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第三十一話 エレナ、散華
①! 大衆の面前で露出調教
しおりを挟むもうじき、全てが終わる。
“彼女”にはその確信があった。
今、事態が停滞しているのは、様々な者の思惑によるものだ。
境谷美咲は、室坂陽葵をケセドに会わせなければならない“契約”がある。
龍は、“ただの人間に負ける可能性”のある“勇者の戦い”をこれ以上続けたくない。
エゼルミアは、上手く立ち回り漁夫の利を得たい。
そしてイネス・シピトリアは、“準備”のために時間が欲しい。
だが一番の要因は――実に業腹だが――『黒田誠一が室坂陽葵を見捨てられない』ことだ。
彼があの“小奇麗に造られた器”へ愛着を持ったが故に、この面倒臭く、しかしありがたい状況が生まれたのだ。
やたらと手間取っていたようだが、あと数日で室坂陽葵はケセドに会う。
その結果、あの器に何が起きるのかは、分からない。
対して興味もない。
ただそれによって、この場を押し留めていた“栓”が外れることだけは分かる。
そこから生まれる“流れ”は、事態が“終着”に辿り着くまで治まることは無いだろう。
己が勝者になるか、それとも敗者になるか決まるのに、そう猶予はないはずだ。
しかし。
彼女には、その前にどうしてもやらねばならぬことがあった。
全てが終わる前に、この話がエンディングを迎えるよりも前に、為さねばならぬことがあったのだ。
それは――
「あんたをメチャクチャにしてやることですよぉっ!!!」
「ええ、ボクっ!!?」
少女の絶叫が響いた。
ここは、六龍を崇める教会の一室。
余人の立ち入りを禁止したこの部屋には、今2人の女性が居た。
一人は、黒髪を後ろで結んだ少女――いや、年齢のことを考えれば女性と呼ぶべきか。
先程大声を出した彼女の名は、エレナ・グランディ。
少女にも見紛う程に小柄な体格ながら、メリハリの効いた肢体の持ち主だ。
重要なのは単純な大きさではなく、全体から見た“~比率”なのだということを教えてくれる。
そしてもう一人は金髪の女神官イネス。
こちらも十分なスタイルを持っているが、特に際立っているのはその煽情さ。
胸も、尻も、腰も、ただただひたすらに男の欲情を掻き立てる“形”をしているのだ。
彼女を前にして邪な考えを持たない男は起床であろう。
2人は部屋の中、向かい合っていた。
ただ、エレナの方は両手両足が縛られているのだが。
「『ええ、ボクっ!?』じゃ無いんですよ!!
アナタ、自分が何でここに連れてこられたか、分かってます?」
「えー、そんなこと言われても。
ボク、アオイさんの気に障るようなことしたっけ?」
五勇者の一人に凄まれていると言うのに、エレナは平然と返す。
意外と胆力がある娘だ。
「おっとぉ? 誠ちゃんの居ない場所でアタシのことはイネスと呼んでもらいましょうか。
貴方に葵呼ばわりされる謂れは無いんですからね!」
「じゃあイネスさんで。
ボク、イネスさんを怒らせるようなことした?」
「ふっふっふ、ふふふのふ。
しましたよ! もうとびきり凄いことしてますよ!
これはアタシだけでなく、他のヒロイン勢も巻き込んだ問題です!!」
ヒロイン勢ってなんだ。
「んんー?
心当たり無いなぁ。
そもそもボク、最近全然出番無いじゃん?
何かしでかすこと自体、ありえないと思うんだけど?」
出番ってなんだ。
「はんっ! ここに至ってまだしらを切る気ですか!?
とぼけ続けるつもりなら、教えてあげますよ!!」
ビシっと人差し指を突きつけ――静かな声で告げる。
「アナタ、誠ちゃん以外の男に犯されたこと無いでしょう」
「ギクッ!!」
エレナは分かりやすく身を竦ませるが、
「や、や、やだなぁ、もう!
この実に好きモノ然としたボクが、クロダ君以外と経験が無いだなんてそんな。
もう、両手で数え切れない位の男達に抱かれてきたわけで――」
しどろもどろになって弁解を始める。
「ほほう? では初体験の相手の名前を言って貰いましょう」
「え、え、えーと、そう!
近所に住んでたジョン君だよ、ジョン君!
年上の幼馴染っぽいお兄さんに優しく手解きされちゃってね?」
「ふーん、そのジョン君ってのは――」
イネスは懐から、とあるモノを取り出す。
「――コイツのことですかぁ!?」
「うわぁあああっ!!? なんで持ってんのソレっ!?」
出てきたのは、細めのすりこぎ棒(直径2cm)であった。
「……随分とお粗末なモンですねぇ、このジョン君(仮)は。
ま、生娘にはちょうど良かったのかも知れませんけど?」
「あわ、あわわわ」
「で? 経験豊富なエレナさんは、他にどういった男とお付き合いがおありで?
