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第二十一話 嵐の前
② エレナさんと買い出しを
しおりを挟む時刻はそろそろ夕方。
陽葵さんを家へと送った後、探索に必要な備品の補充をしていたら、いつの間にかこんな時間になってしまった。
さて、今日の夕飯はどうしようか。
いつものように黒の焔亭にするか、最近少々縁のある蒼い鱗亭で食事してもいいかもしれない。
或いは、多少手間だが自分で用意するか、だが……
そんな他愛もないことで悩んでいると、後ろから人が近寄る気配が。
「クーローダ君っ!」
突如、私の身体に誰かが抱き着いてきた。
私はその人の方を向いて、
「どうしました、エレナさん?」
「んー?
いや、どうもしてないよ。
歩いてたらクロダ君を見かけたんで、飛びついてみただけ♪」
そこに居たのは、黒髪を後ろで束ねた小柄な女性、エレナさん。
ブラウスにミニのフレアスカートという出で立ちが、彼女の小ささと相まって実に可愛らしい。
もっとも、背は小さいとはいえ、胸もお尻もなかなかのモノをお持ちな方なのだが。
「……なるほど、緊急時に備えた訓練ですか」
「何言ってんの?
求愛行動だってばー。
んー、好きな人を見つけたらつい抱き着いちゃう乙女心、分かってくれない?」
「そういうものですか?」
「そういうものなのー」
ならばそうなのだろう。
「それにキミ、最近はあんまりボクのこと構ってくれないしー?
んん、ヒナタ君にばっかりかまけちゃってさ」
「いやいや、ちょっと待って下さい」
私はエレナさんの言い分に異を唱える。
「仕方ないじゃないですか。
あれは仕事なわけですから」
「ふーん?
ヒナタ君とはビジネスな関係でしかないと?」
「………………もちろんですよ?」
「んー、嘘が下手だなぁ、クロダ君は。
あと、ボクのために言ってくれたのは分かるけど、今の台詞ヒナタ君に言っちゃダメだよ?」
エレナさんはため息一つついてから、
「そんな甲斐性の無いキミのために、ボクの方からモーションをかけてあげてるわけだよ。
んん、感謝して欲しいね、ボクのこと心遣い!」
形の良い胸をくいっと張る。
至近で見ると、かなり魅惑的だ。
「ありがとうございます。
今日は、エレナさんの方で用事は特にないのですか?」
「ん? あるよ?」
きょとんとした顔で、エレナさん。
む、予定が入っていたのか。
空いているのであれば、この後一緒に――と思ったのだが。
「おや、そうでしたか。
差し支えなければ、どんなご予定が聞いても?」
「んんー、そんなの決まってるじゃん」
どうして分からないんだ、とばかりに、エレナさんは呆れた顔をする。
その後、私の腕にしがみ付いて、
「クロダ君の、愛人としての用事、だよ?
んー、察しが悪いねー」
私の二の腕に、おっぱいを押し付けてくる。
小ぶりながらも綺麗に実った二つの果実が、ぽよんっぽよんっと良い弾力で当たってきた。
「おやおや、それは申し訳ありません。
お詫びといってはなんですが、この後食事でも如何ですか?」
「ん、それはとても心惹かれる響き。
でも今日はちょっとやりたいことがあるんだよねー」
「ほう、と言うと?」
「ボクの手料理をクロダ君に振る舞うのだ!」
どどんっと宣言する。
そういえば、エレナさんの手料理というのは食べたことがない。
というか――
「エレナさん、料理できたんですか?」
「ん? 今ボクをバカにしたね?
ボクなんかに料理ができるわけないって?」
「いや、決してそんなことは。
ただ、付き合い始めてからまだそういう風景を見たことが無かったので……」
「そう、そこなんだよ!」
ビシッとワタシを指さすエレナさん。
「ボクは気付いてしまった!
