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第二十話 室坂陽葵の冒険
③! 産卵、そして
しおりを挟む「あ、あぁっ! ああ、あっ!!
おおっ!! おおおっ!! お、おおっ! おっ!!!!」
迷宮内に、陽葵さんの喘ぎ声が響いていた。
彼は今、地面に敷いたマットの上に仰向けに寝かされた状態で――卵を産んでいる。
「おっ! おおっ! おっ!
おおおぉおおおおっ! んおっ! おぅっ!!」
さらさらと流れる繊細な髪を振り乱し、人形のように整った美貌を歪ませて、陽葵さんは悶え喘いでいた。
“卵を産む”とは語弊のある言い方だっただろうか?
つまるところ、先程産み付けられた魔物の卵を排出しているわけだ。
私達3人が見ている前で、彼の尻穴から卵がぽこぽこと出ている。
ローラさんが処方した『下剤』の効果である。
「んおっ!! あ、あぁあああああっ!! あっ! あっ!」
陽葵さんの身体がビクッと震えると、男性器から精液が流れ出る。
今の彼は、まんぐり返しに近い姿勢で股を開かされているため、美しい丸みを帯びたお尻も、小さめな性器も、綺麗な桜色をした菊門も、全部丸見えなのだ。
ちなみに、陽葵さんがその体勢から崩れないように手と脚を固定しているのは、私とリアさんである。
どうもこの『産卵』、結構な快感を伴う行為のようで、卵を出し始めてから既に何度も陽葵さんは絶頂している。
イった後はしばし、ぐったりと倒れるのだが――
「…………んっ! おっ! おっ! おっ!」
――御覧のように、またすぐ嬌声を上げながら『産卵』を始める。
艶めかしくテカる彼の“穴”から、ぬめぬめとした卵がぬるっと滑り出てくる。
度重なる射精により陽葵さんのペニスはもう萎えているのだが、それでも――
「おっ! おっ! おっ! おっ! おぉおおおっ!!!」
――萎れたまま、精液を吐きだしている。
いや、もう出すべき精子も底をついたのか、精液には見えないほど透明な液体となっているが。
「あぁあああっ!! あっっ!! あぁああああああああっ!!!」
体中の穴という穴から液体を垂れ流し、だらしなく顔を蕩けさせ、陽葵さんは産卵を続ける。
女性であっても、こんな『出産』をした人などそういないだろう。
それを男の身で体験しているのだから――彼がどれ程に快楽中枢を刺激されているのか、余人には想像もできない。
「あぁああああああっ!!! いぃいいいいいいいいいいいっ!!!!」
また、陽葵さんの性器から“液”が出てきた。
美少女に見紛う程に――いや、絶世の美少女そのものである少年が、虫の卵を尻の穴から『出産』していくその姿は。
どうしようも無く非現実的な光景であり、それが故に見る者の欲情を掻き立てた。
「あっ!! あっ!! あっ!! あぁああああっ!!!」
――それにしても、随分と大量の卵を入れられたものである。
ちょっとした山になる程の量を、彼は既に尻から排出していた。
こうなると身体への負担が心配になるところだが、そこはローラさんがしっかりと看ているので安心である。
真剣な顔で陽葵さんの症状を観察しているローラさんには、たのもしさすら感じられる。
また、<次元迷宮>内で卵を除去することも彼女の提案だ。
魔物の卵は孵化までの時間が非常に短く、余り時間をおくと陽葵さんの体内で魔物が孵ってしまう危険がある、との判断である。
ローラさんを勧誘して正解であった。
私など、あられもない姿でイキ狂いながら卵を産む陽葵さんの姿に、今すぐ犯したい欲求を抑えるのに必死だというのに。
そんな私の内心はさておき、ローラさんがふと呟いた。
「……ヒナタさん、本当に男の子だったんですね」
「今更!?
今更ですか、ローラさん!?」
真面目な顔してナニ考えてたんだこの人!
私のつっこみに、ローラさんは手をぶんぶんと横に振りながら、
「い、いえ、彼が男性であることはちゃんと知ってたんですよ!?
でも――そう言われたところで簡単に納得できるものじゃないじゃないですか!
女の子にしか見えない顔とか、このもちもちとした綺麗な肌とか、エッチな感じがする丸いお尻とか!
どうなっちゃってるんです、この子!?」
「あー、確かにねー。
ヒナタが男である要素って、おちんちんだけよね、はっきり言って。
いくら魔王様の子供っていっても、ここまでそっくりな姿にならなくてもいいのに」
ローラさんの台詞に、うんうんと頷くリアさん。
まあ、それに関しては私も全面的に同意なのだが。
私達がそんな会話をしている内に、
「あっ! あっ! あっっ!!!!
