社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

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第十三話 ウィンガスト騒乱

⑤! 逃亡の再開

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 再び、逃走劇を繰り広げるリア一行。
 しかし、その行程は順調と行かず――

「――気のせいかな。
 道歩いてる魔族の数、多くなってきてないか?」

「残念ながら。
 気のせいじゃないのよね、それ」

 リアがジェラルドを頼るであろうことは、バールも想像つくはず。
 であれば、冒険者ギルドに近づけば近づくほど警戒が強くなるのも当然と言えた。
 これから先、さらに厳しい警戒網を突破しなければならないだろう。

 それはそれとして。

「――そんで、あんた、いつまでついてくんの?」

 リアは何故か同行してきているセドリックに話を向けた。
 セドリックは胸を張って答える。

「そりゃ、君達が安全な場所に辿り着くまでに決まっているじゃないか。
 店長に頼まれてしまったからね」

 自信満々に言い放つ彼を、リアはジト目で見ながら、

「あのね。
 ぶっちゃけて言うけど――足手まとい」

「ほ、本当にぶっちゃけたなリア……」

 陽葵が若干引いた。

 とはいえ、本当のことだ。
 陽葵とセドリック二人を守りながら、魔族が警邏する中を進むのは困難極まる。
 セドリックに感謝していないわけではないが――いや、感謝しているからこそ、彼まで危険に曝すわけにはいかない。

「ふ、ふっふっふ。
 私にそんなことを言っていいのかい?」

 しかしセドリックは不敵に笑う。
 陽葵は首を傾げて、彼に尋ねた。

「んん?
 実はセドリックのおっさんもあの店長みたいに強かったりすんのか?」

「いやいや、私に彼のような強さはないさ。
 強さは無いが――」

 笑みを深めながら一拍間をおいて、

「――金なら有る!」

「いやその台詞はどうなのよ?」

 リアの指摘をものともせず、セドリックは不敵な笑いを維持し続けた。
 そして、懐から薬包のようなものを取り出す。

「ここに取り出しましたるは、その名も高き『透明薬』!」

「『透明薬』って――え? それ、『ワインドの秘薬』じゃないの!?」

 瞳を大きく見開くリア。

 ワインドの秘薬――通称、透明薬。
 通称の通り、身体に振りかけることで一定時間姿を消し去ることができる、マジックアイテムだ。

「そ、それって、一個で軽く一財産になるんじゃ…?」

「えええ!!?」

 そもそもからして作製が難しく、希少な原料を使う上に、効果が効果なだけに法的にも規制されている。
 それ故に、非常に希少な薬としても知られ、そしてその価格も目が飛び出るほど高い。
 こんなものを持っていたとは……

(……犯罪の臭いしかしない)

 絶対悪用している。
 間違いない。

 そう思うと急速に心が冷えていったが、裏事情を知らない陽葵は素直に感動しているようだ。

「いいのかよ、そんな高価なものオレ達にくれちゃって!?」

「当然だろう。
 ま、気にせず使ってくれたまえ。
 私が持っていてもろくなことには使わんだろうからね」

(……さもありなん)

 最後の言葉に、声には出さずつっこみを入れる。
 実際にしなかったのは、そんな貴重なものを提供してくれることへのせめてもの感謝だった。

「さ、さ、2人共、受け取ってくれ。
 今から使い方を教えるよ」

 薬をリア達に配り、使用方法のレクチャーを始めるセドリック。

 これがあれば、格段に進みやすくなるのは確かだ。
 ……むしろこんなのがあるならさっさと出せとも言いたくなるが、向こうの好意で提供してもらった以上、文句は言えない。

(……薬の効果も無制限じゃないしね。
 使うタイミングを伺ってたのかも)

 一応、プラスの方向で考えてみる。
 そんな彼女に、セドリックはふふんっと鼻をならして話しかけてきた。

「どうかね。
 これでも私は足手まといと?」

「――前言は撤回するけど。
 でも分かってんの?
 足手まといとかは置いておいても、凄く危険なのよ?」

「なぁに、店長ほどではないが私とて修羅場は何度も経験している。
 これくらいどうってことないさ。
 それに、マジックアイテムならまだ持っているしね。
 なに、邪魔になったら置いて行ってくれればいい」

 そういうことなら大丈夫、だろうか?
 悩みどころでもあるが、リアは彼の同行を了承したのだった。






 リア達が街を進んでいる頃。
 黒の焔亭での騒動も、収まろうとしていた。

(……我々の負けか)

