社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

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第十三話 ウィンガスト騒乱

⑥! 鬼ごっこの結末

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 ウィンガストのあちこちで魔族による騒ぎが起き始めた頃。
 ここでは場違いな程明るい声が響いていた。

「はーい、毎度ありー!」

「またのご来店をお待ちしてまーす!」

 お客に対し、にこやかに応じる二人の魔族。
 名前をベルゼとボルゼという。
 ちなみにこの二人、兄弟である。
 ベルゼが兄で、ボルゼが弟だ。

「は、はい……あの、本当にいいんですか、お代は?」

「いいっていいって!」

「今日は特別サービスさ!
 商品が気に入ったんならまた来てよ!
 あ、今度はちゃんとお金貰うからね?」

「あ、ありがとうございます!」

 深々とお辞儀をして去っていく客。
 それを見て満足げに頷くベルゼ。

「いやー、なんかいいもんだね、人に感謝されるってのは」

「全くだぜ、兄貴。
 人間の街に潜入とかいうから緊張しちゃったけど、案外馴染めるのな、俺ら」

 笑い合う兄弟。
 ふと、ベルゼは外を見る。

「おいおい見ろよボルゼ。
 俺達以外の奴ら、あっちこっちで暴れてるみたいだぜ?」

「本当だな。
 暴力的な奴らばっかで嫌になっちまうよ」

 街から立ち上る煙を確認し、兄弟は揃ってため息を吐く。
 どうして問題を起こすのか――少しは自分達を見習ってほしいものだ。

「バール様からもあんま暴れるなって言われてるのになぁ」

「その点、俺達は完璧だよな。
 何せ、ただ店番してるだけなんだからさ」

「ああ。
 店主は俺達という労働力を得る。
 俺達はこの店にヒナタ様が来ないか見張れる。
 Win-Winの関係とはこのことだ」

 そう。
 彼らは、陽葵達を探すのに、無闇に歩き回るでもなく、人間を脅しつけるでもなく――人間と協力するという手法を取った。
 具体的には、陽葵と親交のある店の店主に交渉し、臨時の従業員として雇ってもらったのだ。
 こうすることで、波風立てずに見張りをすることができる。

「……でもよ、兄貴。
 さすがに無料ってのはまずくないのか?
 店の売り上げ、全然でないぜ?」

「ボルゼ、お前、考えが足りないぞ。
 こういうのはまず客に商品の良さを知ってもらわなくちゃダメなんだ。
 まずは無料のお試しで客の心を掴み、その後有料で商品を買ってもらう。
 ――この店の商品は高品質だからな、自然とリピーターは増えるだろうよ」

「なるほど、さっすが兄貴だぜ!」

 無論、商品の値段を勝手に変更したわけではない。
 きちんと事情を説明し、店主の了解を得て行っている。

「さて、じゃあ次の客が来る前に商品を整備しておくか」

「お、兄貴、気遣いが行き届いてるな!」

「商売人として当たり前のことだろう?」

 得意げに鼻をならすと、ベルゼは席を立つ。
 遅れて、ボルゼがその後に続いた。



 彼らが向かったその先には“商品”の置かれたテーブルがある。
 商品――“兼”、店主であるローラ・リヴェリがその肢体を横たえている、テーブルが。
 彼女の衣服は全て剥ぎ取られ、体のあちこちには『本日無料』の文字が書き込まれていた。