あ、相手は生物に限りますよ?」
「あ、あ、あ、あ――」
がくり、とエレナが首を垂れる。
「ごめんなさい、クロダ君としかしたことないです……」
「ふん、最初っからそうゲロっとけばいいんですよ!」
「で、でも、それと今の状況と、どう関係が!?」
「分からないんですか!?」
イネスはもう一度、ビシっとエレナを指さして、
「想い人以外の男に強姦されたことが無い女なんざ、ヒロインじゃねぇっ!!!」
「いやその理屈はおかしい」
真顔で返された。
でも動揺なんてしない。
「理屈もクソもねーんですよ。
アタシもリアもローラも――あとついでに陽葵も――誠ちゃん以外の男共に身体を弄ばれたことがあるってのに。
なんで、アナタだけ綺麗な身体をしているんですかねぇ?」
「うっ」
エレナが一瞬言葉を詰まらせた。
「ん、いや、でもそこはね?
ほら、ボクってサブヒロインだから。
メインどころとは扱いが違うかなーって?
正妻の座だって他の皆に委ねてるわけで」
「そうやって上手いこと争いを回避して、美味しいとこだけ貰っていこうと思ってるんでしょう!?」
「そ、そんなことないよ!?
皆が潰し合いしてる内にちゃっかりクロダ君の隣をゲットして、最終回ではクロダ君と平和に暮らしながら散っていった皆のことを思い出そう――だなんて、そんなことちっとも思ってないから!!」
「…………へえ」
つい、真顔になってしまった。
「…………」
「…………」
沈黙。
見つめ合うこと、十数秒。
「……正直な娘ですねぇ、そういうとこ、アタシは嫌いじゃないですよ?」
「ほ、ホント?
実をいうとね、ボクもイネスさんのこと初対面から気に入ってたんだ。
これからは仲良くしていきたいな♪」
「そうですね、仲良くしましょう♡
もっと仲良くなるために――まずは、輪姦強姦されてアヘアヘになっちゃいましょうね♡」
「うわぁああああっ!! ダメだぁあああああっ!!!」
頭を抱えようとして、手が縛られてたので上手く身体が動かせない様子のエレナ。
そこでふと、思いついたように口を開く。
「……そういえば、ミサキは?
その条件だと、ミサキだって該当しない?」
「う」
痛いところを突かれた。
視線をそらし、宙を漂わせてから、
「――まあ、アイツはヒロイン枠じゃないんで」
「あー、へたれた!! へたれたよ、この人!!」
「う、うるさいですね!!
あの女だってその内コテンパンにしてやりますよ!!
だいたい、今のアナタに私を非難する権限なんてありませんから!!」
「んぬぅ、なんたる言論統制――!」
無理やり口を封じる。
言葉に窮したら力づく。
これが、五勇者イネスのやり方である。
(頭悪い、なんて指摘は受け付けませんからね!)
そういうことらしい。
「ていうか、ミサキは今日どうしたのさ?
ボクのピンチに駆け付けてくれたりしないの?」
「あー、アイツ、今日は重役会議があるから忙しくて六龍界来れないって言ってましたよ」
「ああぁぁぁ……あの子、肝心な時に頼りにならない……」
がっくり肩を落としながら器用に四つん這いポーズとなるエレナ。
見るだけで勝利感が湧き上がり、非常に気分が良い。
と、思ったら――
「ん、そうだ。
感想でアンケートを取ろう。
ボクの寝取られが見たいって意見が50人分くらい集まったら――」
「んな集まるわけ無いでしょう!
現状を見なさい、現状を!!」
感想ってなんだ。
「さぁて。
談話タイムは終了ですよー?