…………はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
卵をひり出した陽葵さんが、荒く肩で呼吸しだす。
それを見たローラさんは陽葵さんの肢体を擦って、
「無事に全部出し終わったようですね」
そう宣言した。
確かに、卵はもう出る気配がないし、彼のお腹も膨れていない。
ローラさんは荷物袋から薬瓶を取り出すと、中の液体を自分の手に垂らした。
そして――その手を陽葵さんの穴に突っ込む。
「んおっ!?
おおっ! おお、おぉおおおおっ!!」
堪らず声を漏らす陽葵さん。
私は驚きてローラさんの顔を見た。
「ちょ、ローラさん!?
いったいナニを!?」
「はい?
直腸の消毒をしているだけですよ。
魔物の産卵管を挿入されたわけですからね、雑菌が入っている可能性が高いので」
「そ、そうでしたか」
医療的な理由だったようだ。
変態的な妄想をしてしまった自分が恥ずかしい。
ローラさんは説明しながら、陽葵さんの中に挿入した指をぐりぐりと動かしていく。
薬を『中』に塗っているのだろう。
「ああっあぁあああっ!!
う、あ、あ、あ、あ、ああぁああっ!!」
いくら治療行為とはいえ、直腸を刺激している以上、陽葵さんは思い切り感じてしまっているようだ。
しかし、そんな彼を見てもまるで動じることなくローラさんは施術を進める。
リアさんがほうっと感嘆の息を漏らした。
「凄いテキパキと処置するのね。
疑ってたわけじゃないんだけど、本当に凄腕の薬師だったんだ。
――でもこういう事態ってそうそう出くわすこと無いと思うんだけど、どこでこんな処置方法覚えたの?」
「……知りたいですか?」
「え?」
リアさんが固まった。
ローラさんが真顔で見つめ返してきたからだ。
「知りたいですか?」
「えっ?」
どうしたわけか。
同じやり取りを2人は繰り返した。
――気のせいか、ローラさんの瞳から光が消えているように見える。
「……ご、ごめんなさい、何でもないです」
“何か”を感じ取ったリアさんは、頭を下げて会話を打ち切った。
……それに対して一切反応せず、ローラさんは黙々と陽葵さんの治療を続ける。
新しい薬瓶を手に取ると、今度はその薬を彼に飲ませ始めた。
「ローラさん、それはなんですか?」
「これは特殊なハーブから作った精神安定効果のある飲み薬です。
卵を産み付けられたことで、身体へはもちろん、心にも大きな負担をかけられたことでしょう。
不本意に自分の体内へ別の命を宿し、それを強制的に外へ出されるといのは、相当に辛いものです。
それまでずっと大切にしてきた宝物を失った時の喪失感、或いは穢された時の屈辱感。
そんな感情が、止めどなく溢れてきます。
下手をすれば、心が壊れてしまうこともあるでしょう」
ローラさんは持っている薬瓶を私に見せるよう軽く振ってから、
「この薬は、陽葵さんの精神にかかるそういうストレスを和らげてくれます。
記憶を消すわけでは無いので多少のしこりは残るでしょうけれど、深刻な事態は避けられるはずです」
そう説明を締めくくった。
聞いていたリアさんが感心した様子で口を開く。
「へぇー、詳しいのね。
まるで体験したことがあるみたい」
「――――」
ローラさんの動きが止まった。
振り返り、感情の無い目でリアさんを見つめる。
「――――」
「………え」
彼女の変化に、リアさんは思わず口をつぐんだ。
「――――」
「………あの」
ローラさん、無感情に無言でリアさんを凝視。
プレッシャーに耐えられなくなったリアさんは、
「すみません、ホント、ごめんなさい。
本気で謝るんで、その目止めて下さい……」
またしても頭を下げるのであった。
……ちょっと今日のローラさん、地雷原が広すぎやしませんかね?
その後。
「はい、終わりました。
後はベッドでゆっくり休養を取れば快復するでしょう」
治療が完了したことを、ローラさんが告げた。
先程まで狂ったように嬌声を上げていた陽葵さんだが、今はすぅすぅと寝息を立ててぐっすり眠っている。
「お疲れ様でした、ローラさん。
では早速迷宮を脱出しましょう」
「そうね、そうしましょ」
私の提案に、高速でこくこくと頷くリアさん。
ローラさんからのプレッシャーが結構堪えているようだ。
私は『青の証』(これはミサキさんが作ったレプリカだが)を取り出すと、早速それを起動させ――
「おやおや、もう帰るでござるか?」
――声が聞こえた。
これは、まさか……!
