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第二十六話 久々の我が家
③ 信じて送り出した彼氏が、異世界でヤリチンになっていただなんて
しおりを挟むその後、食事は滞りなく進んだ。
ローラさんと美咲さんは、若干のトゲトゲしさはあるものの談笑を交わし、周囲は胸を撫で下ろし。
2人の用意した料理も素晴らしい美味しさで、皆さん舌鼓を打ち、賞賛を集めていた。
たいそう和やかな雰囲気のまま食事会は終了。
遅くなる前に、それぞれ帰路へついた。
――もっとも。
その最中、私は逆さ吊りの刑に処されていたわけだが。
はっはっはっは、当然のように全てバレていましたとも。
皆さんが楽しく過ごしていた間、一人疎外感を味わっていたのである。
……ヤったことを考えれば、自業自得以外の何物でもないが。
しかし、私は後悔しない。
どれ程の制裁が待っていようと、あんな状況になったらこれからも誘いに乗り続けるだろう。
ちなみに、エレナさんは多少小言を言われただけで、普通に食事会へ参加していた。
美咲さんとの仲がなせる業か。
――少し。
ほんの少しだけ、不公平を感じてしまったことを許して欲しい。
「根本的にお前が悪いんだからな?」
「い、いえ、勿論納得はしていますよ!」
ジト目で私を睨み付けてくる美咲さん。
今、家には私と彼女の2人きり。
リビングのテーブルに、向き合って座っている。
日は既に沈んでおり、照明が私達を照らしていた。
やや暗い部屋の中、黄色い光で浮かび上がる美咲さんの怜悧な美貌は、幻想的ですらある。
暖色系の光のせいか、いつもなら冷たい印象を与えがちな切れ長の瞳も、どこか優しげに感じられた。
「――決して、協力の見返りに許したわけではない」
「あの、わざわざ疑惑を生む発言をしなくとも……」
ローラさんは、最後まで美咲さんが家に残ることに反対していたのだが。
エレナさんの大分頑張ったとりなしにより、彼女もこの状況を不承不承ながら受け入れてくれたのだ。
美咲さんとの裏取引が噂されたが、真偽は不明のままである。
……不明のままである!(強調)
「はぁ……恋人の家に泊まるのに、こう苦労しなければならないんだ」
「それはその――申し訳ありません」
「お前が謝るようなことじゃない――いや、お前が謝るべき案件でもあったな。
あっちこっちの女に手を出しおってからに」
「ははは……弁解のしようも無いですね……
つ、次は、私の方からローラさんにお願いしましょうか?」
「それはやるな。
……なんだか負けた気分になる」
そういうものなのか。
まあ、口では色々言っているものの、美咲さんはローラさんのことをかなり気に入っている。
それは彼女達のやり取りを見ていれば明らかだ。
気に入った相手だからこそ、自分で決着をつけたいのだろう。
彼女はそういう女性だ。
「そういうわけで、ローラの方は別にいい。
自重はしろと思うが、これからも付き合いは変える必要はない」
「おお、そうですか!」
「笑顔になるな!!
自重しろよ!?
本気で自重してもらうからな!?」
顔を綻ばせかけると、すぐにお怒りを頂いた。
女心は複雑である。
私にはそうそう理解できそうにない。
「分かっています、分かっています。
あ、エレナさん共、今まで通りでいいということですよね?」
「確かにその通りではあるのだが――絶対曲解してるだろ、お前」
「そんなことありませんよ?」
「うわぁー、信頼できない顔してるな、おい」
呆れて肩を竦める美咲さん。
ふと思うのだが、こういう何気ない動作にも、どこか品があった。
どんな動きをしても、絵になるというか、美しさを損なわないというか。
本人にそのつもりは無いそうなので、彼女が無数に持つ才能の内の一つなのだろう。
「……どうした、私の顔をジロジロ見だして」
「いえ――綺麗だと、そう思っていただけです」
「んなっ!?」
美咲さんが少し身を反らす。
何やら驚いている様子。
「そ、そういうことを急に言うな!
そりゃ、私が美しいのは自明の理ではあるが――その、心の準備というものがある」
「そうでしたか。
以後、気を付けます」
「ああ、心に留め置くように。
……いいか、私を称賛するなと言っているわけじゃないからな?
