを、必死に堪える。
 他の人に気を配る余裕はない。
 幸い、ここに居るのは勇者関係者ばかり。
 寧ろ私が一番気を遣われてしまう立場だ。

「あ、葵さん!?」

 風が収まってすぐに立ち上がり、爆心地の方向を見て、叫ぶ。
 もうもうとした煙が晴れたそこから現れたのは――

「あわ、あわわわわ」

 かなり本気ガチで怯えている、無傷な葵さんの姿だった。
 “呪縛”によるものなのか、彼女の周辺だけは爆縮雷光の影響をまるで受けていない。
 周囲の地面は、クレーターのように抉れていると言うのに。

 ……その大きさから察するに、美咲さんも相当手加減した・・・・・ようだが。

「い、いいいい、今、この人本気でアタシを殺そうとしましたよ!?」

「分かっていたことではありませんか、イネスさん。
 ミサキさんは、やるときはるお方だと」

 顎をガクガク震わせる葵さんと、マイペースなエゼルミアさん。
 同じく変わらぬ口調で美咲さんが、

「敵なんだから、殺されて当たり前だろう。
 今更何言ってるんだ」

「街中でこんな技ブッパしてきたのに驚いてるんですよ!!」

「大丈夫だ、誰も何も傷つけていない」

 ……まあ、陥没した地面以外に、被害は無さそうではあった。

「ふ、ふふーん!
 でもでも、アナタがアタシに手が出せないことがこれで証明されましたからね!
 もう怖くもなんともないですよー、だ!!
 アタシの手で誠ちゃんがノックダウン(性的かつ恋愛的な意味で)される様を、指をくわえて見ているんですね!!」

「誠一とは戦えないぞ」

「え?」

 美咲さんの台詞に対し、きょとんとした声を出す葵さん。

「誠一は今現在、“エゼルミアと戦闘を行っている”。
 だから、他の勇者は手出しができない」

「ほえ?」

 葵さんの可愛らしい鳴き声。

「ど、どゆことですか?
 エゼルミアは一応そっち側に付いたって建前なのでは?」

「一応とか建前とか言わないで欲しいですわ。
 ワタクシは今や、美咲さんの忠実な僕です」

「お前に忠実な僕とか言われるとなんか嫌だな」

 勇者3人が顔を突き合わせて会話しだす。

「おかしいでしょう!?
 なんで誠ちゃんと戦闘開始してるんですか!!
 “決着”がつかない限り、戦いは終わらせられないんですよ!?
 何考えてんですか、あんたら!!」

「ええ。
 ですから、適当なタイミングで“負けを宣言”いたしますわ」

「ん、んん?」

 葵さんが首を傾げる。

「ま、負けを宣言?
 あれ、それだけでいいんでしたっけ?」

「“ルール”に定めているのは、何らかの・・・・“決着”がつくまで戦うということだけですわ」

「え? で、でも、負けなんてしたら六龍が――――あ」

「はい、死ななかったとしても、負ければ自分に憑いている六龍に制裁を貰うことでしょうね。
 ふふ、ふふふ、ワタクシは今、六龍から解放・・・・・・されていますから問題ありませんけれど」

「……お、おーぅ?」

 新事実が発覚し、目が点になっている葵さん。
 エゼルミアさんはニコニコしている。

 これが、エゼルミアさんの持ってきた“提案”だった。
 彼女と戦いを宣言しておくことで、他の勇者からの干渉を防ぐ。
 これによって私たちは時間を――陽葵さんが自力でケセドに会いに行くための時間を確保することができるのだ。
 ……私個人の有利不利ならばともかく、彼の件を引き合いに出されては協力を受けざるを得なかった。

 無論、これには裏がある。
 エゼルミアさんとの戦闘宣言によって得られた時間は、私達にのみ有利に働くわけでは無い。
 勇者や六龍達も、今後に備えだすはずだ――というか、エゼルミアさんの目的は正にそれだろう。
 この作戦が吉と出るか凶と出るかは、かなり怪しい。
 美咲さんも了承した以上、勝率は十分にあるはずだ、が。

「哀れだな。
 流石、五勇者のお笑い担当だ」

「そんなのガルムだけで十分ですよ!」

「あらあら、お二人でコンビを組んだのではなかったのですか?」

「お断りです!!」

 勇者達の会話――はたまた、掛け合い漫才か――は続いている。

 しかし、先程から私は全然会話に加われていない。
 知己の3人が和気藹々(?)と話しているので、なかなか間に入るのが難しいのだ。
 若干の手持無沙汰を感じ、同じく置いてきぼりを食らっている隣の人――アンナさんやジェラルドさん――に話をふろうと思ったところ、

「え?」

 振り向いた私の目に入ったのは、泣いているアンナさんだった。
 美咲さん達の方を見つめながら、瞳から大粒の涙を零している。

「ど、どうしました!?
 何かあったのですか!?」

 慌てて彼女に話しかける。

「にゃ……だって、だってェ……」

 アンナさんの震える声。
 感極まった様子で、続ける。

「7年前と、同じなんだにゃ……あの人達が、また、いつも通り・・・・・のやり取りをしてるんだにゃ……
 それ見てたら、なんか、嬉しくなっちゃって……」

 ……なるほど。
 アンナさんは、龍と関わる前の五勇者と親交があった。
 あの光景に、昔を思い出してしまっていたのか。

 ――まあ、あの3人、日常的にこんなギスギスした会話していたのか、というツッコミどころもあるわけだが。

「――――」
「――――」
「――――」

 ふと。
 気付けば、美咲さん達が話を止めていた。
 皆、神妙な顔でアンナさんを見ている。

「――まあ、なんだ」

「――空気が変わってしまいましたわね」

「――今日は、ここらで解散しますか」

 3人が3人とも、何とも言えない複雑そうな顔をしている。
 アンナさんの言葉に、それぞれが思う所あったのだろう。

 ……その後、葵さんとエゼルミアさんは二言三言会話してから去っていった。
 最後まで彼女達の姿を名残惜しそうに見ていたアンナさんの姿が――どこか、物悲しかった。



 第二十七話②へ続く
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