上 下
103 / 119
第三十話 最近の進捗報告を

③ エゼルミアさんとの戦い(仮)

しおりを挟む


 ティファレトの宿から出てから、しばし後。
 ローラさんと別れた私は、自宅に向かっていた。
 いや、そのまま彼女としっぽりと一夜を過ごしても良かったのだが――というかそうしたいのはやまやまだったのだが、そうもいかない理由があった。
 今夜は非常に大事な用事……否、任務があるからだ。

「……ふぅううう」

 大きく息を吐く。
 我ながら、少々緊張してしまっているようだ。
 今まで通りにやればいいのだと分かっていても、やはりどうしても気負ってしまう。
 もう玄関の前に辿り着いているにもかかわらず、あと一歩踏み出すのを一瞬躊躇してしまった。

「――よし」

 一言呟き、覚悟を決める。
 努めて自然体で家の扉を開けると――

「お待ちしておりましたわ、クロダさん」

 ――出迎えたのは、銀髪を長く伸ばした、怜悧な美貌の女性。
 鋭く尖る耳が、彼女が一般的な人間ではなくエルフであることを示している。

「お待たせしてしまい申し訳ありません、エゼルミアさん」

 女性へと一礼。
 彼女こそ五勇者の一人、“全能”のエゼルミア。
 今日、私と“戦う”ことになっている人物だ。

 “勇者の戦い”は、一度戦闘を開始したならば1週間以内に次の戦いを始める必要がある。
 そしてエゼルミアさんが私との交戦を宣言したのがちょうど一週間前。
 その“ルール”を守るためには、本日中に私と彼女との戦いに一応の・・・決着を付け、新たな戦いを開始せねばならない。
 しかしこの辺りは互いに合意済み。
 事前に彼女から説明を受けた通り、適当なところでエゼルミアさんの方が負けを認めてくれる――はず。

 しかし相手は五勇者の知能担当(本人談)。
 裏でどう企み事をしているかなど私如きには分かろうはずもなく、戦いに乗じて何か仕掛けてくるのではないかと、どうしても身構えてしまう。
 現在の“状況”を作り出した当の本人が、敢えてそれを壊すように動き出すというのも考え辛いが、そう思わせておいて実は、ということもある。
 かといって、悩んだところでそれに対する打開策など私がもちうるはずも無く。
 ――馬鹿の考え休みに似たり、とはこのことか。

 そんなように思考を巡らしていたところへ、

「本当に遅い。
 また何か変なことしでかしたんじゃないだろうな?」

「あ、誠ちゃん、お邪魔してまーす♪」

 私へ声をかける女性がさらに二人。
 一人は美しい黒髪を短めに揃えた、スタイルのメリハリがしっかり効いている美女――我が上司にして我が愛すべき恋人である美咲さん。
 もう一人はブロンズヘアを三つ編みに纏め上げた、これまた美しい女性――五勇者“封域”のイネスであり、そして私の幼馴染でもある葵さんだ。
 少々ややこしい事情があるため、私からの呼称は基本的に『葵さん』で固定している。

「お二方も来ていたのですか?」

「一応、この女エゼルミアが変なことやらかさないか、確認をしにな」

「もう、誠ちゃんのことが心配で心配で。
 この女エゼルミア、基本的に性格悪いですからね」

 おお、台詞から滲み出るエゼルミアさんへの不信感。
 貴女方、7年前は一緒にパーティー組んでたんですよね?

「はっはっは、聞いたか、誠一。
 こいつイネスはお前のことがまるで信頼できないらしい。
 まあ、多少子供の頃一緒に過ごしたことがあるとはいえ10年近く交流皆無な“他人”だ、仕方あるまい。
 余り気を悪くするんじゃないぞ」

「あー、聞きました!? 聞きました!?
 息を吐くように毒ばら撒きましたよこの腹黒女!!
 こいつキョウヤ、目的のためなら平気で人を利用してきますからね!!
 甘言に惑わされちゃだめですよ!!」

 おお、隠そうともしない互いへの敵意。
 どうやって共同生活送っていたんだろうか、この人達?

