57 / 119
第十八話 ジャン・フェルグソンの幸運な一日
①! 午前中のお話
しおりを挟む
■前日の夜
(――ああ、もう。
なんなんだよ、畜生)
ジャンは心の仲で毒づいた。
今彼が居るは『蒼い鱗亭』という名の宿屋。
ウィンガストでは珍しくない、宿と酒場が一体となって経営している店だ。
ジャンのパーティー、つまりジャン・コナー・エレナの3人が拠点としている宿でもある。
その蒼い鱗亭の食堂で、彼は3人の冒険者と共にテーブルを囲っていた。
一人は彼の仲間であるコナー。
もう2人は、別パーティーの女性冒険者――コナーの引き抜きを狙っている――マリーとシフォンである。
マリーは髪を長く伸ばした気が強そうな女性で、シフォンは肩程に切り揃えた髪を持つおっとりとした女の子だ。
「なに、あんた?
辛気臭い顔してさ。
ごはんがまずくなっちゃうんだけど」
「……どうしたの、ジャン?
……さっきからずっと変だよ」
マリーとコナーが話しかけてくる。
彼らの言う通り、食事が始まってからジャンはずっと不機嫌だった。
その原因は――
「この状況で不機嫌になるなって無理だってのっ!
分かって言ってんだろ、お前等っ!!」
ジャンは3人を順に指さしながら、叫ぶ。
指された彼らは顔を見合わせている。
ジャンの機嫌が悪い原因、それは席の並びにあった。
4人で丸いテーブルを囲っているのだが……自分以外の3人が、あからさまに席を近づけている。
コナーの両隣に、肩が触れる程接近してマリーとシフォンが座っているのだ。
対して、ジャンはコナーの対面……つまり、彼らから一番遠い場所に位置している。
――これ程の屈辱があろうか?
(……器小せえなぁ、俺)
何故こうなっているのかの理由もわかっている。
彼女らはコナーを勧誘しにきたのであって、ジャンには興味が無いのだ。
そういう諸々の事情を知っているからこそ、今まで不満を言い出さなかったわけだが――ぼちぼち我慢の限界であった。
だが、そんな彼の不平をぶつけられた当事者達は、実にあっけらかんとしていた。
「なに?
あんた、あたし達に隣に座って欲しいって?
なーんだ、興味無さそうなふりして、むっつりだねぇ」
「すみません、気が利きませんでしたぁ」
そう言って、マリーとシフォンの2人は、ジャンのすぐ近くに席を移動させた。
彼女達から漂う女性特有の甘い匂いが、ジャンの鼻をつく。
「これで文句ないんでしょ?」
「ご満足頂けましたかぁ?」
「ち、近いっ!
今度は近いって!!」
「なによ、遠いと文句言って、近づいてあげたらそれはそれで嫌なわけ?
だいたい、女の子が近づいたのならまずは喜びなさい!
ひょっとしてあんた、童貞?」
「ど、童貞違うわっ!!」
まあ、ジャンは童貞なわけだけれども。
そして童貞な彼には、マリーとシフォンの格好は刺激的に過ぎた。
長身でスレンダーなマリーは、タイトなパンツルックで格好良く衣装を纏めている。
服の上からでも身体の“形”が分かってしまうフィット感だ。
胸も尻も控えめだが形は良く、男の欲情を誘ってくる。
背は低いものの豊満な肢体を持つシフォンは、可愛らしいドレス姿。
可愛らしい意匠にも関わらず、胸元は大きく開いていた。
ちょっと覗き込めば、彼女の北半球が簡単にみえてしまう程に。
「……そう言いながらも、ジャンの目は彼女達の身体に釘付けなのだった」
「変なナレーションを入れるな、コナー!」
だがコナーの言う通り、ジャンはマリーとシフォンの肢体をついつい目で追ってしまっていた。
(仕方ないだろ、男の本能なんだからっ!!)
心で言い訳するジャンに、突如マリーがしなだれかかってくる。
「な、何すんだぁっ!?」
「ちょっと抱き着いただけでしょ?
あんたこそ何驚いてるの」
「いきなり抱き着かれたら驚くわぁっ!!」
「驚いてるわりに、あたしの胸元をジロジロ見てんのねぇ?
何? 見たいの? 見せてあげよっか?」
「う、うっさいっ!!
早く離れろっ!!」
「はいはい」
言われた通り、マリーはジャンから身体を離す。
(……そんな正直に離れなくても)
自分がそう言ったにもかかわらず、ジャンは一抹の寂しさを感じた。
なかなか正直になれない男である。
「……ジャンはいつもそうだよね。
……エレナにやられた時も、同じ反応だったし」
コナーがつっこみを入れる。
「エレナさんって、ジャンさんやコナーさんと同じパーティーの女性ですよねぇ。
今は他に男作ってデート中なんでしたっけ?」
「そういう言い方はやめろよ……」
この場に同じパーティーのエレナが居ないのはそういう理由だ。
今日は、恋人と一緒に食事をするとかで、今夜は宿に居ない。
(まさかエレナがクロダさんとくっつくとはなぁ)
そう独りごちる。
エレナが同じ冒険者のクロダと恋人同士になったと聞いたのは、つい最近のことだ。
前々からちょくちょく一緒に行動している様子はあったのだが、ジャンにとっては晴天の霹靂であった。
(まあ、クロダさんならエレナを泣かすような真似はしないだろう)
“妹”が盗られたような気分にもなったが、クロダは自分も認める冒険者である。
エレナを悲しませるような不誠実な男では決してない。
彼なら安心して“妹”を任せられる――ジャンはそう信じていた。
エレナのことに思いを馳せるジャンに、マリーが再び話しかけてきた。
「ていうかさ、そのエレナって子、あんたのパーティーから抜けるんでしょ?
だったらなおさらあたしらと組んじゃった方がいいんじゃない?」
「ま、まだ抜けると決まったわけじゃねぇよ!」
「幼馴染と恋人なら恋人の方を取るに決まってんでしょ?」
「……うっ」
ジャンとてその危惧を抱いていないわけでもなかった。
エレナが、これを契機に自分たちのパーティーから出て行くのではないかと。
クロダとて、自分の恋人が他の男と一緒にいるのを、快くは思わないだろう。
「もう、あんた達とあたし達でパーティー結成でいいんじゃないの?
ちょうど基本職業全部揃ってんだし」
「そ、それはそうだが……」
ジャンは<盗賊>、コナーは<僧侶>の派生職である<聖騎士>、マリーは<戦士>で、シフォンは<魔法使い>だ。
確かにバランスは取れている。
そもそも今日の“食事会”はそのことを話し合うために開かれてもいるのだ。
もっとも、ジャンがそれを承諾したわけでなく、マリーが勝手に押しかけて来たのだけれど。
ジャンも、マリーからの申し出を拒みたいわけではない。
ただ、まだエレナから正式に離脱の話を聞いていないと言うのに、そういう話を進めてしまうのは、彼女に対して悪い気がするのだ。
今まで姉弟同然に育ってきた幼馴染なのだ。
その辺のけじめはしっかりとつけておきたいと考えている。
だが、マリーは納得せず。
「煮え切らない男ねぇっ!