その辺りの区別はしっかりつけるんだぞ」
「ご安心下さい。
美咲さんを褒め称える言葉なんて、貴女を語ろうと思えば幾らでも出てきます。
もっとも、私の語彙力という限界はありますが」
美しさの塊である彼女について表現しようと思えば、自然と礼賛することとなる。
そんな当たり前のことを説明しただけだったのだが、
「う、ぐ――言ってる傍からお前は」
何故か、美咲さんの顔が紅潮していく。
私から目を反らして恥ずかしがる仕草が、とてつもなく愛らしい。
「ごほんっ!
と、とにかく、その2人について取り立ててどうこう言うつもりは無い!」
咳払いをすると、表情が戻った。
残念、もう少し可愛い姿を見ていたかったのに。
「問題なのは――リア・ヴィーナについてだ。
お前、彼女に関わるのはもう止めた方がいい。
かなり危険な状況だぞ」
「――え」
そう、だったのか?
まるで気が付かなかったが。
「元々、酷い“歪み”持ちの魔族だったが、それがさらに悪化している。
日に日に、自分の“歪み”に浸食されてるようだ。
このままじゃ、まともな生活が送れなくなる」
「な、なんと!
いったい、どうしてそんなことが――」
「それはこちらが聞きたい。
私はリア・ヴィーナとろくに接点がないんだ。
お前の方が余程彼女に詳しいだろう。
何か最近、変わったことは無いのか?」
変わったこと、か。
記憶を辿ってみるが――
「――思いつきませんね。
今まで通り、肉便器として普通の暮らしをしているように見えます」
「チェストぉおおおおおっ!!!」
「いったぁいっ!?」
脳天に手刀を決められた。
痛い。
凄く痛い。
頭蓋骨が割れたように痛い。
「馬鹿っ!! 馬鹿っ!! お馬鹿っ!!
どう考えてもっ!! それがっ!! 原因っ!! だろうがっ!!」
「え、ええっ!?」
「何で驚く!? どうして驚くんだ!?
驚くのはこっちの方だぞ!!?
こんな質問の返しに『肉便器』なんて単語が出てくるとは思わなかったわ!!」
「え、結構使いません?」
「使わないよっ!!!」
「私の周りでは常用しているのですが」
「……お前の人間関係、一度リセットさせた方が良さそうだな」
「や、止めて下さいよ!?」
店長もセドリックさんも、この世界で出来た大切な友人だ。
こんなことで離れ離れになるなんて辛すぎる。
「……まあ、これで明らかになったな。
リア・ヴィーナがおかしくなったのは間違いなくお前のせいだ。
今後、彼女には近づかないように」
「被虐趣向が命に係わる方向へ行かないよう、注意していたつもりなんですけどね……」
「生物的生命活動に問題はないかもしれないが、社会的生命活動に大きな問題が発生しているだろう!」
「いえ、肉便器として立派に社会的地位を確立できま――ぐほっ!?」
「はっ倒すぞ、お前!?」
「……は、はっ倒してから言わないで下さい」
椅子ごと殴り飛ばされたので、いそいそと座りなおす。
じんじんと痛む頬を擦りながら、口を開く。
「とはいえ、リアさんはこれからも陽葵さんにご協力頂く形になりますし、全く関わらないというわけには。
急に態度を変えれば彼女も訝しむでしょうし」
「……確かに、今更お前をどうこうしたところで、彼女を取り巻く環境は大きく変わらんか。
魔族の問題だからといって放置していたのがまずかったな。
そういう意味では、私にも責任の一端はある――かもしれない。
限りなく極僅かな一旦ではあるが」
美咲さん、ここでため息を一つ。
「仕方ない――これからは、彼女の面倒も少しは見てやるか」
「そういえば、美咲さんは前々からリアさんに関わるのを避けていましたね。
何か理由があるのですか?」
「嫌なんだよ、魔族と付き合うのは。
どうあがいても連中が抱える“歪み”は消えないから、関係が破綻する危険性を常に抱えなければならない。
話をしていて異様にムシャクシャする」
