社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

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第十一話 搾乳のススメ

① ローラさん・エレナさんの場合

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■基礎編

「と、いうわけで母乳ですよ、ローラさん」

「何が“と、いうわけ”なんでしょうか…?」

 私の言葉に、ローラさんは苦笑いを浮かべた。

 ここはローラさんの魔法店の私室。
 陽が落ちてから大分経ち、もうお店は閉店している。
 その日の迷宮探索(という名前の陽葵さんの教育)を終えた私は、ローラさんに会いに来たのだった。

「まあまあ、とりあえずこの薬を飲んでは頂けませんか?」

 まずは母乳を搾るための下準備。
 女性を乳が出る身体に変える、母乳薬(勝手に命名)をローラさんに渡す。

「……この薬を飲めと…?」

「はい、ぐいっと言って下さい」

 私の言葉に、ローラさんは神妙な顔つきになり、

「……分かりました」

 目を閉じて頷いた。
 そのまま、何か祈るような姿勢をとる。

「……ローラさん、何を?」

「……いえ、今までお世話になった方々に感謝の祈りを」

「何故に!?」

 どうしてそんな、これから死ぬかのような行動を!?

「え、だってこの薬、人を心を壊す類のものなんでしょう?
 女性を人形に変えるみたいな」

「違いますよっ!?」

 物騒なことを言い出すローラさんに、全力で突っ込みを入れる。
 どうして私がそんな危険物を彼女に渡すなんて考えるのか。

「あのですね、この薬はローラさんから母乳が出るようにするための薬でして」

「母乳、ですか?」

 ローラさんが聞き返してくる。

「はい、それでその、ローラさんから出たミルクを飲んでみたいというか、味わってみたいというか」

 自分でこれからするプレイの内容を説明するのは思いのほか間抜けな気がした。
 それはさておき、ローラさんは私の台詞を一通り耳にしてから、改めて口を開く。

「……クロダさん」

「はい」

「――言い繕わなくても、大丈夫ですよ?」

「だから変な薬じゃないんですっ!!」

 母乳が出るようになる薬は変じゃないというわけでも無かろうが。
 ローラさんの疑念は、私が考えている以上に根深いようだ。

「私、クロダさんが言うなら、別に――」

「ローラさんネガティブ!?
 ちょっと、今日ローラさんネガティブすぎやしませんか!?
 何がローラさんを変えたんですか!!」

 仮にもし私がローラさんにそんな危ない薬を飲もうとさせても、そこは毅然と拒んで頂きたい!
 いや、万に一つもそんなことしないけれども!

「……最近、私が壊れるようなことばかり要求してくる人がいるんです」

「…………申し訳ありません」

 とりあえず、謝り倒してどうにか納得して頂いた。



「……なんだか、気分が落ち着いてきますね」

「そうなのですか?」

 今、ローラさんは私室の椅子に座り、ゆっくりと休んでいる。
 彼女に母乳薬を飲んで貰ってからかれこれ1時間。
 説明書によれば、そろそろ薬の効果がでてくる頃合いだ。

「ええ、リラックス効果もある薬みたいです。
 そういう用途にも使えるかもしれないですね」

「ほほう」

 母乳薬にそんな副効果が。
 対象の気を鎮め、よりミルクの出やすい精神状態にしているのだろうか。

「これは何の効果でしょう……ライル草? それともペイクハーブでしょうか?」

 ローラさんが首を傾げながら、聞いたことも無い薬草の名を挙げていく。
 彼女自身、マジックアイテムを作っているため、この薬の成分が気になるのか。
 職業病というやつだろう。