「ふふ、ふふふふ。
 まったく、苦労致しましたわ、キョウヤさんとイネスさんの仲違いを仲介するのは。
 世間ではガルムさんが“気苦労”の絶えない人と評価されてらっしゃいますが、ワタクシも相当苦労していたのですよ」

「おいエゼルミア! 何サラっと自分は良い人みたいに振る舞ってるんだ!?」

「アナタって昔っからそういう奴ですよね!!
 今回も平然とアタシのこと裏切るし!!」

「ふふふ、ふふ、そうでしたかしら?」

 険しい顔の美咲さんと葵さんを、のほほんと受け流すエゼルミアさん。
 ああ、きっと“こういう感じ”で旅をしていたのだろうなぁ。
 共に居たデュストさんとガルムさんの気疲れが偲ばれる。
 しかしよくよく考えてみれば四六時中美咲さんと一緒に居られたというわけで、別に労ってやる必要も無いかもしれない。

「で、勝負の内容は何にするんだ・・・・・・?」

 エゼルミアさんへ鋭い視線を送り、美咲さんが問う。

「ふふふふふ、気になるのですか、キョウヤさん」

「ああ。
 正直なところ、現状一番の心配事だ」

「あらあら、信頼されていませんのね。
 いえ、クロダさん以外へ“何か”を仕掛けることはない、と寧ろ信頼されているのでしょうか?」

「お前の目的はあくまで“魔族の殲滅”だからな。
 今の私の妨げになるような行動はとらないだろうと思ってはいる。
 ま、この街にいる魔族連中の安全を度外視すれば、だが」

 いや、リアさんやカマルさん、それにジェラルドさんへ危害を加えられるのはかなり困るのですが。
 流石に知人へ手出しをされて黙っていられる程、私もお人好しでは無い。

「ふふ、ふふふ、そんなに睨まないで下さいまし、クロダさん。
 それ位のリスク・・・・・・・、承知の上でワタクシの提案を飲んだのではありませんこと?」

「一切否定しないのですか」

「それは勿論。
 魔族を殺してこその、“全能”のエゼルミアですわ。
 前のジェラルドさんは――ワタクシの誠意を示すためのサービスと考えて下さいな」

 言い切った。
 まあ、実際そうなのだろう。
 彼女は魔族を殺す。
 魔族を見れば必ず殺す。
 それは、龍に操られる以前からの趣向――いや、特性と言い換えてもいい。
 ……リアさん達には、引き続き注意喚起しておかなければ。

「えーと、真面目は話してるとこ、すみませんが」

 そこへ、葵さんが割って入った。

「勝負の内容って? 普通に戦うだけじゃないんですか?」

「…………」
「…………」

 その質問に、美咲さんとエゼルミアさんが押し黙る。
 ひょっとして葵さん、分かっていない、のか?

「あのですね。
 この“勇者の戦い”では、勝負の内容まで規定していない・・・・・・・んですよ」

「え、嘘!?」

 この反応を見るに、彼女は本当に把握していなかった模様。

「本当ですわよ」

「頭大丈夫か、お前」

 私の言葉をエゼルミアさんが肯定し、次いで美咲さんが辛辣な一言を浴びせる。

 そう。
 青龍ケセドの“契約”により様々な規約が設けられている“勇者の戦い”なのだが、実のところそのルール自体がかなりアバウトなのだ。
 “負けても勇者へデメリットが無い”や“勝負内容が決められていない”というのはその最たる例といえよう。

「じゃあなんですか、別に殺し合わなくとも、チェスだの将棋だので決着をつけてもいいと!?」

 納得いかない顔で、葵さんが喚いている。

「その通り。
 互いの同意は必要だがな」

「え、えぇぇぇぇぇ――」

 美咲さんの説明に、葵さんががっくり肩を落とす。

「すっかすかじゃないですか、このルール!!」

「そうだよ」

「どうして今まで気づかなかったんですの?」

 絶叫する葵さんに対し、2人は至って冷静。
 実に対照的な布陣だ。

 一応補足しておくと。
 本来、この“戦い”は六龍の支配下に置かれたもの。
 ルールの穴を突いてアレコレやらかそうとしても、龍にとって都合の悪い行為が見過ごされるはずがないのである。
 美咲さん以外の勇者は、形式に差こそあれ、龍に操られていたのだから。
 逆にしっかりとしたルールを制定してしまえば、六龍自身の行動を制限する羽目になりかねない。
 故に、奴らは曖昧さを残す選択をしたのだろう。

