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第八話 ある社畜冒険者の新人教育 五日目
②! 陽葵さんの新技?
しおりを挟む――と、そんな風に私達が談笑していたところへ。
「む、魔物がやって来たようですね」
「ようやくかー。
へへ、腕がなるぜ」
通路の向こうから、溝色ねずみの集団が駆けてくる。
この階層に入ってから最初の遭遇だ。
「ひーふーみー……8匹ですね。
かなり頭数が多いようですが、大丈夫ですか?」
「ふっふっふ。案ずるな、問題ない」
「分かりました。お気をつけて」
私は陽葵さんを送り出す。
最弱レベルの魔物とはいえ数が数だ、少々手こずることになるだろう。
――昨日までの陽葵さんならば。
そう、今日の陽葵さんは一味違う。
昨日までの探索でLvが幾つか上がり、手に入れたスキルポイントで新たなスキルを習得したのだ。
既に覚えている<強撃>の熟練度を上昇させるという選択肢もあったのだが、最初は使い勝手のいいスキルの習得を優先した方がいいだろうという判断である。
今回覚えたのは<薙ぎ払い>という、その名の通り自分の周囲にいる敵をまとめて攻撃する武技だ。
上手く扱えば今回のような複数の敵に対して効率的に戦うことができる。
「行っくぜ!」
陽葵さんは自ら魔物の集団の中へと躍り出るや、早速<薙ぎ払い>を――
「……あれ?」
スキル発動に伴い彼の身体を淡い光が包むのだが、それは<薙ぎ払い>のものではなく……<強撃>?
「ちょっと、陽葵さん!?」
単体攻撃である<強撃>はこの場面に相応しいと言い難い。
陽葵さん、焦って使用する武技を間違えたか…?
「<強撃>!」
私の心配をよそに、陽葵さんは<強撃>の動作に入り――
「――と、<薙ぎ払い>!」
その直後に、<薙ぎ払い>を使用した。
「………え?」
思わず、驚きの声が漏れてしまった。
<強撃>と<薙ぎ払い>による二色の光を纏いながら、陽葵さんは群がる敵を文字通り薙ぎ払った。
<強撃>の斬撃を、<薙ぎ払い>の効果範囲へ。
――彼の周囲に旋風が巻き起こる…!
「………馬鹿な」
驚きの声その2。
魔物達は一掃されていた。
倒れた魔物は、片端から魔晶石へとその姿を変えていく。
「へへ、いっちょあがりっと!」
陽葵さんが満面の笑みを浮かべ(超可愛い)、私の方へ戻ってきた。
「どうよどうよ!
オレが考えた必殺技!
いやぁ、スキルのこと聞いたときから一緒に使えないかなって思ってたんだよねー。
以降、このコンボを『クサナギ』と呼ぶ!――なんちゃって」
クサナギとはまた御大層な名前を……いや、そうじゃなくて。
「あの、陽葵さん?」
「なに?」
「今、何を…?」
「何って、言っただろ。
スキルを組み合わせて発動したんだよ」
簡単に言わないで欲しい。
スキルとは、特定の効果を発揮させる一連の行動を自動で実行する――いわばプログラムのようなもの。
別種のスキルを同時に使えば、プログラム同士がかち合って、まともに発動することは無い。
……あるスキルの効果が持続中に別のスキルを使うことならばできるのだが。
(例えば<屈折視>の効果を受けながら<射出>を使用する、とかだ)
今の陽葵さんは、明らかに2つのスキルを同時に、しかも効果を掛け合わせて使っている。
これは尋常なことではない。
「……ひょっとして結構凄いことなのか?」
「かなり凄いことです。
少なくとも私は2種類のスキル効果を重ねて発動させられる人を見たことはありません」
或いは、勇者クラスの人間であれば可能な芸当なのかもしれないが。
流石は――の息子といったところか。
「おおおっ!
うすうす気づいちゃいたが、やっぱオレってすげぇ!?
