社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

文字の大きさ
上 下
52 / 119
第十六話 キョウヤ VS ローラ

①! ミサキさんの詰問

しおりを挟む



 朝、陽葵さんとリアさんの3人一緒に楽しんでから――今はお昼。

「――と、まあ、こういうような計画となっております」

 私はウィンガストの通りを歩きながら、隣にいるエレナさんに話しかけた。

「……ふん、まあいいだろう。
 思ったよりは穴が少ない」

 エレナさんは低い声で答える。
 ……まあ、エレナさんというより『ミサキさんinエレナさん』なわけだけれども。

 ちなみにミサキさんの装いは、黒を基調としたジャケットを羽織ったパンツルック。
 エレナさんがいつも着ている服装とは大分異なる、格好良い組み合わせだが……なぜミサキさんはこの姿を?

「……どうした、誠一?」

 私が疑問に思っていると、それを察したようにエレナさんが尋ねてきた。

「いえ、今日の装いはいつもと違うなと思いまして」

「“どっかの誰かさん”が大量の服をエレナに買ってやったらしくてな。
 その中から私好みの服を選んだまでだ」

「……あー、そうでしたか」

 何か含みを持った口調のミサキさんに、私は少し気圧されてしまう。

「ま、まあともかく。
 この形で実行するという方向でよろしいでしょうか?」

 なんだか話題を切り替えた方がいい気がしたので、私は強引に話の流れを元に戻す。

「…………ふむ」

 ミサキさんが考え込んでいる。
 私の提案を吟味しているのだろう。

 話の内容とは、陽葵さんの緊急脱出を如何に行うか、その手段について。
 私の考えだけでは不安だったので、ミサキさんに照査頂いているのである。

「…………」

 ミサキさんが沈黙を続ける。
 私の中で、緊張感が高まってくる。
 会社の重役にプロジェクトの内容を説明している平社員の気分だ。
 いや、気分も何も、ほとんどその通りなのだが。

「……気に入らないことがある」

「不備がありましたか?」

 やはり私が立てた案では不十分であったか。
 恐縮しつつも、私はミサキさんの次の言葉を待った。

「……何故、ローラ・リヴェリを使う」

 ぶっきらぼうな声で、ミサキさんはそんな台詞を放った。
 確かに私は、陽葵さんの身に何かあった際の治療係としてローラさんの手を借りることを提案している。

「……ローラさんに手伝ってもらうのは、まずいですかね?
 彼女は人柄も薬品作製の技術も信頼できます。
 救助要員として適切かと思ったのですが――
 ……無関係な人を巻き込むべきではない、と?」

 無論、冒険者ではないローラさんを<次元迷宮>に連れて行くことには大きな危険性がある。
 ただ、私の見る限りで彼女の冒険者適性はなかなかのモノだ。
 冒険者ではない現状であってもマジックアイテム製作に必要な各種スキルをしっかり使いこなしているのだから。

 それに――自惚れになるかもしれないが――『射式格闘術シュート・アーツ』を解禁した私であれば大抵の危険は打ち払える自信がある。
 ……迷宮の最奥に居る魔王の所までだと厳しいが、青龍ケセドが居る場所までなら何とか。

 加えてどこからでも帰還が可能な『青の証』があるのだから、無茶な行軍さえしなければ大丈夫のはず。
 本当に危険な場所へ行く際は、流石に私だけで向かうことになるだろうけれども。

 そう頭の中を整理していると、ミサキさんから意外な言葉が返ってきた。

「私が、ローラ・リヴェリを嫌っているからだ」

「――――は?」

 好き嫌いの話だったのか?

「私が、ローラ・リヴェリを嫌っているからだ」

 二回言った。
 大事なことなのか?

「あ、あの、お言葉ですが、ミサキさん。
 ちょっと私情を混ぜ過ぎでは?」

「混ぜてはいけないのか?」

「えー!?」

 そこで開き直るんですか!?