「で、結局どうするんだ、エゼルミア?
 まさか普通に戦う気も無いんだろう」

「勿論ですわ。
 それではつまりませんもの」

 美咲さんの鋭い視線を、エゼルミアさんは平然と受け止めた。

 しかし、つまる・つまらないで判断して欲しくはないものではある。
 単なる言葉の綾なのだろうが。

「ワタクシの提案する勝負内容は――」

「勝負内容は――?」

 相手の言葉を繰り返すと同時に、ごくりと唾をのむ。
 慎重に受け答えしなければならない。
 こちらには拒否権だってあるのだ。
 慎重に吟味し相手の目論見を探り、こちらの被り得るデメリットを想定する必要がある。

 そしてエゼルミアさんが言葉を続けた。

「――セックス勝負というのは如何でしょう?
 先に耐えられなくなった方が負けということで」

「分かりました、受けて立ちましょう」

 即答である。

「何が“分かりました”だっ!!」

「かはっ!?」

 美咲さんのローリングソバットが私の側頭部へ命中。

「ぐぁぁああああっ!!?」

 あ、あれ、ヤバい、コレ本気で痛い。
 頭蓋骨は無事なのか?
 脳ミソ抉れてない?

 激痛で床をのたうち回っている私をよそに、美咲さんと葵さんがエゼルミアさんへ詰め寄る。

「ふざけんなよ、エゼルミアぁっ!!!!」

「何考えてんですか、貴女!!?」

「ナニと言われましても――勝負の内容はワタクシが好きにして良いのでしょう?」

 さらりと答えるエゼルミアさん。
 だがそんなモノで2人が納得するはずもなく。
 美咲さんがさらにがなり立てる。

「限度ってもんがあるわ! なんだその勝負!!
 というか勝負として成立しないだろう!!?」

「どうせワタクシの負けで終わるのですから、成立するしないは問題ないのではなくて?」

「だったら!!
 他のでもいいだろう!!
 この街にいる魔族を何人殺せるかとか、そういう勝負で!!」

 いや、それガチでヤバいヤツじゃないですか。

「確かに、最初はそれにしようと思っておりました。
 “勝利”のため、クロダさんは最低1人魔族を殺さなくてはいけない――しかもこの街の魔族はクロダさんの知人ばかり。
 彼が被る苦悩や、犠牲となる人物の悲哀さ滑稽さを楽しむのも乙なものです」

 ああ、エゼルミアさんもガチでヤバい人でしたね。
 龍が憑いていようと憑いてなかろうとお構いなしに危険人物じゃないか。

「でもですね。
 こういう・・・・勝負にすれば、ミサキさんやイネスさんが物凄く悔しがるんだろうなー、と不意に思いついてしまったのですよ。
 そうしたら――居てもたってもいられなくなりまして」

「ああ、ああ、お前はそういう奴だよ!」

「本っ気で人を不快にさせるのが好きなお人ですねぇっ!!」

 美咲さんと葵さんのボルテージは最高潮だ。
 そんな2人を宥めるべく、私は一先ず体を起こす。

「まあまあ、お二人とも。
 確かにとんでもない動機ですが、それで魔族殺しの罪を負わねばという事態が避けられたのですから。
 良しとすべきかと」

「お前は単にエゼルミアを抱きたいだけだろうが!!」

「痛いっ!!!?」

 美咲さんの!
 踵落としが!!
 脳天!! 脳天にっ!!
 陥没!! 陥没してませんっ!!?

 ああ、しかし今日の美咲さんもいつも通りかなりタイトなビジネススーツを着ていてですね。
 太ももとかがかなりピチピチになっておりまして、脚線美がものの見事に露わとなっているわけですよ。
 先程から蹴られる度にそれを間近で観察できているため、まあこれはこれで幸せかな、と。
 あの無駄肉の付いていない、それでいて柔らかそうな太ももに顔を挟まれたいと願うのは、男の性であろう。

「……クロダさん。
 どうして蹴られたのに笑っておりますの?」

「ちょっと気持ち悪いぞ、お前」

「キョウヤに対してドM過ぎません?」

 対して3人は若干引き気味だった。
 この気持ち、やはり女性陣には理解できないか……!

