社畜冒険者の異世界変態記

ぐうたら怪人Z

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第三十二話 魔龍討滅戦 青龍ケセド

④ 決戦ケセド

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「<火遁・豪炎弾>!!」

 初手、動いたのはガルムだ。
 素早い所作で“印”を組むと、スキル(本人は忍術と主張)を発動させる。
 彼の両手から灼熱の炎が噴き上がり、ケセドを襲う!

『ハハハ、当然のように参戦してくるねぇ、君は!』

「助成せぬ理由が無いでござるからな!!」

 青い龍は避けすらしなかった。
 真っ向から炎を浴びて、平然としている。
 仮にも勇者が放った一撃で、傷一つついていない――しかし、それは想定内。

「<土遁・土岩流>! <雷遁・磁雷矢>! <木遁・根縄縛>!」

 ガルムは立て続けにスキルを放つ。
 膨大な土砂と無数の稲妻がケセドに降りかかり、床を突き破って現れる巨大な霊樹の根がその体に絡みつく。
 どれもこれも最上級スキルに相当する。
 並みの冒険者では一つ発動するだけで衰弱しかねない代物だが、それを連続で行使できる辺り流石勇者か。
 戦場が多彩な色で染められ――しかし、それでもなおケセドの余裕は崩れない。

『流石に手数が多いなぁ。
 やられてばかりも癪だし、少しは反撃してみようか』

 その言葉と共に、床や天井のあちこちが開く。
 中から現れたのは――

「――ここ、一応ファンタジー世界ですよね?」

 つい呟いてしまった。
 出てきたのは、機関銃・・・迫撃砲・・・ロケットランチャー・・・・・・・・・等々。
 つまるところ、近代兵器の数々だった。

『面白そうだからこっちで再現してみたんだ』

 剣と魔法の世界にそんなもの持ち込まないで欲しい。
 いや、最近は近代的な武器を扱うファンタジー作品も増えているとは聞くが、その攻撃対象が自分となると笑えない。

『Fire!――ってね』

 気の抜けた掛け声と共に、銃口が一斉に火を噴いた。
 我々2人に向け、銃弾の雨あられが降り注ぐ。
 中世ファンタジーとしてありえない光景を前に、

「<風遁・爆嵐壁>!!」

 ガルムが危なげなくコレを処理。
 巻き起こる風が銃弾をあらぬ方向へ逸らしていく。
 爆風で肌がチリチリと焦げるが、直撃した際の惨事を考えれば些細なこと。
 とはいえガルムの切迫した顔を見るに、こちら側に余裕はまるで無さそうだ。

「セイイチ殿! まだか!?」

「整いました!!」

 彼の問いに、叫んで返す。
 そうだ、準備は・・・整った。
 この“技”には多大な集中力を要する。
 そのためガルムは先行してケセドと戦い、時間を稼いだのである。

『おや? いきなり疾風迅雷ソレを使うのかい?』

 私の様子を見て、ケセドが嗤った。
 決戦奥義・疾風迅雷について、既に奴は熟知している。
 いやそれだけではない。
 我々が講じた龍への対抗策、そのことごとくを把握しているはずだ。
 世界観にそぐわない“実弾兵器”を持ち出したのも、ゲブラーの二の舞になることを危惧してのものだろう。

 既知の戦い方では奴に届かない。
 故に、“奥の手”を使う。

「おおぉおおおおおっ!!」

 気合いと共に、<射出>を展開。
 周辺の空気分子を無限速度で衝突させ、莫大なエネルギーを生み出す。

「ふんっ!」

 そのエネルギーの奔流をさらに・・・<射出>で操作し、両手足に纏った“戦神の鎧”へと送り込む。

 ――超過充電エクセス・チャージ、完了。

 赫色の籠手と具足は、その熱量を吸収して強く輝き始めた。
 その状態を維持したまま・・・・・・、私は構えをとる。

『へえ?』

 青龍が面白そうに鼻を鳴らした。

『初めて見るやつだね。
 所謂“切札”ってやつかな?』

「……そうだ」

 言葉少なに返す。
 本来の奥義“疾風迅雷”は、“爆縮雷光”で発生させたエネルギーを戦神の鎧に込め、さらに<射出>による超加速で己を弾丸と化し、鎧の力で増幅した熱量を敵に叩き込む技。
 今の私は、その過程プロセスを前半で――“爆縮雷光”のエネルギーを吸収増幅させた段階で、止めている。
 これぞ疾風迅雷・纏式まといしき