「……なるほど」
つまり、“歪み”という種族の呪いから解放してあげたいのに“それができない”ということが、美咲さんにとって大きなストレスになるわけか。
お人好しな彼女らしい悩みだ。
「――誠一、何故ニヤついている?」
「い、いえ、何でもありません!」
慌てて顔を引き締めた。
「と、ところで、話のついでという訳でも無いのですが、陽葵さんについては――」
「――当面、好きなようにやらせてやれ。
悔いが残らないように」
美咲さんが、真剣な――憐れみを帯びた表情になる。
「やはり、まだ厳しいのですか、陽葵さんは」
「“まだ”も何も、彼の状況は何も変わっちゃいない。
ゲブラーを倒したことで私達の勝利条件には大きく近づいたが、残念ながら“陽葵の生存”はそこに含まれていないからな。
私達が勝とうと、万に一つ龍共が勝とうと、陽葵は後数週間程度の命だ」
「…………」
誰が勝者になっても、陽葵さんの死は避けられない。
彼が生き残ることを優先するプレイヤーが、一人もいないからだ。
「だからこそ、あいつとも余り親しくしてやるつもりは無かったんだ。
……くそ、まさか奴が同好の士だったとは。
これじゃ、気にかけない訳にもいかないじゃないか。
あの卑怯者め」
「いや、そこで卑怯者呼ばわりは何か違う気がしますが」
趣味が合うという、ただそれだけのことで見捨てられなくなってしまう辺り、美咲さんのお人好し度が測れるというもの。
「そうは言ったところで、私が彼にしてやれること等たかが知れている。
せいぜい、万全の状態でケセドに面会させてやる程度だ。
そこから先は、関知しないからな」
「――ええ、分かっています」
彼女からのバックアップが十全に貰えるというだけで、かなり事態は好転していると言える。
陽葵さんに関しては、何故かセドリックさんも支援を申し出てくれているので、探索にかかる費用面の問題も解決の見込みだ。
この上、ケセドの協力を取り付けることができれば――或いは。
まだまだ不確定要素の多い道のりではある。
「……さて、周りの連中の話はここまでにしておいて、だ。
次は誠一だ」
「私、ですか?
どうしました?」
「どうしたもこうしたもあるか!?
さっきも言ったが、お前、他の女にちょっかいをかけすぎだろう!?」
「そ、そうですかねー?」
明後日の方を見ながら、返事する。
あー、そっちの話題ですか。
「おい、誤魔化すな、私の目を見ろ。
私だってな、お前と一緒に居てやることができないから、多少は我慢するつもりでいたんだ。
お前がどうしようもない変態だってことは分かっていたしな。
――だからって、これはやり過ぎだろう!?」
「あー、なんと申し上げればよいでしょうか……」
「正直に答えろ。
誠一、この1年で、何人の女と関係を持った?」
「……えーと」
過去の記憶を掘り起こす。
た、確か――
「――五十、は行ってなかったと思うんですけど」
「死ね」
死んだ。
いや、本当に死んではいないのだけれど、ボコボコにされた。
マウント取られて顔面に拳を叩き込まれた。
ヤバい。
何がヤバいって、この体勢。
美咲さんに馬乗りにされていると、その、彼女の下半身が私の身体に押し付けられてですね。
服の生地越しではあるものの、その柔らかい感触は痛みを忘れさせるに十分な代物で。
あと、下から見上げる美咲さんのビジネススーツ姿も、なかなかオツなモノだ。
結構ぴっちりと身体にフィットするタイプのスーツなので、彼女の完璧なスタイルがよく見て取れる。
「――なんだか嬉しそうだな。
お前、そういう趣味もあったのか?」
「えー、そんなことは無いですよ」
「……止めた。
喜ばせたんじゃ意味がない」
美咲さんは殴る手を止めると、私の腹の上へぽすんっと腰を下ろす。
……おおおおおおおっ!!
お尻がっ!! 美咲さんのお尻がっ!!
私の腹の上にっ!!
