社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

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第五話 ある社畜冒険者の新人教育 二日目

① 陽葵さんのお尻※

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 私の目の前には、尻があった。

「……すぅー……すぅー……」

 安らかに寝息を立てる陽葵さん。

 時刻は朝。
 私は彼を起こすために、寝室へ入っている。

「……すぅー……すぅー……」

 陽葵さんは寝息までが可愛らしい。

 彼は今、お尻を上に突きだすようなうつ伏せの姿勢で寝ている。
 寝相は余りよろしくないようだ。
 寝る時かけていたであろう毛布も、ベッドの下に落ちている。

「………ふむふむ」

 私は陽葵さんを起こすためにこの部屋に来たわけであるからして、すぐにでも彼に声をかけるべきなのだが――別に時間が切迫しているわけでもない。
 少々彼を観察してもいいのではないだろうか。
 1、2週間程度とはいえ、教育係としてこれから付き合っていくわけではあるし、できるだけ陽葵さんの事を知っておいて困ることは無い。

「というわけで、さっそく」

 観察を始める。

 まず手始めに、顔。
 気持ち良さそうに寝ている。
 異世界に来て初めての夜だったはずだが、不安やストレスは余り抱えていないように見えた。
 性別男というのが悪質な詐欺に聞こえる程、完璧に整った可愛らしい美貌は、目を閉じていても一向に衰える気配は無い。
 また、ショートカットの金髪は、一晩寝た後だというのに大して寝癖がついていなかった。

 彼の髪を撫でてみる。

「……なるほど、素晴らしい」

 短く切られているにも関わらず、柔らかさがよく手に伝わってくる。
 さらにはこのサラサラとして艶のある質感。。
 髪を撫でているだけなのに、まるで飽きが来ない。

「……さて、次は」

 やはり、先程から存在を主張しているお尻だろう。

 着の身着のままでウィンガストに来た陽葵さんは、寝間着など当然持ってきていない。
 そのため彼は今、下着姿である。
 上はタンクトップ、下は灰色のボクサーパンツだ。
 昨日の服装から、ジャケットとショートパンツを脱いだだけ、とも言う。

「……一応、男物なのか」

 ボクサーパンツをじっくり見ながら、言う。
 男なのだから当たり前ではあるのだが、やはり違和感はある。

 しかし、それで陽葵さんの魅力が損なわれているのかと言えば、答えは否だ。
 お尻にピッタリとフィットしているパンツは、陽葵さんの至高の曲線をまるで隠していない。
 男性とはまるで思えない、いや、女性として考えてみてもその形は余りに理想的すぎる。
 腰のくびれ、お尻の丸み、太もものハリ、脚の長さやすべすべ感、今私の目に見える全てが女として完璧な領域で整っている。

 何故彼は男として生まれてしまったのか。
 呪いか何かで性別を変えられてしまっている、と言われれば、私はあっさり信じてしまうだろう。

「……とりあえず触ってみるか」

 男同士でもスキンシップ等で肌を触ることはある。
 これ位なら色々な意味で問題ないはずだ。
 そんな感じに自分を納得させる。

 ――と、余り時間をかけすぎると、起きてしまうかもしれない。
 両手を伸ばして陽葵さんのお尻を掴む。

「……! これは…!?」

 思わず息を飲んだ。

 陽葵さんのお尻の感触。
 それは、男の筋肉質な硬さと大きくかけ離れていた。
 しかし、女性のような柔らかさかと言われると、それとも質が異なる。

 なんと表現すればいいのか。
 女性のお尻よりも筋肉質であるのだが、その筋肉が男のように硬くないのだ。
 高い柔軟さを備えた筋肉、という言い方で少しは伝えられるだろうか。

「……なんだこれは……なんなんだこれは……!」

 一心不乱に陽葵さんの尻を揉む。

 モハメド・アリの筋肉はマリリンモンローの身体と同じ柔らかさだったとどこかで聞いたことがあるが、だとすれば陽葵さんはモハメド・アリをある意味超えていた。
 揉んでいる手に反発を感じるほど弾力があるのに、しかしそんな中で柔らかさもしっかりと維持している。
 固さと柔らかさの絶妙なハーモニー。
 こんな感触を味わえる肢体があったとは、今まで考えもしなかった。
 しかもそれを持っていたのは、女ではなく男なのだ。