『なかなか楽しそうな状態だけど――そこからどうするつもりなのかな?』

「こうする!」

 具足に溜めたエネルギーの一部を<射出>で脚部へ流入。
 その力を利用し、超速度で私は駆けた。
 向かう先は無論、青龍だ。

『おわっ!?』

 ケセドの驚く声。
 だがそれだけでは終わらない、終わるはずが無い。
 次は籠手のエネルギーを腕へと流入させ――渾身の突きを放つ!
 拳が龍鱗へ当たった瞬間、網膜を潰す程の閃光と、鼓膜を破りかねない爆音が生まれた。

『おぉおおおおおっ!!!?』

 青龍の巨体が、後方へ吹き飛んだ・・・・・・・・
 六龍は実体を持たないため、その体躯に重さという概念は無いが――それでも、あの大きさの物体が“宙に浮く”様はなかなか壮観だ。
 ……単純に、殴り飛ばせて気分が良い、とも言う。

『……む、無茶苦茶をするなぁ。
 分子核の衝突で発生するエネルギーを活用するだなんて』

 こちらが解説するより先に、相手はこの技のことを理解したようだった。

 改めて説明――が必要な程、複雑な技ではないのだが。
 要するに、戦神の鎧にチャージしたエネルギーを<射出>で身体に流し込み、運動エネルギーに変換しているのである。
 いわば、戦神の鎧を外付けの電池のように扱っている訳だ。

『しかし、先に切り札を出すのは負けフラグだよ?』

「どうとでも言え」

 彼我の戦力差は圧倒的――絶望的と言い換えてもいい。
 切札を切り続けることでしか、戦いを拮抗させる手段がないのである。

『それにその技、随分と消耗が激しそう・・・・・・・じゃないか。
 さては美咲の発案じゃないな?』

「……まあ、その通りだとも」

 あっさり言い当てられた。
 これは疾風迅雷を私とガルムでアレンジした技術である。
 正直、元になった技よりも危険度と体力の消耗加減が跳ね上がっている。
 六龍にさえ痛打を与えられる熱量を自身に流し込むのだから、体への負荷はとてつもない。
 少しでも加減を間違えれば、その時点で私は爆散してしまう。
 そもそも、大量の熱を帯びた鎧を纏っているだけでも、体力が削られるというのに。
 効率重視な美咲さんに見られたら、鼻で嗤われかねない技だ。

 ――だがしかし、効いている!
 この技をもってすれば、ケセドとも戦える!

『おや、嬉しそうな顔をするねぇ?
 今ので一筋の希望を見いだせたかな?』

 そんな私の感情を見透かし、ケセドが茶々を入れてきた。
 だがそれで揺さぶられる訳にはいかない。
 賽は既に振られているのだ。

「……行くぞ」

 拳を握り締め、私は青龍へと挑みかかった。






 ――そして。

「ぜはっ、ぜはっ、ぜはっ、ぜはっ」

 戦いが始まり、彼是1時間・・・
 私は、荒く肩で息をしていた。
 戦神の鎧も輝きを無くしている。

「はーっ……はーっ……はーっ……はーっ……」

 すぐ隣に立つガルムもまた、似たような状態だ。
 いや、向こうの方がまだ消耗は少ないか。

『んー? どうしたどうした、2人共。
 もう終わりかい?』

 その一方で、全く様子の変わらないケセド。
 こちらの攻撃がまるで堪えていない。
 私の疾風迅雷を応用した攻撃を、ガルムの忍術を、幾度となく叩きつけたにも関わらず、である。
 ……どういう耐久力をしているのだ。
 以前に戦った赤龍ゲブラーとすら比較にならない。
 これが本当の六龍の力、なのだろう。

「ぜはっ、ぜはっ」

 まだ動悸が収まらない。
 というより、これは当分収まりそうもない。
 体力の消耗もだが、体の損耗・・・・も激しい。
 何せ、四肢のあちこちが炭化しているような有様だ。

 別にケセドの攻撃によってこうなった訳では無い。
 というより、奴は時折銃火器を仕掛けてくるだけで、大した行動をとっていない。
 いや、銃器が恐ろしさは重々承知だが、今の私達にとっては然程の脅威でもないのである。