 ま、それはそれとして。

「では早速勝負といきましょうか。
 場所はここで構いませんね」

「ええ、問題ありませんわ」

「問題しかないわっ!!!!」

 絶叫が響く。
 美咲さんはまだ納得していないらしい。

「誠一! 危機感が無さすぎるぞ!!
 は、肌と肌が触れ合っているときはどうしたって無防備になるだろう!
 それを狙って、エゼルミアが洗脳やら何やらを仕掛けてくるとは思わんのか!?」

「んー、まー、しかしー、受けてしまいましたからねー。
 どーしようもないんじゃないですかねー」

 そこまで深く考えられなかった(棒読み)。
 浅慮な自分が本当に恨めしい(棒読み)。

「……あー、どうしようかなぁ。本気でむかついてきたなぁ」

 バチバチッという音。
 美咲さんの周囲に雷が走り出した。
 あれ、まさか“爆縮雷光アトミック・プラズマ”使うつもりじゃないですよね?
 ココ、私の家なんですけど。

「無駄ですわよ、キョウヤさん。
 今、ワタクシとクロダさんは交戦中なんですもの。
 先程までの“じゃれ合い”ならともかく、それ以上であればケセドの“契約”と“呪縛”が働きますわ」

「ぬっ」

 エゼルミアさんに指摘されたことで、雷が収まる。
 美咲さんはケセドからかけられた呪縛により、勇者達を攻撃することができない。
 さらに、一度戦いが始まれば他の勇者はそこへ手出しすることができない。
 二重の戒めにより、彼女の行為は妨げられるというわけだ。
 逆に言えば――今のは本気の殺意・・・・・によるものだったということでもある。
 あ、冷や汗出てきた。

「なんでしたら、キョウヤさんも混ざりますか?」

「結構だ!!」

 提案を即決で跳ね除ける美咲さん。
 くっ、残念。
 美咲さんとエゼルミアさんの3P、やってみたかったのに!

「あ、ハーイ、ハーイ、アタシ、混ざりたいです!」

「ごめんなさいね、イネスさん。
 ワタクシ、アナタのことそんなに好みじゃなくて。
 冒険仲間としてならともかく、同衾の相手としてはちょっと……」

「あ”? ぶっ殺しますよアナタ?」

 一方で拒否され、これまたガチな殺気を放ちだす葵さん。

「クソっ!!
 こんなところにいられるか!
 私は帰らせてもらう!
 行くぞ、イネス!」

 何かのフラグっぽい台詞ですよ、美咲さん。

「ってちょっと待って下さい、なんでアタシがアンタに付いてかなきゃなんないんですか」

「この状況で一人帰ったらなんか負けたみたいだろうが!」

「勝手に負けてて下さいよ!!
 アタシはエゼルミアの後に誠ちゃんとヤりますから!!」

「やかましい! とっとと来い!!」

「おやおやー、自分の意見が通らないと思ったら力づくですか――ってやば!?
 この女、力強すぎ!?
 あ、やめ、引っ張らないで、引っ張らないでー!!?
 “呪縛”効いてないじゃないですか、どうなってんだケセドォっ!!!」

 首根っこを掴まれ、葵さんはずりずりと引きづられていった。
 これは2人の仲が良い――と考えてもいいものだろうか?

 ぎゃあぎゃあと喚きながら去る二人を見送った後、

「――さて。
 では、始めましょうか」

「流石です。
 あれだけ騒いだ後だと言うのに一切ぶれぬスケベ心、感心致しますわ」

 その割には、少し呆れたような声色なのは何故だろう。

「でもね、ごめんなさいクロダさん――」

 するすると、エゼルミアさんが身に着けていた上品なローブを脱ぎ去っていく。
 良い脱ぎっぷりである。

「おお……」

 思わず感嘆の声が漏れてしまう。
 現われたのは、華奢な身体だ。
 染み一つない、白色の肌。
 スラリと伸びた手足。
 そんな肢体に、銀糸のような輝きを放つ長い髪が絡んでいる。
 胸こそ控えめであるが、モデルのような彼女の美しさはその程度のことで陰りはしなかった。
 ――しかし。