いつも食事するときは、どこかのお店で食べるかクロダ君が料理するか、その2択だったということに!」
「あー、言われてみれば、そうでしたかねぇ」
料理が得意とまでは言わないが、料理をするのは嫌いでないため、大抵私が料理番をしていたのだ。
「恋人に料理を振る舞ったことが無いって、ちょっと女の子としてどうかな、って思ったわけだよー」
「なるほど」
さっきは不躾な指摘をしてしまったものの、私とて女性の作った手料理を頂くというシチュエーションへの憧れは当然ある。
まあ、リアさんやローラさんに食事を用意して貰うことが時折あるので、そんな状況が皆無というわけでもないのだが。
「ん、そういうわけなんで、今日はクロダ君の家でお料理するよ」
「ふむふむ。
断る理由はありませんね」
さてはて、エレナさんはどのような料理を作るのか。
もっとも、冒険者は迷宮内で自炊することもある。
そのため冒険者をやっていて料理下手、という人はかなり少なかったりする。
「んじゃ、まずは買い物だねー。
美味しい食材を求めて市場へゴー!」
「お供しましょう」
エレナさんに手を引かれ、私は道を進んでいく。
「うーん、やっぱり人が多いねー、ここ」
市場について早々、エレナさんの口からそんな言葉が呟かれた。
「ちょうど混む時間帯ですからね。
皆さん、夕飯の具材を求めているのでしょう」
証拠に、辺りには主婦らしき方々が多い。
このウィンガストの市場、料理店などの“プロ”は午前、一般の人は午後に利用することになっている。
ただ、そこまできっちりと取り決めされているわけではなく、一般客が午前中に出向いても立ち入りを禁止されるわけではない。
暗黙のルール、というやつだ。
余りゆっくりしていると、食材は次々に売り切れてしまう。
私達は早速店を回り、物色していく。
「んんー、こっちの果物と、そっちの野菜ちょうだいっ!」
お店(といっても『簡易な小屋』や『大き目のテント』と呼称できる程度のモノだが)の軒先で、エレナさんが声を張り上げる。
ここはかなりの人気店らしく、周りには同じく商品を求めるお客さんでごった返しになっている。
全員が全員、自分の注文を叫んでいるため、店員さんは対処に大忙しだ。
「だからー! この果物とその野菜だってば!」
エレナさんが再度注文を飛ばすものの、なかなか店員さんは手を回してくれない。
彼女は女性としても小柄な方なので、余り目立っていないせいもあるのかもしれない。
「ちょっとー! 聞こえてる!?」
業を煮やして商品を並べている台へと身を乗り出すエレナさん。
そこまでしてようやく、
「あー、すまんね、嬢ちゃん!
今袋詰めすっからちょっとだけ待ってくれ!」
店員さんに声が届いたようだ。
「ふぅぅ……」
無事に注文でき、エレナさんはほっと溜息を吐く。
ただその時、私は買い物ではなく、別のことに注意が向いていた。
……彼女のお尻である。
台に上半身の乗せ、思い切り前かがみになったエレナさんは、後ろにいる私へと尻を突き出す姿勢となっていた。
ミニスカートに包まれた、小さいけれど十分以上の色気を放つお尻が、私のすぐ目の前に。
家につくまで我慢しようと思っていたのだが、もう限界だった。
そもそも、陽葵さんとボーさんのセックスを間近で見て、最初から私のムラムラは限界寸前だったのだ。
よくここまで保ったと、褒めてもらいたい。
私は、人の波に押されたフリをして、エレナさんのお尻に股間を密着させた。
「ちょ、ちょっとクロダ君、どうしたの―――――んんっ?」
怪訝な顔をするエレナさんだが、
「……ん。
クロダ君、こんなところで……?」
上目遣いに私の方を見る。
どうやら、私の意図に気付いたようだ。
「ええ。
いけませんか?」
「こ、ここじゃダメだって。
いくらなんでもバレちゃうよ……!」
「大丈夫です、客の皆さんは買い物に集中して、周りを見ていません。
店員さんも注文に忙しく、客を一人一人確認できていないようですし」
「そ、そうは言っても――」
流石にこんな大勢の中では気が引けてしまうのか。
エレナさんにしては珍しく、ちょっと渋っているようだ。
――だが。
「っ!――――あ、んっ」
股間を股に擦り付けてやると、彼女は敏感に反応した。
こんな状況だというのに、大したものだ。
「んんっ……あのさ、ホントにするの?」
「勿論、本気ですよ。
分かるでしょう、エレナさん?」
小声で言ってから、さらに強く股間を擦ってやる。