へへへ、こりゃ最強の冒険者になる日も遠くねぇな!」
「ええ、おそらくは陽葵さんの特性によるものとは思いますが。
さしづめ、<多重発動>といったところでしょうか」
冒険者としての能力には、個人個人で異なる特性が発現することがある。
陽葵さんの場合、複数のスキルを同時に発動できる特性を持っているということなのだろう。
陽葵さんは嬉し気にニコニコ笑いながら、
「うんうん、いいね、その名前、気に入った。
よし、この『クサナギ』で一気に迷宮攻略を――」
「ああ、いえ、その『クサナギ』の効果自体は<旋風斬り>と同程度なので、それだけで迷宮攻略は厳しいですよ?」
「―――へ?」
今度は陽葵さんの目が点になった。
この、表情がコロコロ変わるところも彼の可愛らしい点である。
「………<旋風斬り>?」
「はい。
今、陽葵さんが使った<強撃>と<薙ぎ払い>の組み合わせは、<戦士>の中級スキルである<旋風斬り>と大凡同じものです」
「………そうなんだ」
がっくりと肩を落とす陽葵さん。
「凄い必殺技が手に入ったと思ったのに…」
「いやいやいや!
<旋風斬り>を習得できるようになるのは大分先ですし!
冒険者始めて数日で手に入るようなスキルじゃないんですよ!?」
はっきり言って落胆するようなことでは全く無い。
「そ、そうか?」
「そうですよ!
それに、今後もっと凄い効果の組み合わせが見つかるでしょうし!」
さらに言えば、それぞれのスキルの熟練度を上げることで、組み合わせた際の効果も上がる可能性が高い。
<多重発動>の特性には無限の可能性があると言っても過言ではない。
………本当、<勇者>なんて職業選ばなければ、あっという間にトップランクの冒険者になれたかもしれない。
「そうか……そうだな!
見つけてやるぜ、最強のコンボを!」
一瞬で気を取り直した陽葵さん。
うん、実にお得な性格をしている。
「んじゃ、この調子でどんどん行こう!」
「その意気です」
その数時間後。
「へへ、絶好調!」
陽葵さんは順調に魔物を倒し、次の階層へと歩を進めていた。
まあ、この辺りは<旋風斬り>(『クサナギ』)――を覚えた冒険者が苦戦するような階層では無いので、当然の結果ではある。
……そもそも陽葵さんの最高品質装備をもってすれば、手こずることすらあれ、負けることなどまずないわけだが。
「次が来ましたよ」
「おっしゃ!」
私はと言えば、完全に傍観者と化していた。
昨日までは大勢の魔物が来たときは手を貸していたのだが、今日はその必要すら無い。
そんなわけで、今は後ろから陽葵さんの様子を――ピチピチのボディスーツにローライズなホットパンツを履いた陽葵さんの様子をじっくり鑑賞しているわけだ。
<屈折視>と<感覚強化>を使えば、好きな角度から陽葵さんの肢体を見放題である。
ホットパンツから半分露出したお尻や、丈の短いタンクトップでは隠せない腰のくびれが躍る様はどれだけ見ても飽きることは無い。
陽葵さんが動くたびに弾ける汗も素晴らしい。
きっとあのボディスーツの下は、汗で蒸れ蒸れになっていることだろう。
是非中身を確認したいところだ。
「お、今度のはなんだか可愛いな」
「角兎の群れですね」
角兎――体長30~40cm位の魔物で、兎と名がついているが実際はリスと兎の相の子のような非常に愛くるしい外見をしている。
ペットにしたい魔物第一位に君臨していると専らの噂。
しかし油断してはいけない。
名前にあるように、角兎の額には鋭く長いツノが生えている。
兎のようにぴょんぴょんと跳ねながらの突撃攻撃によって深手を負った初心者冒険者は数多い。
とはいえ、今日の陽葵さんにとっては大した相手ではあるまい。
鋭いツノも、陽葵さんの防具を貫くほどのものでは無いし。
「この外見、ちょっと気が引けちゃうなぁ……」
「魔物に容赦は無用ですよ」
この愛くるしさも、角兎の武器といえる。
初めて応対した冒険者には、外見に戸惑ってしまう人も多いと聞く。
「それもそうだな。
じゃあ行くぜ!」
陽葵さんはこれまで同様、角兎達に突貫していく。
そして――
「『クサナギ』!」
気合一閃。
陽葵さんの剣によって巻き起こる旋風に、次々と角兎達は吹き飛んでいく。
「ふふーん、余裕余裕」
ドヤ顔を決める陽葵さん。
だが油断はよくない。
目測が甘かったのか、『クサナギ』の効果範囲を逃れた角兎が一匹いた。
「陽葵さん、後ろです!」
「んん?」
私の警告は間に合わず。
陽葵さんの後ろに回り込んだ角兎は、彼へとツノを向け突進した。
と、少し緊迫してみたものの、先述の通り角兎の攻撃程度では擦り傷かちょっとした打ち身がせいぜいなわけだけれど。
………せいぜいな、はずだったのに。
「あぁあああっ!!?」
陽葵さんの悲鳴が迷宮に木霊した。
「―――陽葵さん!?」
見れば、陽葵さんの身体に角兎のツノが突き刺さっている!?
