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第一話 ある社畜冒険者の一日 アフターファイブ編

② 黒の焔亭

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「だっははは、いや災難だったなぁ、クロダ!」

 笑いながら私の肩を叩いてくる、スキンヘッドな壮年の男。
 この店の店長であり、名前はゲルマン・デュナンさん。
 リアさんはというと、店長の登場で毒気を抜かれたのか、私への制裁を諦めてくれた。
 今は私達から少し離れたところで深呼吸し、心を落ち着かせている模様。

「ふしゅーーーー、ふしゅーーーー」

 物騒な息遣いが、ここにまで届いてくる。
 息と一緒に煙まで吐いているように見えるのは、私の目の錯覚だと信じたい。
 ……彼女は一体何者なのだろうか?

「まあ、何事も無く何よりでした」

 心の底からそう思う。
 今日一日の疲れを癒すために訪れたというのに、今日一日で一番疲労してしまった。
 店長から出された食事を丹念に味わうことで、せめてこの疲労に報いたいと思う。

「悪いなぁ、今日はちぃっとばかし性質の悪い男共が来てよぉ。
 リアの奴、かなりピリピリしてたんだわ」

 納得すると同時に、一つ不思議に思ったことがある。
 店内を一通り眺めてから一言。

「それにしては、店に破壊箇所がありませんね」

「ちょっ―――何言ってんのクロダ!」

 疑問をそのまま口にした。
 向こうでリアさんが不満そうな声を漏らしたが、しかし不思議なものは不思議なのだ。
 彼女の制裁は、店の壁やら扉やら机やらも犠牲にしてしまうのが、今までの常だったのだから。

「毎回毎回制裁の度に店壊されちゃたまんねぇからなぁ。
 リアが爆発する前に、俺が連中をつまみ出したわけよ」

 成程。
 それで爆発できずに火種は燻り、先ほどの大爆発一歩手前に繋がったと。

 なお、このゲルマンさん、筋骨隆々の大男であり(ボーさんに比べれば小さいが)、昔は傭兵をやっていたというお方。
 その気になれば困った客の一人や二人、軽く吹っ飛ばせる人なのである。

「リアよぉ、もうちっと沸点高くできないもんかねぇ?
 危うく貴重な常連がいなくなっちまうところだったぜ?」

 食事に忙しい私から、リアさんへの話相手を変える店長。

「やらなかったんだからいいじゃない」

 呼吸を整え終わったリアさんが応じる。

「それに、クロダなら大丈夫でしょ。
 一応冒険者なんだし」

「冒険者ったってお前、ちょっと前にブッ飛ばしてたじゃねぇか、その冒険者を」

「あいつはランクDの冒険者だったじゃない。
 クロダはもっと上よね?
 私がこの町に来るより前から冒険者やってたみたいだし」

 私に向かって質問をするリアさん。

 どうやら、高ランク冒険者を倒したという噂は、流石に尾ひれが付いたものだったようだ。
 いや、ランクDであっても一般人ではそうそう手は出せないはずなんだけれども。

 その質問に答えるより先に、店長が口を挟んだ。

「いや、こいつランクE冒険者だぜ」

「へ?」

 ボーさんと同じような、素っ頓狂な声を出すリアさん。

「Eって、嘘でしょ?
 長く冒険者やっててランクが一個も上がらないなんて話、あたし聞いたことも…」

「俺もクロダ以外には知らねぇなぁ」

「別にあたしは詳しくないけどさ、Dまでなら放っといても上がるもんなんじゃないの?」

「だなぁ、ちぃっと次元迷宮を探索すりゃあ、ランクDにはすぐ上がるはずだ」

「だったらどうして…?」

 ここで店長が一度会話を区切り、私の肩に手をのせてから、深くため息を吐く。

「こいつ、ひよっこ冒険者が使う、次元迷宮の白色区域――初心者用区域っつった方が分かりやすいか?――そこ以外行ったことねぇんだと」

「うっそぉ!?」

 再び素っ頓狂な声をあげるリアさん。

 今店長の言う白色区域とは、初心者用区域の正式名称。
 次元迷宮の内部は、そこの危険度に応じて白色・緑色・黄色・赤色に区分けされた名前が付けられている。
 勿論、本当に白色や緑色のダンジョンが広がっているわけではなく、単に冒険者ギルドがそう名付けているだけなのだが。
 そして一番安全な白色区域は、分かりやすさから(加えて、そこしか探索できない冒険者へのからかいの意味も込めて)初心者用区域と呼ばれることが多い。


