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第五話 ある社畜冒険者の新人教育 二日目
② 職業選択は慎重に※
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そんな会話をしつつギルドに向かっていると、前から見知った顔が歩いてくるのに気づく。
「おや、ローラさん、こんにちは。
今から買い物ですか?」
「あら、クロダさんじゃないですか、こんにちは。
はい、少し足りない材料がありまして、今からセレンソン商会の方へ」
ローラさんだった。
相変わらず、黒いロングドレス越しに分かるボディラインが艶めかしい。
黒いロングヘアが彼女の動きに合わせて流れる様は、それだけで男心をくすぐってくる。
「クロダさんは今日はどちらに――」
ローラさんの言葉が途中で止まる。
どうも、陽葵さんの方を見て動きが固まっているようで…?
「――あの、クロダさん、その隣に居る人は?」
「ああ、紹介が遅れました、こちら最近ウィンガストへ来た<訪問者>で――」
「室坂陽葵だ、よろしく!」
私の台詞を受けて、陽葵さんが挨拶する。
しかし、ローラさんの表所は曇ったままだ。
「そうですか、ムロサカさん…」
「陽葵でいいよ」
「では、ヒナタさん……ヒナタさんも、冒険者なんですか?」
「うん、つい昨日登録したばっかだけどな。
で、黒田がオレの教育係なんで今は色々教えて貰ってるとこ」
「きょ、教育係…!」
何故かローラさんはショックを受けた様子。
「ほ、本当ですか…?」
私の方を向いて、確認を取ってくる。
「そうですよ。
これからしばらくの間、私が面倒みます」
「そんな…!」
ローラさんの顔が、さらにどんよりと暗くなっていく。
そして彼女は、陽葵さんの姿を上から下までじっと眺めた後、ぶつぶつと独り言を呟きだした。
「……教育係なんて……一日中一緒で……こんな可愛い人……クロダさんが間違いを犯さないわけが……」
なんだろう、凄く失礼なことを呟かれている気がする。
しばらくそうした後、意を決したようにローラさんが私に話しかけてきた。
「く、クロダさん!」
「は、はい、なんでしょうか?」
その剣幕に、少し気圧されてしまう私。
「あの、私の方が、ヒナタさんより胸は大きいと思うんです!」
いきなり何を言いだしているのだ、彼女は。
「……まあ、陽葵さんは男性ですし、胸があったらおかしいですよね」
「……へ?」
間の抜けた声を出すローラさん。
「男の人?」
「そうですよ」
彼女の質問に、肯定を返す。
「…男性なんです?」
「そうだよ」
今度は質問を陽葵さんに投げるが、答えは同じ。
「……本当ですか?」
なおも疑り深く質問を繰り返す。
気持ちは分かる。
陽葵さんが男だとか、この世の女性は全て男だと言っているも同じだからだ。
「本当だってば。
ほら、これ見てよ」
陽葵さんは冒険証を操作し、自分のステータス画面をローラさんに見せた。
「……そんな……冒険証のステータスに表記ミスが!?」
「それは昨日の私と同じ反応ですよ」
「そ、そうなんですか…?」
おや、ローラさんはそこはかとなく嬉しそうだ。
何故に?
「……男の人、なんですね。
こんなに可愛いのに」
どうやらローラさん、現実を受け入れたらしい。
「……男の人なら……いくらクロダさんでも……」
またぶつぶつと独り言を言いだした。
なんだか彼女、今日は情緒不安定である。
「……あの、ヒナタさん?」
心の整理がついたのか、陽葵さんの方へ向いて、にこりと笑う。
「挨拶を忘れていました。
私はローラ・リヴェリといいます。
この町で魔法店などを開いていまして。
これからよろしくお願いしますね」
「ええっと……ああ、うん、よろしく」
陽葵さんは彼女の表情の変わりように、若干戸惑っているようだ。
「…………分かりやすいなー、この人」
そしてぼそりと一言。
ローラさんの何かを彼は理解したらしい。
「それでクロダさん、今日はヒナタさんと一緒に<次元迷宮>へ?」
「いえ、まだヒナタさんの職業を決めていないのですよ。
今日はこれからギルドに行って職業を決めてから、ボーさんのお店で装備を揃える予定です」
「なるほど……あ、それならその後に、私のお店に来られては如何ですか?
ヒナタさんに色々と冒険者用のアイテムを紹介できますし……それと、いい茶葉が手に入ったので、その後ご一緒にお茶でも……」
ローラさんのお誘い。
いつもなら是が非でも応じるのだが…
「せっかくの申し出で心苦しいのですが、陽葵さんは<暗殺士>になる予定でして。
今日は、<盗賊>の冒険者がよく利用するお店を幾つか回ってみようかと――」
「黒田黒田!」
丁重に断ろうとしたところで、陽葵さんが割って入ってきた。
「せっかくこうして知り合えたんだし、オレ、ローラのお店に行ってみたいな!」
「よろしいのですか?
ローラさんのお店は、どちらかと言えば<魔法使い>向けで――」
「いいの!