そんな馬鹿な!
あの装備を貫けるような攻撃力を持っている魔物なんて、この階層にはいないはず。
それともあの角兎、通常よりも強力な攻撃力を持った特殊な個体だったか!?
「あっ……あっ……あっ……」
歯をガクガクと震わせながら、苦悶の声を漏らす陽葵さん。
その顔は上気して―――妙に色っぽい?
「あっ……うそ、こんな……おっ……おっ……」
「………??」
陽葵さんの言動に疑問を持った私は改めて彼をよく見てみた。
すると――
「………えぇえええ」
驚愕の事態に思わず声を出してしまった。
角兎のツノは陽葵さんの身体に突き刺さっているわけでは無かった。
いや、突き刺さっているには突き刺さっているのだけれど、場所がちょっと問題というかなんというか…
「おっ……おぉおおお……」
“異物の侵入”に、陽葵さんは喘ぎにも似た息を吐く。
……そう、ツノは陽葵さんのお尻に――尻穴にぶち込まれていたのだった。
た、確かに陽葵さんのボディスーツはかなり伸縮性に富んだ代物なので、ホットパンツの隙間からツノが入って的確な箇所に当たればこうなることもありえる――?
いやそんな無茶な。
どんな天文学的確率だ。
人に言ったら十人中十人に馬鹿にされるぞ。
……しかし、目の前でそれが起きた現場がある以上、いくら確率論的に否定しても意味がない。
この事態をなんとかしなければ……
「―――キュィ、キュィイイイイ!」
角兎の鳴き声だ。
私があたふたしている間に、角兎は陽葵さんに致命傷を与えたものと勘違いし――いや、勘違いでは無いか?
ともかく、陽葵さんの“内部をツノで抉るように”ように、角兎は身を捩ったのだった。
「んおおおっ!? やめ、やめろ、お、おぉおおおおおおおっ!!?」
その“刺激”に、身体をのけ反らしながら嬌声を吐き出す陽葵さん。
――イってしまったのだろうか。
「―――キュイ、キュイ!」
その様を、陽葵さんが苦しんでいるものと誤解した――誤解じゃないかも――角兎は、さらに激しく身体を動かした。
そんなことをすれば当然、陽葵さんに挿さったツノは凄い勢いで彼の中をかき回すわけで。
「んぐぅうううっ!?
あぁああ、あぁあああああああっ!!!」
さらなる刺激によって、びくびくと震えながら再度わめき声を――いや、イキ声を晒す陽葵さん。
「あ…あ…あ…」
陽葵さんの瞳の焦点が合っていない。
口もだらしなく開けている。
おそらく気をやってしまったのだ。
「あ―――」
陽葵さんの身体から力が抜け、後ろに倒れる。
角兎が居る、後ろへ。
すると、どうなるか。
「んぉぉおおおおおおおおっ!!?」
三度、陽葵さんの叫びが迷宮に響き渡った。
尻もちをつくような姿勢で倒れた陽葵さん。
だが、彼のお尻には角兎が挿さっている。
結果として角兎は床と陽葵さんに挟まれるような形となり――その衝撃で、ツノはより深く陽葵さんに突き刺さった。
「お、おぉおっ、おっ、おおっ、んぉおおっ!!」
己の奥深くに到達したツノに、陽葵さんは悶える。
――身をよじってよがるその姿は、苦しみながらも蕩けたその表情は、恐ろしい程にエロティックだった。
……だが、辛いのは角兎も同様であったらしい。
「―――キュイ、キュイィィ! キュィ!」
陽葵さんのお尻にのしかかられた角兎は、そこから抜け出そうと必死でもがきだす。
角兎の身体が動くたびに、ツノもまた大きく揺れた。
「んぃぃいいいいいいっ!!?」
本日最大級の悲鳴――或いは喘ぎが陽葵さんの口から吐き出された。
陽葵さんの目は見開かれ、涙が流れ落ちている。
口から涎が垂れて、身体は細かく痙攣していた。
しかし彼がそんな状態にあろうとも、角兎には関係のない話で。
「―――キュィキュイ! キュイーー!」
陽葵さんの身体を押しのけようと、身をくねらせ、さらには無理やりにジャンプまで繰り出す。
図らずもそれは、強烈なピストンを彼のお尻にかけることになり――
「ぐぎぃいいいいいいいっ!!?