「んっ――は、あぁ――
おっきくなってる、ね……」
「ええ。
これ以上なく勃起しています」
「そっか――なら、仕方ない、かな。
上手く――んんっ――やって、よね?」
「お任せください」
エレナさんは、私が“やりやすい”ように、突き出した尻をさらにくいっと上へ向けた。
無理な体勢になったせいで、スカートからショーツがちらりと見える。
青白のストライプが入った縞パンだ。
まず私は、周りからバレないようにそっとスカートの中へ手を挿し込み、エレナさんのお尻を触る。
そしてフェザータッチで優しくお尻を撫でまわした。
「――んっ――ん、んぅっ――んっ――」
くすぐったいのか、感じているのか、小さく声を漏らすエレナさん。
ハリのある、いい触感だった。
指先でつつけば、尻肉が指を押し返してくる。
今度は、触るのではなく強く揉んでみる。
「っ!!――ん、くっ――はぁ、んんっ――ん、うっ――」
強くなった刺激に、エレナさんの息が荒くなった。
揉んでいる掌に、艶肉の強い弾力を感じられる。
もっとこの感触を楽しみたいが、時間はそう長くとれない。
尻から手を離し、今度は股を下着の上から弄ってやる。
「――ん、んんっ――あっ――ああっ――んんっ――
そ、そこ、いいっ――あんっ――」
尻を揉まれたからか、それともこのシチュエーションによるものか、エレナさんの女性器は既に濡れているようだ。
ショーツにじわじわと愛液の染みが浮き出てくる。
私は、膣口だけでなく“豆”の方も触ってやった。
「――んっ!」
途端に、エレナさんの身体がびくっと震え、強めの声が漏れた。
心なしか、“染み”の面積も増えたように見える。
「――あっ!――ん、んっ!――あっ!――あぅっ!」
クリトリスを重点的に責めると、彼女の艶声はさらに大きくなっていった。
一応、場所が場所だけにいつもに比べればかなり抑えられてはいるのだが。
……私が<静寂>の魔法を使えば彼女の負担は軽減されるのだが、それでは面白くな――もとい、エレナさんが店員と会話できなくなってしまう。
ショーツはさらに淫らな液体に塗れ、指を動かせばぐちゅぐちゅと音を立てる程に。
十分すぎる程、エレナさんは感じているということだろう。
「――んっ!――あんっ!――クロダ君、は、早く、来て――」
小声で私にそう伝えてくるエレナさん。
彼女も彼女で、もう我慢ができないようだ。
望みを叶えるべく、彼女のショーツを股間部分だけそっとずらして膣口を露出させ。
ズボンから取り出した、そそり立つイチモツを“そこ”へ突き入れる。
「――くぅぅぅっ!」
エレナさんが長く息を吐く。
なんとか、嬌声をあげることを防いだ模様。
そんな彼女だが、膣の方は貪欲に男を求め出した。
挿入された私の男根を、きゅうきゅうと締め付けてきたのである。
熱さを感じる程の暖かさに包まれながら、周囲の肉壁から握られる、この快感。
周囲の喧噪を一瞬忘れ、私のその気持ち良さに酔いしれた。
「――は、あっ!――あ、んんっ!――ん、んんっ!――」
腰を動かすと、エレナさんが悶えだした。
イチモツが彼女の膣に扱かれて、さらなる快楽がもたらされる。
とはいえ、周りの人達に事が露見しないよう、必要最小限にしか動けていない。
大きなピストンは行わず、股間をエレナさんの尻に密着させたまま小刻みな動作で子宮口を叩く。
これならスカートに上手く隠され、“行為”は周りから見えないはず。
「――くふぅっ!――ん、ふぅ、んっ!――あ、あふっ!――ん、んくぅっ!」
だがそんないつもと違う動きがかえって新鮮な刺激を与えられたのか。
エレナさんは手を口に当て、必死に食いしばって喘ぎを押し込めていた。
“下の口”からは愛液がとろとろ流れでていたが。
と、そこへ――
「嬢ちゃんっ!!」
「っっ!!?」
エレナさんの身体が強張る。
店員さんが急に話しかけてきたのだ。
これは――バレたか?
「注文してた果物、店頭の分切らしちまった!
すぐ裏から取ってくるから、もちっと待っててくんな!」
言うだけ言うと、店の裏手へ走る店員さん。
「――はぁぁぁぁ」
エレナさんが安堵のため息を吐く。
私も、小さく胸を撫で下ろす。
どうにか気付かれずに済んだようだ。
周囲の喧しさは変わらず。
これは、最後までいけそうだ。
――いや。
「――――」
一人、居た。
すぐ隣から、私とエレナさんをじっと凝視している女性が、一人。
歳は三十前後だろうか?