 ――つまり、ローラの身体こそが彼らの売り出している“商品”なのだ。

「おーっす、店主。
 調子はどうよ?」

「あっ……ひっ……も、もう……やめて、下さい……」

 息も絶え絶えに、ローラは返事をしてくる。
 今日は昼から展示されているためか、大分疲れがたまっているようだ。

 ――ベルゼとボルゼの兄弟は、陽葵の逃亡が起きるよりも前に、この店へ押しかけていた。
 この街へ来たときから、この女に目をつけていたのだ。

「うーん、大分疲れてるみたいだな。
 どうするよ、兄貴?
 そろそろ休ませてやるか?」

「いやいやボルゼよ、仕事ってのは疲れるものなんだ。
 今日は特価セールだからな、踏ん張りどころさ。
 それに店主だって――」

 ベルゼは無造作に、ローラの股間に手を伸ばす。
 そして彼女のクリトリスを弄りだした。
 途端に、嬌声がローラの口から溢れ出す。

「あっ!? あっあっあっあっ!!
 あぁあぁあああああっ! あんんっ!!」

「ほうら、まだまだ元気だ。
 ……もっとちんこ欲しいだろ?
 まだまだヤれるよな!?」

 指で激しく陰核を擦りあげる。
 ローラは艶声を大きくし、身体を弓なりに反らした。

「あぁあああっ! は、いっ…やれ、ますっ! あぁあんっ!
 おちんぽ、もっともっと欲しいですっ!」

「本当だな、兄貴!
 はは、店主は仕事熱心だ!
 俺、彼女のこと尊敬するよ!」

 ――最初こそ抵抗する素振りも多少は見せていたローラだったが……幾度となく犯され続けた結果、今やこの魔族の兄弟の言いなりだった。

 ボルゼも、ローラの豊満な胸へと手をやり、彼女のおっぱいをこねくり回した。
 時折、乳首も摘まんでやる。

「あぁああっ!! あぅうっ! あんっあんっ!!」

「――でもこの商品、大分汚れちまったな」

「さっきの客、涼しい顔して結構な回数こなしてたからなぁ。
 前の穴も後ろの穴もザーメンでいっぱいだ」

 ベルゼの言う通り、ローラの肢体はあちこちが精液塗れであった。
 これでは商品としての価値も落ちてしまう。
 すぐに『整備』して綺麗しなければならない。

 ……会話の最中もローラの身体を弄び続ける兄弟。

「あっあっあっあっ!
 ああっあんっあんっあんっ!」

「これを掃除するのは結構な骨だよ、兄貴」

「馬鹿野郎、臨時とはいえ俺達は今この店の従業員なんだぞ?
 これ位の事で弱音を吐くんじゃない。
 店主にも失礼だろう!」

「そ、そっか!
 ごめんよ、兄貴、店主!」

 ボルゼは乳首を、ベルゼはクリトリスを、同時に思い切り抓った。

「あぁぁああああああああっ!!!」

 一際大きよがり、ローラは絶頂する。
 いったんびくびくと震えた後に力が抜け、ぐったりとテーブルの上に肢体を転がせた。

 そんな彼女の肢体を、雑巾を使って拭いていく兄弟。
 特に精液のこびりつきが多い、下にある2つの穴は入念にほじってやった。

「あ、あひぃっ!? ま、たぁっ!?
 んおおっお、おぉおおおっ! イった、ばっかりなのにぃっ!! ああぁあああああっ!!」

「おお、アクメした後だってのに、いい反応を返すなぁ」

「商品が高品質である証拠だな。
 おいボルゼ、そこ、もっとしっかり拭き取れよ」

 ボルゼの担当は尻穴である。
 いくら拭きとっても、穴からはザーメンが垂れてくるのだ。
 前の客、かなりのアナルマニアだったのだろう。

「分かってるよ兄貴。
 でも結構奥まで入っちまっててさぁ。
 ……よっと!」

 手の先を雑巾ごと尻穴にねじ込むボルゼ。
 これで精液が入り込んだ直腸の奥にまで手が届く。

「んぉおおおおおお!!? おおっおおおおおおおおおおおっ!!!」

 ローラの絶叫が店内に響いた。
 そんなものにはお構いなく、魔族の兄弟は掃除を続ける。