 室坂陽葵の追手として差し向けられた魔族――カマルは、心の中でそう認めた。
 たった一人の人間が、自分達を相手にここまでやるとは。

(或いは、1対1ならば遅れを取ったかもしれんな)

 “血塗れになって倒れた”この店の店長を名乗る男へと、魔族はそんな称賛を心中にて送る。

 この男を倒すのに時間がかかり過ぎた。
 今から陽葵を追うのは、もう無理だろう。
 つまり、目の前で倒れ伏している人間は、目的を達したわけだ。

(彼らがバール様の追手を振り切れるとも思えんが……
 それがしはもうお役目御免か)

 拠点へ戻るため、踵を返すカマル。
 だが――

「ざっけんなこらぁあああっ!!!」

 そんな叫びが聞こえ、足を止める。
 声の出どころを見れば、カマルと共に行動していた魔族――ジンバだった。

「ちくしょうが!!
 人間風情が!!
 手こずらせやがってよぉおおっ!!!」

 目を血走らせて怒号を飛ばすジンバ。

(ふん、いつもの癇癪か)

 カマルはそんな彼に冷たい目線を送った。
 奴はよくよくこんな状態に陥る。
 精神が未熟な証拠だ。

「雑魚のくせにっ!!
 雑魚のくせにっ!!
 魔族様に立てつくんじゃねぇっ!!」

(……自分を苦しめた相手を雑魚と罵るのか)

 それは己の力量をも貶める行為だと、ジンバは気付かない。

(短慮――実に短慮)

 呆れてかぶりを振るカマル。
 まあ、それをいちいち指摘してやる義理もない。
 奴とことを構えても、ただ面倒なだけだ。

 そう考えて無視を決め込んだのだが――ジンバの行動はさらにエスカレートした。
 最早意識も無い人間の男に蹴りを入れ始めたのだ。

「おいっ!
 なんとか言ったらどうだっ!?
 ああっ!?
 なんとか言ってみろやぁっ!!」

 これにはカマルも見咎めた。
 ジンバへと警告する。

「おい、その男死ぬぞ」

「死んだらどうなるってんだ!?」

「お前が処罰を受ける。
 某がお前を庇うとでも思っているのか?」

 カマルが仕える魔族――バールからは無用な殺しはするなと言い渡されている。
 ここで、人間の男を殺すことに意味があるとは思えない。

「……ちっ」

 頭が冷えたのか、ジンバが動きを止める。
 最後に一度、人間を蹴ってから、苦々しい表情で出口へと向かった。

「――て、店長!」

 カマル達が扉をくぐろうとしたところで、背後から声が聞こえる。
 この店で働くウェイトレスだった。
 この騒動の中、どうやら逃げずに隠れていたらしい。
 倒れている男へ駆け寄り、手当を施そうとしている――が。