 心の中でそのような解説をしている私に向き直って、リアさんが問いかけてくる。

「マジで?」

「はい、その通りです。
 私は初心者用区域にしか潜ったことがありません」

「マジで……」

 リアさんは、愕然とした表情を浮かべた。

「あんた、何で冒険者やってんの…?
 そんなんだったら、普通に生活しててもいいんじゃない?」

 疲れたような声で質問を重ねてくる。

「私が冒険者をしている理由ですか。
 一つは、私が<来訪者ストレンジャー>であるということ」

「うん、トーキョーってとこから来たんだよね」

 このウィンガストには、私以外にも現代世界から来た者がおり、それはこの町の住民にも認知されている。
 そんな異世界から来た者達を、<来訪者>と呼ぶのがこの町の習わしだ。
 そして、その来訪者達は、理由は分からないが、冒険者としての適性が高い傾向にある。
 私もその例外では無く、この世界の住人に比べて高い適性を持っていた。
 それ故に、この世界において基本的に根無し草である訪問者達は、生きる糧を得るためにほぼ全員が冒険者となっている。

 そして。

「もう一つは……意外と儲かるんですよ、冒険者って」

「ランクEで初心者用区域しか潜ってないのに?」

「ランクEで初心者用区域しか潜っていないのに、です。
 例えば今私が持っているミスリルクロークというこの防具。
 これを買うのに私は3か月かかりましたが、一般的な職で同じ金額を稼ごうとするなら、果たして何年、いや、何十年かかることか…」

 そう告げるとリアさんの顔色が変わった。

「そ、そんなに儲かるならあたしもやってみようかな…」

「おいおい、変なことをうちのウェイトレスに吹き込むな」

 店長が割って入ってきた。

「リア、真に受けんなよ、冒険者はそんな美味しい職業じゃあねぇぞ」

「だって、ランクEでミスリルクリーク買えるって…」

「無理だ。買えねぇよそんなの」

 リアさんの言葉を、ズバっと切って捨てる店長。

「でもクロダは……」

「こいつは、ちっとばっかし特殊なんだよ。
 誰でも彼でも真似できるわけじゃねぇ」

「……特殊って何?
 実は超強いの?
 ランクEだけどランクAだとかそんなん?」

 何を言っているのだこの人は。

「そんなことはありえません。
 私など、ただ誠実に生きることだけを心掛けている、つまらぬ男です」

「クロダお前ちょっと喋るな。
 話がこんがらがる」

 少し怒ったような口調で、店長。

「いいか、ちょっと考えてみろ。
 毎日毎日、同じ場所をぐるぐる回って、大して変わり映えの無い魔物をちまちまちまちま延々と倒し続けるんだぞ。
 普通の奴なら頭おかしくなっちまうわ」

 店長が解説するが、その話には少々反論したい。

「慣れれば結構楽ですよ?」

「だっからお前は喋んなっつったろぉ!?」

 話の腰を折られて、先程よりさらに強い口調で私を叱る店長。
 いやでも実際、同じことを延々と繰り返すなんて、凄い簡単な作業だと思うのだが。
 変にあれこれ考える必要もないし、想定外の事態もまず起きないし。

「ほらほら、クロダはこう言ってる!」

「だから真に受けるなっつってんだろが!!」

 私の言葉を受けて勢いを増したリアさんに、とうとう店長が怒鳴る。

「あーもう面倒くせぇ!
 そんなに金が欲しいってんなら、バイト代上げてやるよ!」

「え、マジで?」

 思わぬ言葉に、リアさんの目が輝いた。

「応ともよぉ! 但し!!」

 店長はリアさんのスカートをがばっと捲る。
 ……て、え?

