社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

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第六話 ある社畜冒険者の新人教育 三日目

③ ある魔族との再会?

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 そんなこんなで陽葵さんの元へ戻るのが予定より大分遅くなってしまった。
 安全な場所とはいえ、長時間放置してしまうと色々心配になってしまう。
 何事もなければ良いのだが…

「――陽葵さん、ただ今戻りまし」

「遅い!!」

 私が挨拶を言い終わる前に、叱咤が飛んできた。
 それを聞いて、私は矢筒から矢を取り出し、すぐさま臨戦態勢に入る。
 ――何故か。
 声をかけてきたのが陽葵さんではなかったから、というのが一つ。
 もう一つは、その声の主が――

「……魔族」

 その単語が口から零れる。

 魔族。
 かつて魔王に付き従い、この世界を席捲した種族。
 他の種族と比較し強力な力を持ち、多くのスキルを操ることができる。
 容姿は人とそう変わらないが、特徴的なのはその肌の色だ。
 魔族は総じて青白い肌を持ち、これが彼らの最も有名な特徴とされる。
 魔王が倒されたことでほとんどの魔族は姿を消したとそうだが、逆に言えば少数は未だ残っているということでもある。

 例えば、目の前の女性のように。

 そう、女性。
 目の前に立つ魔族は女だった。
 和服にも似た不思議な衣装を着ている。

 そして肝心の陽葵さんは、彼女の足元に倒れていた。
 見たところ、外傷はないようだが…

「魔族がこんなところに居てはおかしいか?」

「……特におかしくは無い、ですかね」

 現在の魔族が具体的にどんな動きをしているのかは判明していない。
 ただ、魔王の復活を目的に行動している、というのが一般的な見解だ。
 そしてこの<次元迷宮>は最奥に魔王が封じられているともされる場所。
 魔族がここに居ても不思議はないし、実際に数は少ないものの目撃情報もあがっている。

 しかし今回問題なのは、そういった種族としての行動目的では無い。
 彼女が、何の目的で陽葵さんに近づいたのか、だ。
 私はダメで元々、魔族に質問を試みる。

「いったい、何をされていたのでしょう?」

「ふんっ……ここに転がっている少年を、悪辣な冒険者達の手から守ってやった――と言ってお前は信じるのか」

 こちらを小馬鹿にしたような声色で、そんな答えが返ってきた。
 それに対し私は、

「ああ、そうだったんですか、これは失礼しました」

 矢を筒に仕舞い、丁寧にお辞儀をする。
 親切をして頂いた人に、随分と無礼な対応をしてしまった。

「あ、あれー?」

「どうかしましたか?」

 魔族の女性が拍子抜けしたような顔をした。

「あの、いいの、信じて?」

「先程のお答えは嘘だったと?」

「いや、本当だけど」

「ならば問題ないではないですか」

 彼女の口調が大分砕けたものに変わる。
 こちらの方が素のように見受けるが、どうだろう。

「もう少し、人を疑うとかしないと」

「誰かを騙そうとする人は、そういう反応をしませんよ」

「それはそうかもしれないけどさ」

 それと、私は基本的に綺麗な女性の言うことは信じることにしている。
 初対面の人にこんなことを言うといきなり不審な目で見られるので、ここでは隠しておくけれども。

「ちなみに、その冒険者は陽葵さんにどんなことをしようとしていたのですか?」

「うん、詳しいことは分からないんだけど、ヒナタ……この子に、襲い掛かろうとしてて」

「むむ、それは問題行為ですね」

 正当な理由なく冒険者が冒険者を襲うのは、ギルドで厳しく禁止されている。
 特に白色区域はギルドがしっかり監視しているので、悪事等そうそう働けないはずなのだが。
 そういう危険性を度外視して動く輩もいる、ということだろう。
 目的は装備の強奪か、或いは陽葵さんに性的暴行を働こうとしていたか、それともその両方か。

「その冒険者達はどんな風貌でしたか?」

「えっと、一人は結構背が大きくて―――」

 そこで魔族の人、はたと何かに

「ふ、ふん、人間風情に何故私がそんなことを教えねばならない」

 ……今更取り繕われても反応に困るのだが。

「そうですか、では詳しい話は後で陽葵さんに聞いておきます」

「そうしといて……じゃなくて、そうするがよろしかろう」

 もう少し口調を統一する努力をしてくれまいか。

「陽葵さんが気を失っているのも、その冒険者達の仕業ですか」

「いや、少年は私が眠らせた。
 私の姿を見られるのは都合が悪いので――っと、ごめん今の無し」

 今の無しとか言われても……

「それは一体どういうこと――――ん!?」

 私はそこで彼女に対して既視感があることに思い至った。
 この女性の容貌、どこかで見たことがあるような。
 素に戻った時の口調も、聞き覚えが…?