「……へへっ」

 隣から、ジンバの下卑た笑いが聞こえた。
 奴は取って返し、人間の女へと近寄る。

「おい、そこの女ぁっ!」

「――え?
 ……ひっ!?」

 魔族が戻ってくると思わなかったのか、男に包帯を巻く手を止め、怯えだす女。

「この人間はな、魔族である俺に散々歯向かいやがったんだ。
 お前、こいつの部下なんだろう?
 ……責任とってもらおうじゃねぇかっ」

 言うや否や、ウェイトレスを床に押し倒すジンバ。
 そして力任せにびりびりと服を破く。

「い、いやぁぁあああああっ!!?」

 女は悲鳴を上げるが、ジンバに抑えつけられて身体を動かせないでいる。
 奴は女の裸を上から下までじろじろと眺め、

「へっ、まあ悪くない身体だ。
 光栄に思えよ?
 今から俺がお前に魔族の胤を注いでやる」

「い、いや、いやっ!
 止めて下さい、止めて下さいっ!!」

 涙を流しながら、必死に許しを請うウェイトレスの女。
 だがジンバはその声を鬱陶しく感じたのか、

「……うるせぇよ」

「あぐっ!?」

 女の顔を殴りつけた。
 十分加減した一撃ではあったが、女を恐怖に駆り立てるには十分だったようだ。

「ひっ……ああっ……」

「いいぞぉ、そそる顔するじゃねぇか。
 人間ってのはこうじゃなきゃな」

 見かねてカマルは声をかける。

「おい、ジンバ」

「あっ!?
 なんだよ、別にいいだろうが、これ位!
 殺したりはしねぇよっ!!」

 ジンバは女の頭を掴み上げる。
 顔色が蒼白になった女に対し、荒げた声をかける。

「お前だって嬉しいだろうっ!?
 魔族様に犯して貰えるんだ!
 嬉しくてたまらねぇだろう!?」

「あ、あ……ううぅ……」

 ウェイトレスはただ顔を引きつらせるばかり。
 見れば、股間からちょろちょろと液体が零れていた。
 余りの恐怖に失禁したらしい。

「嬉しいだろうっ!!
 まさか嬉しくないとでも言うのかっ!!?」

「ひぃっ!?……う、うう、嬉しい、です……」

 無理やり女に言葉を強制する。
 だが、ジンバはまだ不満のようで。

「ああっ!?
 よく聞こえねぇよっ!!」

「う、うれしい、ですっ」

「嬉しいなら感謝しろこらぁっ!!
 礼もまっとうにできねぇのかてめぇっ!!」

「あっ、ひっ……うれしい、ですっ……私を、犯して、くださる、なんて……あ、ありがとう、ございますぅっ!」

 涙を流しながら、女はそう言い切った。
 そこまでさせて、ようやくジンバは満足そうに頷いた。

「聞いたか、カマル?
 こいつは俺に犯されたくて仕方ねぇってよ!
 はっ、浅ましい女だぜっ!
 まるで盛りのついた雌犬だな!」

(……浅ましいのはどっちだか)

 まあ、殺すつもりが無いというのであれば、止める云われは無い。
 彼女を助けてやる義理も当然ながら無い。

 カマルが無反応でいるのを、無言の肯定ととったのか、ジンバはズボンを脱いで自分の性器を取り出した。

「――え?
 あ、ああぁぁ……」

 ジンバの肉棒を見て、顔を歪ませて絶句するウェイトレス。

 それもそのはず、ジンバの“それ”は、尋常でなく『巨大』なのだ。
 太さは成人男性の二の腕ほども有り、長さはそれを超える。
 巨人族の女でもなければ、これを受け入れることなどできないだろう。

「嬉しくて声もでねぇか。
 へっへっへ、運がいいなぁ、お前。
 こいつに貫かれて、堕ちなかった女はいないんだぜ?」

「……壊れなかった女はいない、の間違いだろう」

「へ、似たようなもんだろ?」

 カマルの指摘など気にもせず、ジンバは己の男棒をウェイトレスの女性器に添えた。

「あ、あ……む、り……そんな、の……はいら、ない……」

 女は震える声で拒むが、そんなものをジンバが聞き入れるわけがなかった。

「あ? やる前から無理とか言ってんじゃねぇよっ!
 自分の可能性を信じろって――なぁっ!!!」

 ジンバはウェイトレスの身体をがっしりと掴み、渾身の力を込めて彼女の膣内へ愚息を突き挿れた。

「ぎぃやぁぁああああああああっ!!?」

 まるで腹を貫かれたような――比喩になっていないかもしれないが――絶叫が女の口から迸った。
 どれ程の力をかけたのか……ジンバの巨大な男根は、根本まで女の性器に埋まっている。
 その代わり――と言っていいのか、女の腹は奴の肉棒の形が分かるほど歪に膨らんでいた。

「へへ、ほら、どうだ。
 ちゃんと入るだろう?」

 そう言うと、腰を振り出すジンバ。
 ウェイトレスの股間から、びちゃびちゃと血が滴り落ちる。
 ……膣内が裂けたか、或いは子宮が破裂でもしてるのだろうか。

「ぐぇっ…げぇっ…がっ…おごぉっ…」

 とても性交しているとは思えない声で女がうめく。
 まあ、彼女からしてみれば拷問を受けているのと大差ないのだろうが。
 ……従順にしていれば止まる拷問の方が、まだマシかもしれない。

「よく締め付けてくるなぁ?
 そんなに俺のは気持ちいいかっ!」

「…おげぇっ…あがっ…げっ…げぇえっ」

 ジンバはご満悦にピストンを続ける。
 奴のイチモツの太さなら、どんな女の膣であってもきつきつになるだろう。

「へっへっへ、褒めてやるぜ、人間の女!
 お前はなかなかいい具合だっ!
 もう射精しちまいそうだぜ!!」

「あ、がぁっ!…ぐげっ!…がぁっ!…がぁあっ!」

 激しく腰を振り出すジンバ。
 女から漏れる苦悶も、より大きくなる。
 奴は自分の男根をさらに奥へと押し込むと、

「おらっ、イクぞっ!
 有り難く受け取れっ!!」

「あぎゃあああああああああああああっ!!!!」

 絶頂の声――というより、断末魔の悲鳴をあげる人間の女。
 瞳は白目をむき、口からはごぽごぽ泡を噴き出し、膣口からは収まりきらなかったジンバの精液が流れ出ている。
 びくびくと痙攣を起こしているので、死んではいないようであったが。