 ファンタジー世界にあって一番のファンタジー的存在が現代社会から来た人間であったとは…!
 コロンブスの卵、或いは蒼い鳥はすぐ隣に居た!?
 何を言ってるか分からないと思うが、大丈夫、私も分からない。

 ……と、そんな滅茶苦茶なことを私が考えていると。

「……んっ……あっ……んんっ……」

 陽葵さんの口から、色っぽい声が漏れ出した。
 ……私の聞き間違えか?
 疑問に思いながらも、尻揉みを継続。

「……はっ……あ、んっ……あっ……」

 聞き間違いでは無かった。
 陽葵さんが、嬌声を出している。

 ……いやちょっと待った。
 なんでこの人、男なのにこんなエロい喘ぎ声なのか。
 まだ寝ているのに。
 尻を揉まれただけなのに。

 ひょっとして既に起きていて、私をからかっているとか?

 そう考えて、尻をもう少し強く揉んでみる。
 ……この尻の感触、もう病みつきになりそうだ。

「……あんっ……んぅっ……あぁんっ……」

 陽葵さんは起きる様子無く、喘ぎがやや強くなった。

 ……男の反応じゃないって。
 しかもその声のエロいことエロいこと。
 元々女の子らしい高い声質なので、もはや『美少女がお尻を揉まれて喘いでいる』図でしかない。

「もう、脱がすしかない…!」

 パンツを脱がす。
 脱がして、直接この目で全てを確認するのだ!

 ボクサーパンツをぐいっとずり下ろす。
 これで陽葵さんの目が覚めたら、その時はその時である。

「……んん……すぅー……すぅー……」

 幸い、まだ寝ているようだ。
 陽葵さん、少々鈍感すぎやしないか。

 下半身を生まれたままの姿にし、私は股間を覗き込んだ。
 そこには……

「やはり、ある……?」

 当然、そこには小さ目ではあるものの男のシンボルが生えていた。
 しかし……毛が無い。
 股間回りから、お尻にかけて、綺麗につるっつるであった。
 手入れをしているわけも無いだろうから、この状態が陽葵さんの普通なのだろう。

 ………本当に、どういう身体をしているのだ、この人。

「……ここまで来たからには、上も確認しておくか」

 謎の使命感に動かされ、私は陽葵さんを仰向けにした。
 ちょっとやそっとでは起きないことが分かったので、行動が大胆になってきている。
 そして間をおかず、タンクトップを捲し上げた。