「あっ」

 そこで気付いてしまう。
 芸術品のような美麗さを誇る彼女が、ただ一つおかしな・・・・箇所を持つことに。

「ふふ、分かりまして?
 ワタクシ、昔魔族の慰み者になっていた時期がありますの――ほんの・・・百年程度ですけど。
 その時戯れに、熱した鉄の棒をココに付き込まれましたの。
 それ以来、こんな有様ですわ」

 ニコリと笑顔でそう説明してくれた。
 いや、全く持って笑える内容ではないのだが。

 ……エゼルミアさんの股間は焼け焦げていた。
 詳細に語ることが憚れる程に、爛れているのだ。

「まあ、よくあるお話ですわ。
 ワタクシだけが特別な不幸というわけでもなく。
 もっと酷い目に遭った女性はごまんといることでしょう。
 ワタクシとしても、産んだ――産まされた・・・・・子供を目の前で殺されたり、あまつさえその子の■を◆べさせられたりした方が、余程堪えましたしね。
 平和な時代しか知らないクロダさんには、理解し辛いことかもしれませんけれど」

 淡々と語る。
 顔に微笑みを携えたまま。
 ああ、やはり、狂っているんだな、この女性ヒトは。
 狂わざるをえなかった、という方が正しいか。

「ふふ、ふふふふ。
 ですから、今日のこれはほんのお遊びなのですわ。
 キョウヤさんの言う通り、勝負なんて成立するはずが無いのですから。
 単に、あの二人をからかいたかっただけ、なんです」

 ……気のせいだろうか。
 最後の台詞の際に浮かんだ笑顔だけは、どこか暖かかった。

「そう、ですか」

 口から声を絞り出す。
 私は彼女に一つ頷いてから、

「――承知しました。
 つまり、アナルセックスしかできない、と。
 そういうことなのですね」

「へ?」

 おや。
 エゼルミアさんが、初めて驚きの顔をした。
 意外にも純朴で、可愛らしい表情だ。

「お、おかしいですわね?
 クロダさん、ワタクシの話、ちゃんと聞いておりました?」

「勿論です。
 エゼルミアさんは女性器が使えず、こちらの責めは尻穴に限定される。
 成程、このような手段でこちらの戦法を封じてくるとは、流石“全能”のエゼルミアといったところでしょうか」

「あー、そう受け取るのですかー。
 薄々気付いてはおりましたが、本格的に頭が狂っておられるのですわね、貴方」

 頭を振りながら、こめかみを抑えるエゼルミアさん。
 ……まあ、気持ちは分かる。
 しかし私はそれよりも、彼女の小ぶりなお尻が気になってしまうのだ。
 プリっとした肉付きの良い尻も良いが、こういう可愛らしい尻も良いものである。

「では失礼して」

 唾液で湿らせた指を、すっと彼女の菊門へと挿し入れる。

「んふっ!? きゅ、急に何をなさるのっ!?」

「……かなり窮屈ですね。
 まずは少し解す必要がありますか」

 エゼルミアさんの後ろはまだ固く、そう簡単に異物の侵入を許さない。
 なんとか第一関節まで入った指をゆっくりと動かし、直腸を掻き混ぜていく。

「はひっ!?
 ちょっとお待ちになって!!
 ワタクシ、本当にそんなつもりで言ったわけではっ!!
 おふっ!? 動かさ、ない、で――んくぅっ!!?」

 まだそれ程ほぐれていない割に、感度は良好のようだ。
 この辺、魔族の慰み者になった経験が生きているのかもしれない。
 指は、第二関節まで埋没が完了している。

「おっ! お、お、お、おっ!
 も、もう、終わり! 終わりにして下さいませ!」

「……終わり、ですか?」

「そ、そう!
 ワタクシの、負――んふぅ!?」

 何かを言いかけていたところで、エゼルミアさんの唇を奪う。
 薄い唇から、彼女の少しひんやりとした体温を感じられた。
 そのまま空いている方の腕をエゼルミアさんの腰に回し、引き寄せる。
 切れ長な瞳と視線が交差する。
 五勇者だの“全能”だのと言われる彼女だが、その肢体の柔らかさは間違いなく女性のそれであった。