「……うむ、綺麗になったな。
 これでいつ客が来ても安心だ」

 全ての穴からザーメンを取り除いたベルゼ達は、やりきった男の顔で満足そうな笑みを浮かべる。
 そんな彼らのもとへ、店のドアをノックする音が聞こえてきた。

「お、言った傍からだぜ、兄貴」

「ああ、出迎えよう」

 兄弟は素早く店の玄関へと移動する。

「おや、こんな時間にも開いてるとは珍しいな。
 おーい、ローラさん、ちょっと物入りがあるんだがー」

 扉からは、中年の男が顔を覗かせていた。
 格好からすると冒険者ではなく、近所のおじさんという風体である。

「いらっしゃーい!」

「夜遅くにご来店ありがとうございまーす!」

 魔族達はにこやかに微笑みながら、客を迎え入れた。
 しかし、客の男は顔を引きつらせる。

「――ま、魔族っ!?」

 彼の口から吐き出されるあからさまな嫌悪の言葉。
 だが、兄弟は気を悪くしたりしない。
 こういう反応をされるのは、想定していたことだ。

「いやいや、俺達は悪い魔族じゃないんだよ?」

「そうそう、ここの店主に頼まれて、店番をやっているんだ!」

「ローラさんに頼まれて…?
 いや、まさか、そんなはずが――」

 客は未だ疑わし気な視線を送ってくる。
 それを半ば意図的に無視して、魔族達は親し気に彼へ話しかけた。

「まあまあ、細かいことは気にしないで下さいよ。
 今日はオススメの新商品があるんだ!」

「そうそう。
 しかも本日限りのサービス価格――なんと無料で商品を使えるんだぜ!」

「……し、新商品?」

 こちらの態度に毒気を抜かれたのか、多少客の表情が和らぐ。
 魔族の兄弟はそんな彼の肩を押して、商品のところへ案内した。
 ――すると。

「――ろ、ローラさんっ!!?」

 全裸のローラを見て、客が驚愕の声を出す。
 すぐさま、魔族達へと詰め寄り、糾弾し始めた。

「お、お前達、こんなことをしていいと思ってるのか!?
 何が悪い魔族じゃない、だ! ふざけるな!
 今すぐ衛兵を呼んで――」

 ――そこで、魔族達の雰囲気が変わる。

「――あ?
 俺達の好意が気に入らないってのか?」

「お前、こっちが下手に出てるからって調子に乗ってんじゃねーぞ?」

 殺気を放ち始める兄弟。
 客は変貌した彼らの態度に、面白いほど顔を恐怖に歪ませて、

「ひっ!?
 あ、あああ……そ、そういうつもりで言ったのでは――」

 弱弱しい口調で、前言撤回した。

「おっと、兄貴、お客が滅茶苦茶びびってるぞ?」

「んん? ああ、すまんすまん、ちょっと気が立っちゃっただけなんだ。
 でもあんたも悪いんだぞ?
 いきなり喧嘩腰で話しかけてくるからさ」

「は、はい、すみません……」

 一転、魔族達は最初の馴れ馴れしい振舞に戻る。

「そう恐縮すんなって!
 ほら、仲直り仲直り、な?」

 ベルゼは半ば強引に、客と握手する。
 ぎこちないながら、客の男も手を握り返してくれた。

「そんじゃ、早速うちの商品を試していってくれよ。
 いい塩梅なのは保証するぜ!」

「……わ、わかりました」



 ――客の男が商品を試した結果。

「くそっ、くそっ、この淫乱女が!
 今まで憧れてたんだぞ!
 高嶺の花だと思ってたのに!」

「あっあっあっ! あんんっ! あんっあんっあああんっ!」

 後背位でローラと交わる男。

 彼は、商品にドはまりしていた。
 これでもかという程、ローラの膣に己の男根を叩きつけている。

「ちんこならなんでもいいのか!
 そんなにちんこが欲しかったのか!
 どうなんだ、ローラ!?」

「あぅうっ! はい、ちんぽっ……あっあっあっ!
 ちんぽ、欲しかったですっ!
 ああっあああっああんっ! ずっと、ちんぽが欲しかったんですぅっ!
 あぁああっあっああ!」