あー、良い塩梅だ。
いっそ、ずっとこうされていてもいい。
「なぁ……まさかとは思うが、私に不満があったり、するか?」
恍惚に浸る私に、美咲さんが話しかける。
言葉遣いとは裏腹に、どこか不安があるような声色だ。
「不満なんてあるわけないじゃないですか。
私は心の底から美咲さんを愛しているんですから。
ずっと貴女を抱いていたいくらいですよ?」
「そ、そうか」
私の正直な吐露に、彼女の顔が少し明るくなる。
が、すぐに表情が引き締まり、
「……なのに、他の女に浮気するんだな?」
「それは、その――男の本能と言いますか」
どうしようもないのである。
男は――いや、人は、本能に逆らえないのだ。
これは生命が地上の誕生してからの、誰にも代えられぬ摂理なのだ。
そんな私の態度に、
「はあぁぁぁぁぁぁ――」
美咲さん、大きくため息。
「なんで私、こんな奴を好きになってしまったんだろうな?」
「どうしてですかね?」
「お前が疑問に持ってどうする!?
お前がっ! 毎日毎日しつこくしつこくずーっと言い寄ってくるからっ!
なんというか――こう――絆されてしまったんだろうがっ!!」
「継続は力なり、ですね」
「してやり顔で言うな!
なんか腹立つぞ!?」
「あっはっはっは。
――ところで」
私は、腕のすぐ近くにある美咲さんの太ももをすっと撫でる。
「――んっ」
彼女の口から、くすぐったそうな音が漏れた。
いかにも不意に発せられたその声が、とても色っぽかった。
「――美咲さん。
今夜は、恋人として一緒に過ごす、ということでよろしいでしょうか?」
「足を触りながら言うな!
……そ、そのつもりが無かったら、残るわけないだろうが」
視線を少し外し、頬を染める。
ああ、それはいけない。
そんなことをされたら、もう我慢することができなくなる。
「――きゃっ!?」
美咲さんから、実に可愛らしい声。
両手で彼女の身体を思い切り引き寄せたのだ。
床に倒れている私。
その上に覆いかぶさる形で美咲さん。
彼女の眉目秀麗な顔が、すぐ近くに迫る。
呼吸による空気の流れが感じられる程に。
「ちょ、ちょっと――」
狼狽える美咲さんというのも、大分珍しい。
ただ……実を言うと、私も平静では無かった。
至近距離で見る彼女の美貌と、体中で感じられる彼女の温もりと柔らかさ。
それらが私の鼓動を早くさせる。
さらに腕が細かく震えていた。
ひょ、ひょっとして、私も緊張してしまっているのか――?
「ま、待った、待ったっ!!」
そんな隙を突かれ、美咲さんが身体を引き離す。
な、なんてことだ!
このまま一戦なだれ込もうと思ってたのに!
「おい、そんな世界の終わりが来た、みたいな顔するな!
……別に、しないと言った訳じゃないだろう」
「ほ、本当ですか……?」
どこかしおらしい雰囲気になった彼女は、恥ずかし気に口を開く。
「ま、まずは、シャワーを浴びなきゃだろうが。
ちゃんと身体を綺麗にしてから――」
「何を言ってるんですか。
美咲さんの身体に汚いところなんて無いじゃないですか」
「な、無いけれど!
私に汚いところなんて無いけれど!
でも、シャワーを浴びなくちゃいけないんだよ!」
「そんなものですか」
そういうことであれば――
「では、浴室へ向かいましょう」
「いやいや、何で手を引くんだ。
どうして一緒に行こうとするんだ」
「いえ、一緒にお風呂へ入ろうかと」
「ダ・メ・だっ!!」
大声が部屋に響く。
「ど、どうしてです?
同時に済ませてしまった方が効率的じゃないですか」
「デリカシーがっ!! 足りなすぎるっ!!」
「デリカシー?」
「そうだっ! デリカシーだっ!!
こういう時は、別々に入るものなんだよ!!
いいか、まず私が入るっ!
お前はその後っ!!