あたしは頼りないあんたでも我慢してあげるって言ってんのよ!?」
「た、頼りないとはなんだっ!」
「頼りないでしょうが!
あんた、コナーと比べて、ステータス全然低いじゃないの!」
「こ、これから伸びるんだよっ!!」
「どうだか?
レベルだってコナーの方が上だし!」
「――うぐっ」
痛いところを突かれて、ジャンは言葉に詰まる。
そこへ、
「……マリーさん、ストップ」
「言い過ぎですよぉ」
コナーとシフォンが、ヒートアップしてきたマリーを抑えた。
「別にすぐ結論を出さなくてもいいんじゃないですかぁ?
ジャンさんは、エレナさんとちゃんとお話してから、改めてパーティーの相談をしたいんですよねぇ?」
「……ジャンだって、マリーさんやシフォンさんと組むのが嫌なわけじゃないんだろう?」
「――ああ」
シフォンとコナーの言葉に、渋々と言った形で頷く。
「だったら、今は食事を楽しみましょうよぉ」
「……うん、せっかくの機会なんだからさ」
「そ、そうだな。
……すまん、大人げなかった」
2人の説得を受け、ジャンは頭を下げた。
「煽てられないと機嫌が直らないとか、子供か」
「なんだとコラァっ!!」
……すぐにマリーとの喧嘩が再発したりもしたが。
ともあれ、4人の夜はこうして更けていくのだった。
■朝
「起きなさぁい!!」
ジャンは、甲高い声で目を醒ました。
「なんなんだよっ!
耳元ででかい声出すなって!」
「なんなんだはこっちの台詞です!
なんであなた、こんなところで寝てるんですか!?」
「こんなところって――あれ」
ふと周りを見れば、ここは昨日囲っていたテーブル。
つまりここは自分の部屋でなく、店の食堂であった。
(……そういえば)
昨日はあのままアルコールを入れてしまい、夜更けまでのどんちゃん騒ぎに発展したのだ。
(俺はそのままここで寝ちまってたわけか)
状況を認識する。
そりゃ怒鳴られるのも無理はない。
「いや、悪かったよ、イルマ」
目の前の女の子――やかましい声で自分を起こした女の子に軽く謝った。
彼女はイルマ。
この蒼の鱗亭を営む夫婦の一人娘で、この店の看板娘でもある。
ジャン達がこの街に来てから、何かと世話になっていた。
イルマは、栗色の髪をストレートのおさげにした、かなり童顔な女の子だ。
実際年齢はジャンより下なので、なおさら幼く見える。
外見だけなら少女と呼んでも違和感がなかった。
(……まあ、でも出るとこは出てるけどな)
ジャンはチラっとイルマの身体へ目をやった。
少し野暮ったい感じの長いスカートにエプロンを纏った姿は、お世辞にもお洒落とはいい難いが。
胸部分の膨らみは、彼女が十分成長した女性なのだということを主張していた。
そんな不躾なジャンの視線に気付いているのかいないのか、イルマはジャンをジト目で睨みながら告げてくる。
「本当に反省してますー?
まあいいです、ともかくこれから掃除しますんで、そこをどいてください」
「はいはい……っとそういえば、会計は?」
「とっくにお仲間さんが払いおえてますよ!」
「ああ、そうだったのか。
あとでコナーに渡しておかないとな」
言いながら席を立ち、テーブルの片付けを始める。
「……なんです?
別にあたしがやりますから、ジャンは部屋帰ってていいんですよ?」
「流石にここまで散らかしたままじゃ悪いだろうが。
ほら、ここは俺がやっておくから、他の掃除しとけよ」
「――む、むむう、露骨な点数稼ぎときましたか。
ま、まあ、あたしを落とすにはまだまだポイントが足りませんけどね!」
「そんなんじゃねぇってば」
確かに外見は可愛いが、ちょっと顔が幼過ぎる。
ジャンの好みからは若干外れているような気がした。
……ここでイルマの顔が少し赤くなっていることにまるで気付かない辺りが、ジャンの童貞たる所以と言える。
(エレナといい、変わってる女が多いよなぁ、俺の周りって)
女の機微を察せない自分を棚に置いて、心でため息を吐く。
その後も何か言ってくるイルマを適当にいなし、ジャンはテーブルの片付けを終えた。
余力が残っていたので、他のテーブルの掃除もついでにしてしまったが。
「うん、完了だな」
「なんだかんだと手伝わせてしまいましたね」
「イルマには色々迷惑かけてるからな、別に気にすんな」
「――言われてみれば確かにそうです。
これくらいやって貰って当然ですか」
「……やっぱり少しは有難がれ」
すました顔の少女に一言吐き捨ててから、ジャンは部屋に戻った。
――いや、戻ろうとした。
(……今の、色っぽい声が聞こえたような)
宿の廊下を歩いていたジャンの耳に、女性の声――しかも喘ぎ声が聞こえてきたのである。
「…………あっ…………ああっ…………」
(確かに聞こえるっ!)
再度耳に入ってくる声に、ジャンは確信を深める。
(……急いでいるわけでも無いし)
きょろきょろ周りを見回し、挙動不審になりながらも声が聞こえてきた方向へ歩き出す。
いかに童貞とはいえ……いや、童貞だからこそ、ジャンは自分の欲望に逆らえなかった。
(確かこっちの方から――って!?)
かすかに聞こえてくる音を頼りに部屋を探すと、
「……コナーの部屋じゃん」
自分の相棒である、コナーが借りている部屋へと辿り着いてしまった。
(か、確認しねぇと)
ジャンは静かに扉へ忍び寄ると、耳を傾ける。
中からは――
「あっあっあっあっあっ!
あ、あぁぁあああああああっ!!」
――確かに、女性の声が聞こえた。
(マジかよ。
コナーのやつこんな朝から女を連れ込んで――)
……いや。
朝から、では無いのかもしれない。
ひょっとしたら、昨日の夜から。
自分がテーブルで寝込んでしまってから、こうしているのでは――
(……この声、マリーに似てる?)
事実を確認せねばなるまい。
ジャンは改めて周囲に人の気配がないことを確認すると、扉の鍵穴からそっと中を覗き込んだ。
(く、穴が小さくて見えづれぇ!)
それでもどうにか部屋の中を確認することができた。
中では裸になった男と女がベットの上で交わっている。
女が上になり、騎上位の姿勢となっていて――
(確かに、マリーだ……)
――その体勢故に、女性の確認は容易であった。
あの気の強いマリーが――昨夜はジャンを散々からかって遊んでいたマリーが、男の上であられもない姿を晒していた。
(き、綺麗な身体してやがんな……)
鍵穴からは、彼女の上半身もよく見えた。
服の上からでも想像できた通りマリーの胸は控えめで、しかし形の良いおっぱいをしていた。
「あっ! あっ! あっ! すごっ!