「んんっ!! ん、ん、ん、んんんっ!!
 も、もう――んんんんんっ!!?
 んんんぅうううううっ!!!」

 息遣いが激しくなる。
 私の指は既に、根元まで刺さっていた。
 そこへさらに一本、追加する。

「んふぅううううっ!!?
 ふっ! ふっ! ふっ! ふむぅうううっ!!!」

 2本の指が彼女の中をかき混ぜていく。
 肢体がガクガクと動くのを、手で押さえつける。
 穴の抵抗がかなり小さくなった。
 今なら、いけるだろう。

「では――」

「え? あ、待って――」

 立つ位置を変えて、エゼルミアさんを後ろから抱き替える。
 ――銀色の髪に隠れたうなじが色っぽい。
 そんな感想を抱きつつ、既に万端整った剛直を、彼女の尻穴へと突き立てるのだった。

「んぁああああああっ!!!?」

 響く嬌声。
 先刻まで閉ざされていた菊門は、強引に入り込んだ愚息を痛い程ぎゅうぎゅうと締め付ける。

「あ、ああ、あ――は、はいった――はいって、しまいましたわぁ――
 こんな――いきなり――はふぅうううううっ!!?」

 またしても言葉が途切れる。
 私が腰を振り出したせいだが。

「あ、あ、あ、あ、あ! お、おぉおおっ!! おふぅうううっ!!!」

 うん、よく締まる穴だ。
 女性器が使えないのは非常に残念だったが、コレはその代わりを十二分に果たしている。
 これならば、十分勝機がある!

「も、もう勝負とかそういう問題では――あぁああああっ!!」

 強くすれば壊れてしまいそうな華奢な肢体へ、俺の欲望を叩きつける。
 結合部からはぐちゅぐちゅと音が鳴り、それをかき消すほどの喘ぎ声をエゼルミアさんが発する。

「なん、で――なんで、ワタクシの身体、こんなに感じてますのぉっ!?
 あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!
 こんな、こんなの――散々、ヤられましたのにぃっ!!」

「それは簡単なことですよ」

 質問を浴びせられたため、説明する。
 勿論、腰はグラインド運動を続けながら、だが。

「エゼルミアさんが魔族といたして・・・・いたのは、何年前ですか?」

「あ、あふ、ん、くぅっ――も、もう、百二十年は、前、ですわ――はぅっ!?」

 先程から100年とか120年とか、とんでもない数字が並んでいる。
 流石、長寿種族のエルフである。

「なるほど、思った通りです。
 そして貴女は、それから一度も性交渉をしていませんね?」

「お、おお、お、おっ――し、していません、わ――
 おっおっおっおっおっ! ねぇ、話をするなら、せめて一度止まって頂けません――ひゃうっ!?」

 長い耳をぺろりと舐める。
 反応を見るに、どうやらココも性感帯のようだ。

「つまり、エゼルミアさんは100年以上も未経験!
 それだけの間ナニもしなかったことで、快楽への耐性が生娘程度にまで落ちてしまったのですよ!
 そのくせ、快楽の味はしっかり知っているときた!」

「そ、そんな都合よくことが運ぶと――ふぁあああああああっ!!!?」

 確かに私の妄想が多分に入っているのは否めないが。
 ここまでの乱れっぷりを見るに、大きくは外れていないように思う。
 100年単位で経験が無ければ、それはもう処女と大差ないはずだ。

「どうですか!? 初めてを私に捧げた感想は!?」

「おお、お、お、お、お――ど、どうも何も、ワタクシの初めてなんてとうの昔に奪われて――お、おぉおおおおっ!!!?」

「何を言っているんですか! 貴女の初めては、今日失われたんですよ!」

「そんな無茶な――あ、ああああ、あっ!!
 深いっ!! 太いぃいいいっ!!!
 奥っ!! 奥をっ!! コツコツしないで下さいましぃいいいっ!!!」

 気丈に(?)振る舞いながらも、エゼルミアさんの顔は快楽に蕩けていた。
 一方で私も、そろそろ射精できそうだ。

「――まずは一発目、イキますよ!」

「おあ、あぁあああっ!! ダメ、もう――っ!!
 ああぁあああああああああっ!!!!」

 肉棒を思い切り奥へ突っ込むと、そこで精を解き放つ。
 精液が彼女の腸内へとびゅるびゅる吐き出されていく。
 堪らない解放感だ。

「ほぁああああ――熱い――熱いのが、たくさん――
 お腹、いっぱいに――」

 恍惚とした表情で精子を受け止めるエゼルミアさん。
 口が半開きになり、だらしなく涎を垂らしていた。
 時折、ビクビクっと身体が痙攣する。
 白い肌に浮かんだ汗が、実に艶かしい。
 彼女の方も、しっかりと達してくれたようだ。