……あー、ほら、こういう綺麗な人とはちゃんとお知り合いになっておきたいだろ」
後半は小声で、私だけに聞こえるよう言ってきた。
……ふむ、そこまで言うなら、陽葵さんの希望(と助平心)に応えることにしよう。
「分かりました、それでは装備を購入した後に、ローラさんのお店に寄りましょう」
「そ、そうですか!
ご来店をお待ちしていますね」
喜色満面という顔で、ローラさん。
こんなところでも新規顧客の開拓を目論むとは、なかなか商魂逞しい。
「それでは、名残惜しいですがこの辺りで失礼いたします」
「またな、ローラ!」
「はい、それではまた後で……うふふ、私、ヒナタさんとは凄く仲良くなれそうな気がします」
別れ際にそんなことも言ってくる。
歩きながら、私は陽葵さんの背中を軽くたたく。
「……良かったですね、陽葵さん。
希望が叶いそうですよ?」
彼は喜ぶかと思いきや。
「……黒田、お前、すんげぇ鈍いのな」
何故か、疲れたようにため息を吐いたのだった。
色々省略して、場面はボーさんの武器屋に移る。
職業に就くところなど、大して面白くも何とも無く、描写しても詰まらないだけで――
「――で、クロダよ」
部屋に巨大な男の――巨人族であるボーさんの声が響く。
私は今、彼の前で正座していた。
「………なんでしょうか」
「弁明は、あるか」
「………ありません」
正直に答えた。
まさかこんなことになってしまうとは、完全に想定外であった。
「お前がついておきながら、何で、何で――!」
「本当に申し訳ありません!」
語気が強くなるボーさんに、私は土下座する勢いで謝る。
「何で、こいつは<勇者>なんかになっちまってるんだ!?」
横で突っ立っている陽葵さんを指さして、ボーさんは言った。
――そう。
職業に就く作業など、大した問題も起きずに滞りなく終わるはず、だったのだ。
陽葵さんが、土壇場で職業を<勇者>に変更したりしなければ!
「あのー……」
私達のやり取りを見ていた陽葵さんが声をかけてきた。
「<勇者>になったのって、そんなにまずかったのか?」
「まずい」
「最悪ですね」
彼の質問に、私とボーさんが同時に答える。
「……どんくらい、やばい?」
「そうだな。
これからのお前さんの境遇を考えると叱るに叱れず……教育係であるこいつを怒鳴りつけるしかない、って位にはやばいぞ」
「……そ、そっかー」
ボーさんの返事に冷汗を流す陽葵さん。
その例えが上手いのかどうかは分からないが、実際問題本気でまずい事態になったのは確かだ。
<勇者>。
数ある職業の中でも、最も、そしてぶっちぎりで、『ハズレ』と名高い職業だ。
基本能力への補正は全職業中最低。
補正が小さいわけだから当然、能力の成長に関しても低水準。
にも拘わらず、スキルポイントの入手量は<戦士>とそう変わらない。
つまりスキルの獲得や成長は遅い。
――軽く説明しただけでも、どれほど酷い職業なのか理解して頂けただろう。
「つーかな、なんでお前さん、<勇者>なんて選んじまったんだよ」
なお、ボーさんにはこの時点で陽葵さんについて粗方説明を終えている。
彼が男だと知って驚く一幕も当然あったのだが、今それどころではないので詳細は省く。
「いやー、職業を選択するときにさ、リストを眺めてたら勇者って単語見つけちゃって。
それ見た瞬間、これだー!って閃いちゃったんだよね」
たったそれだけの理由で、色々相談して決めたことを翻さないで欲しい。
「…選ぶ時もその職業について簡単な説明があったはずだが」
渋い顔をして、ボーさんが再び尋ねる。
そう、その職業を選択する際にも、簡単な説明の記載が見れる。
つまり、<勇者>がどれだけ酷い職業なのか、そこで分かるはずなのだが…
「アハハハ、気分が舞い上がっちゃってて、細かいとこ見てなかったんだ…」
乾いた笑いを浮かべながら、陽葵さん。
大事なところだったのだから、もっと冷静に判断して頂きたかった。
「で、でもほら、オレ適性高いし!?
適性があれば、割と何とかなるんだろ!?」
「陽葵さん……<勇者>は、<戦士>の派生職ですよ」
陽葵さんの<戦士>適性はC。
<訪問者>としては、低い値といえる。
……希望は無かった。
「……だ、大体、なんで<勇者>がここまで酷い職業になってんだよ!