あ、あ、あ、あ、あああっ!! 激しいっ!!」
下から突き上げられる度にマリーは淫猥な喘ぎを漏らし、その胸を揺らしている。
顔はいやらしく蕩けており、この“行為”を彼女が心底悦んでいることが分かる。
(そうなんじゃないかと薄々思っちゃいたが……いざ現場を見ちまうとなんだか複雑な気分だ)
女性の裸を見れて嬉しさを感じる一方、見知った人物同士の濡れ場に対してどう反応すればいいか分からないという感情もある。
マリーは前々からコナーにモーションをかけていたのは知っていたので、受けた衝撃はそれ程でもないのだが。
(……ちょっと置いてけぼりにされた感もある)
この様子を見るに、これが初めての逢瀬というわけでもあるまい。
自分は未体験のお子様だというのに、コナーは何度もマリーと何度もセックスを重ね、大人の階段を駆け上がっていたわけか。
「あっ! あっ! ああっ! ほんと、凄いっ!
あんた、Eランクの癖に――あぁああっ!
ちんこは、こんなにおっきいなんてっ! あっあっあっあっああっ!
もっと! もっと突いてぇっ! あぁぁああああっ!!」
マリーが淫らに腰を動かし、さらなる責めを懇願している。
それに男の方が応えたのか、彼女の肢体が上下に大きく動かされ始めた。
「ああ、あぁぁああああっ!!
最高っ! あんた、最高よっ! ああっ! ああっ! あぁあああああんっ!!」
長い髪を振り乱し、快楽に耽っているマリー。
(……こ、コナーのちんこ、そんなにでかいのか!
あいつ、こんなに手慣れてやがんのか!)
マリーをいい様に弄んでいるコナーを見て、彼への劣等感を味わうジャン。
だというのに股間はこの痴情を見て反応してしまっている。
それがまた、さらに惨めな気分にさせた。
(……エレナとクロダさんもこういうことやってんのかな)
ふと、自分の妹分について考えてみる。
恋人同士なのだから、当然そういうこともしているかもしれないが――
(エレナは“耳年増”だし、クロダさんはなんか奥手っぽいからな。
案外、まだキスもしてなかったりして)
彼らについて、ちょっと失礼な想像をしてみたりもする。
そんな時、ジャンの耳がまた新たな音を察した。
(――足音!?)
廊下の向こうから誰かが歩いてくる。
ジャンは素早く、かつ静かに身を動かし、適当な物陰に身を隠す。
<盗賊>としての経験が、こんなところで活きてきた。
(あれは……シフォンか!)
寝間着姿のシフォンが――若干着崩れた衣服が実に艶めかしかった――そこに居た。
彼女はにこにこと笑いながら、コナーの部屋の前に立つ。
(おおいっ! まさか彼女もコナー狙いかよっ!)
一瞬、ジャンの胸の内で葛藤が起こる。
先程まで見ていた通り、今部屋の中では情事の真っ最中。
そこへ別の女性が入っていけば――どんなことが起こるか、想像できない程ジャンは初心ではなかった。
(友人としてフォローに回るか――?)
コナーを助けるのは簡単だ。
ここでシフォンに話しかけ、食堂にでも連れて行ってしばらく時間を稼いでやればいい。
しかし――
(……そこまでやってやるのも癪だな)
現在進行形で“いい思い”をしているコナーへの嫉妬が、友情に勝った。
ジャンは静かに事の進展を見守ることにする。
シフォンは軽くドアをノックすると、
「コナーさん、入りますよぉ」
扉をくぐっていった。
(って鍵かけてなかったのかよ、あいつ!!)
別のところに驚愕するジャン。
いくら何でも警戒心が足りなすぎるのではないだろうか。
(これは痛い目にあっても仕方ねぇよなぁ)
コナーの不備を責め、自分の行為を正当化する。
彼が胸中でそんなことを考えているうちにも、変化はあったようで。
「――ひっ!?」
中からシフォンの叫びが聞こえる。
続いて部屋が騒々しくなっていった。
(――ふっ。
コナー……グッドラック!)
心で軽くコナーへの祈りを捧げながら、これから起きるであろう修羅場に期待する。
……だが、事態はジャンの斜め上へと発展していった。
「ああっ! あっ! あああっ!
気持ち、いいですぅっ! あぁぁぁああああっ!!」
部屋から、シフォンの喘ぎ声まで聞こえてきたのだ。
(うそぉっ!?
3P!? 3Pなのか!?)
女の同士の戦いとか、2人になじられるコナーとかの図を予想していたジャンは、心底度肝を抜かれた。
(コナー……お前は、そこまで……)
親友の兵っぷりに、ジャンはがっくりと項垂れる。
彼の完敗だった。
拭いようもない敗北感を胸に、ジャンはとぼとぼとその場を後にした。
部屋に帰って一人で悶々とするのにも耐えられず、ジャンは結局食堂へと取って返していた。
「おや、どうしました、ジャン。
ずいぶんと暇そうですね」
「ほっとけ」
テーブルに座ってなんとなく時間を過ごしていると、イルマが話しかけてきた。
「そんなに暇なら、少しあたしの仕事を手伝ってくれませんか」
「さっき手伝ったじゃないか」
「またやってくれても罰はあたらないでしょう。
お礼に、昼をごちそうしてあげますから」
「……まあ、それなら」
今日は特に予定が入っていないので、手伝いをするのに吝かではなかった。
――正確には午後から冒険者ギルドでちょっとした雑用を命じられているのだが、ともかく、今は暇だった。
それに、宿で引きこもっているよりは外を出歩いた方が気晴らしにもなるだろう。
「良かったです。
それじゃあ、市場へ買い物してきてください。
勝って欲しい品はここにメモしてあります」
「わかったよ」
イルマから購入品リストが記入された紙を渡され、ジャンは宿を出発した。
■午前中
「相変わらず混んでんな、ここ」
愚痴を零しながら、ジャンは人並みをかき分けて行った。
ここはウィンガストの街唯一の市場。
街の内外から集まる様々な商品を求めて、毎日多くの人が集まる場所である。
(……にしたって集まりすぎだろ)
毒づくものの、それで混雑が解消されるわけでもない。
ほうほうの体で店を巡り、イルマに頼まれた材料を購入していく。
(昼を奢られるだけで引き受けたのは失敗だったかも)
後悔するが、それこそ後の祭りだ。
「あと1つ、頑張るかぁ……」
ぼやいてから、目的の店に向けて足を進める――のだが。
(多い!
人、多いぞ、ここ!!)
前に行きたくてもなかなか進めない。
どうも、市場でも特に混雑したエリアを抜けねばならないらしい。
(なんだってんだぁ!
つか、本当にこんなとこで商売とかできてんの!?)
気になって周囲を見渡す。
すると恐ろしいことにこんな人ごみの中、商品のやり取りをしているのが目に入った。
商売人の商魂逞しさを見せつけられた気分だ。
(――んん?)
それともう一つ、ジャンの目に飛び込んできたモノがあった。
(ひょっとしてアレ、尻触られてないか?)
人が密集する中でチラリと見えたのは、ある女性がどこぞから伸びた手に尻を触られている光景。
つまり、痴漢現場である。
(……確かに触られているように見える)
ジャンはどうにか行きかう人の流れに逆らいつつ、その“現場”に近づいていった。
(――やっぱり!
痴漢だ!!)
中年の男が、ちょうど彼の前にいる黒いドレスを着た女性の肢体を触っているのを、しっかりと捉えることができた。
しかもこの女性、凄い美人で――
(え、この人確か……ローラさん?)