「――虫唾が走るんだよ、あの女を見ると。
 自分というモノを持っていないというか、周囲に流されてるだけというか」

 ぶつぶつと文句を言ってくる。
 まあ、確かにミサキさんの好みからするとローラさんは少々――いやかなり外れているかもしれない。
 この人はこう、しっかりした人というか、気の強い人というか、そういうのが好みなもので。

「大体からして、迫られたら誰にでも抱かれるとか最悪だろう。
 女っていうのはもっと、こう、一人の男に尽くすべきなんだ。
 それを、次から次へと別の男に――」

「そうですかね?
 私は別に――」

「――なんだ、誠一。
 私に文句があるのか?」

「ああ、いえ、そんなことは決して。
 ただですね、ローラさんに関しては事情がありまして……」

 私がローラさんの“過去”を説明しようとするが、ミサキさんはそれを手で制す。

「知っている。
 昔どこぞの馬鹿に調教を受けていたのだろう。
 だが過去がどうであれ、それは現在の状況を良しとする理由にはならない。
 そもそも、その調教はもう終わっているし、調教を施した本人も彼女の更生を願っているそうじゃないか」

「……いや、そうなのですけれども」

 ぴしゃりと言い放たれ、私は二の句を継げなくなってしまう。
 しかしミサキさん――

「――嫌っているわりには詳しいですね、ローラさんのこと」

「当たり前だ。
 私は何かを批判する際、その対象を徹底的に調べることをモットーとしている。
 何も知らないまま語れば、思わぬ揚げ足を取られるからな」

 ……なるほど。

「そうでしたか。
 いえ、私はてっきり“ローラさんが魔王に似ているから”気になっているのかと――ぎゃぶぅううううっ!?」

 私の右頬にミサキさんの左ストレートが炸裂した。



「さて、到着したわけだが」

 ローラさんの店の前に立って、ミサキさんがそう呟いた。

「あー、その前に、ちょっと顔の位置治すの手伝って貰えませんかね?
 まだ微妙に傾いたまま戻らないんですが」

 さっきのパンチでひん曲がった首が、未だに戻せていない。
 両手で頭を掴み、真っ直ぐにしようとぐいぐい押し込んでいるのだが、これが難しい。

「――まあ、一応はこちらがモノを頼む側だからな。
 その格好では流石に失礼か」

 ミサキさんが私の顔に手を伸ばす。
 手が私の顔に触れると――

「――あ、治りましたね」

「この程度造作もない」

 スキルを使った様子もないから、絶妙な加減で力をかけただけで元に戻したのか。
 色々と多芸な方だ。
 ……まあ、そもそもの原因はミサキさんにあるわけなのだけれども。

「さて、では早速中へ……鍵、閉まってますね」

「そのようだな」

 店の扉を開けようとしたが、鍵がかけられている。
 今日は営業日のはずなのだが――

「…………いらいらする」

 そしてミサキさんの不機嫌指数がさらに上がっていく。
 こめかみが微妙にぴくぴく動いているようにも見えるし。
 ちょっとカルシウムが足りていないかもしれない――まあ、それは俗説のようだけれども。

 私は慌てて弁明した。

「こ、こういうこともありますよ。
 少し時間を置いてから、また来ましょうか」

「違う」

 しかし、ミサキさんは不機嫌なままそう答えた。
 要領を得なかった私は、聞き返す。

「はい?
 どういうことですか?」

「ローラ・リヴェリが居ないから腹が立っているわけでは無い。
 あの女が今、この中で“お盛ん”だから気分が悪くなったんだ」

「――え」

 ミサキさんの言葉に、私は近場の窓から<屈折視>を使って店の中を覗いた。
 するとそこには――

 「あっあっあっあっあっ!
  んんっ! あぅっ! あっ! あんっ! ああっ! あぁああっ!」

 「いやー、やっぱりローラさんの身体はたまんねぇなぁ」

 「年甲斐も無く今日もヤリにきちゃいましたよ。
  昨日散々ヤったっていうのに」

 男達に囲まれて喘ぐ、ローラさんの姿があった。
 彼女の周りに居る人達は、誰も彼も昨日見た顔である。
 どうやら、この店をヤリ部屋にしようとする企みは実行されていたようだ。