「さあ、『青の証』を使いますよ。
リアさん、陽葵さんをしっかり抱えていて下さい」
『青の証』による脱出はアイテムから一定範囲内の人物を転送させるというもの。
大丈夫だとは思うが、効果範囲外に出ないよう注意を飛ばす。
「えっ!? ちょっと!? スルー!?」
――声はするが姿は見えず。
まあ見えないモノをいちいち気にしても仕方が無いだろう。
私は『青の証』のワープ機能を使用――
「あの、クロダさん?
あちらに、人がいるんですけれども――」
――使用する前に、ローラさんがきちんと指摘してしまった。
まったく彼女は人が良い。
そう言われると私もそちらの方を見ないわけにもいかず。
私達の背後にある人影をちらっと見てから、ローラさんに告げる。
「ああ、いますね。
しかし今は陽葵さんを休ませるのが先決ですし、無視しましょう」
「無視すんなでござるぁっ!!」
大分近くから怒鳴り声が響いた。
耳が少しキーンとする。
しょうがないので、ちゃんとそちらを向いて話をしてやった。
「五月蠅いですね。
なんなんですか、ガルムさん」
「反応が軽い!?
他の連中と対応が違い過ぎやせんか!?」
目の前にいるのは、白髪を逆立たせた見るからに野蛮そうな――もとい、精悍な顔つきの筋肉質な男が立っていた。
さっきから叫んでいたのはこいつである。
「クロダっ!
こ、この人って――!」
リアさんが目を見開く。
彼女であれば、この男が何者なのか知っていてもおかしくはないか。
「ええ。
この男は五勇者の一人――」
一拍間をおいて。
「――“気苦労”のガルムです」
「“鉤狼”のガルムでござるっ!!」
私の紹介に、リアさん、そしてローラさんがたじろいだ。
「“気苦労”のガルム――こいつが!?」
「他の勇者達の無茶ぶりをいつもフォローしていたという、あの!?」
「あれ、おかしいでござるな?
“気苦労”の方で通じちゃってるの?
“鉤狼”でござるよ?
拙者、“鉤狼”のガルムでござるよ?」
私達がせっかく驚いてあげているというのに、当の本人は首を傾げていた。
いったい何が不満だというのか。
「で、ガルムさん。
何しに来たんですか、貴方」
「うわ、この流れから普通に会話に入るでござるか!?
なんかもっとこう――あるでござろう!?
拙者の登場に戦慄したり、恐怖に顔を歪めたり!!」
何言ってるんだこの人。
「そ、そうですよ、クロダさん!
勇者ということは、この方は私達の敵ってことですよね!?
これって、かなり危機的な状況なのでは!?」
「ほらっ!! ほらっ!!
こちらの女史もそう言ってるでござる!!」
「――確かになんだか緊張感湧きませんけど」
「っ!?」
ローラさんは律儀に付き合ってあげている。
しかし私としては、”今更”ガルム相手に怖がってやる義理も無い。
「というかですね、ガルムさん。
なんで貴方このタイミングで出てくるんですか。
他の勇者とはもうとっくに出会っているんですよ?
“五勇者のお笑い枠”兼”『奴は五勇者の中で最も格下!』と言われる役”である貴方が満を持して最後に登場とかおかしいでしょう」
「何故そこまで扱き下ろされねばならぬ!?」
「じゃ、貴方勝てるんですか?
デュストやエゼルミアに勝てるんですか?」
「そ、そういう具体的な話を出すのは止めて貰おうか!!」
都合が悪くなったからか、無理やり話題を終わらせるガルム。
こいつは“いつも”こうだ。
「……なんだか、仲良さそうですね、クロダさんとガルムさん」
「はんっ! 何を言うかと思えば――
拙者がこのような愚鈍な男と友誼など結ぶとでも思ったでござるか!?」
ローラさんの発言をガルムが全力で否定してくる。
やれやれ。
「こういうこと言ってますけどね。
きついこと言った後は、少ししてから謝ってくるんですよ。
“あんなこと言ってごめんね”って」
「……そ、そういうこと言っちゃダメでござる」
おい、顔を赤らめて照れるな。
気持ち悪い。
「まあ、私はこいつのことが嫌いですが。
なんか獣臭いですし」
「セイイチ殿っ!!?」
ガルクが何やらショックを受けている。
しかし残念、こいつと私とでは絶対に相容れないのである。
そこへ、はっと思いついたような顔でリアさんが割り込んできた。
「そういやあんたって、ガルムとパーティー組んでたんだっけ?」
「ええ、そうですよ。
まあ、数か月程度ですけれど」
「それでこんなに親し気というか空気が緩いというか……
あの時は聞けなかったけど、結局あんたって何やってたわけ?」
「まあ、冒険者としてちょっとしたレクチャーを受けていたのですよ。
こちらの来て右も左も分からなかったですからね」
「へー。
でも、ガルムはどうして協力してくれたの?