 体の損傷は、疾風迅雷・纏式を維持し続けたが故に起きた現象である。
 超高温に達した鎧を身に付けているのだから、この程度のことは起きる。
 “社畜”特性をもってしてもこればかりはどうにもできない。
 一応、ポーションで頻繁に治癒はしていたのだが。

「――効いて、いないのか?」

 ぼそり、と呟く。
 そうとしか思えなかった。
 青龍は攻撃を避けようとしない。
 私やガルムの放った技を全て食らっているのだ。
 そんな私の疑念は、

『まさか。
 そんなわけないだろう?
 しっかりダメージを蓄積されているとも』

 他ならぬケセド自身の口から、否定された。

『仮にも勇者とその代理2人が全力で撃ち込んできているんだ、六龍であっても無事では済まないさ。
 うーん、そうだなぁ。
 この調子で、1週間程・・・・戦い続ければ僕を倒せるんじゃないか?』

「……!!」

 ついでに、こちらを絶望させるような台詞も吐かれたが。
 はったり、とは思えなかった。

「ガルム」

 横にいる勇者に、声をかける。
 察した彼はすぐに答えてくれた。

「すまぬ、セイイチ殿。
 奴の媒介を探し続けているのだが、皆目見当がつかぬ」

 ……駄目か。
 以前にも説明したが、六龍には本来実体がない。
 精神生命体にそのままでは物理的に干渉する力をほぼ持たない。
 しかし今のケセドは十全に力を発揮している。
 ならば当然、奴は媒介を用意できているということだ。
 青龍の力を完全に引き出し、しかもこれだけ戦ってなお龍の力に耐えられる以上、相当に高い龍適性を持つ人物を。
 適性だけで言えば、あのデュストをも大きく上回る筈。

 実のところ我々は、最初からその人物の無力化を目的にしていた。
 十分な戦力が整っていない中で六龍と真っ向から戦うのは、無謀にもほどがあるからだ。
 当初はゲブラーの時と同じく、青龍の体内に閉じ込められているものと考えていたのだが、どうも違う。
 ならばこの階層のどこかに居るのだろうと、戦いの隙を縫ってガルムが捜索していたのである。
 ……結果は芳しくないようだが。

『ああ、なんだ。
 なんか変な戦い方をしているなと思ったら、君達は僕の媒介を探していた訳か』

 ガルムとの会話を聞かれてしまったようだ。
 まあ、奴が造った空間で内緒話をするのは無理があるか――と、そこまでは納得済みだったのだが、ケセドの台詞はさらに続いた。

『この期に及んで探り合いは面倒だから先に言っちゃうけどね。
 僕の媒介は、この<次元迷宮>そのもの・・・・だよ』

「!?」

 迷宮そのものが媒介、だと?

『おや? 龍の媒介は人だけだとでも思っていたのかい?
 遅れてる遅れてる! ま、確かに他の龍・・・はそんな認識かもしれないけどね。
 そもそもこの<次元迷宮>は僕が設計したんだよ。
 表向きは六龍僕達勇者美咲の戦いで空いてしまった“魔界への大穴”を封じるためのモノだけど。
 その実、グラドオクス大陸の龍脈に存在する“迷宮”を緻密に繋ぎ合わせて・・・・・・――まるで人の脳構造と同じ・・・・・・・・ような“回路”を造り上げたのさ。
 僕の力が100%発揮できる、専用の媒介として、ね。
 美咲からその辺りのことを聞かされては――いないんだろうなぁ。
 まあ、余り僕のことを公言しないように“契約”してあるから、彼女に責任は無いわけだけど』

 ……そうだったのか。
 そういえば、<次元迷宮>の製作には美咲さんもかなり関わっていたと聞く。
 だからこそ、ケセドは彼女に対して色々を便宜を図ってくれたのかもしれない。

 いや、そんなことはどうでもいい。
 今重要なことは――

「この迷宮自体が媒介になっていたとすると」

「……破壊は難しいでござるな」

 後半をガルムが引き継いだ。
 その声には力が無い。

 まずい、本格的に詰んだ。
 手持ちのカードでこいつを処理するのは不可能だ。
 戦いを続行するには体力が足らず、媒介を壊すには火力が足りない。
 一旦退却して体勢を立て直したいところだが、幾らケセドでもソレは許してくれないだろう。
 ……というか、そんなことをしたら陽葵さんの身が危ないなんてものではない。