「……ふんっ」

 ミサキさんは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、

「……くだらない。
 実にくだらない。
 誠一、私は適当に時間を潰している。
 終わったら呼べ」

「あ――は、はい」

 そう言って、その場から立ち去ってしまった。

 むう、こうなっては仕方ない。
 様子を伺いながら、機を見て仲間に入る――もとい、中に入って一旦中断して貰おうか。

 そんなことを考えながら、私は中の様子を観察しだした。

 「んん、んんぅううううううっ!!
  んぉっおっおおっおおぅっ! んぐぅっ! んっんっんっんっんっ!!」

 「舌使いも上手いもんだ。
  そんなに俺の精子が飲みたいのかよ」

 「飲みたいんだろうさ。
  くれてやれくれてやれ、ローラさんは喉が渇いて仕方ないとさ」
 
 「乳を欲しがる赤ん坊だな、まるで」

 男達はローラさんの口にもイチモツを突っ込み出した。
 これで彼女は、前と後ろ、そして口の3穴で男の相手をしていることになる。

 「んっんぉっ! んむっん、んんっ! んむぅうっ!」

 恍惚としつつ、頬張った男根をぺろぺろとしゃぶり続けるローラさん。
 手の空いている男達も、彼女の豊満な胸を揉んだり、むっちりとした美尻を叩いたりと、肢体を思う存分楽しんでいるようだった。

 「……お、そろそろイキそう」

 そうこうしているうちに、ローラさんの膣穴に性器を出し入れしている中年が動きを速めだす。

 「おや、そちらもですか。
  私もそろそろ出そうかと思ってたんですよ」

 尻穴に挿入している青年が返答する。
 そこへフェラをさせている男も同調し始めた。

 「せっかくだから3つの穴へ同時に精子注いでやらないか?
  ちょい待っててくれ、今気持ち良くなるから」

 言うや否や、男はローラさんの頭を掴み、無理やり前後に動して――イマラチオし出した。

 「――んごぉっ!? うぐぅっ!! んむぅうっ!! んんっ!! あがぁあっ!!」

 男根に喉奥まで貫かれ、彼女は苦しみだす。
 もっとも、男達はそんなこと気にもせず、各々腰を振り続ける。

 「げぇっ!! んぐぅっ!! おっおっおぉおっおぐっ!? んんんっ! んぉおおおっ!!」

 「いい感じだぁ! こっちもイケるぜっ!」

 「それでは、ヤリますか!」

 「3,2,1で行くぞ!
  きっちり合わせろよ!」
 
 ローラさんの前の穴を責める男が、掛け声をかける。

 「3――2――1――おら、イケっ!!」

 「うっしゃっ!」

 「出る、出るっ!!」

 「んぉおおおっ!! おっ! おぉおおおぉおおおおおおっ!!!」

 穴という穴から精液を注ぎ込まれ、彼女は獣のような雄叫びをあげる。

 「――あっ!――あっ!――あっ!――ああっ!」

 そしてビクンッビクンッと痙攣しながら、男達から精子を搾り取っていった。
 しばししてから男達が彼女から離れると、ローラさんの穴からは大量の白濁液が零れ落ちていく。