敵同士でしょ?」
リアさんの疑問に、ガルムが一つ頷いてから説明しようとする。
「ああ、それは拙者がミサキ殿に頼まれたからで――」
「彼が勇者の中で一番弱いからですよ」
「――へ?」
それをすぐさま遮る私。
「どういうこと、クロダ?」
「この戦いにおいて、勇者達の目的は“自分が全ての龍を総取りすること”なわけです。
ミサキさんの代理である私との戦いなんて、彼らにとってみれば通過点もいいところ。
最終的には、自分以外の全ての勇者を倒さなければならない。
とすると、勇者の中で一番弱いガルムさんとしては、なるべく他の勇者達が戦いあって消耗してくれた方が都合がいい。
そこで私を鍛え、ある程度は他の勇者と戦えるように仕向けることで、つぶし合いを加速させようと、そういうことです」
「――え、え?」
戸惑うガルムは放っておく。
リアさんはガルムを見る目を険しくして、
「なるほどねー。
こすっからいこと考えてるんだ」
「ええ、器が小さい奴なんですよ」
彼女の言葉を肯定する私。
そんな私達を見て、ガルムは何かを諦めたような表情をして、ぼつりと呟いた。
「――本人の目の前でよくそこまで言えるでござるなとかそういう前に、そんな説明なぜすらすらと喋れるでござるか」
ちゃんと考えておいたので。
ただ、この説明にいまいち納得いかない様子の方もいた。
ローラさんだ。
「でもクロダさん。
正直なところ、ガルム様は余り悪い人に見えないのですけれど」
「見た目に騙されちゃダメよ、ローラ。
こいつ、“世界中の女を自分のモノにする”とかいう願いを叶えようとしてる奴なんだから」
どう返そうか悩む前に、リアさんが返事をした。
「――ええぇぇえええ」
ガルムが大きく口を開けているのは放置だ。
「おや?
リアさん、いつガルムさんの願望を知っていたのですか?」
「へ?
あ、うん、この前イネスに会った時聞いたんだけど。
違うの?」
なるほど、イネスさんから聞いたのか。
私はリアさんの投げかけに頷き、
「いえ、その通りです。
ですよね、ガルムさん?」
「――あ、え?
ま、まあ、はい、そうなんでござるけれども」
急に話を振られたガルムは、ぎこちなく首を縦に振る。
もっと自然に振る舞えないものか。
「そ、そんな!!
六龍様の力を使ってまでして、そんな低俗な願いを叶えようと!?」
「人が良さそうに振る舞っておいて、とんだ変態野郎ってわけね」
女性2人が軽蔑しきった視線をガルムに浴びせる。
それに対してガルムは、瞳に小さな涙粒を溜めながら、
「ふ、ふっふっふ。
会って数分でものの見事に拙者の評価は地に落ちたようでござるなぁ。
覚悟してはおったが、これ割と辛いわ……」
そんな呟きを零していた。
女々しい男である。
「それで、結局何の用だったんですか。
早く要件を言って下さいよ」
「散々弄っておいてその言いよう!?」
かっと目を見開くガルムだが、すぐに居住まいを正してから、おほんっと咳を一つ。
改まった様子で語り始めた。
「一つ、忠告をしようと思ってな」
「忠告、ですか?」
「うむ。
もう“時間がない”ことは十分承知しているでござろう?
イネス殿やエゼルミア殿はともかく、デュスト殿はすぐにでも“開戦”しようとしている。
となれば、一刻も早くヒナタ殿をケセドと面会させねばならぬはず。
だというのに未だこんなところで愚図愚図しているとは……
甘いとしか言えぬでござる」
「――む」
それを言われると、辛い。
こればかりはガルムの言う通りだった。
今の調子では、ケセドと会う前に勇者との戦いが始まってしまう。
ミサキさんの『召喚』が間に合わない。
「しかし、陽葵さんはもうこれ以上戦えません。
今日はここで撤退せざるを得ないかと」
「それが甘いというのでござる!