分かったな!?」
「わ、分かりました!」
問答無用な迫力に、首を縦に振る以外の選択は無くなっていた。
美咲さんは立ち上がり、風呂場に向かって歩き出す。
「……お、終わったら、合図する。
それまで、絶対、浴室に入ってくるんじゃないぞ。
当然、覗くのも禁止だ。
私は、その、寝室の方で待ってるから。
隅々まで入念に綺麗にして、それから来るんだぞ、いいな!?」
早口にそう言い切ると。
私の返事も待たず、足早に美咲さんは行ってしまった。
そこから時は進む。
「……いいお湯でした」
私は体を洗い終え、寝室の前へ来ていた。
これからヤることを考え、服はもう纏っていない。
「――――っ」
なんだろう、凄くそわそわする。
この一枚のドアを隔てた先に、美咲さんが居るのだ。
私を受け入れる準備を終えた、彼女が。
それを考えると、居ても立っても居られない気分になる。
気分になる、のだが。
「…………ごくり」
生唾を飲み込む。
全身を駆け巡る期待感と、得も言われぬ不安感。
それがごちゃ混ぜになり、私の頭は混乱していた。
いつも通りすればいいというのに、身体が言うことを聞いてくれない。
「――な、情けなや」
自分の小心ぶりに辟易する。
こんな大事なところで、縮こまってしまうとは。
――いや、股間の方はずっと勃起しているんですがね、それは置いといて。
「よし、行きましょう!」
自身に喝を入れる。
意を決し、寝室への扉を開く。
中に入った私の目に飛び込んできたのは――
「……き、来たか、誠一」
――一糸纏わぬ姿でベッドに横たわった、美咲さんの姿だった。
い、いや、訂正。
何も着ていない訳ではない。
一枚の、薄いシーツでその身を包んでいた。
「……うぉぉ」
意図せず、呻いてしまう。
何だ、これは。
部屋に灯は点いていない。
月の明かりが差し込むだけ。
だがその月光に照らされる美咲さんの肢体は、神々しさすら感じられた。
一歩ずつ、ゆっくりと彼女に近づいて行く。
私の視線を感じてか、美咲さんは顔を俯かせ、
「その――あまり、ジロジロ見ないで欲しい」
「無茶を、言わないで下さい」
こればかりは、美咲さんの命令でも聞くわけにはいかない。
というか、聞くことができない。
目が、彼女から離れようとしてくれないのだ。
短めに切り揃えられた、極上の艶を持つ彼女の黒髪。
今、その髪はしっとりと濡れ、艶めかしい輝きを帯びている。
いつもは凛々しく締まった顔が、今宵は少し緩み、羞恥からかほんのりと上気し。
常に自信に満ちている切れ長の双眸も、どこか不安げだ。
思わず抱き締めたくなってしまう可憐さが、極致に至った端麗さと見事に同居している。
――ベッドに辿り着いた。
美咲さんは少し思案する様子を見せてから、
「……あー、時間、かかったな」
「言われた通り、残すところ無く洗ってきましたので」
「……そ、そうか」
どうにも歯切れが悪い。
私も人のことは言えないが。
「……その、もう、裸、なんだな」
「美咲さんだって、そうじゃないですか」
「そ、それは……そうだけれども」
そこで会話が途切れる。
お互い、次にどう言葉を紡ぐか、考えあぐねている。
……ええい!
ついさっき、覚悟を決めたはずだろう!
「――失礼します」
「あっ――」
思い切って、ベッドに入り込む。
先刻とは逆に、私が美咲さんにのしかかる形だ。
彼女の肢体は、もう目と鼻の先。
「――触りますよ」
「――あ、ああ」
短いやり取り。
この状況で相手の了承など本来要らないとは思うのだけれど、しかし許可を貰うことで幾分気が楽になる。
私は、両手で美咲さんの二の腕を触る。
シーツに覆われていない、彼女の肌を。
「――んんっ」
色情を感じさせる、短い吐息。
すべすべだった。
少し湿った美咲さんの腕は、手触りの良い至極のきめ細やかさであった。
撫でているだけで、快楽中枢を刺激される。
――シーツに手をかける。
「――お、おい」
「いけませんか?」
「あ、いや――その、いい」
彼女が頷くのを確認してから、彼女を覆うシーツをそっと捲っていく。
「うぁぁ……」
恥じらいながらも、私の為すがままになる美咲さん。
そして――生まれたままの姿が、私の眼前に現れた。
「おおおぉ――」
感極まって、感嘆の声が出てしまう。
――別にこれが、初めてではない。
美咲さんの裸を見るのは、これが初めてではないのだ。
だというのに、私の身体は硬直して動けなくなった。
美しい。
ただひらすらに、美しい。
豊満な胸は、全く崩れる様子を見せず。
その先端には、上向きにツンと向いた桜色の突起。
腰は細くくびれ、お腹周りは引き締まっている。
大きなお尻はキュッと上がった卵型。
しかし、色気があるとか、情欲をそそるとか、そんな低俗な形容をこの裸体にはできない。
芸術品だ。
その肉の付き方は、彫刻を連想させる。
究極の肉体美がそこにあった。
劣情を催すよりも前に、美麗な存在に対する賛美が来る。
「ど、どうしたんだ、急に固まって――?」
「あ、いえ――美咲さんが、余りに綺麗すぎて、つい我を忘れてしまいました」
「――っ!