「……ん、なんだか胸が張ってきた気がします」

「本来の効果も出てきたようですね」

「はい……なんだか、むず痒い感じです」

「なるほどなるほど」

 私はローラさんの黒ドレスをずり下げて上半身を露わにした後、ブラジャーを外しておっぱいを露出させた。
 たわわに実った美しい二つの果実が、私の目の前に現れる。

「……確かに、いつもより張っているように見えますね」

「ま、まじまじと見られてそう言われるのはちょっと恥ずかしいんですけど……」

 頬を赤く染めて恥ずかしがるローラさん。
 彼女の胸を見るのはそう珍しいことではないのだが、女性としてそう簡単に割り切れはしないのだろう。

 私はローラさんのおっぱい全体を捏ね繰りながら、先端にある桃色の突起も指先でコリコリと擦る。

「んっ、あっ……ちょ、ちょっと、クロダさん……」

「どうでしょうかね、ローラさん。
 母乳、出そうですか?」

 胸を揉みながら、彼女へ尋ねる。

「……あっ……んんっ、はい、胸がきゅうっとしてきて……
 おっぱい、出そうです……」

 ローラさんは頷いた。
 ならば、と私は準備しておいた魔法の搾乳機を彼女の胸に取り付ける。

「あぅっ……ちょっと冷たいですね、これ」

「おっとすみません。
 辛いですか?」

「いえ、少し驚いただけです。
 ……続けて下さい」

「分かりました。
 では、スイッチを……と」

 私は搾乳機の動力を入れる。
 装置は問題なく動き出し、それに併せてローラさんの乳首が引っ張られるようにピクピクと震える。
 乳搾りが始まったのだろう。

「んんっ……は、うぅっ……」

「どんな調子です?」

「あ、んっ……乳首が、摘ままれてるみたいで……は、あぁぁ……で、出そう……んっ!」

 びくっとローラさんが身体を震わせたと同時に、彼女の胸の先端から白い液体が迸った。
 どうやら上手く搾乳できたようだ。

「ん、んんっ……なんか、変な気分です。
 母乳を搾られるなんて……あんっ」

「気分が悪かったりしますかね?」

「い、いえ……思ったより、気持ち良いです……ん、ん……
 そんなに、悪くない、かも……」

「それは良かった」

 このまま乳搾りしても大丈夫そうだ。

「ん、ん……でもクロダさん、こんなもの、どこから手に入れたんですか?」

「ああ、店長――黒の焔亭のゲルマンさんから譲ってもらったんです」

「……あの人、まだそういうことやってるんですね」

 ローラさんが深くため息をついた。

「お店のウェイトレスさん達が心配です……何をされていることやら」

「大丈夫ですよ、皆さん、なんだかんだで楽しくやっているようですし」

 店長のセクハラが嫌なら、とっくにあのお店を辞めているだろう。
 特段、給料が高いわけでも無し。
 それでも残っているのだから、あそこの従業員は皆ああいうことが好きな方々なのだと考えられる。

「……ナニかされていることは否定しないんですね」

「はっはっは……まあ、ゲルマンさんもそこまで酷いことはしませんから。
 心配ありませんよ」

「……そうだといいんですけど……ん、うぅっ……」

 搾乳の刺激で時折プルンとおっぱいを揺らすローラさん。
 なかなか淫猥な姿だ。



 そんな彼女と(搾乳は続けながら)しばし歓談していると、こんな提案を受けた。

「……クロダさん、直接、私のミルクを飲んでみませんか?」

「直接、ですか?」

 ――つまり、搾乳機無しで、ということか。

「はい……あっんっ……この、搾乳機を外して、クロダさんの口で、こう……
 ……だ、ダメですかね…?」

「いえ、素晴らしいことだと思います。
 是非やりましょう」

 私は即答した。
 当然だ、こんな申し出を受けて断る男なんてこの世に存在しない。

「では、失礼して」

 片方の搾乳機を外すと、ピンク色の乳頭が顔を出す。
 今まで母乳を搾られていたせいで、おっぱいの先端はミルクで濡れていた。
 私はなんの躊躇もせず、乳首へと吸い付く。

「あぁんっ!」

 搾乳機とは異なる刺激に、ローラさんが大きな嬌声を上げた。
 それと同時に、私の口の中には甘い液体が広がっていく。

「…………美味い」

 思わず口に出してしまった。
 そんな私の呟きを聞くと、ローラさんは顔を明るくして、

「ほ、本当ですか?
 ……んんっ……良かったです……は、あっんんっ……」

 自分のミルクを褒められたのが、それ程嬉しかったのだろうか。
 ともあれ、喜んでくれるのであればなおのこと、私の彼女から出てくる美味しいミルクを堪能するのだった。

「あ、あぁあっ……クロダさん……んんんっ……もっと、もっと、吸って下さい……」

 言われるまでもなく、私はローラさんのおっぱいにむしゃぶりついている。
 濃厚で味わい深い乳が彼女からとめどなく流れ出てくるのだ。
 その味に、私はどっぷり嵌まってしまっていた。