たかが一度魔物に倒された程度で弱音を吐くとは!
スキルやアイテムで治療を施せばまだ戦えるであろう――――ん?」
そこでガルム、何かに気付いたようで。
傍らに山盛りになっている、魔物の卵を指さしながら、聞いてくる。
「何でござるか、このけったいな代物は?」
「分かりませんか?
グレイブビートルの卵ですよ」
「何故そのような物が――しかも山のように大量に?」
「陽葵さんに産み付けられたんです。
これはそれを排出したものでして」
「何故こんなになるまで放っておいたっ!!?」
思い切り私に詰め寄るガルム。
ちょっと、顔が近い、近い。
筋肉が暑苦しい。
「『欲情の呪符』の効果で命の危険はありませんから」
「命の危険だけでなく人としての尊厳にも気を配るべきだと思うがどうか!!
前々から思っておったが、お主そういうところアバウト過ぎでは!?
そもそも拙者は、あのアイテムの使用自体に反対であったのだ!!」
「でもミサキさんも同じ意見でしたよ。
死ななければ問題ないだろうと」
「厳しいっ!!!
相変わらずミサキ殿は厳しいっ!!
死ななくともトラウマとかできちゃうでござろう!?
まだ汚れなき無き少年の心に消えない傷が残ってしまうでござろう!!?」
甘いと言ったり厳しいと言ったり、意見がコロコロ変わる男である。
「しっかり治療したので、その辺りは問題ありませんよ」
「ほ、本当に大丈夫なんでござるか、ヒナタ殿は!?
ちょっと様子を見させて――――誰この超絶美少女!!?」
陽葵さんの顔を見て、ガルムがまた大声を出した。
はっきり言って、五月蠅い。
「誰って、陽葵さんですよ」
「えっ!!? だってヒナタ殿はあの魔王殿の息子って―――――えっ!?
本気でこの少女がヒナタ殿なのでござるか!?
息子というのは虚偽であったか!!」
「いえ、男の子ですよ、陽葵さんは」
「これで少年なのぉっ!!?
魔王殿本人よりも美しくなかろうか!?
拙者が今まで出会った女性の中で、2番目に来るであろう美貌でござる!!」
2人の女性を前にしてその発言は失礼に当たるのでは。
まあ、陽葵さんがちょっと洒落では済まないレベルの美少女なのは肯定するところである。
私はこいつのように女性の美しさを順位付けするなんていう無粋な真似はしないけれど。
と、ガルムが突然冷静になった。
「――ひょっとして。
魔物に卵を産み付けられるまで手を出さなかったのは、セイイチ殿の性的願望を満たすためでは?」
「何を言ってるのかまるで理解できませんね」
自分の性癖を満足させるために陽葵さんを放置していただなんて、そんな酷いこと私がするわけないじゃないですか(建前)。
すぐにでも陽葵さんを助けたい気持ちを必死抑えて、見守っていたんですよ(建前)。
いずれ、ああいうプレイもしたいものだ(本音)。
「と、ともあれ。
そういうことであれば、すぐに帰ってヒナタ殿を休ませるがよろしかろう」
「言われずともそのつもりです。
まあ、助言は有難く受け取っておきます」
「うむ、心に留めておいて欲しいでござる」
中断していたワープ機能の行使を、再開しようとする私。
そこへ。
「あー。
ところで、セイイチ殿?」
「なんです?」
「……ミサキ殿は、壮健でござろうか?」
――――あ”?
「い、いや、これといって深い意味はないのでござるがな?
もうしばらく拙者も会っておらぬし、どう過ごしておるのか、お身体に障りはないか、気になってしまってな。
あとほら、拙者について何か言っておったりしないかとか?」
顔を赤くするな、お前。
殺すぞ。
「それを貴方に言う必要があるとは思えませんね。
そもそもミサキさんと貴方、敵対関係でしょう」
「いやいやいや、それはそうなのでござるがな、セイイチ殿。
やはり長く旅をしてきた仲間同士、気にかかってしまうというかなんというか」
「……ミサキさんは元気ですよ。
何も問題は無いです。
ではそういうことで」
「つれない反応!?
い、いや、お主とミサキ殿の関係を理解してはいるが、拙者の気持ちも少しは汲んでくれてもいいのでは!?