まずそこからしておかしいだろ!」
陽葵さんが、とうとう逆ギレをしだす。
「そりゃあれだ。
冒険者なんて慎重さや注意深さが大事な稼業だってのに、『勇者』なんて選んだら酷い目見るぜって教訓を教えようとしてるんじゃないか?」
「もしくは、ほいほい簡単に勇者を名乗ろうとする人への当てつけですかね」
「おいおい、流石にそれはないだろう、クロダ。
勇者達に失礼だぞ」
いや、どうだろうか。
私達以外が勇者を名乗るのは気分が悪い、とか言ってたからなぁ。
「……んん?」
「どうしました?」
気付けば、陽葵さんが不思議そうな顔(可愛いなぁ、もう)をしていた。
「その言い方だと、なんだか冒険者って勇者が作ったみたいに聞こえるんだけど」
「そうだぞ」
「えっ!?」
ボーさんがあっさり認めた。
「元々は、勇者達が魔王を倒すために編み出した技術だそうですよ。
それを多くの人にも扱えるよう再編したものが、冒険者というシステムだとか」
私が補足説明をする。
「そ、そうだったのか…」
「ま、そんなことはどうでもいいんだ。
今話し合うべきは、<勇者>なんてハズレを選んだこいつをどうするか、だろ?」
脱線しだした話を、ボーさんが元に戻す。
しかし考えてみれば、陽葵さんがどうなろうとボーさんには関係の無い話。
ここまで話に乗る必要は無いというのに……根本的にこの人はお人好しなのだ。
「そうですね。
長期的な展望としては、まずランクCを目指して<勇者>以外の<戦士>職になり、その後ランクBになって<盗賊>か<僧侶>へ転職、ですかね」
「……なあ、転職ってランクCで出来るようになるんじゃなかったか?」
「ランクCで出来るのは、大本の基本職か、基本職が同じ派生職への転職だけなんですよ。
他の基本職、或いはその派生職へ転職するためにはランクBになる必要があります」
陽葵さんの疑問に対して説明をする。
つまりランクBに上がるまで、陽葵さんは適性が最も低い<戦士>系の職業を続けなければならないわけだ。
「……ランクBか、遠いな。
最低でも半年くらいはかかるか?
その間に死ななければだが」
「私の知る限りですと、2か月でランクBまで登った方ならいますが…」
「ちなみにそいつの適性は?」
「Aでした。
そのうえで、四六時中<次元迷宮>に潜っていましたね」
「……そんな特例の話を今されてもなぁ」
「…………」
私達の話を聞いている陽葵さんの顔が、どんどん曇っていく。
「……気分が滅入ってきた」
「この際、普通の職に就いて一般人として過ごすことも考慮しませんか?」
「……じょ、冗談だよな?」
「半分くらいは冗談です」
「…半分なんだ」
C適性の<勇者>は、半ば本気で冒険者の引退もお勧めしたい。
まあ、本人にやる気があるのであれば、教育係として協力することに吝かではないが。
「とりあえずこの場でやれることをやろうか」
「と、申しますと?」
「うちの店で揃えられるだけの装備を揃えておこうって話だよ」
「「……えぇ!?」」
ボーさんの提案に、私と陽葵さんの声が重なる。
「そこまでしてもらうのは流石に悪いって!」
「変なとこで遠慮すんな。
言っとくが、うちで最高級のを装備したって、ランクBを目指すのはそう容易じゃないんだからな。
……それに、金はクロダが払うんだし」
「……え?」
そんな話聞いてない、聞いてないですよ?
「ケチケチすんなよ。
教育係ついときながらこんなヘマやらかせちまったんだ。
お前にだって責任はあるだろ?」
「……それは、まぁ…」
そこを突かれると私も弱い。
実際、教育係失格物の失態ではある。
――覚悟を決めるか。
「……分かりました。
支払いは私が持ちますので、一番良い装備を見繕って貰えませんか」
「マジで!?」
「そうこなくっちゃな!
よし、ちょっと待ってろ、今倉庫漁ってくるから」
そう言って、ボーさんは店の奥に駆けていく。
「……ごめん、黒田」
私に悪いと思っているようで、しょんぼりとした表情の陽葵さん。
「ボーさんも仰っていましたが、私にも責任はありますし。
気になるようでしたら、これからの冒険者生活、頑張って臨んで頂ければ、と」
「……へへ、ありがと♪」
「………!?」
私への感謝と一緒に浮かべた陽葵さんの笑顔が!
なんかもう凄い勢いで天使の微笑みなんですが!?
あまりに可愛らしすぎて思わず声が出そうになってしまったよ私は!