「……綺麗だ」

 そこには、当然膨らみは無かった。
 だが、男らしい胸板もまた無かった。

 華奢で、しかし柔らかい胸肉がそこにはあった。
 そして綺麗なピンク色の乳首も。

 ……貧乳な女性の胸、で十分通せる。
 流石に完璧な造形を誇る下半身程ではないが、この胸でも男は誘えるのではないだろうか。
 それ位、綺麗な胸だった。

 現在陽葵さんはほぼ全裸だが……こんな状況であっても、股間のモノさえ見なければ彼が男だと分からない。
 それほどまでに陽葵さんの肢体は女として完成されている。

 そんなわけで、乳首を舐めてみる。

「……あぁんっ」

 またしても嬌声が上がった。
 私は、女のおっぱいにむしゃぶりつくが如く、陽葵さんの乳首に吸い付いた。

「……んんっ……あっ……あんっ……」

 女のように喘ぐ、陽葵さん。
 彼が男である事実を忘れさせる乱れっぷりだ。

「……んぅっ……んんっ……あぅっ……」

 艶のある声を聞いて、私の股間が勃起してくる。
 陽葵さんの乳首もまた、彼の昂りに応えるように勃ってきた。

 ……しかし、ここで困ったことが発覚する。
 挿れるべき穴が、無い。

「…………いや」

 ――ある。
 陽葵さんにも、穴はある。
 その天啓に従い、私は彼の姿勢を再びうつ伏せに変えた。

「……んんん……んぅ……すぅー……すぅー……」

 こんなにやっても陽葵さんに目覚める気配が無い。
 これは、OKサインと受け取っても良いように思えた。

 私は両手で尻の割れ目を拡げ、目的の箇所を見つける。
 陽葵さんの尻穴だ。

 やはりと言うべきか、そこもまた美しい色合い・形状をしていた。
 ここまで来れば、そのことはもう驚きに値しない。

 私はまず人差し指で、肛門を触る。

「……固いな」

 まだ誰も受け入れたことがないのであろう(当たり前か)、陽葵さんの尻穴は固く閉ざされている。
 無理やり入れるのはまだ無理――か。

 仕方なく、陽葵さんの肛門を指で弄り、少しずつほぐしていく。

「……んおっ……おっ……んんぅっ……あっ……」

 三度、陽葵さんが艶混じりの声を出し始める。
 それをBGMに、私は彼の穴を弄り続ける。

「……あっ……あっ……おぉっ……おぅっ……」

 少しずつ、固さが取れていく。

「……あぅっ……あっあっ……おっ……んぉっ……」

 丹念に丹念にほぐす。

「……おっおおっ……おぅっ……んぁあっ……あぅっ……」

 そろそろいいだろうか。
 私は人差し指に力を入れ、陽葵さんの尻穴へ挿し込んだ。

 その瞬間である。

「……んぉおおっ!?」

 陽葵さんが一際大きく喘いだ。
 挿れた人差し指が、痛いほど締め付けられる。

「おっおっおっおっ……んぁああっ……あっあぁあああ!」

 びくびくと身体を痙攣させて、股間のモノから白濁した液を迸らせる陽葵さん。
 指を一本挿れただけで、絶頂に達してしまったようだ。
 未経験だからなのか、それとも素質があるのか、感度は非常に良好らしい。

「は、あぁあああああ……おぉお…んっ……」

 ひとしきり射精が終わると、ぐったりと倒れ伏す。
 その時の動きで、人差し指は抜けてしまった。

「……はっ……んっんっ……はっ……はっ……」

 荒い呼吸を繰り返す。
 ――今回はここまでにした方が良いだろう。

 陽葵さんの身なりを軽く整え、ベッドのシーツに付いた精液を拭き取ってから、私は寝室を後にした。



「……あ、あれ、クロダ? ヒナタ、起こしに行ったんじゃないの?」

 リビング戻ると、私に少し遅れて起きたリアさんが居た。
 シャワーを浴びた後なのか、セミショートの髪が少し濡れている。
 朝食の用意は済ませているのだが、律儀に陽葵さんが起きるのを待ってくれているようで、まだ手を付けていない。

「……ええ、余程ぐっすり眠っているようで。
 今日の用事はそれ程時間のかかるものではありませんし、もう少し寝かせて上げてもいいかな、と」

 リアさんに近づきながら、私はそう告げた。

「ふ、ふぅん……まあ、昨日こっちに来たばっか、だもんね。
 じゃ、ちょ、朝食はどうしよっか。
 あ、あたし達だけで、先に食べちゃう?」

 何故か言葉遣いが少したどたどしいリアさん。
 私を直視せず、斜めを向いて話してくる。
 顔も少し赤いような気がする。
 昨晩の事が尾を引いているのだろうか?

「朝食もいいのですが――」

 今の私には、食事よりも先に喰わなければいけないモノがあった。
 十分にリアさんへと接近した私は、彼女を押し倒す。

「――え?
 な、何すんのよ!?」

 面食らう彼女だが、事情を説明するのももどかしい。
 私は陽葵さんの痴態によってギンギンに勃起したイチモツを取り出す。
 そしてリアさんが履いているスパッツとパンツを無理やり脱がし――

「――ちょっ、ま、待ちなさいって……んぁあああああああっ!?」

 リアさんの中へと、男根を突き入れた。
 この昂りは、リアさんの身体を使って治めることにする。



 結局、陽葵さんが起きたのは、私が二度程リアさんの膣に精を注いだ後であった。



 ――そんなこんなで少々慌ただしく朝を過ごしたわけだが。

 朝食も済ませ、現在は冒険者ギルドへの向かう道中である。
 同行者は勿論、陽葵さん。
 リアさんは昨日からの疲れがあったのか、朝の食事が終わると二度寝してしまった。