 ローラの胸を乱暴に揉みしだき、男は彼女に罵声を浴びせた。
 もっとも、彼女は彼女で嬉しそうそれを受け止めているが。

「こんな、まんこにモノぶっ挿したらすぐよがる淫猥だったなんてな!
 ローラ! 俺のちんこは美味いか!?
 俺のちんこをもっと味わいたいのか!?」

「はいぃっ! あうっああっあんんっ! ちんぽ美味しいですっ! あっあっあっあっあっ!
 ちんぽ、もっともっと、私にハメて下さいっ! あ、あ、あ、あ、あぁああっ!!」

「よぉし、ならもっとくれてやる!
 おら、おらおらおら!!」

 パンパンと音を鳴らして、ローラへと腰を打ち付ける客。
 商品のお試しは、まだまだ終わりそうになかった。



 そんな二人を遠目で眺めつつ、ボルゼは兄へと話を振る。

「しかしさ、兄貴。
 人は見かけによらないもんだなぁ。
 最初店主を見たときは、もっと清楚な女だと思ってたんだけど」

「なんだ、ボルゼ、お前知らなかったのか?
 ちゃんとヒナタ様の身辺調査書にも記載してあったじゃないか」

 弟の不勉強を咎めるベルゼ。

「この女、もう散々調教され尽くしてるんだよ、肉便器として。
 見かけこそ淑女然としちゃいるが、中身はどんな男にも股を開く雌犬ってことだ」

「へー、そうだったのか。
 でも誰がそんなことやったんだ?
 店主の夫か?」

 その質問の答えはすぐに思い出せなかった。
 ベルゼは少し視線を宙に彷徨わせてから、

「えーっと、確か……そう、セドリックって男だ。
 そいつが何年もかけて調教したんだと」

「旦那がいる女に手を出すとはなぁ。
 悪い奴もいたもんだ。
 ……あれ、でも店主は今一人で暮らしてるんだよな?
 そのセドリックって奴どうしちゃったの?」

「ああ、なんでも手放したらしい。
 今から2年と少し前だったはずだ」

「ほー、勿体ないなぁ。
 店主、こんな美人なのに」

 残念そうに肩を竦ませるボルゼ。
 確かに、これ程の女を捨てるなんて、なかなか考えづらいことではあるが……

「……ま、飽きたんだろ。
 いくら綺麗だって言っても、何度も抱いてりゃだんだん興味が無くなるものさ。
 肉便器なんざ、ちんこを受け入れるしか能がない人形みたいなもんだからな」

「ふーん、そんなもんなのか」

 ――客が行為を終えるまで。
 兄弟はそんな他愛無い世間話を続けるのだった。



「おらっ!
 出すぞ、また出すぞ!」

「あ、あぁぁああああっ!!」

 客が放つ何度目かの射精を、大きな喘ぎをもって受け入れるローラ。
 流石に疲弊したのか、男は彼女にもたれかかり、肩で息をする。

「…ぜぇっ…ぜぇっ…
 嬉しいか! 嬉しいんだろう!
 俺に種付けされて、嬉しいんだろう、ローラ!?」

「…はぁ…はぁ……嬉しい、です……私のまんこ、使って頂けて……はぁ…はぁ……嬉しいです……」

 本当に嬉しそうに、ローラは答えた。
 いつもの思考は今の彼女に最早存在せず、ただ雄を悦ばせるよう躾られた雌犬がそこには居た。

「明日から毎日種付けしてやるからな!
 俺の子供を何人も孕ませてやる!
 ――いや、俺だけじゃ勿体ないな……近所の男連中皆に知らせてやるか!
 お前はこれから街の精液便所だ!」