 「あー、すっきりした!
  たっぷり出してやったぜ!」

 「しかしここまでヤルと、そろそろ誰か孕ませてないですかね?」

 「子供がデキちまったんならそれはそれでいいじゃないか。
  女の子が産まれりゃめっけもんだぜ、次世代の肉便器誕生だ!」

 「はっはっは、そりゃいいっ!」

 互いに笑い合う男達。
 一運動終わった彼らと入れ替わるように、また別の男達がローラさんに群がっていく。

 「さ、次は俺らの番だ」

 「たっぷり楽しませてくれよ」

 「いっそ、誰がこの女を孕ませるか競争するのも楽しいのぅ」

 男達は口々に彼女へと言葉をかける。
 そんな彼らに対しローラさんは、

 「……も、ダメ、です……
  ……や、止めて、下さい……」

 淫猥な笑みを浮かべて股をひろげ、形ばかりの拒絶を口にする。
 ――すると。

「――止めてくれと言っているんだ。
 助けにいかないか、馬鹿者」

 そんな言葉と共に、私は後ろから思いっきり蹴り飛ばされた。
 顔面に迫るは窓のガラス。
 抗う術も無く、私は頭から窓へと突っ込んでいった。

 ガラスの割れる音が部屋中に響き渡る。

「うぉおおおおっ!! なんじゃああああっ!!?」

「人がっ! 人が窓から入ってきた!?」

「ってこの人クロダさんじゃないかっ!!?」

 私の方を見た男達が色々と口走っているが、それに構う余裕はない。

「ああああああっ!? あああああああああっ!!!」

 ガラスがっ!
 ガラスの破片がっ!!
 顔とか手とか首とか、もう色んなところにっ!!

「ガラスがあっちゃこっちゃに刺さってるぞこの人!?」

「ダメだクロダさん、転げまわっちゃあっ!!?」

「傷口が広がっちまう!!」

「誰かぁっ!! ポーション持ってこい、ポーションっ!!」

 ローラさんのことは捨て置いて、私の救助に動く男達。
 とりあえず彼らの“プレイ”を中断させることには成功したらしい。
 成功したのはいいのだが――ああ、痛い! 痛い! 痛いって! 本当に痛いっ!!

 ……苦しむ私の耳に、遠くからため息交じりの声が聞こえてきる。

 「――何やってるんだか」

 それは、どこか自嘲も含んだ響きであった。



 なんやかんやあって。
 私とミサキさんは、お店の客間でローラさんとの話し合っていた。

 男衆は私の手当が終わった後、“そういう空気じゃなくなったから”ということで帰っていった。
 まことに申し訳ないことをしたと思う。

 今、ローラさんはいつものドレス姿に着替えていた。
 一度お風呂で身体を洗ったため、いい香りが彼女から漂う。

 ……私が一通りの説明を終えると、ローラさんは口を開いた。

「――あの、クロダさん。
 本当の、お話なんですか?
 ちょっと、話が大きすぎてついていけないんですけど」

 未だ半信半疑といった様子。
 いや、話した内容が内容だけに、半分でも信じてくれただけ上出来ともいえるか。

「お気持ちお察しします。
 ただ、これは事実なのです。
 ……信じて頂けませんでしょうか?」

 「――別に信じなくてもいいぞ?」

「正直、信じられない気持ちが大きいです。
 先日、エゼルミア様とお話する機会がありましたけれど、そんな方にはとても――」

 「――節穴だな、その眼は」

 以前、彼女は五勇者の一人、エゼルミアと対面している。
 そうでなくとも、彼女は真っ当なこの世界の住人だ。
 “五勇者が私利私欲で動いている”など、そう簡単に信じることはできないだろう。