この笑顔を見るためなら、装備に金を出す位安いものだ、と本気で考えてしまった。
「さ、着心地はどんなもんだ、ヒナタ?」
「……ど、どうって」
倉庫から戻ってきたボーさんから装備を渡され、早速着替えた陽葵さん。
「その防具は優れものだぞ。
柔らかくて伸縮もする素材だから動きはほとんど妨げない。
それでいて、物理的な攻撃は勿論、魔法攻撃にも耐性がある」
「……そ、そうなんだ」
ボーさんの防具解説が続く。
「全身を覆っちゃいるが、セパレート形式だから着脱も簡単だ。
迷宮で寝泊まりすることもある冒険者にとって、割と重要なことなんだぞ」
「……分かる、けどさ」
ボーさんの台詞に、もごもごと言い返す陽葵さん。
だが、次の瞬間。
「これは、流石にどうよ!?」
陽葵さんが叫んだ。
ボーさんに渡された陽葵さんの装備。
それは、特殊素材で出来た黒い全身スーツだった。
もっと見た目を分かりやすく表現するならば、極薄のラバースーツ。
さらにぶっちゃければ、俗にぴっちりスーツと呼ばれるもの。
薄い生地が陽葵さんの肢体にこれでもかという程密着しているため、彼のボディラインがくっきりと分かる。
いや、ボディラインが分かるという言葉すら生ぬるい。
これは――
「裸じゃねぇか、こんなの!」
私が言いたいことを、陽葵さん自身が代弁してくれた。
うん、裸だね。
肌の色こそ違うものの、スーツの余りのフィットっぷりに、スーツを着てはいるものの裸と同義であった。
どれ位裸なのかと言うと、お尻の割れ目が見えるのは当たり前。
へその形や乳首の突起なんていう小さい凹凸まで確認できてしまうくらいだ。
「ちゃんと大事なとこは隠してるじゃないか、ほれ」
ボーさんが陽葵さんの股間を指さす。
ファウルカップ的なものが仕込んであるのか、その部分は陽葵さんの男性器を露わにしていない。
逆に言うと、股間のイチモツが見えないので、今の陽葵さんは貧乳な女性以外の何物でも無かった。
膨らみこそ無いが、どこか柔らかさを感じさせる胸。
キュッと締まった腰つき。
プリッとした綺麗なお尻。
程よい肉付の太ももにスラリとした脚。
さっきから私は、陽葵さんの肢体から目が離せない。
「それとも、見せつけたいのか、お前さんのちんこ」
「見せたいわけないだろ!?」
いっそ見せてしまってもいいかもしれないが。
朝に全て確認済みとはいえ、こういう形で眺めるのはまた違った趣がある。
私はボーさんの方へ向き直り、微笑んだ。
「……完璧ですよ、ボーさん」
「ありがとよ、クロダ」
自然と、二人はハイタッチを交わす。
「訳わかんねぇよ!
何分かり合ってる雰囲気出してるんだよ!!」
なおも抗議する陽葵さんに、ボーさんは面倒くさそうに応じる。
「仕方ねえな。
分かった分かった、それ以外の防具も用意してやるよ」
少しして。
「これでどうよ?」
「……ま、まあ、これくらいなら」
いいんだ!?
と、思わず突っ込みを入れそうになるが、必死で声を抑える。
陽葵さんは、ボーさんが再び持ってきた防具を着用している。
どの装備も全身スーツの上から着るタイプのものだった。
どんなものかと言えば、上半身はタンクトップにジャケット、下半身はホットパンツ。
いつも陽葵さんが来ている服と似た装いだ。
それが、陽葵さんの警戒心を薄れさせたのかもしれない。
ジャケットは置いておくにしても、まずタンクトップ。
へそ出し……と言うより、胸を隠す程度の丈しかない。
陽葵さんのお腹も腰つきも見放題だ。
そして、何よりやばいホットパンツ。
いつも陽葵さんが履いているショートパンツよりさらに丈が短い……というか、太ももをほぼ覆っていない。
だがそんなものは、そのホットパンツのローライズっぷりに比べれば些細なことだ。
なんというか、男が履いたら……いや、女性が履いても色々とはみ出しかねないローライズ具合。
前から見てもやばいのだが後ろから見てもやばい。
お尻をちゃんと隠せていない。
尻の割れ目が上半分、パンツからはみ出してしまっている。
見ようによっては、裸よりも恥ずかしい格好だ。
……というか、これは本当に防具なのか?
一応は全身をスーツで覆って、その上にこれらの防具(?)を着ているので、陽葵さんの体感としてはそれ程露出している印象は無いのかもしれない。
私はボーさんの方へ向き直り、再び微笑んだ。
「……パーフェクトです、ボーさん」
「ありがとよ、クロダ」
ハイタッチを交わす私達。
「お前らあれか、何かことある毎にハイタッチする癖でもあるのか?」
陽葵さんが私達の魂の交流に口出ししてくるが、今はそんなもの気にならない。
これから毎日、陽葵さんのこの姿を間近で見れるというのだから、もう天にも昇る気分だ。
「……ああ、そうそう。
これ、今回の装備の代金な」
ボーさんから装備の明細書を渡された。
「はい、分かりまし――――!!?!?!??」
その金額を見て、別の意味で(本来の意味で)昇天しそうになった。
「ちょ、あの、ボーさん?
このお値段は…?」
「最新素材のスーツに、ミスリルで出来た糸を織り込んだジャケットやパンツ、ついでに防刃繊維製のシャツ。
これでも値引きしたんだぜ?」
そんな豪華仕様の装備だったのか!?
誰だ、これが本当に防具なのか疑わしいなどと考えたやつは!