ジャンも何度か面識のある人物だったのだ。
今痴漢されている女性は、マジックアイテムを専門で取り扱っている店の店主である、ローラという女性。
エレナの買い物に付き合わされて、ジャンも何度か店に足を運んだことがある。
いつも着ている特徴的な黒いドレス、柔らかく流れる長い黒髪、そして何よりあの美貌。
間違いようが無かった。
(マジか。
ローラさんが痴漢されてるとこに出くわすなんて)
すぐ助けるべきだが、人が多くてうまく身動き取れない。
それはローラも同じようで、この人の流れの中、痴漢を振りほどけないでいるようだ。
そうこうしている内にも、彼女の後ろに立つ中年の男は、ローラの肢体を好き放題触っていき――
「……んっ……あんっ……」
――彼女の口から、僅かに喘ぎが漏れた。
(うぉおおおお、色っぺぇええっ!!)
思わず目を見開いてしまう。
よく見れば、ローラの顔はほのかに上気していた。
男の手が動く度に小さく身を捩る様は、このうえなくエロチックで。
ジャンはローラの痴態から目が離せなくなった。
「……んんっ……ん、ふっ……あっ……」
聞こえてくるローラの嬌声。
彼女が抵抗しないのをいいことに、痴漢男はさらに大胆に肢体を弄り出した。
(こ、これ、ローラさんも感じてるってことだよな)
ローラの顔は嫌がっているというより、快感をなんとか我慢している――という風に見える。
ジャンがそう思い込んでいるだけかもしれないが。
「……ふぁっ……あぅっ……あ、あぁ……」
男の手がローラの胸にも伸びる。
おっぱいを触られだすと、彼女の全身がびくっと震えた。
「――ん、んんんっ――んんぅっ――んぁ、あぅぅ――」
人差し指を口で咥えて、ローラは身悶えしだした。
声が出てしまうのを、必死で堪えているようだ。
(感じてる!
彼女、感じてるぞ!?)
ローラに釘付けになるジャン。
彼の頭からは、もう痴漢からローラを助けるという選択肢はなくなっていた。
痴漢はさらに気を良くしたのか、今度はローラのスカートを捲りだした。
ジャンの目に、彼女の下着と、それに包まれた大きな尻が映し出される。
(うぉおおおっ!!
黒っ!! 黒の下着!! 尻っ! でかいっ! エロいっ!!)
ジャンの頭はパニックを起こしていた。
一方で男は無造作にローラの尻を鷲掴みにすると、下着の上から彼女の恥部を擦りだす。
「――あっ!――ん、んんっ!――あんっ!――」
ローラの喘ぎが大きくなる。
これまでは周りの雑音にかき消され気味であったが、今は明確に彼女の声が聞こえた。
(ば、バレるだろ、これ)
そんなジャンの心配をよそに、痴漢男はローラを責め続ける。
右手で彼女の胸を揉み、左手で股の間を弄り。
「――あ、あっ!――は、あぁぁ――んん、ああぁっ!――」
ローラの表情も変わっていった。
目を閉じ、口元を蕩けさせている。
男に触られるのを我慢しているというより、男の責めによる快楽を味わっている顔だ。
「――ああっ!――あぁあんっ!――あっあっ!――」
痴漢が手を激しく動かすと、ローラの嬌声はより顕著になる。
もう、いつ周囲に気付かれてもおかしくない程、彼女は喘いでいた。
(あわわわ……すげぇ、これすげぇ!)
ジャンは瞬きせず、ローラの肢体を――露わになったお尻や、揉み解されているおっぱいを目に焼き付けようとしていた。
痴漢男はというと、ラストスパートとばかりに、腕を、手を、指を、我武者羅に動かし彼女を責め立てる。
「――あっあっあっ!――ああっあああっ!――あ、あぁぁああああああっ!!」
一際大きい喘ぎ声をあげた後、ローラは力が抜けたように呆然とそこへ立ち尽くす。
彼女に痴漢していた中年男が後ろから支えてやらなければ、その場に倒れていたかもしれない。
(い、イっちゃったのか!
イっちゃったんだな!?)
彼女の痴態に、ジャンは色々なところを興奮させていた。
(で、でも、イっちゃったってことはここで終わりかな)
少し残念にも感じる。
ところが――それが、自分の浅はかな考えだったと気づくのにそう大した時間はかからなかった。
痴漢男がズボンを脱ぎ、自分の性器を取り出したからだ。
同時に、ローラの下着をずらしだしていた。
(うぇえええっ!?
おい、まさかまさか、ここでヤっちゃうのか!?
ダメだろうっ! いくらなんでもそれはダメだろうっ!!)
そう思いつつも、ジャンの身体は動かない。
一人の女性が犯されるのを阻止しなければ、という義憤より、その光景を見てみたいという欲望が彼を支配していたからだ。
「……あっ……ああっ……」
ローラの方も、男がナニをしようとしているのか気付いたのだろう。
身体を強張らせるが……しかし、彼女もまた動こうとしない。
(あ、ああ、ヤられる……ローラさんが、あんなおっさんに犯されちまう!)
痴漢のイチモツが、ローラの太ももに擦り付けられた。
男根はそのまま太ももを這いあがり、彼女の一番大切な場所へと近づいていく。
「……ひっ……あ、あぅ……」
もうすぐそこにまで男の剛直が来ているというのに。
それでも、ローラは何もできないでいた。
「……あ、ああ……ああ……」
とうとう、男性器がローラの膣口に到着した。
痴漢男はニヤリと顔を歪ませると、彼女の中に自身を埋めようとする。
……しかし。
「……や、止めて下さい!!」
ローラの大きな声が、その行動を遮った。
「――え?」
痴漢が、なんとも間抜けな顔をする。
まるで、“ローラがそうすることをまるで予測していなかった”ような顔だ。
「急にでかい声聞こえたぞ?」
「なんだなんだ?」
「どうした、何かあったのか?」
途端に周囲が騒めき出す。
そんな彼らに向かって、
「こ、この人、痴漢ですっ!
私を触ってきました!!」
ローラは自分を弄ってきた男を指さしながら、そう言い放った。
「「なにぃっ!?」」
途端にいきり立つ周囲の人々(特に男性)
次々と痴漢男へ殺到すると、あっという間に彼を取り囲んだ。
「ま、待て! 待ってくれ!
こんな、こんなはずじゃ――」
意味の分からない痴漢の弁解を聞き入れる者など存在せず。
「こんなべっぴんさんに手をだすたぁ、ふてぇ野郎だっ!」
「すぐ衛兵に突き出してやるからな、覚悟しろよ!」
「俺らが味わった苦しみをお前にも味合わせてやる!!!」
「二度と日の目が見れると思うんじゃねぇぞっ!!!」
「ひ、ひぃいいいいっ!!」
情けない声を上げながら、痴漢男は引っ立てられていった。
(バカな奴だなぁ。
あんなことすりゃ、こうなるのは目に見えていただろうに。
まさかローラさんが最後まで抵抗しないとでも考えてたのか?)