「もうちっと女のサービスってのができるようになれば、だがな!
 まったく、なんだぁこのパンツは。
 こんな幼稚な白パンツなんざぁ履きやがって……男共が知ったらガッカリするぞぉ?」

 飾り気の無い白い下着だからこそ興奮するという男もいるんですよ、店長。
 ……いやいやだからそうじゃなくて。

「…………」

 リアさんは、余りの展開に硬直している。
 それを知ってか知らずか、店長は続けた。

「お前はよぉ、身体はいいもん持ってんだから、あとは男心ってもんを学んでだなぁ」

 いいながら、リアさんの形の良いお尻を揉みだす店長。
 おいおい、やばい、やばいよ……

「………お」

「お?」

 不意に漏らしたリアさんの一言に、聞き返す店長。

「往生せいやぁぁぁあああああああ!!!!!」

「うぼっぁあぁげはぁあああああああああ!?!?!?!!?」

 鬼、再臨。
 ノーモーションで繰り出された、大気を切り裂くようなリアさんの正拳中段突き。
 無防備にそれを受けた店長は、そのまま吹き飛び、壁に激突する。
 ずしん、と店が震えた。

 ……今、100kgを超える店長の身体が、キャリーで10m近く飛んだんですが。
 生きてるのか、店長。

「ふーっ、ふーっ」

 聞こえるのはリアさんの荒い息。
 私はと言えば、ただ自分が次の標的とならないことを祈るのみだったわけで……




 ――幸い、店長の命に別条は無く、私が標的にされることも無かった。

「戸締り完了!
 さってと、帰りますか」

「店長が倒れたままですが」

 帰り支度を終えたリアさんが、店の奥から私に声をかけてきた。
 私も食事は済んでいるので、お互いもうお店に用は無いのだが……店長は未だに昏倒している。
 ついでに言うと、掃除こそはしたものの、店長がぶつかった壁は壊れたままである。

「それに関して何かしらの責任があたしにあるとでも言うの?」

「あるわけがありませんね、帰りましょう」

「よろしい」

 これ以上彼女の機嫌を損ねるわけにはいかない。
 店長を心配していないわけではないが、下手を打てば床に転がる男が二人になってしまう。
 せめて風邪が引くことは無いように、店長の体に毛布をかける。

「おっまたせー♪
 なんだかんだで後片付け手伝わせちゃって悪いね」

「お気遣いなく。
 そのようなことは気にして……!?」

 台詞の途中で、私は息を飲んだ。

「どうしたの?」

「いえ、あの……リアさん、その服装は…?」

「服? 
 ああ、そりゃ制服なんて着て帰るわけないでしょ?」

 そう言って、自分の服装を確認させるようにくるりと回るリアさん。

「ふふーん、残念だったねー?
 クロダのだーい好きな太ももも見・え・な・く・て」

「あー、はい……はは、残念です」

 意地悪に笑うリアさんに、一応形だけは残念がっている風を装う私。

 しかし、心の中ではガッツポーズを決めていた。

「じゃ、帰りましょ?
 近くまで送ってくれるのよね?」

「ええ。流石にこの時間帯で女性に一人歩きさせるわけにはいきませんからね」

「ありがと♪」

 そう言うと、リアさんは店の出口に向かって歩き出す。
 私もそれを追いながら……再び、彼女の姿をじっと凝視する。

 今のリアさんの格好は、大雑把に言えばTシャツとスパッツで、そこにカーディガンを羽織っている。
 どれも意匠は地味で、動きやすくはあるだろうが実に飾り気の無い装いである。

 だが、Tシャツはサイズが少し小さめなのか、お腹辺りが隠れていない。
 要するにへそ出しルック。
 他の部分と同様、やはり無駄な贅肉の無いお腹を、存分に見せつけてくれる。
 さらには、これもサイズの問題か、Tシャツはリアさんの胸にぐぐいっと密着している。
 つまり、酒場の制服同様、おっぱいの形が分かってしまうわけだ。
 制服より生地が薄く、着こんでる服の数も少ないせいか、今の方がより鮮明に形を映し出す。
 その魅惑のお山は、リアさんが歩くたびにぷるぷると揺れている。
 カーディガンは前を開けているので、それらは何に遮られることも無く、見放題である。