『ささ、じゃあ再開しようか。
 僕が死ぬまで後167時間。
 それともこの次元迷宮自体を壊してみるかい?
 どちらでも、好きな方をやってみたまえよ』

「……ぐっ」

 勝算が無い。
 こうなれば――

「――セイイチ殿」

 と、隣から声がかかる。
 ガルムが真剣な顔をして私を見ていた。

「こんなことは言いたくない、が――恥を忍んでこのガルム、今一度、言わせて貰う。
 ヒナタ殿を、諦めるべきだ」

「ガルム!?」

 批難するも、彼の表情は変わらず。

「拙者達の目的はヒナタ殿を救うことでは無い・・
 あの少年に拘ってここで命を落としては、本末転倒にござる」

 ……正論である。
 陽葵さんを助けようとしているのは、言ってみれば私の“我が儘”に過ぎない。

『そういうことならそれでもいいよ?
 僕だって君達を殺したいわけじゃない。
 でも“諦める”というは人聞きの悪いな。
 僕の提案を受け入れれば、何も変わらない日々が待っているだけだとも』

 追随するように、ケセドの言葉。
 奴にしてみれば、自分の目的以外の事柄はどう転がっても気にならない、ということか。

 ふと見れば、ガルムが臍を噛んだような顔をしている。
 彼と陽葵さんは大した接点もないが、それでも少年の救出に労力を割いてくれた。
 陽葵さんの辿る運命に対し、思う所あるのは間違いない。
 そんな勇者をもってしても、ここが諦めどころなのだと言う。

 後は私が頷けば、戦いは終わる。
 陽葵さんともう会えなくなる訳ではない。
 別人になりはするが、私はそれが別人だと認識できないのだから。

 ……だが。
 しかし――

「駄目だ。
 それは、駄目なんだ、ガルム」

「セイイチ殿!
 今は綺麗事を並べている場合では無いでござろう!?」

「分かっている!
 分かっているがそれでも――!!」

 陽葵さんは、魔王の後継として作られた。
 彼自身の生誕を祝う者は誰もおらず。
 重要なのは器としたの肉体だけで、陽葵さん個人は尊重されない。
 六龍だけの話ではなく、私達人間側からもそんな風に見られていたのだ。

 陽葵さんはもっとこの世界が見たいと言った。
 陽葵さんはもっとこの世界を楽しみたいと言った。
 彼は、もっと生きるべきなのだ。

 ここで私が諦めたら。
 彼を救おうとする人間が、彼のことを想う人間が、この世に一人としていないことを証明してしまう――そんな気がした・・・・・・・

「現実を見るのだ!
 拙者達にはもう打つ手がない!」

 ガルムがなおも説き伏せてくる。
 そんな勇者の顔を正面から見据え、

「いや――ある」

「何?」

「ティファレトだ。
 あいつの力なら――」

「……セイイチ殿」

 沈痛な眼差しで私を見るガルム。

「拙者とて、それは考えた。
 しかし無理なのだ。
 仮に奴の協力を取り付けたとしても、“ガルム”という器ではティファレトの力を十全に振るえないのでござる。
 完全に龍の力を顕現しているケセドには――」

「無理じゃない」

 彼の言葉を遮った。
 確かにティファレトは強いが、それは私でも追い縋れる程度のもの。
 そのままではケセドに及ばないだろう。
 だが――

「――私を使えばいい・・・・・・・
 私を媒介にすれば、ティファレトは全力を出せる。
 他ならぬティファレト自身がそう言っていたのだから」

「セイイチ殿!?」

 ガルムが顔をしかめた。
 叱るような口調で、捲し立ててくる。

「馬鹿なことを!!
 そんなことをすれば命を落とすも同じこと!
 本末転倒にも程がある!
 まさか奴が身体を返却してくれるとでも考えているでござるか!?」

「それこそまさか、だ。そんな都合よく物事が進むわけが無い」

「ならば!」

「別に構わないんだよ、ガルム」

「っ!?」

 私の言葉に、一瞬彼は怯んだ。

「構わない。
 “目的”が果たされるであれば、私は自分の命に頓着しないつもりだ。
 そして――ティファレトの力があれば、“目的”達成により一層近づける」

「夢物語にござる!
 確かに奴はセイイチ殿に甘い!
 しかしそう都合よく動いてくれる訳が無い!
 ヒナタ殿を救うかどうかすら、怪しいものだ!」

「動くさ。動いてくれるとも。
 ティファレトは“目的”に賛同する筈だ」

「何を根拠にそのような!」

 ガルムは強情だった。
 何がなんでも私を思いとどまらせたいらしい。
 だがこちらとしても譲れない。
 これには陽葵さんの命がかかっているのだから。
 私は一つ大きく息を吐いてから、勇者を納得させるための言葉を吐く。