いくら何でもそれは世の中を甘く見過ぎである。
自分とて見ていただけだったことを横に置いて、ジャンは男達に引きずられていく中年へと憐れみの眼差しを向けた。
(……あとで、ローラさんとこで何か買っておくか。
せめてもの詫びに)
そう心に決めたところで、ジャンは買い物を完了させるべく、その場所を後にした。
第十八話②へ続く
(――ああ、もう。
なんなんだよ、畜生)
ジャンは心の仲で毒づいた。
今彼が居るは『蒼い鱗亭』という名の宿屋。
ウィンガストでは珍しくない、宿と酒場が一体となって経営している店だ。
ジャンのパーティー、つまりジャン・コナー・エレナの3人が拠点としている宿でもある。
その蒼い鱗亭の食堂で、彼は3人の冒険者と共にテーブルを囲っていた。
一人は彼の仲間であるコナー。
もう2人は、別パーティーの女性冒険者――コナーの引き抜きを狙っている――マリーとシフォンである。
マリーは髪を長く伸ばした気が強そうな女性で、シフォンは肩程に切り揃えた髪を持つおっとりとした女の子だ。
「なに、あんた?
辛気臭い顔してさ。
ごはんがまずくなっちゃうんだけど」
「……どうしたの、ジャン?
……さっきからずっと変だよ」
マリーとコナーが話しかけてくる。
彼らの言う通り、食事が始まってからジャンはずっと不機嫌だった。
その原因は――
「この状況で不機嫌になるなって無理だってのっ!
分かって言ってんだろ、お前等っ!!」
ジャンは3人を順に指さしながら、叫ぶ。
指された彼らは顔を見合わせている。
ジャンの機嫌が悪い原因、それは席の並びにあった。
4人で丸いテーブルを囲っているのだが……自分以外の3人が、あからさまに席を近づけている。
コナーの両隣に、肩が触れる程接近してマリーとシフォンが座っているのだ。
対して、ジャンはコナーの対面……つまり、彼らから一番遠い場所に位置している。
――これ程の屈辱があろうか?
(……器小せえなぁ、俺)
何故こうなっているのかの理由もわかっている。
彼女らはコナーを勧誘しにきたのであって、ジャンには興味が無いのだ。
そういう諸々の事情を知っているからこそ、今まで不満を言い出さなかったわけだが――ぼちぼち我慢の限界であった。
だが、そんな彼の不平をぶつけられた当事者達は、実にあっけらかんとしていた。
「なに?
あんた、あたし達に隣に座って欲しいって?
なーんだ、興味無さそうなふりして、むっつりだねぇ」
「すみません、気が利きませんでしたぁ」
そう言って、マリーとシフォンの2人は、ジャンのすぐ近くに席を移動させた。
彼女達から漂う女性特有の甘い匂いが、ジャンの鼻をつく。
「これで文句ないんでしょ?」
「ご満足頂けましたかぁ?」
「ち、近いっ!
今度は近いって!!」
「なによ、遠いと文句言って、近づいてあげたらそれはそれで嫌なわけ?
だいたい、女の子が近づいたのならまずは喜びなさい!
ひょっとしてあんた、童貞?」
「ど、童貞違うわっ!!」
まあ、ジャンは童貞なわけだけれども。
そして童貞な彼には、マリーとシフォンの格好は刺激的に過ぎた。
長身でスレンダーなマリーは、タイトなパンツルックで格好良く衣装を纏めている。
服の上からでも身体の“形”が分かってしまうフィット感だ。
胸も尻も控えめだが形は良く、男の欲情を誘ってくる。
背は低いものの豊満な肢体を持つシフォンは、可愛らしいドレス姿。
可愛らしい意匠にも関わらず、胸元は大きく開いていた。
ちょっと覗き込めば、彼女の北半球が簡単にみえてしまう程に。
「……そう言いながらも、ジャンの目は彼女達の身体に釘付けなのだった」
「変なナレーションを入れるな、コナー!」
だがコナーの言う通り、ジャンはマリーとシフォンの肢体をついつい目で追ってしまっていた。
(仕方ないだろ、男の本能なんだからっ!!)
心で言い訳するジャンに、突如マリーがしなだれかかってくる。
「な、何すんだぁっ!?」
「ちょっと抱き着いただけでしょ?
あんたこそ何驚いてるの」
「いきなり抱き着かれたら驚くわぁっ!!」
「驚いてるわりに、あたしの胸元をジロジロ見てんのねぇ?
何? 見たいの? 見せてあげよっか?」
「う、うっさいっ!!
早く離れろっ!!」
「はいはい」
言われた通り、マリーはジャンから身体を離す。
(……そんな正直に離れなくても)
自分がそう言ったにもかかわらず、ジャンは一抹の寂しさを感じた。
なかなか正直になれない男である。
「……ジャンはいつもそうだよね。
……エレナにやられた時も、同じ反応だったし」
コナーがつっこみを入れる。
「エレナさんって、ジャンさんやコナーさんと同じパーティーの女性ですよねぇ。
今は他に男作ってデート中なんでしたっけ?」
「そういう言い方はやめろよ……」
この場に同じパーティーのエレナが居ないのはそういう理由だ。
今日は、恋人と一緒に食事をするとかで、今夜は宿に居ない。
(まさかエレナがクロダさんとくっつくとはなぁ)
そう独りごちる。
エレナが同じ冒険者のクロダと恋人同士になったと聞いたのは、つい最近のことだ。
前々からちょくちょく一緒に行動している様子はあったのだが、ジャンにとっては晴天の霹靂であった。
(まあ、クロダさんならエレナを泣かすような真似はしないだろう)
“妹”が盗られたような気分にもなったが、クロダは自分も認める冒険者である。
エレナを悲しませるような不誠実な男では決してない。
彼なら安心して“妹”を任せられる――ジャンはそう信じていた。
エレナのことに思いを馳せるジャンに、マリーが再び話しかけてきた。
「ていうかさ、そのエレナって子、あんたのパーティーから抜けるんでしょ?
だったらなおさらあたしらと組んじゃった方がいいんじゃない?」
「ま、まだ抜けると決まったわけじゃねぇよ!」
「幼馴染と恋人なら恋人の方を取るに決まってんでしょ?」
「……うっ」
ジャンとてその危惧を抱いていないわけでもなかった。
エレナが、これを契機に自分たちのパーティーから出て行くのではないかと。
クロダとて、自分の恋人が他の男と一緒にいるのを、快くは思わないだろう。
「もう、あんた達とあたし達でパーティー結成でいいんじゃないの?
ちょうど基本職業全部揃ってんだし」
「そ、それはそうだが……」
ジャンは<盗賊>、コナーは<僧侶>の派生職である<聖騎士>、マリーは<戦士>で、シフォンは<魔法使い>だ。
確かにバランスは取れている。
そもそも今日の“食事会”はそのことを話し合うために開かれてもいるのだ。
もっとも、ジャンがそれを承諾したわけでなく、マリーが勝手に押しかけて来たのだけれど。
ジャンも、マリーからの申し出を拒みたいわけではない。
ただ、まだエレナから正式に離脱の話を聞いていないと言うのに、そういう話を進めてしまうのは、彼女に対して悪い気がするのだ。
今まで姉弟同然に育ってきた幼馴染なのだ。
その辺のけじめはしっかりとつけておきたいと考えている。
だが、マリーは納得せず。
「煮え切らない男ねぇっ!
あたしは頼りないあんたでも我慢してあげるって言ってんのよ!?」
「た、頼りないとはなんだっ!」
「頼りないでしょうが!