「はぁあんっ……ふふふ、クロダさん……あ、うっ……私の母乳、いっぱい味わって下さいね」

 ローラさんが片手で私の頭を抱き締め、もう片方の手で頭を撫でてくる。
 その優しい手つきは心地良いのだが……この体勢はちょっと、その……

「あ、あの、ローラさん?」

「……どうしました、クロダさん?」

「えー、なんと申し上げましょうか。
 この姿勢はですね、少し恥ずかしい気分が……」

「え、そうですか?
 可愛いですよ、赤ちゃんみたいで」

 あ、この人確信犯だ。

「あ、んっ……うふふふ、よしよし、いい子ですねー、クロダさん」

 ローラさんはなおも、赤ん坊を抱くような手つきで私の頭を撫で続ける。
 うーむ、新しいプレイだ。
 恥ずかしいながらも、どこか気持ち良さを感じている自分もいる。
 幼少の時分を思い出しているのだろうか……

「あぅうっ!? クロダさん、ちょっと……つ、強いっ……あんっ!」

 私の己の欲求に従って、ローラさんからおっぱいを思い切り吸い上げた。
 吸えば吸う程、濃厚なミルクが私の舌を楽しませてくれる。

「ああぁぁあっ! はぅううっ! ダメ、私、感じちゃって……んんんぅうっ!」

 私はまるで、母乳中毒にでもなったかのようにひたすらローラさんの乳首をしゃぶり続ける。
 彼女は悶えながらも、私を強く抱きしめてきた。
 まるで、もっと吸って欲しいと言わんばかりに。

「あっあっあっあっ! すご、いっ……んんっあっあぅっあぁぁっ!」

 ただ吸い付くだけでなく、舌で舐めたり歯で甘噛みしたりと刺激に緩急をつける。
 ローラさんの喘ぎは段々と高くなり、彼女の昂りを私に伝える。

「あ、ああああああっ! おっぱいでイクっ! あああっ!! 私、おっぱいでイっちゃいますっ!! あああああっ!!」

 ローラさんの身体がのけ反る。
 彼女が言うように、絶頂が近いのだろう。

 ――私は乳首にカリっと強く噛付いた。

「あっ、あぁぁぁああああああああっ!!!?」

 身体を震わせながら、ローラさんは絶頂した。
 同時に、私の口の中にびゅくびゅくと彼女のミルクが注がれたのであった。



「さて、十分楽しみましたし、搾乳を続けましょうか」

 ローラさんが絶頂から立ち直ったのを見計らって、私はそう言った。

「……あの、ずっと母乳を出してたからなのか、少し身体がだるいんですが……
 今日はもう終わりにしませんか?」

「おや、そうだったのですか」

 身体に不調が出たとなれば、このまま続行することはリスクが大きい。
 とはいえ、中途半端なところで搾乳を終わらせることにも問題があり――

「……しかし困りましたね。
 薬を飲んだ分きっちり搾っておかないと――」

「おかないと?」

 私の言葉にローラさんが反応する。
 少し溜めてから、私は言葉を続けた。

「――薬の副作用で太るそうです」

「全部搾って下さい」

 即答だった。

 やる気になってくれたのであれば話は早い。
 私はローラさんを縄で椅子に縛り付け、搾乳の準備を改めて整えた。

「……あ、あれ?
 なんで私を縛るんですか?」

「いえ、こうしておかないと装置やローラさんの身に危険がありそうですので」

 不思議な顔をして疑問を呈すローラさんに、簡単な説明をする。
 だが彼女はそれで納得いかなかったようで。

「すいません、何をするつもりなのか具体的に教えて下さい」

「ゆっくり搾乳していると時間がかかりすぎますから、最大出力で搾って短時間で終わらせようかと」

 もっと具体的にこれから何をするのか説明した。
 それでもローラさんは、縛られた意味が分からなかったらしい。

「……そ、そうなんですか。
 でもそれとこれと何の関係が……?」

 どうも上手く伝わらない。
 ……まあ、上手く伝わってしまうと本気で抵抗されるかもしれないので、態とぼかしているわけだが。
 しかし、このまま何も分からない状態というのは少々申し訳ない。