そういう世辞を、いきなり言うなと――」
「お世辞なんかじゃありません。
心からの本心です」
「――っ!?」
美咲さんの顔が、一気に赤面する。
ひょっとしたら、私もそうなっているかもしれない。
さっきから、顔が火照って仕方ないのだ。
「で、では――」
私は、恐る恐る彼女の胸に触る。
「あっ」
か細い艶声。
美咲さんは触れた手を、敏感に感じ取ってくれたようだ。
――凄い。
なんなんだ、こんなに大きなおっぱいなのに、凄いハリだ。
無論、硬いだなんてそんな訳では全くない。
柔らかいのだ、指で突けばプルンと揺れる位に柔らかいのに、弾力もまた凄いのである。
試しに揉んでみる。
「――ん、ああっ」
少し大きくなった美咲さんの声。
同時に、手の平全体へ、その柔肉の感触が伝わってくる。
中身が詰まっているような、揉み応えのあるおっぱい。
しかし手を離せば、すぐに元の形に戻る。
揉む指に力を入れると胸に食い込んでいく。
堪らない反発が指にかかる。
ハリの良さを、これ以上なく如実に現していた。
「あっ――あっ――あっ――
せ、誠一、少し、強い――んぅっ」
「す、すみませんっ」
夢中になり過ぎて、つい思い切り力を込めすぎてしまったようだ。
すぐに、もっとソフトなタッチに切り替える。
「これ位で如何でしょう?」
「んっ――あっ――あっ――
そ、それ位、で――はっ――んっ――あっ――」
気持ち良くなって貰えたようだ。
私の方もまた、極上の触感をずっと味わっている。
股間へ血が集まっていくのが、よく分かった。
興奮は高まっていき――
「――美咲さんっ」
「んあっ!?――――んむっ」
私は彼女の唇を奪った。
瑞々しい感触が口に当たる。
「――んっ――んんっ」
そのまま、軽いキスを繰り返す。
付いては離れ、離れては付く。
美咲さんの切れ長な双眸が、熱く私を見抜く。
私もまた、彼女の瞳へ視線を集中させた。
見つめ合いながら、口づけを続けるのだ。
さらには――
「――んんっ!?――あ、こらっ――ふむぅっ――んんぅっ!」
――舌を彼女の口内へ侵入させる。
最初、抵抗しようとした美咲さんだが、
「――ん、んちゅっ――あ、あふっ――は、あ、あ――れろっ――れろれろっ――」
すぐに、彼女も舌をこちらに絡ませてきた。
なんて滑らかな舌触り。
それでいて、意外と力強くもある。
ともすれば、私の舌が負けてしまいそうな程だ。
「――ちゅ、ちゅ――んふぁっ――ぺろ、れろっ――ん、んぁっ――んぅっ――」
美咲さんの歯を、口内を、丹念に舐めていく。
それは相手も同じ。
お互いがお互いを、最大限に堪能しようと舌を動かした。
「――んんぅっ――あ、んっ――ん、ん、ん――ちゅっ――あぅっ――――あっ」
一旦、そこでキスを止める。
美咲さんは、なんだか名残惜しそうな表情。
「もう、終わりか――?」
「物足りなかったですか?」
「……手慣れてる感じがして、なんだか嫌だった」
ぷいっと顔を反らした。
幸せそうな表情で言われても、説得力は無い。
悦んで頂けたようで何よりだ。
……さあ。
もう、前戯はいいだろう。
「――あっ!