「何なら、分割払いも受け付けるぞ」
「すみません、それでお願いします…」
先程までの興奮は全て吹き飛んでしまった。
ついでに、私の貯蓄も吹き飛んでしまいましたとさ…
第五話③へ続く
「おや、ローラさん、こんにちは。
今から買い物ですか?」
「あら、クロダさんじゃないですか、こんにちは。
はい、少し足りない材料がありまして、今からセレンソン商会の方へ」
ローラさんだった。
相変わらず、黒いロングドレス越しに分かるボディラインが艶めかしい。
黒いロングヘアが彼女の動きに合わせて流れる様は、それだけで男心をくすぐってくる。
「クロダさんは今日はどちらに――」
ローラさんの言葉が途中で止まる。
どうも、陽葵さんの方を見て動きが固まっているようで…?
「――あの、クロダさん、その隣に居る人は?」
「ああ、紹介が遅れました、こちら最近ウィンガストへ来た<訪問者>で――」
「室坂陽葵だ、よろしく!」
私の台詞を受けて、陽葵さんが挨拶する。
しかし、ローラさんの表所は曇ったままだ。
「そうですか、ムロサカさん…」
「陽葵でいいよ」
「では、ヒナタさん……ヒナタさんも、冒険者なんですか?」
「うん、つい昨日登録したばっかだけどな。
で、黒田がオレの教育係なんで今は色々教えて貰ってるとこ」
「きょ、教育係…!」
何故かローラさんはショックを受けた様子。
「ほ、本当ですか…?」
私の方を向いて、確認を取ってくる。
「そうですよ。
これからしばらくの間、私が面倒みます」
「そんな…!」
ローラさんの顔が、さらにどんよりと暗くなっていく。
そして彼女は、陽葵さんの姿を上から下までじっと眺めた後、ぶつぶつと独り言を呟きだした。
「……教育係なんて……一日中一緒で……こんな可愛い人……クロダさんが間違いを犯さないわけが……」
なんだろう、凄く失礼なことを呟かれている気がする。
しばらくそうした後、意を決したようにローラさんが私に話しかけてきた。
「く、クロダさん!」
「は、はい、なんでしょうか?」
その剣幕に、少し気圧されてしまう私。
「あの、私の方が、ヒナタさんより胸は大きいと思うんです!」
いきなり何を言いだしているのだ、彼女は。
「……まあ、陽葵さんは男性ですし、胸があったらおかしいですよね」
「……へ?」
間の抜けた声を出すローラさん。
「男の人?」
「そうですよ」
彼女の質問に、肯定を返す。
「…男性なんです?」
「そうだよ」
今度は質問を陽葵さんに投げるが、答えは同じ。
「……本当ですか?」
なおも疑り深く質問を繰り返す。
気持ちは分かる。
陽葵さんが男だとか、この世の女性は全て男だと言っているも同じだからだ。
「本当だってば。
ほら、これ見てよ」
陽葵さんは冒険証を操作し、自分のステータス画面をローラさんに見せた。
「……そんな……冒険証のステータスに表記ミスが!?」
「それは昨日の私と同じ反応ですよ」
「そ、そうなんですか…?」
おや、ローラさんはそこはかとなく嬉しそうだ。
何故に?
「……男の人、なんですね。
こんなに可愛いのに」
どうやらローラさん、現実を受け入れたらしい。
「……男の人なら……いくらクロダさんでも……」
またぶつぶつと独り言を言いだした。
なんだか彼女、今日は情緒不安定である。
「……あの、ヒナタさん?」
心の整理がついたのか、陽葵さんの方へ向いて、にこりと笑う。
「挨拶を忘れていました。
私はローラ・リヴェリといいます。
この町で魔法店などを開いていまして。
これからよろしくお願いしますね」
「ええっと……ああ、うん、よろしく」
陽葵さんは彼女の表情の変わりように、若干戸惑っているようだ。
「…………分かりやすいなー、この人」
そしてぼそりと一言。
ローラさんの何かを彼は理解したらしい。
「それでクロダさん、今日はヒナタさんと一緒に<次元迷宮>へ?」
「いえ、まだヒナタさんの職業を決めていないのですよ。
今日はこれからギルドに行って職業を決めてから、ボーさんのお店で装備を揃える予定です」
「なるほど……あ、それならその後に、私のお店に来られては如何ですか?
ヒナタさんに色々と冒険者用のアイテムを紹介できますし……それと、いい茶葉が手に入ったので、その後ご一緒にお茶でも……」
ローラさんのお誘い。
いつもなら是が非でも応じるのだが…
「せっかくの申し出で心苦しいのですが、陽葵さんは<暗殺士>になる予定でして。
今日は、<盗賊>の冒険者がよく利用するお店を幾つか回ってみようかと――」
「黒田黒田!」
丁重に断ろうとしたところで、陽葵さんが割って入ってきた。
「せっかくこうして知り合えたんだし、オレ、ローラのお店に行ってみたいな!」
「よろしいのですか?
ローラさんのお店は、どちらかと言えば<魔法使い>向けで――」
「いいの!