「ヒントその1。
 これまでの搾乳の強さは最弱設定です」

「―――え?」

 私の言葉に、ローラさんは絶句した。
 彼女があれこれ言い出す前に、私は装置のスイッチに手をかけ、

「では行きますよ、しっかり心を保って下さいね」

「ちょ――待って! 待って下さいクロダさんっ!
 ていうか、この薬やっぱり私を壊すための代物ってことで間違ってな――」

「出力全開!」

 ――部屋にローラさんの絶叫が響き渡った。



 それから小一時間。
 ローラさんは今、寝室で眠っている。

「……恐ろしい装置だ」

 先程の光景を思い出して、私は独りごちる。

 ローラさんは、装置による強烈――という言葉でもまだ足りないような搾乳を受け、失禁しながら失神した。
 口からは泡も吹いて、長い黒髪を振り乱しながら気を失うまで散々に暴れ続け……それはもう凄い有様であった。
 縄こそ解けなかったものの、縛り付けた椅子ごと転げ回ったため、余り意味は無く。
 彼女の尿や愛液、涎、その他諸々、様々な体液が部屋のあちこちに飛び散る羽目になった。

 私は部屋の掃除と彼女の看護を終え、今に至るわけである。
 ――おかげで、母乳はきっちり搾りきれたようだが。

「………く、クロダさん」

 ふと、ローラさんの口から言葉が漏れた。
 私は慌てて彼女に駆け寄る。

「お、おお、ローラさん、目が覚めたんですね!?」

 彼女はゆっくりと目を開き、私をじっと見つめながら――

「……こんな、生殺しにするくらいなら……一思いにやって下さい……」

「いや、あの、本当に申し訳ありません……」

 私は全力で謝り倒したのだった。




■応用編


「かんぱ~い!」

 私達はその掛け声とともにコップを掲げ、中の飲み物を飲み干した。

 所変わって日も変わり。
 ここは私の自宅のリビング。
 そして今部屋に集まっているのは、

「ぷは~、美味い!
 いや、すんませんね、クロダさん。
 こんなご馳走用意して貰っちゃって!」

 ジャンさん。

「……顔見せするだけだと思ってたのに……ここまでしてくれるとは」

 コナーさん。

「んんー、何よりもまずクロダ君がこの料理を作ったという事実がまず信じられないんだけどねー」

 エレナさん。
 今日は半袖のブラウスにミニスカートという出で立ち。
 セミロングの黒髪は、ポニーテールのように結えてある。

「お前って、割と色々こなすよなぁ」

 陽葵さん。
 いつも通り、Tシャツにショートパンツの格好。
 ちなみに、最近の彼の普段着は、東京から着てきたものではなくウィンガストで購入したものだ。
 だんだんとこちらの生活に慣れてきたのが伺える。

「お褒めいただいて何よりです。
 さあ、遠慮せず頂いて下さい」

 そして私の5人だ。

 何故私達が一堂に会しているのかと言えば。

「うん、お前が一緒にパーティー組む人を紹介するって言ってきたときはどんな凄いのが来るか心配だったけど……良い人達だな」

「……私にどんな印象を持ってるんですか。
 私はともかく私の知人は真っ当な方々ばかりですよ」

「はっはっは、悪い悪い」

 そう、私と陽葵さんは一時的にジャンさん達のパーティーに入らせて貰うことになったのだ。

 ここ数日、陽葵さんとのワンツーマンの授業を行ってきたわけだが、将来のことを考えればパーティー行動についても学ぶ必要がある。
 まさかずっと私と二人きりで探索を続けるわけにもいかないだろう――それはそれで嬉しい未来像ではあるが。
 そこで一緒に探索させて貰えないかジャンさんにお願いしたわけだ。

 このちょっとした宴会は、顔合わせのため企画したものだったりする。

「しかし感激だなぁ。
 短い期間とはいえ、クロダさんとパーティーを組めるなんてさ。
 しかも、こんな可愛い子とまで」

「……男の子だけどね」

 ジャンさんから私へのリスペクトは相変わらずだった。
 そこまで尊敬する要素は私に無いのだけれども。

 それとコナーさんからのつっこみで分かるように、陽葵さんの性別については既に説明済みである。

「んんー、何ー?
 ジャン君ってば、そういう趣味の人だったのー?」

「そ、そんなわけがないだろう!?
 エレナ、お前変なこと言うなよ!」

「……最初、鼻の下を伸ばしてたけど」

「コナーっ!?
 エレナに乗っかるな!!」

 確かに陽葵さんを最初に見た時のジャンさんの食いつきは凄かった。
 男だと分かったときの落ち込みようも。

「え、ジャンってホモなのか?」

「ヒナタ!
 こいつらの言うことを真に受けるな!!
 俺は至ってノーマルだ! ノーマルなんだ!!」

 二度繰り返したところにジャンさんの葛藤が見え隠れしている気がしないでもない。
 しかし前にも言ったが、寧ろホモな人は陽葵さんはストライクゾーンの外にいる気がする。