「はい……はぁ…はぁ…はぁ……私、便器になります……はぁ…はぁ……皆さんの、肉便器です……」

 自ら、公衆便女となることを宣言するローラ。
 明日からの彼女の生活は、実に彩られたものになることだろう。

 一仕事を終えた客にベルゼは声をかける。

「はーい、お疲れさん。
 どうだった、商品は?」

「……最高だったよ。
 明日からが楽しみだ」

 堂々とした物言いで返事をする客。
 商品を使う前に見せたおどおどとした素振りは、今の彼には無かった。
 肉便器ローラと交わることで、自信も回復させたのだろうか。

「そうか、そいつは良かった!」

「……君達には、失礼なことを言ってすまなかった」

 男は丁寧にお辞儀する。
 ベルゼは慌てて手を振って、

「いやいや、そいつはもう水に流しただろう?
 気にすんなって!」

「……ありがとう。
 では、また」

 そう言って、男は店を去っていった。
 彼の後ろ姿を見送りながら、ベルゼは呟く。

「『また』、か。
 ……まあ、俺達はすぐこの街を離れてしまうわけだが」

「せっかく仲良くなったのに、寂しいなぁ、兄貴」

「仕方ないさ。
 生きていれば、また会える日もくるだろう」

「おう、そうだな!」

 しんみりするものの、また調子を取り戻す兄弟。
 少しして、また店の扉がノックされた。

「おっと、またお客か!」

「いらっしゃいま――せっ!!?」

 ボルゼが言葉を詰まらせる。
 入り口から姿を現したのは一人の女エルフ――

「ば、馬鹿な、お前は、お前は――!?」


「「え、エゼルミア!!!」」


 兄弟の声が重なる。

 ――五勇者の一人、『全能』のエゼルミア。
 店を訪れたのは、魔族から最も恐れられる人物であった。

「ふふ、ふふふふ。
 夜分、恐れ入りますわ」

 にこりと笑い、店の中に入ってくるエルフ。
 信じられない人物の来訪に絶句する兄弟だが、ボルゼが何とか口を開く。

「い、いったい何の用――」

「――ねぇ、貴方」

 弟の台詞を遮って、エゼルミアが声を発した。

「体臭が、酷いですわよ?」

「――あ?
 あ、ああっ!?
 ぎゃぁあああああああああっ!!」

 ボルゼが絶叫を上げる。
 エゼルミアの言葉が終わった瞬間、彼の身体を炎が包んだのだ。

「あがあああああっ!! 熱いぃいいっ!! 熱いぃいいいいいっ!!!!
 兄貴ぃいいいいいいいいいっ!!!」

 ばたばたと暴れまわるボルゼ。
 だがそれも長くは保たない。

「……あっ……あ――」

 ――数十秒の後、そこにはボルゼはただの黒炭に成り下がっていた。

「……ぼ、ボルゼーーっ!!
 貴様ぁ!!」

 余りのことに硬直していたベルゼだったが、正気に戻るとエゼルミアへ飛びかかる。
 しかし彼女に手が届くよりも先に、エゼルミアが鬱陶しそうに『命令』を下した。

「五月蠅いですわ。
 少し、静かにして下さらない?」

「あ―――!?
 ――!? ―――!!」

 ベルゼから声が消えた。
 いくら叫ぼうとしても、喉から音が出ないのだ。

 ――いや、それだけではない。
 呼吸すら、できなくなった。

「――!? ―――!!!
 ――――――!!!!!」

 喉を掻き毟ってみるも、何の効果もなく。

「――!! ――――!!!
 ――――!!!」

 苦しさに転げまわる。
 彼には、目の前の人物に許しを請うことすら叶わなかった。

 そして、数分。
 ……ベルゼは、体のありとあらゆる穴から体液を流し――窒息死した。

「……貴方も臭いですわね」

 汚いものを見てしまったエゼルミアは顔を少ししかめ、ベルゼの方も焼却する。
 彼女は店の奥にいるローザの姿を見ると

「――遅くなってしまってごめんなさいね、ローラさん。
 以前お話した迷惑料、持ってきましたわよ」

 そう言うと、店のカウンターに金貨が詰まった袋をローラの近くに置くエゼルミア。
 ついでに、彼女に付着した精液もスキルで取り除いてやる。