ウェーブのかかった綺麗な長い髪が目立つ、ゆったりとした品の良いロングスカート姿の美女だ。
その女性は、特に騒ぎ立てるでもなく、顔を私達の方へ向けていた。
「――ん、ふぅっ!――あ、あぅっ!――ふぅ、はぁぁっ――」
それに気づいていながら、私は腰を止めない。
エレナさんの方も、店員がいなくなって安心したのか、再び甘い息を漏らし始める。
「――――」
隣の女性は、ずっと私達を――いや、“私の腰”と“エレナさんの尻”を見続けている。
私とエレナさんが繋がっているところを、スカート越しに見ているかのように。
……私は思い切って、その女の人へ話しかける。
「あの、何か?」
「あっ! いえ」
言葉少なに返事すると、女性は明後日の方を向く。
私に興味などないように振る舞ってきた。
しかし、特に買い物をするでもなくその場に留まっており。
さらに言うならば、顔こそ背けたものの、その目は私達から視線を外していないことを私は見逃さなかった。
これらを総合するに――
「―――っ!?」
女性が息を飲んだ。
私が、エレナさんのスカートを少しだけ捲ったからだ。
その女性の位置から、私達の“結合部”が見えるように。
「――ほ、本当に、してるなんて」
小声の呟きが私の耳に届く。
普通、これだけ周囲が煩ければかき消されそうなものだが、私には<感覚強化>がある。
いくら小さくとも、この距離ならば鮮明に声を拾うことができた。
「――んんっ!――あふ、くぅ、んっ!――あ、あっ!」
「――――っ」
私がエレナさんを突く姿を、エレナさんが喘ぐ姿を、その女性は静かに鑑賞していた。
「――――はぁ、んっ」
いや、艶めかしい吐息をついてはいるか。
顔も少しだけ赤く染まっている。
私はあることを思いついて、エレナさんの片足を抱えた。
「え、え、えっ――」
エレナさんの戸惑いが聞こえる。
抱えた足をぐいっと上げて、股を開かせたからだ。
例の女性が、エレナさんの股間をよく見えるように。
「ダメ、それダメっ!
見えちゃうよっ! 全部、見えちゃうっ!」
「安心して下さい。
誰も私達なんて見ていませんよ」
「そ、そんな――――あっ!
あ、あぅっ!――くぅぅっ!――ん、ん、んっ!」
抗議するエレナさんだが、子宮からの快楽にそれはすぐ霧散する。
「――こ、こんな大胆な!
バレたら、どうするつもり――?」
目を大きく開く女性。
もはや言い訳が効かない位、私とエレナさんの行為を覗き込んでいた。
私は、あえて彼女に見やすいように、腰のストロークを大きくする。
「――やっ!――あ、あっ!――な、なんで急に、激し――んぅぅぅっ!」
突然変わった動きに、エレナさんは堪えられずに喘ぎ声を大きくする。
女性の方はと言えば――
「――あ、あんなに大きいのを――?
強く、出し入れされて――」
――私の股間の方へ、視線を固定させていた。
そんなに物欲しそうに見つめられると、興奮してしまう。
「あっあっあっあっあっ!――や、すご、いっ!
ボク、イっちゃうっ――もう、イっちゃ、うっ!」
「いいですよ、エレナさん。
私の貴女の中へ出しますからね」
「うん、うんっ!――あ、くぅっ!
出して、ボクの中に全部注いでっ!――あ、あぁぁ!」
誰かに見られてしまうかもしれない、という危機感がいつも以上にエレナさんを敏感にさせていた。
彼女の股間からは愛液がぽたぽたと滴り、地面にはちょっとした水たまりができている。
「あっ! ああっ! あっ! あっ!!」
絶頂が近いためか、だんだんと周囲を気にせず声を張り上げるエレナさん。
自分から腰を振り出し、快楽を貪り出す。
その動きに連動するかのように、彼女の膣はイチモツへと強く絡みついてくる。
ぬるぬるとした、しかし大きな締め付けに、私は一気に昂り――
「出しますよ、エレナさんっ――!」
「来てっ! クロダ君、来てっ!
ボク、一緒にイクからっ!