「……まあ、ヒナタが男ってことに驚いたのは僕もだけど」

「はぁ? オレが女って?
 お前らどういう目しているんだよ」

 コナーさんの呟きに陽葵さんは苦笑い。

「言いたくないけど、極めて正常な目ではあるよね。
 ヒナタ君を一発で男って分かる人なんて、いないんじゃない?」

「えー、そうかー?
 東京じゃそんなことも無かったんだけどなぁ……ウィンガストだと少し人の見方が変わってるのかな?」

 エレナさんの突っ込みもどこ吹く風。

「……陽葵さんの周りの方々は、最大限に陽葵さんを気遣ってくれたのですね」

「すげぇな、トーキョーの連中」

「……うん」

「それがヒナタ君のためになってるかどうかは別としてねー」

 私の発言に、3人は3人なりに同意を返してくれる。

「……??」

 そんな私達を見て、首を傾げるばかりの陽葵さん(可愛い)。
 彼に私達の想いは伝わっていないようだ。

 一瞬訪れた間を破るように、ジャンさんはコップのお酒を一気に飲み干してから、

「……ふー、でも今更なんだけどさ、俺らでいいのか?
 いくら駆け出しとはいえ、<訪問者>の冒険者なんて、もっと上の方の連中から声かかったりするだろ?
 ――あ、おかわり貰えるか?」