「……ふむふむ」

 これは、堪らない。
 ただ、これだけ胸がくっきり分かる状態でも乳首の突起は見られないことから、ブラは付けているものと思われる。
 ……まあ、当たり前か。

 ずっと揺れる胸を見ていたいが――その欲求を振り切り、今度は視線を下半身に向ける。

 スパッツの色は定番の黒。
 長めの丈で、膝下位までを覆っている。
 先程のリアさんの言葉通り、太ももは露出していない。
 していない、のだが。
 このスパッツ、かなり伸縮性の良い生地でできているようで、リアさんの下半身にピッチリとフィットしている。
 確かに肌はほとんど見えないものの、脚のラインからお尻の曲線まで、全てくっきり分かってしまう。
 小時間前に店長が見せてくれた(それ以前にも覗いていたけれど)ぷりっぷりのお尻が、何の労も無く堪能できる。

「………楽ができるに越したことはないか」

「何が?」

「いえ、何でもありません」

 ついつい溢してしまった言葉にリアさんが反応するが、咄嗟に誤魔化す。
 今度こそ失敗は許されない。
 彼女に怪しまれないよう、細心の注意を払う。

 重ね重ね言うが、このスパッツはこれ以上ない程リアさんの身体に密着している。
 となると当然、あるモノも見えてくる。
 そう、パンツラインだ。
 ピチピチのスパッツは、彼女の履く下着の形状さえ明らかにしているのである。

 制服姿の時に散々堪能したパンツも、こうしてスパッツ越しにそれを見るとまた趣が変わってくる。
 それに、制服の時はスカートの下から覗く形でしか見えなかったわけだが、今はどのアングルからでも見放題だ。
 さらにさらに、<屈折視><感覚強化><闇視>を全開で活用し、彼女の股間をよくよく見れば、うっすらと筋も確認できる。
 流石に下着をつけているためそれ程くっきり分かるわけではないが、それでも確実にそれはそこに存在した。

 最高だね。

 リアさんは今の服装を、男が喜ぶ類のものではない、と考えているようだが…
 いやいや、制服の時以上に扇情的な装いだ。
 彼女にそれを指摘する気にはなれないが。

「あ、次の道、左だよ」

「はい」

 彼女の肢体をねっとりと鑑賞している間にも、他愛無い会話のやり取りは続けている。
 不自然さを少しでも出せば、まず間違いなく彼女は気づくだろうから。
 失敗からの反省は、次へ確実に活かす。
 それが私のモットーである。

 彼女の家まであと10分程。
 その間、存分に楽しむとしよう。





 楽しい時間は短いもの。
 あっと言う間にリアさんの家に到着した。
 家と言っても一軒家ではなく、アパートのような集合住宅である。
 ここで彼女は一人暮らししているらしい。

「とおちゃ~く♪
 それじゃまたね、クロダ」

「はい。ではまた、黒の焔亭で」

 軽く挨拶を交わすと、リアさんはアパートの階段を上がっていった。
 その後ろ姿を―――階段を上がる毎に左右へ揺れるお尻をじっと見つめ、最後まできっちり彼女の肢体を堪能してから、私はアパートを後にした。

 ……だが。
 自宅へ帰る途中、問題が発生した。
 そう、私の愚息がギンギンになって治まらないのである。
 実のところリアさんと一緒の時からずっと勃起していたのだが(隠すのには随分と労力を要した)、彼女と別れてなおそれは衰える様子を見せない。

「私もまだまだ若い、ということか…」

 渋く呟いてみたものの、問題は解決しない。
 自宅に帰って自家発電……が妥当な選択な気がするが、最も寂しい選択でもある。
 ウィンガストには風俗もあるが(こういうお店は万国共通のようだ)、どうにも私はそういう、女性を金で買う、という行為に苦手意識を持っていて、できれば行きたくない。
 別に風俗店もそこに行く人も否定したいわけではないのだ。
 単に私の、本当にちょっとした拘りである。
 となると結局、自家発電に落ち着くか…?