……あー、ほら、こういう綺麗な人とはちゃんとお知り合いになっておきたいだろ」
後半は小声で、私だけに聞こえるよう言ってきた。
……ふむ、そこまで言うなら、陽葵さんの希望(と助平心)に応えることにしよう。
「分かりました、それでは装備を購入した後に、ローラさんのお店に寄りましょう」
「そ、そうですか!
ご来店をお待ちしていますね」
喜色満面という顔で、ローラさん。
こんなところでも新規顧客の開拓を目論むとは、なかなか商魂逞しい。
「それでは、名残惜しいですがこの辺りで失礼いたします」
「またな、ローラ!」
「はい、それではまた後で……うふふ、私、ヒナタさんとは凄く仲良くなれそうな気がします」
別れ際にそんなことも言ってくる。
歩きながら、私は陽葵さんの背中を軽くたたく。
「……良かったですね、陽葵さん。
希望が叶いそうですよ?」
彼は喜ぶかと思いきや。
「……黒田、お前、すんげぇ鈍いのな」
何故か、疲れたようにため息を吐いたのだった。
色々省略して、場面はボーさんの武器屋に移る。
職業に就くところなど、大して面白くも何とも無く、描写しても詰まらないだけで――
「――で、クロダよ」
部屋に巨大な男の――巨人族であるボーさんの声が響く。
私は今、彼の前で正座していた。
「………なんでしょうか」
「弁明は、あるか」
「………ありません」
正直に答えた。
まさかこんなことになってしまうとは、完全に想定外であった。
「お前がついておきながら、何で、何で――!」
「本当に申し訳ありません!」
語気が強くなるボーさんに、私は土下座する勢いで謝る。
「何で、こいつは<勇者>なんかになっちまってるんだ!?」
横で突っ立っている陽葵さんを指さして、ボーさんは言った。
――そう。
職業に就く作業など、大した問題も起きずに滞りなく終わるはず、だったのだ。
陽葵さんが、土壇場で職業を<勇者>に変更したりしなければ!
「あのー……」
私達のやり取りを見ていた陽葵さんが声をかけてきた。
「<勇者>になったのって、そんなにまずかったのか?」
「まずい」
「最悪ですね」
彼の質問に、私とボーさんが同時に答える。
「……どんくらい、やばい?」
「そうだな。
これからのお前さんの境遇を考えると叱るに叱れず……教育係であるこいつを怒鳴りつけるしかない、って位にはやばいぞ」
「……そ、そっかー」
ボーさんの返事に冷汗を流す陽葵さん。
その例えが上手いのかどうかは分からないが、実際問題本気でまずい事態になったのは確かだ。
<勇者>。
数ある職業の中でも、最も、そしてぶっちぎりで、『ハズレ』と名高い職業だ。
基本能力への補正は全職業中最低。
補正が小さいわけだから当然、能力の成長に関しても低水準。
にも拘わらず、スキルポイントの入手量は<戦士>とそう変わらない。
つまりスキルの獲得や成長は遅い。
――軽く説明しただけでも、どれほど酷い職業なのか理解して頂けただろう。
「つーかな、なんでお前さん、<勇者>なんて選んじまったんだよ」
なお、ボーさんにはこの時点で陽葵さんについて粗方説明を終えている。
彼が男だと知って驚く一幕も当然あったのだが、今それどころではないので詳細は省く。
「いやー、職業を選択するときにさ、リストを眺めてたら勇者って単語見つけちゃって。
それ見た瞬間、これだー!って閃いちゃったんだよね」
たったそれだけの理由で、色々相談して決めたことを翻さないで欲しい。
「…選ぶ時もその職業について簡単な説明があったはずだが」
渋い顔をして、ボーさんが再び尋ねる。
そう、その職業を選択する際にも、簡単な説明の記載が見れる。
つまり、<勇者>がどれだけ酷い職業なのか、そこで分かるはずなのだが…
「アハハハ、気分が舞い上がっちゃってて、細かいとこ見てなかったんだ…」
乾いた笑いを浮かべながら、陽葵さん。
大事なところだったのだから、もっと冷静に判断して頂きたかった。
「で、でもほら、オレ適性高いし!?
適性があれば、割と何とかなるんだろ!?」
「陽葵さん……<勇者>は、<戦士>の派生職ですよ」
陽葵さんの<戦士>適性はC。
<訪問者>としては、低い値といえる。
……希望は無かった。
「……だ、大体、なんで<勇者>がここまで酷い職業になってんだよ!