「さぁて、そんじゃ、二回戦行ってみるか!」

 そんな女の状態が見えていないのか――見えていても配慮する気が無いのか。
 ジンバはまた腰を振り出した。
 ……女はもう苦しむ余力すらないようで、ぐったりとしたまま奴に身を任せている。

「おい、ジンバ」

「あんだよ、カマル!
 お前も混ざりてぇのかっ!?」

「……願い下げだ」

「だったら黙ってやがれっ!」

 こちらは振り向きもせず、ジンバは行為に勤しんでいる。
 そして――

「――げはっ!?」

 首に、剣が突き立てられた。
 やったのは、ジンバの背後に立つ――先程まで倒れていた、人間の男だ。

「うちの、従業員に……なんてことしやがんだ、こらぁっ!!」

「げっ!…うごっ!…あぎっ!…がぁああっ!!?」

 喉元にまで貫通した長剣をぐりぐりと捻り上げる男。
 今度は、ジンバが断末魔の悲鳴を上げる番だった。

 ……しばし呻き声を立ててから、ジンバはその場に倒れ伏せた。

(――死んだか)

 いかに魔族といえど、これだけの傷を負えば生命の維持はできまい。

「……お前の後ろに人間が立っている、と伝えたかったのだがな」

 カマルはそう独り言をこぼす。
 その報告をジンバ自身が拒んだのだ、自業自得だろう。
 短慮で浅はかな魔族は、最後まで短絡な様を見せつけ、その生涯を終えた。

「……相棒は倒れたぜぇ?
 次はお前が相手すんのかい?」

 ふらふらになって足元が覚束ない人間の男が、剣をこちらに突き付けながらそう言う。
 今、この男を殺すのは容易い……が、カマルはそれをせず、ただ首を横に振った。

「そのつもりはない。
 お前の勝ちだ、人間」

「へ、そうかよ。
 こっちはまだまだ……やれるってのに、な……」

 その言葉を最後に、人間の男――確か、ゲルマンとか言ったか――は崩れ落ちた。






 一方、リア達はあともう一息で冒険者ギルドに辿り着くところにまで迫っていた。
 目的地まであと一歩ではあるのだが……

「なんなのよ、もう……」

 リアは愚痴を零す。
 ギルドへの道にはどこもかしこも魔族が張り込んでいた。
 しかも常に二人一組で行動し、さらにご丁寧なことに魔業で知覚を徹底的に高めて周囲を警戒している。
 これでは『ワインドの秘薬』で姿を消しても、気付かれてしまう可能性が高い。

「ど、どうすっか……」

「むむぅ……」

 陽葵とセドリックも途方に暮れるばかり。
 見張りの魔族に気付かれないギリギリのところで物陰に身を潜めながら、3人は頭を悩ませていた。

 そうこうしてる内に、リアはあることに気付いた。

「……ん、あれって煙?」

「火事でもあったのかね?」

 彼女の言葉に、セドリックが反応する。

 今リア達がいる場所からはかなり離れた場所から、確かに煙が上がっていた。
 セドリックが言う通り、火事でも起きたのかもしれない。

(……まあ、今のあたし達はそれどころじゃないんだけどね)