 ……一瞬、次に会う時どのような制裁が待っているのか考え、身体が強張る。
 殺されないと、いいな。

「リア、大丈夫かなぁ?」

 そんな私の悩みを一切知らない陽葵さんは、リアさんの調子を心配している様子。
 朝の件については、覚えていないようだ。

「色々と気を遣ってくださいましたからね。
 私達には言わないだけで、気苦労もさせてしまったのでしょう」

 適当に言葉を合わせる。

「部屋を貸してくれただけじゃなくて、食事まで厄介になっちゃったからなー。
 ……あと、オレの性別のこととか」

「帰ったら、改めて感謝を伝えた方が良いかと」

「うん、そうするよ」

 正確には、朝食は私が用意したのだが、そこは指摘しないことにする。
 私は話題を変えて、

「さて、今日は、陽葵さんの職業を決めます」

 歩きながら、本日の予定を確認をする。
 昨日は冒険者の登録まで済ませているので、今日は職業を決める。
 その後、職業に応じた装備を揃えるところまでは終わらせたいところだ。

「とうとう来たか、この時が!」

 陽葵さんはワクワク顔をしている(可愛い)。

「職業に就けば、かなり今までと感覚が変わってきますよ。
 冒険者登録の段階では大して変わらなかったでしょうけれど」

「そうなの?」

「はい。
 ステータス的な話をしますと、職業を決めた段階で筋力や体力などの基本能力に職業による補正がかかりだすんです。
 例えば<戦士>になったとすると、自分の力が強くなっていることにすぐ気が付くでしょう」

「へー、いいなぁ、それ。
 黒田も、やっぱ地球に居たときと違う?」

「私は<魔法使い>なので力はそれ程変わっていませんが、思考速度などは前よりも格段に速くなっていますね」

「ほうほう」

 うんうんと頷く陽葵さん。

「それで、陽葵さんがどの職業になるか、ですが」

「そうそう、それが話したかった」

「朝に説明しましたが、覚えていますか?」

「うーん、まあ、一応」

 自信なさげな顔をする陽葵さんだが、これはそれ程難しい話ではない。

 最初に就く職業は特殊な事情が無い限り、<戦士><僧侶><盗賊><魔法使い>の4種類の基本職の内、最も適性が高いものが推奨されている。
 前にも話したが、冒険者にとって最も重要なパラメータは職業適性であり、これに従うのが最も確実なのだ。
 複数の職業が最高適性だった場合のみ、基本ステータスの高低等も吟味する、位で問題ない。

 陽葵さんの場合は最高値であるA適性が<僧侶>と<盗賊>で出ているので、その二者択一が悩みどころではある。

「私は<僧侶>になることをお勧めしますね。
 回復担当というパーティーの要を担い、その関係で比較的安全な位置に置かれることが多い職業ですから」

 危険と隣り合わせな冒険者稼業だが、職業によって危険度は多少上下する。
 先程言った通り、<僧侶>は後ろに置かれ他の仲間によって守ってもらえることが多く、逆に<戦士>は前に立って仲間をかばう役割を担う。
 どちらの方が身の危険が大きいか、一目瞭然であろう。

 もっとも、その分<戦士>は体力への補正が高いので、<僧侶>なら死にかねない傷を負ってもピンピンしていることがあったりするが。

「でも、<僧侶>より<盗賊>の方が、基本能力への補正は大きいんだったよな?」

「はい、その通りです」

 職業に就くことで補正が得られると言ったが、当然就いた職業によって得られる補正は異なる。
<戦士>なら筋力・体力・敏捷に大きく補正がかかり、一方<魔法使い>は知力や魔力に補正がかかる。
 また、得られる補正の総量も職業によって違う。
 具体的には、<戦士>→<盗賊>→<僧侶>→<魔法使い>の順で補正の総量は小さくなっていく。
 さらにこの補正の大小は、レベルアップした際に上がる基本能力の数値にも影響を及ぼす。

 つまり、補正の少ない職業は成長を実感しにくいとも言えるわけで、陽葵さんはそこを気にしているのだろうか?