ここからは、楽しい楽しい輪姦タイムです」
「にょわぁあああああああっ!!!?」
「さ、やって参りました。
ここはウィンガスト一番の大通りです♪」
にこやかに告げるイネスに対し、
「て、抵抗できずに連れてこられてしまった……
体が勝手に動いて――どうなってんの、コレ……?」
疲労困憊といった様子のエレナ。
先程までと異なり、身体を覆う程に大きなコートを着ている。
「くくくくく、“封域”の中では、アタシが支配者ですよ!」
「あ、なんかその台詞、パクリっぽい」
「パクリじゃありませんよ! アタシのオリジナルですよ!!」
パクリである。
「とにかく! 結界内でアナタはアタシに絶対服従なんです!」
それこそが、イネスの特性である<封域>の力。
分類としては黒田の<社畜>や陽葵の<多重発動>と同じだが、彼女のものは最早独自能力とでも言うべき代物だ。
なにせ、任意の空間に周囲と隔絶することもできる“結界”を展開し、その中の“物質”を自在に操作できるという効果なのだから。
もっとも、無制限に操れるわけではないし、一定以上の魔力を持つ存在へ直接干渉はできないのだが。
とはいえ今目の前に居る小柄な女程度の相手であれば、数十人単位で行動を支配することが可能である。
「そ、そんなとんでもない力を、こんなつまらないことのために!?」
「ふふふ、獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす、といいます」
「マジか、この勇者」
大マジであった。
イネスは今回の話でエレナを滅茶苦茶にしてやる決意を固めているのだ。
「さぁて、ではこれからアナタに“あること”をして貰うわけですが――
くっくっくっく、何されると思います?」
「んー、イネスさんと一緒にお昼を食べるとか?
ボク、この辺りにいいお店知ってるんだ♪」
「いいですねー♪
アナタが無事他の男の精子で孕まされたら、懐妊祝いに好きなモノ奢ってあげますよ♪」
「あー……そろそろ心がポキっと折れそう」
逆にまだ折れていない辺り、なかなかの鋼鉄メンタルっぷりだ。
流石、あの境谷美咲に気に入られているだけはある。
「ま、予想できてるとは思いますけどね。
エレナ、そのコートの中、どうなってますか?」
「……何も着てないです」
自己申告の通り、エレナは今、裸にコートのみ纏っている状態だった。
無論彼女が好き好んでそうしているわけではなく、<封域>の力で命令した結果である。
「そして、これだけ人通りの多い場所で、素っ裸になったらどうなるでしょう?」
「んー、衛兵さんに怒られる?」
「そんなわけありますか!!
すけべな男共に囲まれて、路地裏に連れ込まれて、頭おかしくなるまで犯されるんですよ!!
ほら、アレを見なさい!!」
「え」
指さした先。
そこには、短い銀髪の少女がエレナと同じコート姿で佇んでいた。
往来の端――あまり目立たない場所で、どこかへ行くわけでもなく、所在なさげな様子で立ち止まっている。
「って、ミーシャさんじゃん、アレ」
エレナも彼女のことを知っているようだ。
あのミーシャという名前の女は、室坂陽葵とパーティーを汲みだしたアーニーやサンの冒険仲間であり、黒田とも肉体関係を持っている。
ちなみに、背が低く余り凸凹の無いスタイルのため幼くみられがちだが、年齢はエレナより上だ。
いわゆる合法ロリである。
「ま、まさかイネスさん、あの人にも――!?」
「いえ、アレはアタシと無関係です」
本当である。
偶然、露出行為をしようとしているのに出くわしただけ。
これ程良いタイミングで現れるとは、とイネス自身驚いているくらいだ。
「ま、大衆の前で露出するなんて、女なら誰でも体験することですからねー。
ちょっと探せばあれぐらいすぐ見つかりますよ」
「絶対そんなこと無いと思う」
ジト目で睨まれるが、実際に居るのだから仕方ない。
「ほら、そんなことより始まりましたよ?」
「う、うわぁ――」
ミーシャは、震える手でコートのボタンに手をかけていた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
息が荒い。
目の焦点が定まっていない。
相当緊張している様子だ。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
少しずつ、コートが開いていく。
その隙間から、彼女の肢体が見える。
胸は平たく、お尻も小ぶりだが、間違えようもなく女の身体だ。
周囲に行きかう人はほとんど気付いていないようだが、イネスのところからならはっきりとその露出を確認できた。
狙って位置取りしたわけでは無いにも関わらず、だ。
そしてそれは、他にもミーシャの露出を見物できる人物がいる、ということも意味する。
つまり――
「おい、お前」
「っ!?」
“男”に声をかけられ、ミーシャがびくっと震えた。
つまり、こうなるのも時間の問題だったわけだ。
「へへ、なんだよ。
そんな歳で、なんともご立派な趣味してんなぁ」
「……っ!!」
ミーシャは肩を掴まれる。
当然、彼女が肌を露わにしていると気づいたその男によって、だ。
彼は、下卑た笑みを浮かべながらミーシャに詰め寄っていく。
「おいおい、返事くらいしろよ。
こんなとこで裸になる位だ、相当欲求不満なんだろ?」
「ち、違うっ――これは、店長が――」
だんまりを決め込んでいたミーシャが、そこで初めて声を出した。
しかし、
「何が店長だっ」
「んっ!? あぅぅううううっ!?」
すぐに悶えだす。
見れば、男の腕がコートの中に挿し込まれていた。
ナニをされているのかはよく見えないが、位置的に股間でも弄られたのだろう。
「下手な嘘つくんじゃねぇよ。
お前が変態だからこんなことしてんだろ?