そ、そこは――」
美咲さんが身体をピクッと小さく震わす。
私が、彼女の股間に手を伸ばしたからだ。
「……もう、濡れているようですね」
「そういうことを、いちいち報告するんじゃない……!」
股の付け根に位置する、美咲さんの花弁。
その入り口は、閉じた蕾のままであった。
しかしその隙間からは、愛液が漏れ始めている。
私は彼女に覆い被さったまま、自分のイチモツを膣口へと添えた。
美咲さんが、小さく口を開く。
「――誠一」
「挿れますよ、美咲さん」
「――う、うん」
そのやり取りを合図に、私は腰を彼女目掛けて推し進めていく。
「――あっ!――あっ!――くぅっ!
――は、入って、きてるっ!」
美咲さんの嬌声が、鼓膜を刺激した。
聞くと、脳が溶けそうになる。
だが、股間の方はもっと大変だった。
――き、キツい!
まるで処女であるかのように、彼女の膣は私を容易に受け入れてくれなかった。
それなのに。
拒むような動きをしているにも関わらず。
入り込んだ剛直の頂きには、ヒダが我先にと絡み付いてくる。
そして、優しく、激しく、締め付けるのだ。
なんという、名器!
なんという、気持ち良さ!
早く!
早く、肉棒全体でこの快感を味わいたい!
その欲求に突き動かされ、私は腰の動きを加速させていく。
――が。
「――痛っ!!」
「美咲さん!?」
彼女の悲鳴で、我に返った。
見れば、大粒の涙が美咲さんの目に浮かんでいる。
「どうされたのですか!?
初めて――じゃ、無いですよね?」
愚問である。
彼女の初めてを貰ったのは、他ならぬ私なのだから。
しかし、美咲さんはふるふると首を横に振って、
「――前した時から、どれだけ間が空いてると思ってるんだ!
きゅ、急に挿れられたら、痛いに決まってるだろう!?」
「――え。
まさか、以前に私としてから、一度もヤっていないのですか?」
「するわけが無いだろう!?
お前以外の男となんて!!」
「ご自分でも、されていない?」
「するかっ! そんな、はしたないこと!!」
――なんと。
私が美咲さんと最後にセックスしたのは、もう一年以上前のことだ。
それから彼女は、自慰すらせず過ごしていたというのか。
信じられないストイックさ。
美咲さんらしいと言えば美咲さんらしい。
「――では、もっとゆっくり行きますね」
「あ、ああ、そうしてくれると助かる」
宣言通り、ゆっくりと、彼女が痛がらないように細心の注意を払って腰を進めていく。
「――はっ!――あっ!――あっ!――あっ!」
美咲さんの声に艶が戻ってきた。
痛みでは無く、快感を感じ始めているようだ。
「――あっ!――あっ!――あっ!――――あああっ!!」
全部入ったところで、彼女は一瞬身を仰け反らした。
肢体が硬直し、ビクビクッと震えだす。
これは――
「……ひょっとして、イきましたか?」
「はぁっ――はぁっ――し、仕方ないだろう!
はぁっ――はぁっ――はぁっ――久々、だったんだからっ!」
涙目で息を切らしながら、美咲さんが告げてくる。
いや、咎めているつもりは全くないのだが。
寧ろ、挿入しただけで絶頂してくれたなんて、嬉しいことこの上ないのだが。
彼女の呼吸が落ち着くのを待ってから、私は尋ねる。
「あの――動いても、大丈夫ですか?」
「……ああ。
そろそろ、大丈夫だと、思う」
「それでは――」
私は、緩やかに腰を振り始めた。
美咲さんの膣内を、イチモツが前後しだす。
「――あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」
時同じくして、彼女が大きく喘ぎ始めた。
良かった、しっかりと快感を感じてくれている。
ほっと一安心――を、する前に。
私の方が、緊急事態に陥っていた。
「――み、美咲さん」
「あっ! あっ! あんっ! ああっ!――ど、どうしたんだっ?」
「ま、まずいです――もう、イキそうでして」
そう。
私は、あっという間に絶頂へ達しようとしていた。
全ては、美咲さんの女性器のせいだ。
膣壁が男根の下から上、カリの部分に至るまで、余すところなく全てに強く絡みつき。
少し動くだけで、股間へ絶大な快楽を注入してくる。
気持ちは昂り続け、収まる気配が無く。
射精感がむくむくと湧き上がってくる。
「あっ! あっ! あっ!――い、いいじゃ、ないかっ!