イクっ! あっ! イク――――っ!!」
私が射精したのと同時に、エレナさんの身体が硬直する。
絶頂は2人同時だった。
「はぁっ――はぁっ――はぁっ――」
ぐったりとして、肩で息をするエレナさん。
ずっと声を殺しながら性交していたため、いつもより消耗が激しかったようだ。
「……はぁ……ん、ぅ……はぁ……」
エレナさん程ではないものの、隣の女性も呼吸を乱していた。
よく見れば、股をもじもじとさせている。
――流石にこんなところで自慰をする気にはなれないのか。
「はぁっ――はぁっ――はぁっ――ん、あぅ!」
男根を引き抜くと、エレナさんの身体がビクっと動く。
膣口からは白い粘液がどろりと垂れて行った。
事が終わったので、私は手早く彼女の服装を整える。
「悪い悪い!
大分時間かかっちまったな!
ほら、注文の品、まとめといたぜ!!」
丁度良いタイミングで店員さんが戻ってきた。
彼はエレナさんの様子を見て驚き、
「うん、どうしたんだ、嬢ちゃん!?
気分でも悪いのか!?」
「ああ、すいません、彼女は周りの熱気にやられてしまったようで。
代わりに私がお支払いしましょう」
行為の余韻でまで動けないエレナさんに変わり、私が会計することにした。
お金を手渡すと、店員さんは頭を下げてくる。
「そうだったか!
すまんなぁ、長いこと待たせちまって!
あっちに休憩所があるから、休ませてやんな、兄ちゃん!」
「ええ、そうさせて頂きます」
商品を受け取ると、私はエレナさんを支えながらその場を後にした。
そして彼女の体調を気遣い、ゆっくりとした足取りで店員さんに教えられた休憩所を目指す。
休憩所といっても、椅子が数個置いてあるだけの場所だった。
その内の一つにエレナさんを座らせ、後の買い物は私が引き継ぐことにする。
「ごめんね、クロダ君。
一緒に買い物するはずだったのに、押し付けることになっちゃって。
うん、全部キミのせいなんだけど、一応ボクの方が謝ってあげるよ」
「――心遣い、感謝いたします」
ジト目の視線がチクチクと私を刺す。
まったくもってエレナさんの言う通りなので、反論の余地など一切ない。
私はエレナさんの指示が書かれたメモを片手に、急ぎ足で市場に戻った。
――と。
「……あの」
小声で話しかけられた。
振り向けば、先程私達をずっと覗いていた例の女性だ。
何故か顔を紅潮させ、吐息がどこか艶めかしかった。
「何の御用ですか?」
「…………」
私の質問には何も答えず。
女性は私に近寄ると、そっと私の股間へ手を逃してくる。
「…………」
そして、私の愚息をそっと撫でながら。
切なげに潤んだ瞳で、じっと見つめてくる。
私は――
「ぐちゃぐちゃに濡れているじゃないですか!
見ていただけでこんなに感じていたんですか!?」
「あっ! あっ! あっ! あっ!
だ、だってあんなところであんなに――あぁあんっ!
凄いっ! 凄いわっ! ああっ! あっ! ああぁあっ!」
「ご結婚されているんでしょう!?
旦那さんを放って、こんなことをしていて良いのですかね!?」
「しゅ、主人は最近相手してくれなくてっ!
あっあっあっあっあっあっ!
セックスなんて、ずっとご無沙汰でっ!!
あぁぁあああああっ!!!」
「だから私に声をかけたんですね!
どうですか、念願のイチモツを突き込まれた感想は!?」
「はあぁぁぁぁっ――固くて――逞しいのっ!
あぅっ! あぅっ! おっ! おっ! あぁああっ!!
そこっ! 奥、もっと抉ってぇ!!」
「いいですよっ!
思い切り気持ち良くさせてあげます!!」
「ああああ、そこっ そこなのぉっ!!
そこ、主人のじゃ届かないのぉ――!!」
帰り道。
すっかり暗くなってしまった。
「んんー、なんか随分と時間がかかったね?」
横を歩くエレナさんから、棘のある言葉が投げかけられる。
「い、いえ。
目当てのお店がまた混んでまして――ははは」
乾いた誤魔化し笑いをしてみる。
市場で会った女性を抱いていたので遅れました――とは私も言い出せなかった。
「ふーん、そうなのー?」
「そ、そうです、よ?」
「んー、じゃあそういうことにしといてあげる」
「どうもありがとうございます」
エレナさんが温情を下さった。
私は全身全霊を込めて頭を下げる。
「ん。でも、クロダ君もずるいよねー」
「はい?