「ローラさん……それでは――」

「――い、いえ、違います!
 私は、クロダさんを信じてます!
 確かに信じられないことですけれど、貴方が言うなら――」

 「――安い女だ」

 私が抱える不安を吹き飛ばすように、ローラさんは笑いかけてくれた。

「――では?」

「はい、クロダさんに協力します。
 私がどの程度お力になれるか分かりませんけれど……」

「いえいえ、ローラさんの薬師としての腕があれば百人力ですよ」

 「――えー、そうだろうか?」

 ……私はローラさんの協力を取り付けることに成功したの、だが。

「…………」

「…………」

 私と彼女は黙り込んでしまった。
 そろそろ限界である。

「――どうした、お前達。
 ああ、話すことが無くなったのか?
 じゃあ丁度いい、帰ろう」

「……あのですね、ミサキさん」

 私達が話すすぐ隣で、文句やらつっこみやらを呟き続けていたミサキさんに声をかけた。

「なんというか、もう少し自重しては頂けませんでしょうか?」

「なんだ、お前が私に口出し無用と言ってきたのだろう。
 だから私はお前達の話に口を挟まずにいたというのに」

 ローラさんの店に入ってからミサキさんは不機嫌指数を加速度的に上げていたので、彼女に変なことを言わないよう釘を刺しておいたのだ――が。

「いや、挟みまくってましたよ!
 明後日の方に向けてぶつぶつぶつぶつと!
 どうしちゃったんですか、ミサキさん!
 なんか今日変じゃないですか!?」

「ん、そうか?」

 私が声を荒げても、ミサキさんは涼し気な顔。
 いったい、何があったというのか?

 ローラさんも同じように感じたのか、おずおずとミサキさんに話しかける。

「……あの、ミサキ・キョウヤ様――なんですよね。
 外見はエレナさんですけれど」

「そうだ」

 対してミサキさんの返事は――私の気のせいでなければ――大分そっけない。
 だがローラさんはめげず、

「……キョウヤ様、私は何かお気に障るようなことをしましたでしょうか?」

「そうだ」

 やはりミサキさんの返事はそっけない――って!

「気に障ってたんですか、ミサキさん!?」

「そうだよ。
 ここに来る前に言っただろう。
 私はローラ・リヴェリが気にくわないと」

 私の質問に、ド直球を返してくる。
 本人が目の前にいるというのに。
 とうか、その話題はミサキさんの中でまだ燻っていたんですね。

「きょ、キョウヤ様?
 私に至らない点があれば仰って下さい。
 直すように努め――」

「お前がド淫乱女だからだよ」

「――ド!?」

 ローラさんが絶句した。

 ミサキさん!
 オブラートに包んで!
 オブラートに!!

「男と見れば誰相手でも股を開きやがって。
 つい先刻まで、ここで『何』をしていたか私が知らないとでも思っているのか?
 精液の臭いがまだ残ってるぞ」

「――な、なっ」

 彼女は口をパクパクと開け閉めする。
 一方でミサキさんは、堰を切ったかのように喋り出した。

「なんなんだお前は。
 慎み深さとか清楚さを親の腹の中にでも忘れたか?
 脳ミソが子宮の中にでも入ってるのか?」

「――え、いえ、あの」

「しかも、だ。
 お前、『事』が終わったあと後悔しているんだってな。
 “はしたないことをしてごめんなさい”?
 “いつも止めようと思ってる”?
 ――阿保か」

「――あ、あう」

 ミサキさんの発言で、ローラさんの顔が陰っていく。
 これは、いけない。

「ミサキさん。
 ローラさんは――」

「誠一、何度も言わせるな。
 私は把握している。
 この女がセドリック・ジェラードに調教を受けていたことも、自意識が崩壊して人形同然になっていたこともな」

 またしてもストレート、無遠慮に、彼女の過去へと触れるミサキさん。

「――で、それが?
 現状の免罪符になるとでもいうのか。
 ああ、可哀そうな身の上だな。
 私だってそれについては同情位してやろう。
 ――だから、セドリック・ジェラードから解放された今でも誰彼構わず男に抱かれるのは仕方ない?
 ――どんなことでも男の要求なら受けれてしまうのは、全て悲惨な過去のせい?
 そんな馬鹿な話があるか」

「…………」

 ローラさんは視線を俯かせ――何かに耐えるように、手で自分のドレスをぎゅっと掴む。
 ……正直な感想を言わせて頂くと、ローラさんが昔体験した過酷さは、現在の状況を許されて余りあるものだと私は思うのだが。
 とはいえ、それを口に出せる雰囲気ではないので、黙って状況を見守る。