あんた、コナーと比べて、ステータス全然低いじゃないの!」
「こ、これから伸びるんだよっ!!」
「どうだか?
レベルだってコナーの方が上だし!」
「――うぐっ」
痛いところを突かれて、ジャンは言葉に詰まる。
そこへ、
「……マリーさん、ストップ」
「言い過ぎですよぉ」
コナーとシフォンが、ヒートアップしてきたマリーを抑えた。
「別にすぐ結論を出さなくてもいいんじゃないですかぁ?
ジャンさんは、エレナさんとちゃんとお話してから、改めてパーティーの相談をしたいんですよねぇ?」
「……ジャンだって、マリーさんやシフォンさんと組むのが嫌なわけじゃないんだろう?」
「――ああ」
シフォンとコナーの言葉に、渋々と言った形で頷く。
「だったら、今は食事を楽しみましょうよぉ」
「……うん、せっかくの機会なんだからさ」
「そ、そうだな。
……すまん、大人げなかった」
2人の説得を受け、ジャンは頭を下げた。
「煽てられないと機嫌が直らないとか、子供か」
「なんだとコラァっ!!」
……すぐにマリーとの喧嘩が再発したりもしたが。
ともあれ、4人の夜はこうして更けていくのだった。
■朝
「起きなさぁい!!」
ジャンは、甲高い声で目を醒ました。
「なんなんだよっ!
耳元ででかい声出すなって!」
「なんなんだはこっちの台詞です!
なんであなた、こんなところで寝てるんですか!?」
「こんなところって――あれ」
ふと周りを見れば、ここは昨日囲っていたテーブル。
つまりここは自分の部屋でなく、店の食堂であった。
(……そういえば)
昨日はあのままアルコールを入れてしまい、夜更けまでのどんちゃん騒ぎに発展したのだ。
(俺はそのままここで寝ちまってたわけか)
状況を認識する。
そりゃ怒鳴られるのも無理はない。
「いや、悪かったよ、イルマ」
目の前の女の子――やかましい声で自分を起こした女の子に軽く謝った。
彼女はイルマ。
この蒼の鱗亭を営む夫婦の一人娘で、この店の看板娘でもある。
ジャン達がこの街に来てから、何かと世話になっていた。
イルマは、栗色の髪をストレートのおさげにした、かなり童顔な女の子だ。
実際年齢はジャンより下なので、なおさら幼く見える。
外見だけなら少女と呼んでも違和感がなかった。
(……まあ、でも出るとこは出てるけどな)
ジャンはチラっとイルマの身体へ目をやった。
少し野暮ったい感じの長いスカートにエプロンを纏った姿は、お世辞にもお洒落とはいい難いが。
胸部分の膨らみは、彼女が十分成長した女性なのだということを主張していた。
そんな不躾なジャンの視線に気付いているのかいないのか、イルマはジャンをジト目で睨みながら告げてくる。
「本当に反省してますー?
まあいいです、ともかくこれから掃除しますんで、そこをどいてください」
「はいはい……っとそういえば、会計は?」
「とっくにお仲間さんが払いおえてますよ!」
「ああ、そうだったのか。
あとでコナーに渡しておかないとな」
言いながら席を立ち、テーブルの片付けを始める。
「……なんです?
別にあたしがやりますから、ジャンは部屋帰ってていいんですよ?」
「流石にここまで散らかしたままじゃ悪いだろうが。
ほら、ここは俺がやっておくから、他の掃除しとけよ」
「――む、むむう、露骨な点数稼ぎときましたか。
ま、まあ、あたしを落とすにはまだまだポイントが足りませんけどね!」
「そんなんじゃねぇってば」
確かに外見は可愛いが、ちょっと顔が幼過ぎる。
ジャンの好みからは若干外れているような気がした。
……ここでイルマの顔が少し赤くなっていることにまるで気付かない辺りが、ジャンの童貞たる所以と言える。
(エレナといい、変わってる女が多いよなぁ、俺の周りって)
女の機微を察せない自分を棚に置いて、心でため息を吐く。
その後も何か言ってくるイルマを適当にいなし、ジャンはテーブルの片付けを終えた。
余力が残っていたので、他のテーブルの掃除もついでにしてしまったが。
「うん、完了だな」
「なんだかんだと手伝わせてしまいましたね」
「イルマには色々迷惑かけてるからな、別に気にすんな」
「――言われてみれば確かにそうです。
これくらいやって貰って当然ですか」
「……やっぱり少しは有難がれ」
すました顔の少女に一言吐き捨ててから、ジャンは部屋に戻った。
――いや、戻ろうとした。
(……今の、色っぽい声が聞こえたような)
宿の廊下を歩いていたジャンの耳に、女性の声――しかも喘ぎ声が聞こえてきたのである。
「…………あっ…………ああっ…………」
(確かに聞こえるっ!)
再度耳に入ってくる声に、ジャンは確信を深める。
(……急いでいるわけでも無いし)
きょろきょろ周りを見回し、挙動不審になりながらも声が聞こえてきた方向へ歩き出す。
いかに童貞とはいえ……いや、童貞だからこそ、ジャンは自分の欲望に逆らえなかった。
(確かこっちの方から――って!?)
かすかに聞こえてくる音を頼りに部屋を探すと、
「……コナーの部屋じゃん」
自分の相棒である、コナーが借りている部屋へと辿り着いてしまった。
(か、確認しねぇと)
ジャンは静かに扉へ忍び寄ると、耳を傾ける。
中からは――
「あっあっあっあっあっ!
あ、あぁぁあああああああっ!!」
――確かに、女性の声が聞こえた。
(マジかよ。
コナーのやつこんな朝から女を連れ込んで――)
……いや。
朝から、では無いのかもしれない。
ひょっとしたら、昨日の夜から。
自分がテーブルで寝込んでしまってから、こうしているのでは――
(……この声、マリーに似てる?)
事実を確認せねばなるまい。
ジャンは改めて周囲に人の気配がないことを確認すると、扉の鍵穴からそっと中を覗き込んだ。
(く、穴が小さくて見えづれぇ!)
それでもどうにか部屋の中を確認することができた。
中では裸になった男と女がベットの上で交わっている。
女が上になり、騎上位の姿勢となっていて――
(確かに、マリーだ……)
――その体勢故に、女性の確認は容易であった。
あの気の強いマリーが――昨夜はジャンを散々からかって遊んでいたマリーが、男の上であられもない姿を晒していた。
(き、綺麗な身体してやがんな……)
鍵穴からは、彼女の上半身もよく見えた。
服の上からでも想像できた通りマリーの胸は控えめで、しかし形の良いおっぱいをしていた。
「あっ! あっ! あっ! すごっ!
あ、あ、あ、あ、あああっ!! 激しいっ!!」
下から突き上げられる度にマリーは淫猥な喘ぎを漏らし、その胸を揺らしている。
顔はいやらしく蕩けており、この“行為”を彼女が心底悦んでいることが分かる。
(そうなんじゃないかと薄々思っちゃいたが……いざ現場を見ちまうとなんだか複雑な気分だ)
女性の裸を見れて嬉しさを感じる一方、見知った人物同士の濡れ場に対してどう反応すればいいか分からないという感情もある。
マリーは前々からコナーにモーションをかけていたのは知っていたので、受けた衝撃はそれ程でもないのだが。
(……ちょっと置いてけぼりにされた感もある)
この様子を見るに、これが初めての逢瀬というわけでもあるまい。
自分は未体験のお子様だというのに、コナーは何度もマリーと何度もセックスを重ね、大人の階段を駆け上がっていたわけか。
「あっ! あっ! ああっ! ほんと、凄いっ!