ずるい、とは?」
「ほら、あの『特性』。
<変態のカリスマ>だっけ?
変態的な人が寄って来たり、そういう人達から好かれたりするっていう」
「せめて正式名称の<混沌のカリスマ>と呼んで下さいよ……」
“命名者”ですらその名前で呼んでくれないのだが。
「それ持ってるおかげで入れ食い状態なんでしょー?
世の男共が聞いたら怒り狂いそうだよね――って、そういう人達ともカリスマのおかげで仲良くなれちゃうのか」
「……えー、まあ、そういう見方もあるかもしれませんね」
よくよく考えると、酷い特性のようにも聞こえる。
とはいえ、私のレベルではそこまで凄い効力は発揮していない――はず。
「その特性を使って、これからも色んな女の子を食べていっちゃうんだねー。
んん、それを黙って見ていることしかできないボク――なんて健気な」
「そ、そんなことはない、と思う、のです、が」
しくしくと泣く仕草をするエレナさんに、たじたじになってしまう。
ただの“フリ”とはいえ、それでも男を戸惑わせるには十分すぎる程の威力。
「あー、そ、そうだ!
特性といえば、エレナさんはどんなを持っているのですか?
ミサキさんから聞いていません?」
「これまた露骨な話題転換だねー。
もう少し自然な感じにやってよ」
呆れた口調でエレナさん。
でも、話には乗ってくれるようで、
「んんー、ボクの特性は<秩序のカリスマ>だってミサキが言ってたよ」
「え?」
一瞬、言葉が詰まった。
「ほら、クロダ君とは反対に、紳士的で誠実な人に好かれるっていう効果の。
キミも知ってるんじゃなかったっけ?」
「ああ、はい、知ってはいます。
しかしそれ、ミサキさんの特性じゃなかったでしたっけ?」
「うん、ミサキもボクと同じ特性持ってるらしいねー。
ん、そういう共通点があるからボクと『交信』ができたんじゃないかって」
「な、なるほど」
色々と納得いった。
ミサキさんとの『交信』についてもだが、今までエレナさんに対して内心抱いていた疑問――“あれだけ周囲に色気を振り撒いているのに、何故周りの男は彼女に欲情しないのか”という疑問が解消されたのだ。
<秩序のカリスマ>によって、色気に惑わされない、紳士的な人物が彼女の周りに集まっていたからなのだろう。
そういえば、エレナさんを襲おうとした兄貴と三下も、最終的にはレイプを諦めていた。
これがカリスマによるものなのかどうかは判断に迷うところでもあるけれど。
「んー、まあ、ボクとミサキじゃ同じ特性でも効果が全然違うらしいけどねー」
「あの人のは、ちょっと凄すぎますからね」
私にしてもエレナさんにしても、カリスマの効果は基本的に特定の人達から好意を得やすくなるだけ。
対してミサキさんの場合、周囲の人達に強制的な心理変化まで引き起こす。
要するに、相対する人間が持つ変態性とか淫乱さとか、そういう“歪み”を問答無用で矯正してしまうのだ。
その上でさらに自分への好意――忠誠心と言い換えてもいい――を植え付ける。
まったくもって無茶苦茶な効果だ。
「ん、そんなどうでもいいことはもう置いておいて」
「ど、どうでもいいですか?
結構重要なことだった気がするのですが――」
「どうでもいいの!
重要なことは――」
エレナさんは私の後ろに回り込むと、背中から抱き着いてきた。
そのままおっぱいを私に押し付けてくる。
「んふふふふ、ボクを放置してくれた分、今夜はたっぷり可愛がってよね?」
「――ええ。
それはもちろん」
それに異を唱えるわけがない。
私は力強く頷く。
「んんー、楽しみにしてるよ♪
――て、あれ、もうクロダ君の家だ」
「おや」
話に夢中になって、家がすぐそこまで来ていることに気付かなかった。
今日はエレナさんと一晩一緒に過ごすのだし、自宅に到着したところでなんら不都合はないわけだが。
「とうとう来たようだね。
ボクの華麗な料理テクニックを披露するときが!」
「楽しみにしてますよ。
さて――」
玄関に着いたので、鍵を外してからドアを開ける。
すると、誰も居ないはずの家の中には光があり――
「誠ちゃーん、おかえりなさい♪
ご飯にする? お風呂にする? それとも、ア・タ――」
私はドアを閉めた。
第二十一話③へ続く
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