 私がこれ程悩んでいるのは、明日が休日だから、ということもある。
 これが仕事(迷宮探索)の日であれば、無理せず家に戻って休養をとるのだが。

 なお、別に冒険者という職業に休日が設定されているわけではない。
 私が勝手に週休1日制で動いているだけだ。
 6日働いたら1日休む――現代社会で馴染んだこの生活習慣は、異世界に来ても変えられるものではなかった。

 悶々としている私に、救いの手が差し伸べられたのは、その時だ。

「あら、クロダさんじゃないですか」

「はい?」

 唐突に声をかけられる。
 声のした方向へ振り向いた私の目に入ったのは、黒い薄手のドレスを身に纏った妙齢の女性だった。

「ローラさん。
 どうしたのですか、こんな時間に」

「ええ、セレンソン商会へ材料を買いに行ったんですが、アンナさんと話し込んでしまいまして。
 気づけばこんな時間に…」

 そう言って彼女は両手に持った袋を私に見せる。
 中には、マジックアイテムの調合に必要な材料が大量に入っていた。

 彼女の名前は、ローラ・リヴェリさん。
 ウィンガストの町で魔法店を営んでいる。
 彼女のお店は、ポーションを始めとした治療アイテムから、特殊な効果を持つアクセサリまで取り揃えており、冒険者ご用達のお店だ。
 かく言う私も駆け出しの頃からローラさんには大変お世話になっている。

 この場では余り関係の無い話だが、セレンソン商会も私がよく利用するお店で、アンナさんとはそこの店長だ。

「そうだったのですか。
 奇遇ですね、こんなところでお会いするとは」

「そうですね。
 クロダさんは迷宮からのお帰りですか?」

「いえ、今日は所用があって食事が遅くなってしまいましてね。
 その帰りです」

「あら、そうでしたか」

 リアさんの制裁を回避できたことといい、今日の私はかなり幸運に恵まれているようだ。
 こんなところで、ローラさんに出会えるとは。
 これを使わない手は無い。

「さて、ここで会ったのも何かのご縁。
 店までお送りますよ」

「え、そんな、悪いですよ。
 クロダさんも一日お仕事でお疲れでしょう?
 店に寄って頂いては、さらにお帰りが遅くなってしまいます」

 同行を渋るローラさん。
 しかし、ウィンガストの治安は決して悪くないが、女性の一人歩きに心配が無い程ではない。
 それにローラさんの持つ荷物も、その量を見るに女手では持ち歩きに苦労しそうだ。

「こんな夜遅くに女性を一人歩きさせてしまう方が余程気疲れしてしまいますよ。
 荷物だって軽くは無いでしょう?」

「いえ、でも……」

 私は彼女へさらに畳みかける。

「私に気がひけるようでしたら、ローラさんのお店で少し買い物をさせて頂けませんか?
 本当は今日、そちらで備品を買う予定だったのですが、先程言った通り遅くなってしまって寄れなかったのですよ。
 それを私への報酬として頂ければ」

「そ、そうなんですか?
 ……じゃあ、お願いしてもいいでしょうか?」

 折れてくれた。
 少し嬉しそうな表情が見え隠れするところを見るに、やはり一人歩きには心配があったようだ。

「では、荷物をお持ちしましょう」

「ありがとうございます……あ、半分でいいですよ」

「そんなこと仰らず。
 女性に荷物を持たせていたなど知られては、いい笑いものです」

 私は少し強引にローラさんの手から荷物を受け取る。

「………!」

 持った途端、両腕にずっしりとかかる重量感。
 ローラさんの荷物は予想以上に重かった。

「あ、やっぱり重いですよね!?」

「ははは、何を仰いますか、急に重いものを持って驚いただけで、何も問題ありません」

 努めて困憊を表情に出さないようにする。
 隠しきれていないかもしれないが。
 いやまさかこれ程の重さだったとは。
 私の申し出を受けたのも、荷物が重かったからという理由が大きかったのかもしれない。

「そ、それでは早速お店に向かいましょう。
 可及的速やかに。
 さぁ。さぁ。急いで。レッツゴー」

「え、あ、はい」

 若干戸惑うローラさんを急き立て、私達はお店へと歩を進めた。



 第一話③へ続く
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