「まさか、貴女は――」

「!! あー、しまったなぁ……まあどっちみちこんだけ話し込んでちゃバレちゃうよね。
 そう、『あたし』はさ――」

「リズィーさんさんじゃないですか!」

「え、そっち!?」

 魔族の女性は、またしても盛大に肩透かしを食らったような顔をする。

「おや、人違いでしたか?」

「いや、あってるんだけどね、あってるんだけど……覚えててくれたんだ」

「おお、やはりリズィーさんだったんですね。
 いやー、お久しぶりです。
 あの後、無事に帰れたようですね」

「う、うん、お陰様で」

 リズィーさんは私がウィンガストに来たばかりの時に<次元迷宮>で出会った魔族の女性だ。
 どうも彼女は迷宮に不慣れだったようで、魔物に囲まれて困っていたところを私が手助けした次第。
 その時は少々会話をしただけで別れてしまったのだが、まさかこんなところで再開するとは。

「……確かに肌の色とか背格好は多少変わってるし、変装もしてるわけだけど、基本的なとこは同じはずなのに……
 何でリズィーのことは覚えててあたしのことは分からないのよ、こいつ……」

 リズィーさんが何やら小声でぶつぶつ呟いている。
 何のことだろうか?

 今のうちに、リズィさんの容姿説明をしてしまおう。
 背は大体160cm程で、一見すると怜悧な印象を抱かせてしまう美貌の持ち主。
 しかし今の会話で分かるように、実際にはなかなか愛嬌があり、顔も可愛らしく整っている。
 髪はうなじが隠れる程度の長さで伸びた銀髪で、光を浴びてキラキラと輝く様は人には持ちえない美しさだ。
 青白い肌にもよく似合っている。

 服は先程も触れたが、和服を改造したような独特のもの。
 基本的には露出の少ない装いながら、太ももや脇などがチラチラと見える構造だ。
 その手のマニアには堪らない代物だろう。
 この衣装を開発した人に心から称賛を送りたい。

 そんな服からは、引き締まりながらも程よく肉が付き、ハリも柔らかさも良さそうな彼女の肢体を垣間見ることができる。、
 全貌はまだ把握できていないが、エロい身体をしていることはまず間違いない。