「しかし、これではどちらが勝ったか判断しにくいですね」

「はっ…はっ…はっ…はっ……ま、まだそんなことを仰ってますの……?」

 息切れで胸を大きく動かしながら、律儀に指摘を入れてくれる。

「仕方ありません、次は負けませんよ!」

「つ、次って、今終わったばかりではありませんか――もう、反り返っておりますの!!?」

 最早周知の事実であるが、一発の射精で萎える程、私の愚息は柔ではない。
 既に二回戦目に備え、臨戦態勢に入っているのだ。

「ダメっ!! ダメダメっ!! いけませんっ!!
 もう、もうワタクシ、おかしくなりそうで――ほぉおおおおおおおっ!!!?」

 再度、尻穴へと挿入。
 柔らかくなって滑った門は、二度目の侵入を歓迎してくれたようだ。

「はひっ!! はひっ!! はひっ!!
 やめてっ!! もう、ワタクシの負けですから!!
 これ以上はっ!! これ以上はっ!!
 ああぁぁぁああああああああああああっ!!!!?」






 数時間後。
 うっすらと空が明るくなってきた。

「ぜひっ――ぜひっ――ぜひっ――ぜひっ――
 ま、負けって、何度も言いました、のに――」

 息も絶え絶えなエゼルミアさんが、涙を流しながらこちらを睨んでくる。
 しかしその瞳は弱々しく、いつものような迫力は無い。
 立つほどの体力も無いらしく、床に倒れ伏していた。
 まあ、延々とぶっ続けでアナルセックスし続けたのだから、当たり前だろう。
 寧ろ、これだけヤったというのにしっかり正気を保てている辺りが流石五勇者。
 単純な体力でも、人並み外れている。

「ふーっ――ふーっ――そんなところ、評価されたくありませんわ。
 肉体労働は、専門外なのです――ふーっ」

 息を整えながら、上半身を起こすエゼルミアさん。

「こんな、精液塗れにされるだなんて――肌も髪も、床までべっとりと。
 どれだけ溜め込んでおられるのですか」

「この手の勝負を挑まれたのは初めてだったので、つい熱くなってしまいましたね」

「限度を知りませんのね。
 ワタクシでなければ、気が触れているところですわよ?」

「そうですかね?」

 結構色んな人に付き合って貰ってたりするのだが。

「……それはもう、その方々は狂ってしまっているということなのでは?」

「いやそんなまさか」

 一日中セックスし続けたくらいで壊れる程、人は弱くない、と思う。

「行為そのものではなく、お相手が貴方というのが問題なのでしてよ?」

 そう言ってエゼルミアさんが深くため息を吐く。

「まあ、いいですわ。
 こんなことを議論しても仕方ありませんし。
 とりあえず――」

 私の方へ向けて軽く手をかざした。
 ただそれだけで、私の“傷”が癒されていく。

「――これは、どうも」

「ふふふ、ふふ、お馬鹿な人。
 調子に乗って、女性器の方まで使おうとするから、そうなるのですわ。
 焼けて歪に固まったところへ男性器を挿入すれば、無事で済むわけがないでしょうに」

 嗜めるように言われる。
 いやこれは恥ずかしい。
 エゼルミアさんの言う通り、途中で我慢できなくなってしまったのだ。
 つい、前の穴にまで突っ込んでしまった。

「どうしても、前の処女も頂きたい気持ちを抑えられなかったものでして」

「――処女って貴方。
 また変なことを口にしますのね」

 ジトっとした視線で睨まれた。

「実際、痛がっていましたし、血も出たではないですか」

「濡れてもいないところへ無理やり入れられたら、痛がりもしますわ!
 あと血は、貴方が男性器から流れたものでしょう!
 そんな状態で、よく続けられましたわね!?」

 はい、その通りです。
 剛直が負った傷から、結構な血が流れてしまったわけで。
 しかしせっかくエゼルミアさんを抱く機会が訪れたのだから、その程度で止まるわけにもいかなかったのである。