あぅっ! あんっ! あっ! ああっ!――お前も、イけばっ――あぁああっ!」
「し、しかし――」
「だい、じょうぶっ――あっあっあっあっあっ!――私、もっ――あっああっあぁああっ!
私も、また、イキ、そうっ――あっあっあぅっあぁっあああっ!」
美咲さんの表情が蕩けていく。
目尻が下がり、口は大きく開けられた。
手がベッドのシーツを強く握りしめる。
恍惚に浸っているのだ。
つい先ほどイったばかりだというのに、もう再度の絶頂へ到達してしまうらしい。
だが、私にとっては渡りに船だった。
どうにも、男が一人でイクというのは、寂しいものがある。
相手が美咲さんであれば、なおさらだ。
一緒にイケるなら、それに勝る幸福は無い。
「――イキ、ます!
イキますよ、美咲さん!」
「ああ――あっ! あうっ! あっ! あんっ!――き、来てっ!
私、もう、イッちゃう、からっ――あ、ああっ! あ、あ、あっ!――早く、来てっ!!」
腰のグラインドをどんどん速くしていく。
もう、美咲さんの心配をする余裕は無かった。
申し訳ないが、自分のことで、手一杯――!
愛液でぬるぬるになった膣が絡みつく、締め付ける、搾り上げる!
一刻も早く私の精液が欲しいとばかりに、イチモツを扱いてくる!
「あっあっあっあっあっあっ!!
イクっ! あっあっあっあっ! 私、イクっ!! あっあっあっあっあっ!!」
美咲さんが淫らに喘ぐ。
腰を振る度に豊かな胸が揺れる、愛液が飛び散る。
肉と肉がぶつかる音が、部屋に響く。
――限界、だ!
「い、イク――っ!!」
「あっあっあっあっあっあっ!!
あぁぁああああああああああああああああっ!!!!」
彼女が絶頂するのと、私が射精するのは、同時であった。
美咲さんの脚がピンと伸びる。
身体が固まり、直後に痙攣が起きる。
「――あっ!――あっ!――あっ!――あっ!」
イった余韻で、さらに悶える美咲さん。
それに合わせて膣肉も締まり――おおおおおっ!?
締まるっ!
搾ってくる!!
まだ精子が足りないとでも言うのか!?
凄まじい絞めつけだ!
「――うあっ!?」
出るっ!
精液が、止まらないっ!!
体の奥から、吸い上げられるようにっ!!
一回の射精で、こんな量、出したことないぞっ!?
「――あっ!――あっ!――熱、いっ――こんな、こんなにっ――
――いっぱい、いっぱい、入ってきて――奥、当たってっ!――あっ!!――あっ!!!」
彼女の喘ぎが、また大きくなってくる。
精子の奔流で膣内を叩かれ、気持ち良くなっているのだろう。
――そして。
「あっ!――あっ!――ああぁあああああっ!!?」
精液を注ぎ込まれる快感で。
美咲さんは、三度めの絶頂へと達するのだった。
「はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……」
精も根も尽き果てた様子で、美咲さんはベッドに横たわっていた。
私はそんな彼女に添い寝している。
「――誠一」
不意に、彼女が呼びかけてきた。
「なんです?」
「もうちょっと――こっちに、顔、寄せろ」
「? はい、分かりました」
言う通り、身体を密着させるまで、彼女に近寄る。
すると美咲さんは――
「――んっ」
――私を、ぎゅっと抱き締めてきた。
裸同士での触れ合い。
大きな胸が、締まったお腹が、むっちりとした太ももが。
私に押し付けられる。
柔らかい。
暖かい。
何より、心地良い。
「幸せ、だ。
ようやく――お前と、愛し合えた」
「――美咲さん」
私の顔をじっと見つめてくる。
彼女は腕に力を込めると、
「今夜は――ずっと、こうしていて、いいか?」
「勿論ですよ」
断る理由が無かった。
あわよくば二回戦を――という考えが無いわけでも無かったが。
そんなことより、彼女を長く感じていたかった。
「――誠一、愛してる」
「私もです――美咲さん」
改めて、愛を告白し合う。
自然と、顔が綻んだ。
美咲さんも、同じだった。
――この日。
私達は朝まで、抱き合いながら眠っていた。
第二十六話 完
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