もう股からこんだけ愛液漏らしてんじゃねぇか」
「はぅぅうううっ――あ、ああぁぁあああ――」
男の手がゆっくりと動く。
それに合わせて、ミーシャもうっとりと喘ぎ声を出し始めた。
「は、あぁぁあああ――んぅぅうううう――」
彼女の足元にぽたぽたと水滴の落ち、愛液の跡ができ始める。
お世辞にも上手いとは言えない乱暴な責めで、感じてしまっているのだ。
「へっ、ガキの癖に変な趣味覚えやがって。
そういう“悪い子”にはおしおきが必要だなぁ?」
「あっ! あぁあああっ!!」
ビクビクッと彼女の肢体が震えた。
敏感なところに手を出されたようだ。
クリトリスでも抓まれたか、それとも穴に指を挿し込まれたか。
「仕方ねぇ、俺がじっくりと“教育”してやるとするかぁ」
ニタァ、といやらしく笑う男。
「ひっ!? い、嫌だ、僕はそんな――」
そのおぞましい表情に危機感を募らせたのか、ミーシャは反抗する素振り見せるが、
「今更嫌だだと!?」
「あぅっ!!? そ、そこ、強くしちゃ――あぅぅうううっ!!?」
あっという間に黙らされる。
一瞬で肢体から力が抜けたところを見るに、軽く達してしまったのだろう。
彼女の身体は、雄に逆らえぬよう仕上がっているらしい。
男はミーシャを強引に抱き寄せると、半ば引きづるように移動を始めた。
「おら、こっちに来い。
二度と“悪いこと”できねぇようにしてやるからよぉ」
「あ、あぁぁああああ――」
男に引っ張られ、ミーシャは路地へと――人通りの無い場所へと連れ去られていった。
ナニを仕様としているかなど、いちいち詮索する必要すらない。
さらには、二人のやりとりをじっと見ていた視線も複数有って――
「なぁ、今の見たか」
「ああ、見た見た」
「すげぇカワイイ女の子だったなぁ」
「おい、今から俺達もご相伴に預からせてもらおうぜ」
「いいねぇ」
「そうしようそうしよう」
――その男達もまた、ずらずらとその後を追っていった。
皆、最初の男と“同じ表情”に顔を歪ませて。
しばしの時が経ち。
耳を澄ますと聞こえてくる女の絶叫は、果たして空耳なのかどうなのか。
「……とまあ、こんな具合ですよ」
イネスは一連の行為を見届けてから、そう締めくくった。
「んー、流れるようにお持ち帰りされちゃったんけど――大丈夫なの、彼女?」
「別に心配する必要ないでしょう、殺されるわけじゃありませんし。
寧ろ、悦んでたくらいですよ」
「そ、そうかな?」
「そりゃそうでしょ。
やろうと思えばあの子、ついていった男連中含めて全員皆殺しに出来る位“強い”んですから。
仮にもBランク冒険者なわけですし」
「それもそっか。
……ウィンガストって、治安のいい街だったはずなんだけどなぁ」
エレナも納得したようである。
あと双方合意の上(のはず)なので、これは犯罪ではない、いいね。
「心のつっかえも取れたところで、アナタもレッツトライ!
これでアナタもNTR処女卒業ですね♪」
「んー、あ、お腹痛くなってきちゃった。
明日じゃダメぇ?」
エレナが上目遣いにこちらを見る。
その視線をしっかりと受け止め、ニッコリと笑いかけながら、
「ダ・メ♪
さあ、往来のど真ん中でその肢体をさらけ出してくるんですよ。
大丈夫、見られて恥ずかしいような身体じゃないことは、アタシが保証してあげますから!」
「んんー、全然嬉しくないな、その誉め言葉!!
あー、また身体がかってに動くー!!」
ヤケクソ気味な笑顔を作り、ぎこちない足取りでエレナは通りの目立つ場所へと歩いていく。
こちらの命令へ多少は抵抗しているようだが、まるで力が足りていない。
「……なんか泣けてきた」
コートに手をかけながら、エレナが呟く。
実際、瞳の端には涙が溜まっている。
実に良い表情だ。
こちらの嗜虐心をくすぐってくる。
(ふっ――グッドラック!)