「しかし、補正の少ない職業程、スキルポイントが多く手に入りますから。
 一概に劣っているわけではありませんよ」

 スキルポイント。
 はい、また新しい単語が出てきました。

 冒険者の扱うスキルは、レベルアップ時に手に入るスキルポイントを消費することで獲得する、或いは成長させることができる。
 このスキルポイントの入手量も職業によって異なっており、基本的に基本能力補正の小さい職業程スキルポイントは手に入りやすい。

 つまり、様々なスキルを駆使して冒険をしたいなら、能力補正の少ない職業になる方が有利、というわけだ。

「それも、分かってるんだけどさ…」

 煮え切らない返事。
 ……どうも、陽葵さんの心は<盗賊>の方は傾ている様子。

「まあ<僧侶>押しの発言ばかりしてしまいましたが、<盗賊>もまた良い職業ですよ。
 迷宮探索の中心になる職業ですから、募集しているパーティーも多いですしね」

 A適性<盗賊>ともなれば、冒険者ランクCやBのパーティーに声をかけられることもある。
 そういう強いパーティーに最初から所属できれば、安全にレベリングさせて貰えるので、今後に有利だ。

 ……そういえばさっきから安全面の話しかしていないな。
 とはいえ、私が最も重要視しているのが正にそこなので、こればかりは致し方ない。
 私が教育係についた段階で、ある程度諦めて頂くしか。

「いやー、そういうことでも無くて」

「はい?」

<盗賊>になろうとしていたわけでも無い?
 では、何に引っかかっていたのだろうか。

「その、職業ってさ、基本職じゃなくて、派生職に最初からなることもできるんだよな?」

 ……そこを考えていたのか。

「なることはできますが。
 お勧めはできませんね」

 前にも触れたが、職業には基本職にそれぞれ対応した派生職というものがある。
 派生職は基本職に比べ、特定の役割に特化したものとなっている場合が多い。
 例えば、<僧侶>の中でも前衛に立つことを目的とした<聖騎士>、<魔法使い>の中でも補助・強化魔法に特化した<付与術士エンチャンター>などだ。

 派生職はその役割に合わせて、基本職とは異なる補正を持っている。
 勿論スキルポイントの獲得量も違うし、スキル毎の習得し易さや効果量なども変わってくる。

「派生職は経験をある程度積んで、パーティー内での自分の立ち位置や自分の特性を把握し、それを考慮して就くものです。
 パーティー構成上どうしても、というケースを覗いて、最初からなるものではありません」

 パーティーで行動を続けていれば、その中での自分の役割が明確になってくる。
 その役割により適した派生職を選択する、というのが派生職へ転職する主な流れである。
 例えば、後衛につくことが多い<盗賊>が弓をより上手く扱えるように<狩人ハンター>に転職する、とかだ。

 ただ、ジャンさんのパーティーのように、パーティー編成時に問題が発生する場合もある。
 ジャンさんのところは、<戦士>の適性が高いメンバーを用意できなかったため、<僧侶>適性の高かったコナーさんが戦士の代わりもできる<聖騎士>になっている。
 こういった事情が無い限り、基本職の方が探索をする上でバランスの良い能力に設定されているので、最初から派生職を選ぶメリットは無いだろう。

 自分の特性、というものも軽視できない。
 職業による補正や、スキルの効果量・習得難易度等には、個人差があるのである。
 体力の基本能力が上がりやすいとか、剣より槍を使った方がスキルの効果が高いとか、火の魔法が他の魔法よりも習得しやすいとか。
 そういった特性は人によって千差万別であり、冒険証のステータス画面には表示されない。
 何度も冒険を重ね、実戦の中で把握していくしか無いのだ。
 そうやって自分の持つ特性を理解してから、それに見合った派生職を選ぶことで、より効率的に自分の力を発揮できるようになる。