んぉっ! あ、あぁぁあああああああああああああっ!!!」
あらん限りの声を張り上げ、陽葵さんは絶叫し、絶頂した。
「あぁぁあああああああ―――――」
そして叫び声が消えると同時に彼の身体はだらりと垂れ――そのままぴくりとも動かなくなる。
「―――キュィ!」
その姿を見て、角兎は陽葵さんを仕留めたと思ったのだろう――まあ間違ってはいない。
陽葵さんの下から抜け出して満足そうに一声鳴くと、迷宮の奥へと駆け去って行った。
「……………はっ!?」
そこで私はようやく我に返った。
あんまりと言えばあんまりな出来事に、完全に頭の回転が止まっていたのだ。
――断じて、陽葵さんの艶姿を堪能したかったから放っておいたわけでは無い。
「陽葵さん、陽葵さん!
しっかりして下さい」
すぐさま走り寄って彼の身体を揺さぶるが、返事はおろか反応すらしない。
というかこれはもう、誰が見ても色々と“手遅れ”な状態だった。
幾度もの絶頂によって蕩けきったアヘ顔は、まず男の子がしてはいけない表情である。
命に別状こそないだろうが…
確認のため、陽葵さんのボディスーツを下半身部分だけ脱がしてみる。
――こんな時に抱く感想では無いが、セパレート式のスーツなので脱がすのは予想以上に簡単だった。
「…………うわぁ」
スーツの中は、汗と精液でぐちょぐちょになっている。
陽葵さんの強い匂いが、私の鼻を突いた。
そして肝心のお尻だが――
「…………こんなに」
スーツは思った以上に尻穴の深くまでねじ込まれていた。
穴からスーツを抜き取る際に陽葵さんの身体がびくんと跳ねたが、彼の応答らしい動きはそれだけだ。
丸裸になった彼の下半身に――汗まみれでより艶めかしくなったお尻に欲情を催しもしたが……
「………幾らなんでも今はまずいか」
現在私達がいる階層は、出現する魔物は弱いものの、決して安全な場所ではない。
それ以前の問題として、今の状態でヤったら流石に陽葵さんはもう戻ってこれなくなるのではないかという心配もあった。
これより激しいプレイは、もっと陽葵さんの身体を開発してからだ。
「帰るしかなさそうですね」
今日はもう陽葵さんに迷宮探索は無理だろう。
私は彼を抱きかかえると、唇を舐め回し、乳首に吸い付き、お尻を揉みしだいてから、冒険証で<次元迷宮>を脱出した。
さて、そんなこんなで夕飯時である。
戻って陽葵さんを介抱していたら、もう結構な時間になってしまったのだ。
……ちなみに、あのだらしない顔つきをリアさんに晒すのは陽葵さん的にかなりきつかろうと思い、彼は今、私の自宅で眠りについている。
それはそれとして、毎度おなじみ黒の焔亭である。
私は入り口の扉をくぐろうとして――
「あれ、今日は早いじゃない?」
リアさんと鉢合わせた。
「こんばんは、リアさん。
ええ、少々早めに探索を切り上げまして。
……そちらはもうお帰りですか?」
リアさんの格好は、Tシャツにカーディガン、スパッツという私服姿。
仕事をしているようには見えない。
「うん、まあ色々あってね。
今日のお仕事は終わり」
「そうでしたか」
シフトの変更でもあったのだろう。
私があれこれ詮索する話でも無い。
「ああそうだ。
陽葵さんなんですが、今、私の家の方で寝ていましてね」
「へ? そりゃまたどうして――――まさかあんた…!」
リアさんの目に剣呑な光が宿る。
……いったいナニを想像したのか分からないが、私は慌てて言い訳した。
「いえいえ、今日の迷宮探索で陽葵さん大分お疲れになっちゃいまして!