心の中で彼女の冥福を祈ってやった。
いや死にはしないが。
たぶん。
「あー、やばいやばいやばいやばいやばい――」
瞳を泳がせ、顔に固まった笑みを貼り付けながら、コートを開いていくエレナ。
立派な丸みを帯びた胸がプルンッと揺れる。
腰つきはきゅっと締まり、太ももは小柄だがしっかり肉がついていた。
小柄だがスタイルの良いトランジスタグラマーな肢体が、大衆の面前に露わになる。
「お、おい」
「やだっ」
「うわっ」
「……変態さん?」
ミーシャの時より多くの注目が、彼女へ集中する。
「う、うう……」
何とか涙を堪えながら、好奇の視線に耐えるエレナ。
しかしそれもどこまで持つか。
自分の未来がある程度予想できているのだろう、唇が細かく震えている。
と、そんなところへ――
「――ちょっと、君」
「っ!?」
エレナが息を詰まらせる。
とうとう、一人の男が彼女へ近寄ってきたのだ。
(来ましたねっ!)
俄然、見物するこちらの手にも力が入るというもの。
いったいどんな風にエレナは犯されてしまうのか、壊されてしまうのか。
そんな期待を胸に、彼女の行く末を見守る。
一方、声をかけてきた男はエレナの身体をジロジロと眺めていた。
獲物の品定めをしているのか。
それとも、この女をどう料理してやろうかと考えを巡らせているのか。
或いは、仲間を呼ぶことも検討しているのかもしれない。
「うぅぅ……」
恥ずかしさからか、惨めさからか、恐怖によるモノか。
とうとう、エレナの目から一筋の涙が落ちる。
だが、“命令”を受けている彼女はその場から逃げられない。
もう、目の前の男の欲望にその身を委ねるしか道は無いのだ。
「――ふむ」
そしてひと通り見終えた男は、落ち着いた口調でこう告げる。
「ちょっと、詰所までご同行願えませんか?」
「あ、はい」
――彼は、街の衛兵さんだった。
「もう、こんなことするんじゃないぞ」
「すみませんでした……」
「イネス様も。
五勇者である貴女にこのようなことを言いたくありませんが、情操教育も教会の務めでは?」
「仰る通りです、申し訳ありません……」
1時間後、そこには衛兵の詰所で平謝りする2人の女性の姿があった。
ひとしきり頭を下げたエレナとイネスは、詰所を後にする。
「…………」
「…………」
無言。
「…………」
「…………」
互いの顔を見ることもなく、黙って歩いている。
十分に衛兵の詰所から距離が離れ、周囲に人気が無くなってから――
「ふざけんなエレナぁっ!!
なんでレイプされないんですか!?」
「代わりにたっぷり説教されたっつーの!!
ボクの社会的地位はボロボロだよっ!!」
同時に罵り合った。
「つかなんなんですか!? なんでアタシを身元引受人に指定したんですか!?
おかげで『露出狂の面倒看てんのかこの人』みたいな憐れんだ眼差しを向けられましたよ!?」
「そんぐらい責任取ってよ!!
だいたい、こんなお馬鹿な案件に他の人巻き込めれるか!!」
どちらも譲らなかった。
まあ、悪いのは根本原因を作ったイネスではあるのだが、それは置いといて。
「くそぅ、これが<秩序のカリスマ>の力ですか……
真っ当な人物ばかりに好かれるとか、反則ですよそんなの……」
ちょっと本気で悔しかった。
女の裸を見ても欲情に流されない、紳士的な男を惹きつける特性とか、ずる過ぎる。
「そんな大層な特性じゃないはずなんだけどねー」
「だったら譲って下さいよ!!
その特性があればアタシの人生変わってたんですよ!!
ほらっ!! 寄こせ!! 寄こせぇええええっ!!!」
「うわぁああっ!!? 目が怖い目が怖い!!!」
エレナの肩を持って、ガクガクと揺さぶる。
もっとも、イネスに特性の受け渡しを行うような力は無いのだが。
「ふんっ! しかしいい気になっていられるのも今の内ですよ!?
次はこうはいかないんですからね!!」
「えー、まだ続けるの、コレ……?」
当然だ。
この程度で諦めるわけにはいかない。
何としてでも、この女を他人棒で喘がせてやらねば気が済まないのだ。
「くっくっくっく、次はもっと酷いヤツですよぉ。
今回上手く回避できてしまったことを、後悔させてあげます」
「……そろそろ誰か助けに来てくれないかなぁ」
そんなものは来ない(断言)。
イネスは<封域>を起動すると、エレナへ新たな命令を実行するのだった。
第三十一話②へ続く
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