 そう考え、頭から煙の件を離すリアであったが、今度は陽葵がそれに食いついた。

「……あそこって、ボーさんのお店だ!」

 ボーさん――黒田がよく使っているという武器屋の店主のことだろうか。

「……もしかして」

 何かに気付いたように、陽葵が独りごちる。
 そして、焦った口調でリアに話しかけてきた。

「……な、なぁリア。
 他に煙が上がってる場所ってあるかな?」

 それを聞いて、リアは改めて周囲をよく見渡す。

「……言われてみれば――幾つか煙が上がってるみたい」

「ど、どこから出てる!?」

「えっと、あそこと――」

 煙のある場所を指し示すリア。
 聞く度に、陽葵の顔色が悪くなっていく。

「そこは――ジャン達の宿だし、あっちは――アンナの店、か?
 それとあそこも――」

 どうやら、煙の立っている場所は、全て陽葵の知り合いに関連する場所のようだ。

「まさかあいつら、オレが行ったことある場所全部に追手を仕向けたんじゃ……」

「……かもしれないわね」

 リアは苦々しい顔で頷く。
 バールは、それ位やってもおかしくない。

 そわそわとし出した陽葵に、セドリックが釘を刺した。

「――まさかと思うが、助けに行こうなんて考えちゃいないだろうね?」

「で、でも!」

「彼らの目的はあくまで君達なのだろう?
 なら、君達が無事に逃げおおせれば、彼らが暴れる理由はなくなるはずだ。
 ……ウィンガストには多くの冒険者がいる。
 いくら魔族でも、ここで無用な騒動を起こす気はないだろう」

「……あ、ああ。
 分かったよ、おっさん」

 セドリックの説教に、陽葵は落ち着きを取り戻していった。
 その様子を見て、セドリックはふうっと息を吐く。

「さて、そうとなればここを早く突破しなくてはね」

「早く突破と言ったって……何か策でも思いついたの?」

「策という程いいものでもないがね。
 私が彼らの注意を引き付けるから、その間に通ってくれないか」

「――え」

 平然と言い放つセドリック。
 リアは一瞬言葉に詰まってしまった。

「しょ、正気なの!
 そんなことしたらあんた――」

「他に方法があるかね?
 こうしている間にも、魔族はこの街で暴れているようでもあるし。
 なぁに、黒の焔亭に来た魔族が言っていただろう?
 『無用な殺しはしない』ってね」

 セドリックは、本気のようだった。
 覚悟を決めている。

 ……それでも、リアは迷った。
 殺されない保証などどこにもない。
 仮に殺されなかったにしても、“悲惨”な仕打ちを受けるのは目に見えている。

「優先順位を間違えてはいけないよ、リアちゃん。
 君の目的はヒナタ君をギルド長の下へ届けることだろう?」

 迷うリアへ念を押してくるセドリック。
 ……彼女は、観念した。

「――分かった。
 お願い、セドリック」

「心得た。
 魔族が注意を逸らしたら、姿を消して先へ進んでくれたまえ」

 言うと、物陰から出ていくセドリック。
 その後ろ姿に、陽葵が声をかけた。

「お、おっさん!」

「なんだい、ヒナタ君」

「……ありがとう」

 頭を下げる陽葵。
 セドリックはそんな彼に何も言わず、ただ親指を一本立てて答える。
 ――その姿は、分不相応な程に、決まっていた。

 そして、見張りをする二人の魔族へと、セドリックが向かっていく。
 リアの耳に、彼らの会話が聞こえた。

 「おい、君達!!」

 「……ん?」

 「……なんだ?」

 「なんだはこちらの台詞だよっ!
  ここはウィンガスト――人間達の街だよ!?
  君達みたいな薄汚い魔族にうろつかれちゃ気分が悪くなるだろう。
  早々に消え失せてくれないかね!」

 「……喧嘩を売ってるのか?」

 「魔族に売るようなものがあるものかね!
  人間様に聞く口ってのを分かっていないようだな、君は!
  ああ、すまん、低俗な魔族に人間様の言葉は高尚過ぎて理解できないかな?」

 「――貴様」

 「死にたいようだな」

 露骨な挑発に、あっさりひっかかる魔族達。
 たちまちセドリックへの袋叩きが始まる。
 情けない悲鳴を上げつつも魔族への罵声を途絶えないセドリック。
 次第に魔族達はヒートアップしていった。

 ……そろそろ、頃合いだ。

「行くよ、ヒナタ」

「おうっ」

 『透明薬』を身に振りかけて姿を消し、リアと陽葵は魔族達の横を通り過ぎていった。
 魔族は、小生意気な人間を嬲るのに集中し、こちらに気付かない。
 ……作戦通りだ。

(――!)

 ちらりとセドリックを見れば、彼は魔族によって見るも無残な姿に成り果てていた。
 顔は腫れ上がり、歯は折られ、腕や足は変な向きに曲げられている。
 ……だが彼は、それでも魔族への挑発を止めなかった。

(ああ、もう!
 店長といいセドリックといい――こいつら、いつもはクズな癖に、なんでいざという時に格好つけんのよ!!)

 そんな怒りを胸中に抱きつつ。
 リアは冒険者ギルドへの道を急ぐのだった。



 第十三話⑥へ続く
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