お前が・・・ティファレトだから・・・・・・・・だよ・・

「――――」

 彼の動きが止まった。
 顔が驚愕の表情で固まっている。

黄龍・・ティファレトをどこまで信頼していいかは分からない。
 しかし、この世界へ来てから共に戦ってきたお前なら信頼できる」

 ガルムという人物は、存在しない・・・・・
 いや、かつてはいたのかもしれないが、今はいない。
 ティファレトがガルムに憑りついていたのではなく。
 ティファレトがガルムという勇者を演じていた・・・・・・・に過ぎないのだ。

「……何故、気づいた」

 ぽつり、と“目の前の男”が零した。

「理由なんて無い。
 だがそりゃ気付くだろう――親子なんだから」

「……そう、か。そういうものなのか」

 ガルムと名乗っていた人物は、がっくりと肩を落とした。
 正直なところを言えば、なんとなくそんな気がしていただけなのだが。
 彼のその反応は、私の予想を肯定するものであった。

「ティファレト。
 或いは、ガルム。
 もしくは、父さん」

 “男”へと語りかける。

「無責任な物言いになるが、後は頼む。
 拒否するならその“器”を破壊してでも私に憑りついて貰うぞ」

「……違う。違うんだ、誠一。
 拙者は――俺様は――別にそんなことのためにお前を――」

 ぶつぶつ呟く“男”の胸倉を掴み、

「――やれ・・!」












『おめでとう、ティファレト!』

 空間に、ケセドの声が響いた。

『見事、自分の“器”を手に入れたじゃないか。
 同じ龍として祝福させて貰おう。
 いやー、僕も一芝居・・・打った甲斐があったよ』

 馴れ馴れしい口調。
 頼んでも居ないことを、べらべらと喋る。

『まあ、黒田君のことだからこんな面倒なことしなくとも割とすんなり身体を手放したと思うけどねぇ。
 彼、自分の命にまるで頓着してないし。
 いやー、やたらめったらに酷い“性癖”さえ持ってなければ、かなり優秀な英雄になれたんじゃないな?』

 耳障りな・・・・台詞はなおも続く。

『じゃ、君に協力した代わりに、今度は僕に協力して貰おうか。
 いや何、そう大したことじゃ――』

「その前に、一つ聞きたいことがある」

 奴を遮って、“私”は口を開いた。

「結局のところお前は、室坂陽葵についてどう思っていたんだ?
 曲がりなりにも、あの魔王との間に作った息子だろう」

『変な質問をするねぇ。
 改めて聞かれると――うーん、そうだなぁ』

 少しの間をおいてから、奴は答えた。

『ま、他よりは上等な“道具”ってとこ?』

「――そうか」

 それを聞いて、心は決まった。

「いや、実を言うとな、ケセド。
 “私”はお前のことが大嫌いだったんだ。
 魔王といざ子作りしようと思ったら勝手がわからず勃つもん勃たたなかったとか、情けなさすぎて笑えねぇ。
 仮にも六龍に名を連ねてる奴が、頭でっかちな素人童貞だとか最悪過ぎる。
 これ以上生き恥曝したくねぇだろうから“私”が息の根を止めてやろう」

『あ、そうなの?
 実を言うと僕もなんだよねぇ。
 真実の愛(笑)に目覚めたら今までヤってきたことの罪悪感に押し潰されて神格が分裂しちゃったとか馬鹿なんじゃない?
 その癖、ヤってることは前と変わらないってんだから訳が分からない。
 本気で頭おかしいから一回死んだほうがいいよ』

 相手を想っていってやったというのにのに、随分と不躾な返答をされる。
 しかしそれで気を悪くするほど、“私”は短絡ではない。

「はっはっはっはっは」

『アハハハハハハ』

 しばし、広間に朗らかな笑い声が響く。
 だがそれもすぐに鎮まり――


「ぶっ殺してやるよ、インテリ気取りのふにゃちん野郎!!」

『やってみろ、万年発情期の駄犬風情が!!』


 ――龍同士の殺し合いが始まった。




 第三十二話⑤へ続く
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