「……今日、貴方のことがよく分かった気がいたしますわ。
 それと――」

 そこでエゼルミアさんは私から視線を外し、

「――イネスさんがクロダさんに執着する理由も。
 ふふ、ふふふふ、確かに、あの子とって貴方は望外の存在でしょう」

 そう、なのだろうか。
 自分がそれ程大した人間だとは思えないが。

「でもキョウヤさんが貴方の恋人になった理由は、却ってよく分からなくなりました。
 クロダさん、あの人の好みの真逆をいってると思うのですけれど」

「毎日熱心にプロポーズを繰り返した成果ですかね」

「毎晩、寝込みを襲ったのですか!?」

「失礼な!
 一年近いプラトニックな交際の末に、ですよ」

「ええぇぇぇええええっ!!?」

 細い目を丸く開いて驚かれた。
 こんな顔もするのか、この人。

「貴方、そんな人並みの恋愛行動がとれるのですか!?」

「いやいや、できますよ、それ位!」

「でしたら、他の女性にもそうしてあげれば良かったですのに……」

「ははははは……」

 空笑いで誤魔化す。
 どうしても、女性を目の前にするとムラムラが湧き上がってしまうのだ。
 美咲さんは例外というか、物理的に手が出せなかったというか。

「――ねぇ、クロダさん?」

 少し間が空いてから、エゼルミアさんが口を開いた。

「なんでしょう」

「ワタクシと、本当にセックスしたくはありませんか?」

「はい?
 いえしかし、貴方は――」

「ふふふ、ふふ、これ位、すぐ治せますわよ」

 ……その言葉に、驚きは無かった。
 どれ程酷い傷であろうと、“全能”のエゼルミアが癒せないわけがない。
 敢えて・・・治癒していないのだ。
 理由も察しはつく。
 消したく無いのだろう、魔族への憎悪の証を。

 彼女は私の目を覗き込みながら、続ける。

「ワタクシが目的を達した後であれば、この傷を残す必要はありません。
 ですので、今日よりさらに気持ち良くして差し上げられますわ。
 ふふ、ふふふふ――どうです、ワタクシに協力して頂けませんか?」

「それは――ちょっと、無理ですね」

 エゼルミアさんの望みは、魔族の殲滅。
 何の恨みも無い人達に手を出す勇敢さは持っていない。
 胸を張って言えたことではないが、私は小市民なのだ。

「あら、残念」

 大して残念で無さそうな声色で、そう呟く。
 期待などしていなかった、ということだろう。
 エゼルミアさんは一つ、大きく伸びをしてから、

「流石に疲れましたわ。
 少し休ませて頂いても?」

「ええ、構いませんよ。
 奥の部屋にあるベッドを使って下さい
 私は片付けをした後、適当に床で寝ますので」

 明日――というか既に今日だが――の仕事に備え、私は多少は休んでおいた方がいいだろう。

「ふふ、ふふふ、一緒に寝ては頂けませんの?」

「良いのですか!?」

「勿論ですわ。
 ――と、言いますか、普通セックスってベッドの上で行いません?
 まさかずっと玄関先の廊下でヤり続けるとは思わなかったですわ」

「移動の時間も惜しんでしまいまして」

 礼に欠いた行動をとったかもしれない。
 その代わり――という程のものではないが、休憩は彼女の望むようにしたいと思う。

 そんなわけで、私とエゼルミアさんは同じベッドで眠りについたのだった。



「――何をしている、お前らぁああああああああああっ!!!!!!!」



 朝、様子を見に来た美咲さんに怒鳴られるまで。
 もう、ギタギタにされた。
 ボロボロにされた。
 いつの間にかエゼルミアさんは消えていた。

 ――ひょっとして、コレが狙いだったりしたんですか、貴女。



 第三十話 完
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

竜の箱庭

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,015pt お気に入り:12

超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

BL / 完結 24h.ポイント:1,597pt お気に入り:4,007

もし学園のアイドルが俺のメイドになったら

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:375

エレメント

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:5

モルモット君とふわふわウサギさん

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:795pt お気に入り:0

桜が散る頃に

BL / 完結 24h.ポイント:1,384pt お気に入り:0

処理中です...