「あ、ところでリズィーさん、前にした約束の事覚えていますか?」

「約束? 何かしたっけ?」

 ついさっき思い出したことなのだが、前にあった時に私はリズィーさんと約束事をしていたのだ。

「ええ、お手伝いのお礼にリズィーさんの処女を頂くという」

「そんな約束した覚え一片も!」

「無いですか?」

「――あった、気がする」

 愕然とした表情でリズィーさん。
 コロコロと表情の変わる人である。

「……で、でも、あれって冗談半分とか言ってなかったっけ?」

 確かに、その場ではそんなことを言って流した気がする。
 私は真剣な顔をしてリズィーさんに告げた。

「リズィーさん……冗談半分ということは、本気も半分含まれているということですよ?」

「真顔で変なこと言わないでよ!」

 大声で私に怒鳴りつけてから、がっくりと肩を落とすリズィーさん。

「ううう、綺麗な思い出が壊れていく……」

「それは申し訳ありません」

 どうも私との出会い、彼女の中ではかなり美化されていたようだ。

「……で、駄目ですかね?」

「ま、まだその話を続けるわけね」

 この機会を逃したら次にいつ会えるのか、そもそも会うことがあるのかどうかすら分からない。
 しつこいと思われても、僅かな可能性があるなら挑戦していきたい。

「だ、ダメっていうかね、あたし、もう処女じゃないし…」

「なんと!?」

 その可能性は考えていなかった!
 まあしかし、こんな綺麗な女性なら仕方がないか…

「や、でもあげた相手は――なわけだし、約束は果たしたと言えるんじゃないかなとも……」

 リズィーさんは小さい声で独り言をまた呟く。
 私は気を取り直し、

「無いものは仕方ありません。
 では、リズィーさんを抱かせて下さい」

「何が、『では』なの!?」

 再び声を荒げるリズィーさん。
 これは……どうも厳しいそうだ。

「そ、そもそもあたしをどうこうしなくったって、あんたの側にはそういうのを受け入れてくれる女性がいるでしょう!?」

「まるで私の身辺を知っているような口振りですが」

「知らないけどね!?
 あたしは全然知らないけど、あんたにはそういう女性に心当たりがあるんじゃないの?」

「……そうですね」

 私の頭に浮かんだのはローラさん。
 彼女とその身体にはいつも世話になっている。

「うん、あたしよりもその女性に色々と頼んだ方がいいと思うわけよ。
 ちゃんとお願いすれば、彼女も断らないだろうし」

「なるほど。
 ……実は今夜、その人の所へ行く予定だったのですよ」

「きょ、今日来るの!?」

 彼女が驚いた声を出す。
 私の言葉に何か思うところでもあったのだろうか。
 そういえば心なしか、顔が赤く染まっているような気がする。

「リズィーさんに何か不都合でも?」

「別に何もない、何もないよ!
 ……あ、今日行くのはいいんだけど、あんまり乱暴にしちゃダメだからね!
 酷いことしなければ、彼女も喜ぶんだから!」

「大丈夫です、今夜は元より優しく抱くつもりでしたから」

 今朝、ローラさんから昨日の罰として命じられたので。
 こういう決まり事はしっかり守らないと気が済まない。

「ふ、ふーん、今日は優しくしてくれるんだ……」

 リズィーさん、何故か嬉しそうだ。
 私とローラさんの関係に、彼女は何か関連があるのか?

「そ、それじゃあ、あたしはそろそろ帰るから」

「え? ああ、はい。
 今回はどうもありがとうございました」

 言うが早いか、リズィーさんの身体が光に包まれていく。
 空間転移を行うスキルを使用したのだろう。

「困った時はお互い様、でしょ。
 そんな気にしないで」

 どこかで聞いたような台詞を吐くリズィーさん。

「そう言って頂けると助かります」

「うん、じゃあ、またね」

 そんな言葉を最後に、彼女の姿は消え去った。
 ……また、会えるのだろうか?
 リズィーさんのように綺麗な女性にならば、何度でも会いたいものだが。

 そんなことを考えながら、私は陽葵さんを抱き起す。
 今日はもう迷宮探索は無理だろう。
 ギルドに報告するためにも、襲ってきた冒険者について聞く必要もある。
 やや早い時間ながら、私は冒険証を使用し、<次元迷宮>を脱出した。



 その後。
 リズィーさんはかなり強力な眠りを陽葵さんにかけたようで、彼の目覚めは次の日を待つ必要があった。
 ギルド直営の治療院での診断なので、間違いないだろう。
 陽葵さんの身柄はその治療院に預け、私は帰路につくことにした。

 そして、

「こんばんは、ローラさん」

「いらっしゃい、クロダさん」

 私はローラさんのお店に訪れていた。
 今夜のローラさん、いつもと同じような装いながらいつもより煌びやかに見える。
 化粧やアクセサリーに気合が入っているというか。
 かといって、派手という印象を与えない辺り、ローラさんのセンスが光っている。

「……あの、クロダさん?」

「はい、何でしょうか」

 おずおずといった感じでローラさんが話しかけてきた。

「今日だけでもいいので……『ただいま』って言って貰えませんか?」

「……は?」

 彼女の言うことが一瞬理解できなかった。

「……ダメ、ですかね?」

「い、いえ、大丈夫です。
 それ位お安い御用で」

 この心に湧いてくるザワメキは何だろうか。
 そんな場面でも無いというのに、妙に緊張してしまう。

「……ただいま、ローラさん」

「うふふ、おかえりなさい、クロダさん」

 ローラさんは、今まで見たことが無い程の満面の笑みを浮かべた。
 今は亡き彼女の旦那さんは、毎日この笑顔を見ていたのだろうか。
 少し……ほんの少しだが、嫉妬してしまった。

 この後のことは、多く語るまい。
 普通に食事をして、普通に風呂に入り、普通に抱き合った。
 特筆するべきことは無かったのだが、今までにない満足感を得られた気がする。
 こういうのも、偶にはいいかもしれない。





 後日談、という程でも無い、次の日の小話。
 目を覚ました陽葵さんを送りがてらリアさんの家に行ったら、リアさんにドロップキックを食らった。
 理不尽だ。


 第六話 完
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