すぐ休みたいようだったのですが、あいにくリアさんは家におりませんでしたから、私の家を提供したまでですよ」
「………ふーん、ならいいけど。
ヒナタに怪我とかは無いわけね?」
一転、今度は心配そうに聞いてきた。
彼女の不安を拭うべく、私は説明を続ける。
「ええ、心配には及びません。
激しい戦闘で、疲れ果ててしまったのです。
特に怪我らしい怪我はありませんよ。
彼が目を覚ましましたら、リアさんの家へ送り届けますので」
……戦闘が原因で激しく突かれて果てたのだから、嘘は言っていない。
怪我については、彼の身体を隅から隅までじっくりと丹念に鑑賞――もとい、堪能――じゃなくて調査してもかすり傷一つ無いことを確認済みだ。
リアさんも納得してくれたようで、
「え? まあクロダがあたしの家に来てくれるなら嬉しいけど……えと、無理してくれなくてもいいからね。
今日はあんたの家でゆっくりさせてあげても」
そのようなお達しを頂いた。
「分かりました。
ではそのように」
リアさんの許可を貰った以上、今夜はしっかりと陽葵さんを看病せねば。
夜の楽しみが増えた瞬間である。
「じゃ、あたしは帰るから」
「はい、お疲れ様でした、リアさん」
「うん、またねー」
手を振りながら帰路につくリアさん。
その後ろ姿を少し見送りつつ、私は黒の焔亭の扉に手をかけ――
「いやー、やっぱり慣れないことはするもんじゃないってねー。
あっはっはっはっは」
「……?」
扉を開ける前に、背後からリアさんの独り言が聞こえた。
その意味は測りかねたが、扉をくぐった瞬間、リアさんが何をやらかしたのかは理解できた。
「………店長―――!!?」
店のフロアの真ん中で、店長が血だまりの中に倒れていた。
つい先日退院したばかりだというのに、またやっちゃったのかこの人!?
私は他のお客や従業員の目も気にせず、店長に駆け寄るとその身を抱き起す。
「店長! 店長!! いったいどうしたというのですか!?」
「……あ、ああ、クロダ、か…?
……あ、あ、駄目だ、もう目が見えねぇ……」
かろうじて意識はあるらしく、私の言葉に弱弱しく返事をする。
しかし、自身が言うように、視力を失っているようで、目が虚ろに泳いでいた。
「店長、どうしてこんな…!」
「……わ、分からねぇ……
……きょ、今日はリアのやつ、妙にしおらしくてよう……何かあったのか、不思議なくらいにな……」
そこで一旦、辛そうに息を吐く店長。
呼吸を整えてから、続けた。
「……これ幸いと、あれこれイタズラしてみたんだが……今日は全然抵抗しねぇでやんの……ゲハッ」
吐血する店長。
「店長、ご無理はなさらない方が…」
「い、いいんだ……言わせてくれ……
……それで、調子に乗って色々ヤってたらよ……突然、特大の鉄拳が飛んできたのさ……それで、このざまよ……」
ふむ。
ということは――
「…………それは自業自得なのでは?」
「……へへ、そうとも言うな……」
しかしリアさん、今日は何の心変わりか。
最終的にいつも通りになったとはいえ、そこまでの過程に今までと大きな隔たりがある。
朝、私が焚き付けたのが効いているのだろうか?
「……なぁ、クロダよ……リアを責めないで、恨まないでやってくれ……」
「――まあ、官憲沙汰になったらお縄になるのは店長の方ですしね」
「……違いねぇ……ゴホッゴホッ」
殊勝な顔をしつつ、再びむせながら血を吐き出す。
「て、店長……」
「……はは、俺はもう、ここまでみてぇだ……」
安らかな表情になる店長。
……まるで死を覚悟したかのように。
「そんなこと、仰らないで下さい…」
「……しけた面すんなよぉ、クロダ……
……へへ、俺ぁ碌な死に方しねぇだろうと思ってたが……ダチに看取られて逝くなんざ、なかなか上等なもん、じゃ、ねぇ、か……」
店長の目が閉ざされる。
同時に、彼の身体から力が失われていった。
「店長!? 店長―――! ゲルマンさーーーん!!!」
慟哭。
私は、あらん限りの声を張り上げて店長の名を呼んだ。
こんな、こんなところでこの世界に来て初めてできた友人を――親友を失ってしまうとは。
その次の瞬間。
「すいません、そろそろ掃除したいんで、三文芝居は止めてもらえません?」
「あ、はい」
掃除道具を持ってきたウェイトレスさんに窘められ、私は邪魔にならないようにホールの端へと移動したのだった。
――ちなみに、同じくウェイトレスさんによって運ばれた大量の回復用ポーションをぶっかけることにより、店長はあっさり目を覚ました。
いや、手慣れたものである。
第八話③へ続く
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