まずそこからしておかしいだろ!」
陽葵さんが、とうとう逆ギレをしだす。
「そりゃあれだ。
冒険者なんて慎重さや注意深さが大事な稼業だってのに、『勇者』なんて選んだら酷い目見るぜって教訓を教えようとしてるんじゃないか?」
「もしくは、ほいほい簡単に勇者を名乗ろうとする人への当てつけですかね」
「おいおい、流石にそれはないだろう、クロダ。
勇者達に失礼だぞ」
いや、どうだろうか。
私達以外が勇者を名乗るのは気分が悪い、とか言ってたからなぁ。
「……んん?」
「どうしました?」
気付けば、陽葵さんが不思議そうな顔(可愛いなぁ、もう)をしていた。
「その言い方だと、なんだか冒険者って勇者が作ったみたいに聞こえるんだけど」
「そうだぞ」
「えっ!?」
ボーさんがあっさり認めた。
「元々は、勇者達が魔王を倒すために編み出した技術だそうですよ。
それを多くの人にも扱えるよう再編したものが、冒険者というシステムだとか」
私が補足説明をする。
「そ、そうだったのか…」
「ま、そんなことはどうでもいいんだ。
今話し合うべきは、<勇者>なんてハズレを選んだこいつをどうするか、だろ?」
脱線しだした話を、ボーさんが元に戻す。
しかし考えてみれば、陽葵さんがどうなろうとボーさんには関係の無い話。
ここまで話に乗る必要は無いというのに……根本的にこの人はお人好しなのだ。
「そうですね。
長期的な展望としては、まずランクCを目指して<勇者>以外の<戦士>職になり、その後ランクBになって<盗賊>か<僧侶>へ転職、ですかね」
「……なあ、転職ってランクCで出来るようになるんじゃなかったか?」
「ランクCで出来るのは、大本の基本職か、基本職が同じ派生職への転職だけなんですよ。
他の基本職、或いはその派生職へ転職するためにはランクBになる必要があります」
陽葵さんの疑問に対して説明をする。
つまりランクBに上がるまで、陽葵さんは適性が最も低い<戦士>系の職業を続けなければならないわけだ。
「……ランクBか、遠いな。
最低でも半年くらいはかかるか?
その間に死ななければだが」
「私の知る限りですと、2か月でランクBまで登った方ならいますが…」
「ちなみにそいつの適性は?」
「Aでした。
そのうえで、四六時中<次元迷宮>に潜っていましたね」
「……そんな特例の話を今されてもなぁ」
「…………」
私達の話を聞いている陽葵さんの顔が、どんどん曇っていく。
「……気分が滅入ってきた」
「この際、普通の職に就いて一般人として過ごすことも考慮しませんか?」
「……じょ、冗談だよな?」
「半分くらいは冗談です」
「…半分なんだ」
C適性の<勇者>は、半ば本気で冒険者の引退もお勧めしたい。
まあ、本人にやる気があるのであれば、教育係として協力することに吝かではないが。
「とりあえずこの場でやれることをやろうか」
「と、申しますと?」
「うちの店で揃えられるだけの装備を揃えておこうって話だよ」
「「……えぇ!?」」
ボーさんの提案に、私と陽葵さんの声が重なる。
「そこまでしてもらうのは流石に悪いって!」
「変なとこで遠慮すんな。
言っとくが、うちで最高級のを装備したって、ランクBを目指すのはそう容易じゃないんだからな。
……それに、金はクロダが払うんだし」
「……え?」
そんな話聞いてない、聞いてないですよ?
「ケチケチすんなよ。
教育係ついときながらこんなヘマやらかせちまったんだ。
お前にだって責任はあるだろ?」
「……それは、まぁ…」
そこを突かれると私も弱い。
実際、教育係失格物の失態ではある。
――覚悟を決めるか。
「……分かりました。
支払いは私が持ちますので、一番良い装備を見繕って貰えませんか」
「マジで!?」
「そうこなくっちゃな!
よし、ちょっと待ってろ、今倉庫漁ってくるから」
そう言って、ボーさんは店の奥に駆けていく。
「……ごめん、黒田」
私に悪いと思っているようで、しょんぼりとした表情の陽葵さん。
「ボーさんも仰っていましたが、私にも責任はありますし。
気になるようでしたら、これからの冒険者生活、頑張って臨んで頂ければ、と」
「……へへ、ありがと♪」
「………!?」
私への感謝と一緒に浮かべた陽葵さんの笑顔が!
なんかもう凄い勢いで天使の微笑みなんですが!?
あまりに可愛らしすぎて思わず声が出そうになってしまったよ私は!