一緒に<次元迷宮>へ挑んだ仲でござろう!?」
理解しているのなら、アレコレ干渉して欲しくないんですがねぇ?
睨み付けるが、その程度では怯まないガルム。
実に面倒臭い。
「………………これはまさか」
私の耳に、ローラさんの声が聞こえる。
彼女は何か得心がいったような表情で、ガルムへ語り掛ける。
「大丈夫ですよ、ガルム様!
キョウヤ様はすこぶる健康でいらっしゃいます!
ガルム様のことを耳にしたことはまだありませんが――今度お会いした時、尋ねてみます!」
「おお、本当でござるか!?」
「ろ、ローラさん!?」
いきなりな彼女の豹変に、度肝を抜かれる私。
どうしたんだ!?
いったい彼女の心境に何の変化が!?
ローラさんは私を無視して、ガルムとの話を続ける。
「はい、お任せ下さい!
ガルム様がキョウヤ様への“協力”をしっかり成し遂げていたことも報告しますとも!」
「おおっ! おおっ!
恩に着るでござる!!
ローラ殿――で、よろしいか?」
「あ、私の名前は覚えて頂かなくて結構です」
「いきなり氷点下な反応!?
し、しかしそれはそれとして、よろしくお願いするでござる」
土下座せんばかりに頭を下げるガルム。
くっ、何故ローラさんはこんな奴に慈しみ深い対応を。
まさかこいつに絆されてしまっているのか……?
「…………ちょっと頼りない気もしますが、ひょっとしたら何かの手札になるかもしれません」
小声で何かを呟いているローラさん。
うーむ、彼女の行動理由が謎過ぎる。
「あのー、そろそろヒナタをちゃんとしたところで休ませたいんだけど。
まだ帰らないの?」
困った顔でリアさんが発言した。
言われてみればその通り。
脱出しようとしてから、大分時間が経ってしまった。
全部ガルムのせいだ。
「失礼しました。
すぐに準備します」
慌てて私は『青の証』のワープ機能を実行する。
程なくして、私達の目の前に外へと繋がる『ゲート』が現れた。
「さ、皆さん。
お入り下さい」
「うん。
よいしょっと」
私が促すと、まずリアさんが陽葵さんを抱えてゲートへ入っていった。
「失礼します」
ローラさんがガルムへ一礼してからワープしていく。
「さて、私も行くとしましょう。
ガルムさん、ではまた」
「うむ――ああ、しばし待たれよ」
「はい?」
ゲートを潜る直前、ガルムが呼び止めてきた。
「セイイチ殿」
「何でしょうか」
彼は難しい顔をして、語る。
「――ヒナタ殿を、諦めよ」
「…………」
その真剣な響きに、私は押し黙る。
「“当初の計画”に、かの少年の保護は組み込まれていなかったはず。
今やっていることは――言ってしまえば、セイイチ殿の我が儘に過ぎん」
「それは――」
「お主がその気になれば、すぐにでもケセドのもとへ少年を連れていけるでござろう。
さすればミサキ殿がこの世界に干渉できるようになり、デュストを始めとする他の勇者との戦いも遥かに容易になる」
……成程。
つまるところ、この男はこれが言いたかったわけか。
「陽葵さん“が”諦めるのであれば、私もそうしますよ」
「それでは遅い。
余りに、遅すぎるでござる。
そもそも、このままヒナタ殿を成長させたとして、龍の力に耐えられる保証はない」
それは、そうだ。
仮に陽葵さんが自力でケセドへ辿り着いても、あっけなく“壊れてしまう”かもしれない。
だが――
「龍の力に耐えられないと決まったわけでも無いでしょう」
「……殺されるぞ、デュストに」
ガルムの表情が渋くなる。
私は強い口調で彼へと言葉を告げる。
「ただで殺されてやるつもりはありません」
「何か考えがあるのでござるか?」
「……どうでしょうね」
肩を竦める私。
ガルムが大きく息を吐いた。
そして、私を真摯な眼差しで見つめてくる。
「――分かったでござる。
そうまでいうなら、信用することにしよう」
「ありがとうございます」
「ゆめ、忘れるな。
“世界を救う”のはミサキ殿であってはならない。
“お主がやらねばならぬ”のだ」
「――肝に銘じておきます」
「うむ」
右腕を差し出してくるガルム。
私はその手をがっしりと握る。
「死ぬなよ、友よ」
「貴方も。
これが最後の会話になる、なんてことがありませんように」
そう言葉を交わして。
私は、<次元迷宮>を後にした。
第二十話 完
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