 ミサキさんは黙っているローラさんへとさらに言葉を投げる。

「本当に後悔しているというのなら、それに相応しい行動をしろ。
 対策なんていくらでも取れるだろう。
 包丁でも振り回して拒めば、大半の男は抱くのを諦める。
 男の言葉を拒否できないなら、何か言われる前に逃げてしまえばいい。
 それでダメなら、“終わった”後に衛兵へ通報してやれば次が起こるのを抑えられるだろう。
 ローラ・リヴェリ、お前は何か自分へ群がる男達への対策を講じたことはあるのか?」

「……ありま、せん」

「それは何故だ。
 こんなこと、子供でも考えられる。
 どうしてお前は、嫌だ嫌だと考えながらもただ甘んじて受け入れている」

「……そ、それは」

 そこでローラさんは二の句を継げなくなる。
 もっとも、彼女がどうなろうともミサキさんが口をつぐむことは無いのだが。

「ふん、代わりに言ってやろうか?
 お前はな、受け入れているんだ。
 楽しんでいるんだ。
 男達のいい様に弄ばれることを、喜んでいるんだ」

「……あ、あ、あ」

「誰でもいいのさ、自分を気持ちよくさえしてくれれば。
 近所の人間でも、そこらの浮浪者でも――自分を責めてさえくれるのであれば、相手が畜生であっても構わないんだろう?
 ……別に、誠一じゃなくともな」

「――!!」

 ミサキさんの最後の台詞に、ローラさんの身体がびくっと震える。

「――違います!
 私、そんなことは――」

「“何もしていない”人間が戯言を言うな!
 お前は誠一と親しくしているようだがな――それは、単にこいつがお前のことを許してくれる人間だからに他ならない!
 どれだけ他の男に抱かれても、どれだけ不誠実な行為に身をやつしても、“誠一は許してくれる”――だから、お前は誠一に近寄るんだ!
 そりゃそうだ、こいつ程お前にとって『都合のいい男』はいないんだからな!」

「――違う!!」

 とうとう叫び出すローラさん。
 ……彼女のこんな姿は、初めて見る。

「――どうした、誠一。
 私は今、ローラ・リヴェリと話をしているんだ。
 “そこに立たれては”邪魔だろうが」

 ミサキさんは私に――ミサキさんとローラさんの間に割って入った私に、声をかけてきた。

「……ミサキさん、やり過ぎです。
 いくら貴方でも、そこまで言う権利は無いでしょう」

「……ふん」

 ミサキさんは鼻を一つ鳴らすと、

「――良かったな、ローラ・リヴェリ。
 『都合の良い男』がお前を助けてくれるそうだ。
 ……そうやって、男共に媚び売って擦り寄って、流されに流されて生きていくのがお前なのだろう」

 顔をしかめて、ミサキさんは語る。

「ローラ・リヴェリ。
 お前を嫌う理由を淫乱であることと言ったが、それは半分だ。
 淫乱なだけなら、ここまで毛嫌いはしないさ。
 ――私はな、お前のその“弱さ”が徹底的に気にくわない」

 ローラさんを睨みつけながら、さらに続ける。

「お前を直に見て確信したよ。
 幾ら誠一の推薦といえど、お前は私と共に戦う者として相応しくない。
 ――今日の話は忘れろ」

 ……話は終わったとばかりに、ミサキさんは踵を返す。
 そのまま店を出ようとする――が。

「――ま、待って下さい!」

 ミサキさんを、ローラさんが呼び止める。
 彼女は真正面からミサキさんを見据え、

「……もう、しません」

「――ん?」

「私は、もう、男の人に身体を許しません!」

 ミサキさんに向かって、高らかにそう宣言した。



 第十六話②へ続く
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

処理中です...