この笑顔を見るためなら、装備に金を出す位安いものだ、と本気で考えてしまった。
「さ、着心地はどんなもんだ、ヒナタ?」
「……ど、どうって」
倉庫から戻ってきたボーさんから装備を渡され、早速着替えた陽葵さん。
「その防具は優れものだぞ。
柔らかくて伸縮もする素材だから動きはほとんど妨げない。
それでいて、物理的な攻撃は勿論、魔法攻撃にも耐性がある」
「……そ、そうなんだ」
ボーさんの防具解説が続く。
「全身を覆っちゃいるが、セパレート形式だから着脱も簡単だ。
迷宮で寝泊まりすることもある冒険者にとって、割と重要なことなんだぞ」
「……分かる、けどさ」
ボーさんの台詞に、もごもごと言い返す陽葵さん。
だが、次の瞬間。
「これは、流石にどうよ!?」
陽葵さんが叫んだ。
ボーさんに渡された陽葵さんの装備。
それは、特殊素材で出来た黒い全身スーツだった。
もっと見た目を分かりやすく表現するならば、極薄のラバースーツ。
さらにぶっちゃければ、俗にぴっちりスーツと呼ばれるもの。
薄い生地が陽葵さんの肢体にこれでもかという程密着しているため、彼のボディラインがくっきりと分かる。
いや、ボディラインが分かるという言葉すら生ぬるい。
これは――
「裸じゃねぇか、こんなの!」
私が言いたいことを、陽葵さん自身が代弁してくれた。
うん、裸だね。
肌の色こそ違うものの、スーツの余りのフィットっぷりに、スーツを着てはいるものの裸と同義であった。
どれ位裸なのかと言うと、お尻の割れ目が見えるのは当たり前。
へその形や乳首の突起なんていう小さい凹凸まで確認できてしまうくらいだ。
「ちゃんと大事なとこは隠してるじゃないか、ほれ」
ボーさんが陽葵さんの股間を指さす。
ファウルカップ的なものが仕込んであるのか、その部分は陽葵さんの男性器を露わにしていない。
逆に言うと、股間のイチモツが見えないので、今の陽葵さんは貧乳な女性以外の何物でも無かった。
膨らみこそ無いが、どこか柔らかさを感じさせる胸。
キュッと締まった腰つき。
プリッとした綺麗なお尻。
程よい肉付の太ももにスラリとした脚。
さっきから私は、陽葵さんの肢体から目が離せない。
「それとも、見せつけたいのか、お前さんのちんこ」
「見せたいわけないだろ!?」
いっそ見せてしまってもいいかもしれないが。
朝に全て確認済みとはいえ、こういう形で眺めるのはまた違った趣がある。
私はボーさんの方へ向き直り、微笑んだ。
「……完璧ですよ、ボーさん」
「ありがとよ、クロダ」
自然と、二人はハイタッチを交わす。
「訳わかんねぇよ!
何分かり合ってる雰囲気出してるんだよ!!」
なおも抗議する陽葵さんに、ボーさんは面倒くさそうに応じる。
「仕方ねえな。
分かった分かった、それ以外の防具も用意してやるよ」
少しして。
「これでどうよ?」
「……ま、まあ、これくらいなら」
いいんだ!?
と、思わず突っ込みを入れそうになるが、必死で声を抑える。
陽葵さんは、ボーさんが再び持ってきた防具を着用している。
どの装備も全身スーツの上から着るタイプのものだった。
どんなものかと言えば、上半身はタンクトップにジャケット、下半身はホットパンツ。
いつも陽葵さんが来ている服と似た装いだ。
それが、陽葵さんの警戒心を薄れさせたのかもしれない。
ジャケットは置いておくにしても、まずタンクトップ。
へそ出し……と言うより、胸を隠す程度の丈しかない。
陽葵さんのお腹も腰つきも見放題だ。
そして、何よりやばいホットパンツ。
いつも陽葵さんが履いているショートパンツよりさらに丈が短い……というか、太ももをほぼ覆っていない。
だがそんなものは、そのホットパンツのローライズっぷりに比べれば些細なことだ。
なんというか、男が履いたら……いや、女性が履いても色々とはみ出しかねないローライズ具合。
前から見てもやばいのだが後ろから見てもやばい。
お尻をちゃんと隠せていない。
尻の割れ目が上半分、パンツからはみ出してしまっている。
見ようによっては、裸よりも恥ずかしい格好だ。
……というか、これは本当に防具なのか?
一応は全身をスーツで覆って、その上にこれらの防具(?)を着ているので、陽葵さんの体感としてはそれ程露出している印象は無いのかもしれない。
私はボーさんの方へ向き直り、再び微笑んだ。
「……パーフェクトです、ボーさん」
「ありがとよ、クロダ」
ハイタッチを交わす私達。
「お前らあれか、何かことある毎にハイタッチする癖でもあるのか?」
陽葵さんが私達の魂の交流に口出ししてくるが、今はそんなもの気にならない。
これから毎日、陽葵さんのこの姿を間近で見れるというのだから、もう天にも昇る気分だ。
「……ああ、そうそう。
これ、今回の装備の代金な」
ボーさんから装備の明細書を渡された。
「はい、分かりまし――――!!?!?!??」
その金額を見て、別の意味で(本来の意味で)昇天しそうになった。
「ちょ、あの、ボーさん?
このお値段は…?」
「最新素材のスーツに、ミスリルで出来た糸を織り込んだジャケットやパンツ、ついでに防刃繊維製のシャツ。
これでも値引きしたんだぜ?」
そんな豪華仕様の装備だったのか!?
誰だ、これが本当に防具なのか疑わしいなどと考えたやつは!
「何なら、分割払いも受け付けるぞ」
「すみません、それでお願いします…」
先程までの興奮は全て吹き飛んでしまった。
ついでに、私の貯蓄も吹き飛んでしまいましたとさ…
第五話③へ続く
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