あんた、Eランクの癖に――あぁああっ!
ちんこは、こんなにおっきいなんてっ! あっあっあっあっああっ!
もっと! もっと突いてぇっ! あぁぁああああっ!!」
マリーが淫らに腰を動かし、さらなる責めを懇願している。
それに男の方が応えたのか、彼女の肢体が上下に大きく動かされ始めた。
「ああ、あぁぁああああっ!!
最高っ! あんた、最高よっ! ああっ! ああっ! あぁあああああんっ!!」
長い髪を振り乱し、快楽に耽っているマリー。
(……こ、コナーのちんこ、そんなにでかいのか!
あいつ、こんなに手慣れてやがんのか!)
マリーをいい様に弄んでいるコナーを見て、彼への劣等感を味わうジャン。
だというのに股間はこの痴情を見て反応してしまっている。
それがまた、さらに惨めな気分にさせた。
(……エレナとクロダさんもこういうことやってんのかな)
ふと、自分の妹分について考えてみる。
恋人同士なのだから、当然そういうこともしているかもしれないが――
(エレナは“耳年増”だし、クロダさんはなんか奥手っぽいからな。
案外、まだキスもしてなかったりして)
彼らについて、ちょっと失礼な想像をしてみたりもする。
そんな時、ジャンの耳がまた新たな音を察した。
(――足音!?)
廊下の向こうから誰かが歩いてくる。
ジャンは素早く、かつ静かに身を動かし、適当な物陰に身を隠す。
<盗賊>としての経験が、こんなところで活きてきた。
(あれは……シフォンか!)
寝間着姿のシフォンが――若干着崩れた衣服が実に艶めかしかった――そこに居た。
彼女はにこにこと笑いながら、コナーの部屋の前に立つ。
(おおいっ! まさか彼女もコナー狙いかよっ!)
一瞬、ジャンの胸の内で葛藤が起こる。
先程まで見ていた通り、今部屋の中では情事の真っ最中。
そこへ別の女性が入っていけば――どんなことが起こるか、想像できない程ジャンは初心ではなかった。
(友人としてフォローに回るか――?)
コナーを助けるのは簡単だ。
ここでシフォンに話しかけ、食堂にでも連れて行ってしばらく時間を稼いでやればいい。
しかし――
(……そこまでやってやるのも癪だな)
現在進行形で“いい思い”をしているコナーへの嫉妬が、友情に勝った。
ジャンは静かに事の進展を見守ることにする。
シフォンは軽くドアをノックすると、
「コナーさん、入りますよぉ」
扉をくぐっていった。
(って鍵かけてなかったのかよ、あいつ!!)
別のところに驚愕するジャン。
いくら何でも警戒心が足りなすぎるのではないだろうか。
(これは痛い目にあっても仕方ねぇよなぁ)
コナーの不備を責め、自分の行為を正当化する。
彼が胸中でそんなことを考えているうちにも、変化はあったようで。
「――ひっ!?」
中からシフォンの叫びが聞こえる。
続いて部屋が騒々しくなっていった。
(――ふっ。
コナー……グッドラック!)
心で軽くコナーへの祈りを捧げながら、これから起きるであろう修羅場に期待する。
……だが、事態はジャンの斜め上へと発展していった。
「ああっ! あっ! あああっ!
気持ち、いいですぅっ! あぁぁぁああああっ!!」
部屋から、シフォンの喘ぎ声まで聞こえてきたのだ。
(うそぉっ!?
3P!? 3Pなのか!?)
女の同士の戦いとか、2人になじられるコナーとかの図を予想していたジャンは、心底度肝を抜かれた。
(コナー……お前は、そこまで……)
親友の兵っぷりに、ジャンはがっくりと項垂れる。
彼の完敗だった。
拭いようもない敗北感を胸に、ジャンはとぼとぼとその場を後にした。
部屋に帰って一人で悶々とするのにも耐えられず、ジャンは結局食堂へと取って返していた。
「おや、どうしました、ジャン。
ずいぶんと暇そうですね」
「ほっとけ」
テーブルに座ってなんとなく時間を過ごしていると、イルマが話しかけてきた。
「そんなに暇なら、少しあたしの仕事を手伝ってくれませんか」
「さっき手伝ったじゃないか」
「またやってくれても罰はあたらないでしょう。
お礼に、昼をごちそうしてあげますから」
「……まあ、それなら」
今日は特に予定が入っていないので、手伝いをするのに吝かではなかった。
――正確には午後から冒険者ギルドでちょっとした雑用を命じられているのだが、ともかく、今は暇だった。
それに、宿で引きこもっているよりは外を出歩いた方が気晴らしにもなるだろう。
「良かったです。
それじゃあ、市場へ買い物してきてください。
勝って欲しい品はここにメモしてあります」
「わかったよ」
イルマから購入品リストが記入された紙を渡され、ジャンは宿を出発した。
■午前中
「相変わらず混んでんな、ここ」
愚痴を零しながら、ジャンは人並みをかき分けて行った。
ここはウィンガストの街唯一の市場。
街の内外から集まる様々な商品を求めて、毎日多くの人が集まる場所である。
(……にしたって集まりすぎだろ)
毒づくものの、それで混雑が解消されるわけでもない。
ほうほうの体で店を巡り、イルマに頼まれた材料を購入していく。
(昼を奢られるだけで引き受けたのは失敗だったかも)
後悔するが、それこそ後の祭りだ。
「あと1つ、頑張るかぁ……」
ぼやいてから、目的の店に向けて足を進める――のだが。
(多い!
人、多いぞ、ここ!!)
前に行きたくてもなかなか進めない。
どうも、市場でも特に混雑したエリアを抜けねばならないらしい。
(なんだってんだぁ!
つか、本当にこんなとこで商売とかできてんの!?)
気になって周囲を見渡す。
すると恐ろしいことにこんな人ごみの中、商品のやり取りをしているのが目に入った。
商売人の商魂逞しさを見せつけられた気分だ。
(――んん?)
それともう一つ、ジャンの目に飛び込んできたモノがあった。
(ひょっとしてアレ、尻触られてないか?)
人が密集する中でチラリと見えたのは、ある女性がどこぞから伸びた手に尻を触られている光景。
つまり、痴漢現場である。
(……確かに触られているように見える)
ジャンはどうにか行きかう人の流れに逆らいつつ、その“現場”に近づいていった。
(――やっぱり!
痴漢だ!!)
中年の男が、ちょうど彼の前にいる黒いドレスを着た女性の肢体を触っているのを、しっかりと捉えることができた。
しかもこの女性、凄い美人で――
(え、この人確か……ローラさん?)