 エゼルミアはゆったりとした歩調で店の窓に近寄ると、そこからウィンガストの街を見渡した。

「……ふふ、ふふふ、もう、騒々しい夜ですこと。
 “彼”はどこで何をしていますことやら」

 何がおかしいのか、笑みを浮かべるエゼルミア。
 誰とはなしに、独り呟く。

「せっかく、ぐっすり眠っていた魔王の息子おまぬけさんを叩き起こして騒ぎを作って差し上げたのですから。
 ――ちゃんと解決してみせて下さいね、クロダさん?」






 夜の冒険者ギルド。
 明かりこそまだ消えていないものの、人はほとんどいない。
 最低限の職員と警備員がいるだけだ。

 そんなギルドの中を、リアと陽葵は駆けていた。
 目指すは、ジェラルドの居る執務室。
 ――『透明薬』の効果は既に切れている。

「……もうちょっとだから!
 急いで、ヒナタ!!」

「……はっ…はっ…はっ……う、うん!」

 大分息が上がっている陽葵。
 セドリックと別れてから、ずっと走り続けているのだから、仕方ない。

 ――ギルド内であればまず追手はいないはずだが、しかし油断もできない。
 少しでも早くギルド長と会うため、ギルドの廊下を走る。

 そして。

「……見えた。
 あそこが――」

 とうとう彼らは、執務室へとたどり着いたのだった。

「ジェラルドさん!」

 万感の想いを込めて、リアは部屋の扉を開ける。
 ジェラルドは、執務机に座り、今日の業務をしている最中だった。

「大変なの、ジェラルドさん!
 やっぱり、バールの奴、ヒナタに危害を加えようとしてたみたいで――」

 ギルド長からの返事も待たずに、言葉を続ける。

「だからね、ジェラルドさんのところでヒナタを保護して貰いたいんだけど――?」

 ……そこまで話してから、リアは違和感に気付いた。
 ジェラルドから、何の反応も無い。

「……ジェラルドさん?」

 改めて話かけるも、彼からの返事は無く。
 不審に思ったリアはジェラルドに近づくも――

「――!?」

 彼女が一歩足を踏み出したところで、ジェラルドは椅子から転げ落ちた。
 そのまま、ぴくりとも動かない。
 ……よく観察すれば、彼の頭から一筋の血が垂れていた。

「じぇ、ジェラルド、さん?」

「ぎ、ギルド長……ちょっと、待てよ……これ……」

 呆然と倒れたジェラルドを見る二人の背後から、拍手が聞こえる。
 慌てて後ろを振り返るリア。

 そこには――

「ハイ、お疲れ様でシタ。
 よくぞ、ワタシの追手を掻い潜ってここまで来れましたネ」

 微笑みを浮かべた、バールが立っていたのだった。

「……あ、あ」

 愕然として、言葉にならない声を漏らすリア。

 目の前には、バール。
 後ろには、倒れたジェラルド。
 この状況が何を指すのか、分からないリアでは無かった。

 バールは言葉を続ける。

「――だから言ったでショウ?
 お互いのタメにならない、と。
 リア、アナタがこの状況で誰を頼ろうとするのかなんて、自明でしたからネェ。
 アナタ達はしなくてもいい苦労を負い、ワタシはやらなくてもいい命令を下し。
 ああそうそう、ウィンガストの住人にも意味なく迷惑をかけてしまいマシタ」

 結局のところこの男にとって、ジェラルドであっても大した障害にはなり得なかった、ということだ。
 ――今までリアのしたことは、全て意味のない徒労だった。

 ……もう彼女に打つ手は無い。
 リアは、力なく床にへたり込む。

「……り、リア!」

 陽葵の声が聞こえるが、それに返事する気力もない。

「さ、帰りまショウカ、お二人とも」

 バールがこちらに歩いてくる。
 逃げられない。
 もう、逃げられない。

 目の前の魔族がスキルを発動する姿を、リアはただ呆然と眺める。

(――みんな、ごめん)

 惜しみなく協力の手を貸してくれた人々の顔を思い出しながら。
 ……彼女の意識は、闇に落ちた。



 第十三話⑦へ続く
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