 話題を変えてくる。
 確かに、もっともな疑問ではあるだろう。

 エレナさんが少し震える手でジャンさんにアルコールを注ぐのを見ながら、私は答える。

「……あー、それはですね。
 陽葵さんの職業がちょっと問題と申しますか…」

「は?」

 ジャンさんが怪訝な顔をする。
 そこへ陽葵さんが言い難そうに。

「……オレ、<勇者>なんだ」

「…………」

「…………」

「…………」

 今度こそ、場を静寂が支配した。
 <勇者>が如何に“外れ”な職業なのか、3人共知っているようだ。

「え、えーと……で、でもヒナタは<訪問者>だろ?
 適性が高ければ<勇者>でも何とか……」

「……<訪問者>なら、冒険者適性高いは高いよね」

 ジャンさんとコナーさんが何とかフォローを入れるけれど。

「ははは、オレ、<戦士>の適性はCでさ……」

「「――え」」

 二人は声を詰まらせる。
 Cという適性はウィンガストの住人基準であれば低くないが、<訪問者>の平均を下回る値。
 ジャンさんとコナーさんが驚くのも無理はない。

 絶句する二人を押しのけ、今度はエレナさんが疑問を呈す。

「んー、ヒナタ君はさ、何で<勇者>なんて選んじゃったの?」

「……<勇者>という言葉の響きに憧れちゃって」

「……ほ、ほう」

 エレナさんのこめかみがピクピクっと動いた。
 それでも彼女は陽葵さんへの質問を続け、

「……ちなみに、他の職業の適性は?」

「……<盗賊>と<僧侶>がAだったかな」

「…………」

 エレナさん、沈黙。
 その後、大きく深呼吸をしてから。

「<盗賊>や<僧侶>がAって、黙ってても上位パーティーから声かけられるレベルじゃん」

「うぐっ!?」

 呆れたようなエレナさんの台詞に、陽葵さんはショックを受けたようだ。
 ――まあ、命がけで探索をしている人達にとって、これは許されざる失敗ではあるだろう。

 とは言ったものの。

「すみません、この件に関して責任は私にあります。
 説明を失念しておりまして……」

 3人に頭を下げる。
 それを見て、ジャンさんが慌てたように声を上げた。

「いやいや、別にクロダさんが謝るような話じゃないだろうっ!
 それにほら、冒険者ランクがCになれば転職できるんだし!」

「んん? 基本職を変える転職はBからだよ?」

「……Bになればできるんだからっ!!
 問題なしっ!
 Bなんてすぐさ、すぐっ!!」

「ボク達まだEだけどねー」

「なんでお前はいちいち揚げ足とってくんのっ!?」

 ジャンさんとエレナさんの夫婦漫才が繰り広げられる。
 陽葵さんもそのやりとりで大分気が楽になった様子。

「あはは、ありがと。
 オレも頑張るよ」

 そう言って、陽葵さんは3人ににっこりと微笑みかけた。

「………お、おう」

「………ま、任せといて」

 ジャンさんとコナーさんが少しどもりながら返事する。
 陽葵さんの笑顔は、二人にとって余りに破壊力が大きすぎたようだ。

「んんー?
 ジャン君? コナー君?
 なんで顔が赤くなってるのかなー?」

 エレナさんが笑顔でジャンさんとコナーさんに問いかける。
 但し、目は全く笑っていない。

「あ、あれぇ!? 俺赤くなってるか!?
 あー、ちょっと飲みすぎちゃったかな!
 なぁ、コナー!?」

「……このお酒、美味しいしね。
 ……ブランデーを、牛乳で割ったカクテル?」

 少々無理やりな感も出しながら話題転換し、二人はお酒を一気に飲み干す。

「……!!」

 その光景を見て、エレナさんが一瞬身震いするのを私は見逃さなかった。
 もっとも、気づいたのは私だけだったようだが。

「く~、やっぱ美味いねぇ!
 ……でも牛乳のお酒とかあんま聞かないよな。
 これってクロダさんの趣味なのか?」

「はい、ちょうど良いミルクを手に入れましたので、皆さんの振る舞おうかと」

 ジャンさんの質問に答える私。
 彼はそれに納得したようで、

「へー、言われてみれば確かに普通の牛乳に比べて味違うような。
 濃厚というか、味が深いというか…」

「……うん。
 ……どこの牧場から仕入れたの?」

「牛乳じゃないような気もするんだよなー。
 ヤギのミルクとか?
 オレ飲んだことねーからヤギのミルクがこんなに美味しいのか分からんけど」

 ジャンさんとコナーさん、そして陽葵さん――3人共このミルクが気に入ったようだ。
 私も準備した甲斐があったというものである。

「ん、んん、ジャン君、そんなにそれ美味しい?」

「そりゃ美味しいさ……ひょっとしてお前、そんなでも無いのか?」

「ううん、ボクも美味しいと思う、よ?」

 エレナさんの唇が少し震えている。
 これも気づいたのは私だけ――かと思いきや、陽葵さんも感づいたようで。

「どうしたんだ、エレナ。
 調子でも悪いのか?」

「ん!?
 んん、いやー、全然平気だよ?
 もう調子良すぎて困っちゃうくらい!」

 白々しい程の作り笑顔で陽葵さんに対応するエレナさん。
 本人も誤魔化しが過ぎると思ったのか、続けざまに口を開く。

「いやー、でもヒナタ君は優しいねぇ。
 どっかの誰かさん達にも見習わせたいくらいだよー。
 んー、じゃあお姉さんがご褒美を挙げちゃおう」

 言って悪戯っぽく微笑むと、エレナさんはミニスカートの裾をひらりと捲る。
 黒タイツに包まれた彼女の太ももが露わになり――

「のわぁっ!?」

 ――咄嗟に陽葵さんは目を逸らしてしまった。
 実にもったいない。
 とはいえ、陽葵さんの位置からだとギリギリパンツが見えるか見えないか際どいところ。
 存外に計算されたスカート捲りである。

 ちなみに私は<屈折視>を使っているので丸見えだった――エレナさんの、びちょびちょに濡れた下着が。

「――お、おい、エレナ!!」

「なーにー?
 もう、せっかくだからちゃんと見れば良かったのにー。
 こんなサービスそうそう無いよ?」

 ジャンさんが注意をするが、それを素直に聞き入れるエレナさんでは無かった。
 彼は肩を竦めて、

「お前な、ヒナタをあんまりからかうなよ」

「んふふふふ、ごめんごめん」

 謝ってはいるが、エレナさんが反省していないのは誰が見ても明らかだった。
 もっとも、それを咎める人もまたいなかったが。
 ……まあ、可愛い女の子が扇情的な姿を見るのが嫌いな男などそうそういるわけが無いのだから、当然と言えば当然である。



 第十一話②へ続く
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