「最初に基本職を選んだとしても、冒険者ランクがCになれば転職が可能になります。
 その時派生職になるのが、最も適切です」

「そうなんだけどさ、そうなんだけどね。
 やっぱり、皆がなっていない特殊な職業に就くっていうのは魅力的なわけじゃん?」

 そうだろうか?
 皆がそれを選んでいることは、それが最適な選択であることの証明だと思うのだが。
 いきなり派生職を選ぶなど、博打にも程がある。

「素人考えで派生職を選ぶと、痛い目を見ますよ?」

「でも、黒田は素人じゃないだろ?」

 素人では無い私の意見としては、基本職を強く強くお勧めしているのですよ?
 とはいえ、このままでは埒が明かないようにも思える。

「分かりました。
 とりあえず話は聞きましょう」

「そうこなくっちゃ!」

 満面の笑みを浮かべる陽葵さん。
 凄く可愛い。
 なんなんだ、この生物。

「説明した通り、派生職とは基本職より特定の分野に特化した職業です。
 そういう訳で、陽葵さんに何かやりたいことがあるならば、選びやすいですね」

「前に出て戦いたい!」

 即答であった。

「……いいんですか?
 前衛に出るということは、その分危険が増えるということで――」

「危険を怖がってたら冒険者なんてできないだろ?
 それにほら、やっぱりこういうのの華は前に立って戦う戦士だしさ!」

 冒険者は臆病な位が調度いいのだが。
 私程の臆病っぷりでは流石に支障が出るけれど。

 まあ、そこは追々しっかりと説明していこう。
 この流れで頭ごなしに否定しては、話が進まなくなる。

「<僧侶>や<盗賊>の派生職で前衛に出るのに適したものとしては、やはり<聖騎士>ですね」

 トニーさんが就いていて、度々話題にもしている<聖騎士>。
 派生職の中ではかなりポピュラーな職業で、回復ができる前衛ということで人気・需要共に高い。
 その実、敵と直接交戦しながら仲間の支援もしなければならないので、職業の性能を十全に発揮させようと思えば本人に高い戦術眼が要求される。
 使いこなすには難易度の高い職業だが、使いこなせたならば誰よりも重宝される。

「<聖騎士>かぁ、それはそれで良さそうなんだけどさぁ」

 陽葵さんはそこまで乗り気では無いらしい。

「ちょっと煌びやか過ぎるというか…
 もっとダークで格好良い感じの職業、無い?」

 職業選びを何だと思っているのだ。
 そう指摘したい気持ちをぐっと抑え、その条件に合いそうな派生職を考えてみる。

「……そうですね。
 <暗殺士アサシン>は如何ですか?
 <盗賊>の派生職の中では最も前衛向けで、習得するスキルの選択によっては<戦士>に勝るとも劣らない火力を発揮できます」

 その分、<盗賊>本来の役割である罠の探知や解除は不得手である。
 また、前衛向けとはいえ体力への補正は<戦士>に比べると少なく、高い敏捷を活かして敵の攻撃を避ける立ち回りが重要になってくる。
 尖った性能の職業なので、正直なところ私の好みでは無い。

 しかしものは考えよう。
 偵察が得意で、罠を解除することもできる<戦士>と考えれば、重宝される存在でもある。
 <戦士><盗賊><僧侶><魔法使い>が既に揃っているパーティーに+αの存在として所属すると活躍しやすいだろう。

「<暗殺士>か……うん、響きは悪くないないかな。
 よし、それにしよう!」

 響きで職業を選ばないで欲しい。
 しかし職業を決めてくれたのはありがたい。

 まあ極論を言ってしまうと、陽葵さんはA適性の持ち主なので、どの派生職を選んでも問題なく活躍はできる。
 <暗殺士>は罠関連の作業が苦手と説明したが、C適性の<盗賊>と比べればA適性の<暗殺士>の方が罠探索・解除は上手い。
 適性の壁というのは、斯様に厚いものなのである。

 一応、その辺りも補足として陽葵さんに説明しておく。

「冒険者としての行動や成長ほぼ全てに適性による修正が入ってきますからね」

「なんだ、それじゃそんなに悩む必要無かったじゃん」

 あっけらかんと答える陽葵さん。
 まあそうかもしれないが、その中でも最適解というものはあるわけで……
 その辺を彼に教え込むのは、なかなかしんどい作業になりそうだ。



 第五話②へ続く
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