ジャンも何度か面識のある人物だったのだ。
今痴漢されている女性は、マジックアイテムを専門で取り扱っている店の店主である、ローラという女性。
エレナの買い物に付き合わされて、ジャンも何度か店に足を運んだことがある。
いつも着ている特徴的な黒いドレス、柔らかく流れる長い黒髪、そして何よりあの美貌。
間違いようが無かった。
(マジか。
ローラさんが痴漢されてるとこに出くわすなんて)
すぐ助けるべきだが、人が多くてうまく身動き取れない。
それはローラも同じようで、この人の流れの中、痴漢を振りほどけないでいるようだ。
そうこうしている内にも、彼女の後ろに立つ中年の男は、ローラの肢体を好き放題触っていき――
「……んっ……あんっ……」
――彼女の口から、僅かに喘ぎが漏れた。
(うぉおおおお、色っぺぇええっ!!)
思わず目を見開いてしまう。
よく見れば、ローラの顔はほのかに上気していた。
男の手が動く度に小さく身を捩る様は、このうえなくエロチックで。
ジャンはローラの痴態から目が離せなくなった。
「……んんっ……ん、ふっ……あっ……」
聞こえてくるローラの嬌声。
彼女が抵抗しないのをいいことに、痴漢男はさらに大胆に肢体を弄り出した。
(こ、これ、ローラさんも感じてるってことだよな)
ローラの顔は嫌がっているというより、快感をなんとか我慢している――という風に見える。
ジャンがそう思い込んでいるだけかもしれないが。
「……ふぁっ……あぅっ……あ、あぁ……」
男の手がローラの胸にも伸びる。
おっぱいを触られだすと、彼女の全身がびくっと震えた。
「――ん、んんんっ――んんぅっ――んぁ、あぅぅ――」
人差し指を口で咥えて、ローラは身悶えしだした。
声が出てしまうのを、必死で堪えているようだ。
(感じてる!
彼女、感じてるぞ!?)
ローラに釘付けになるジャン。
彼の頭からは、もう痴漢からローラを助けるという選択肢はなくなっていた。
痴漢はさらに気を良くしたのか、今度はローラのスカートを捲りだした。
ジャンの目に、彼女の下着と、それに包まれた大きな尻が映し出される。
(うぉおおおっ!!
黒っ!! 黒の下着!! 尻っ! でかいっ! エロいっ!!)
ジャンの頭はパニックを起こしていた。
一方で男は無造作にローラの尻を鷲掴みにすると、下着の上から彼女の恥部を擦りだす。
「――あっ!――ん、んんっ!――あんっ!――」
ローラの喘ぎが大きくなる。
これまでは周りの雑音にかき消され気味であったが、今は明確に彼女の声が聞こえた。
(ば、バレるだろ、これ)
そんなジャンの心配をよそに、痴漢男はローラを責め続ける。
右手で彼女の胸を揉み、左手で股の間を弄り。
「――あ、あっ!――は、あぁぁ――んん、ああぁっ!――」
ローラの表情も変わっていった。
目を閉じ、口元を蕩けさせている。
男に触られるのを我慢しているというより、男の責めによる快楽を味わっている顔だ。
「――ああっ!――あぁあんっ!――あっあっ!――」
痴漢が手を激しく動かすと、ローラの嬌声はより顕著になる。
もう、いつ周囲に気付かれてもおかしくない程、彼女は喘いでいた。
(あわわわ……すげぇ、これすげぇ!)
ジャンは瞬きせず、ローラの肢体を――露わになったお尻や、揉み解されているおっぱいを目に焼き付けようとしていた。
痴漢男はというと、ラストスパートとばかりに、腕を、手を、指を、我武者羅に動かし彼女を責め立てる。
「――あっあっあっ!――ああっあああっ!――あ、あぁぁああああああっ!!」
一際大きい喘ぎ声をあげた後、ローラは力が抜けたように呆然とそこへ立ち尽くす。
彼女に痴漢していた中年男が後ろから支えてやらなければ、その場に倒れていたかもしれない。
(い、イっちゃったのか!
イっちゃったんだな!?)
彼女の痴態に、ジャンは色々なところを興奮させていた。
(で、でも、イっちゃったってことはここで終わりかな)
少し残念にも感じる。
ところが――それが、自分の浅はかな考えだったと気づくのにそう大した時間はかからなかった。
痴漢男がズボンを脱ぎ、自分の性器を取り出したからだ。
同時に、ローラの下着をずらしだしていた。
(うぇえええっ!?
おい、まさかまさか、ここでヤっちゃうのか!?
ダメだろうっ! いくらなんでもそれはダメだろうっ!!)
そう思いつつも、ジャンの身体は動かない。
一人の女性が犯されるのを阻止しなければ、という義憤より、その光景を見てみたいという欲望が彼を支配していたからだ。
「……あっ……ああっ……」
ローラの方も、男がナニをしようとしているのか気付いたのだろう。
身体を強張らせるが……しかし、彼女もまた動こうとしない。
(あ、ああ、ヤられる……ローラさんが、あんなおっさんに犯されちまう!)
痴漢のイチモツが、ローラの太ももに擦り付けられた。
男根はそのまま太ももを這いあがり、彼女の一番大切な場所へと近づいていく。
「……ひっ……あ、あぅ……」
もうすぐそこにまで男の剛直が来ているというのに。
それでも、ローラは何もできないでいた。
「……あ、ああ……ああ……」
とうとう、男性器がローラの膣口に到着した。
痴漢男はニヤリと顔を歪ませると、彼女の中に自身を埋めようとする。
……しかし。
「……や、止めて下さい!!」
ローラの大きな声が、その行動を遮った。
「――え?」
痴漢が、なんとも間抜けな顔をする。
まるで、“ローラがそうすることをまるで予測していなかった”ような顔だ。
「急にでかい声聞こえたぞ?」
「なんだなんだ?」
「どうした、何かあったのか?」
途端に周囲が騒めき出す。
そんな彼らに向かって、
「こ、この人、痴漢ですっ!
私を触ってきました!!」
ローラは自分を弄ってきた男を指さしながら、そう言い放った。
「「なにぃっ!?」」
途端にいきり立つ周囲の人々(特に男性)
次々と痴漢男へ殺到すると、あっという間に彼を取り囲んだ。
「ま、待て! 待ってくれ!
こんな、こんなはずじゃ――」
意味の分からない痴漢の弁解を聞き入れる者など存在せず。
「こんなべっぴんさんに手をだすたぁ、ふてぇ野郎だっ!」
「すぐ衛兵に突き出してやるからな、覚悟しろよ!」
「俺らが味わった苦しみをお前にも味合わせてやる!!!」
「二度と日の目が見れると思うんじゃねぇぞっ!!!」
「ひ、ひぃいいいいっ!!」
情けない声を上げながら、痴漢男は引っ立てられていった。
(バカな奴だなぁ。
あんなことすりゃ、こうなるのは目に見えていただろうに。
まさかローラさんが最後まで抵抗しないとでも考えてたのか?)
いくら何でもそれは世の中を甘く見過ぎである。
自分とて見ていただけだったことを横に置いて、ジャンは男達に引きずられていく中年へと憐れみの眼差しを向けた。
(……あとで、ローラさんとこで何か買っておくか。
せめてもの詫びに)
そう心に決めたところで、ジャンは買い物を完了させるべく、その場所を後にした。
第十八話②へ続く
0
お気に入りに追加
3,406
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる