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アニドル12『Christmas Eve』
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あの蓼丸事件からもうすぐ五ヶ月が経とうとしていた、クリスマス・イヴの日。hoperの仕事は十五時には終わった。ここで、今日の今後のhoperの予定をお教えしよう。雲母は彼女(何度も言うようだが、犬)のためのクリスマスプレゼント探し。桜小路はご察しの通り、デート。真玉、ナンパ。永穂、淳田、二人でぼっちパーティー。蓼丸、暇。なぜ永穂、淳田は蓼丸をぼっちパーティーに誘わなかったのだろうか。蓼丸には麗亜がいるとでも思ったのだろうか。あながち間違いではないが……。今から蓼丸は☆ごぉです☆グッズを買い漁りに行くのだから。
十七時。蓼丸は、☆ごぉです☆グッズが全く集まらず不機嫌気味。そこに、追い打ちをかけるように雨が降ってきた。折り畳み傘を常備しているのに加え、今日は朝から雨が降ったため普通の傘も持っていた蓼丸に、特に不都合はないが、雨が降ると気分は沈むものだ。ドンヨリしながら蓼丸は仕方なく家にとぼとぼと帰り始めた。ふと、麗亜からのあの手紙と出会った小道を通りかかった。この小道は特別なルートだから、いつもは通らないのだ。「そういえば、あの日は何でこの道を通ったんだっけ……。気まぐれだったかなぁ。だとしたらすごい偶然だなぁ。もしあの時俺があの道を通っていなくても、この運命はやってきたのかなぁ。……。最近忙しくて、こうやって色々と思い返す余裕は無かったけど、忙しいのは全然悪い気はしない。これも全て麗亜ちゃんのおかげだ。☆ごぉです☆って、一体いつまで俺を救ってくれるのかな。これからもよろしく……。」などしみじみと思い返していた。
「あっ!」
蓼丸は道を間違えた。突然大きな通りに出て、蓼丸はやっと気づいたのだ。しみじみするにも程がある。そこは、知らない通りだった。オシャレなカフェやビルが立ち並ぶ、綺麗な通りは、完全にクリスマス仕様にされていた。イルミネーションがきらびやかに雨空には無い星の代役を務めていた。まぁ、夜空に星が輝くことは、この辺りではあまり無いが……。蓼丸は、この通りのどこかで夕飯を食べることにした。たまにはオシャレなのもいいだろう。幸い、蓼丸に気づくものはいない。オーラを消しているからだ。裏を返せば、蓼丸のオーラは消そうと思えば消せるのだ。それは蓼丸もどうかとは思うが、便利だからよくオーラは消す。傘を握りしめ、通りをウロウロしていると、ふと、道路を挟んだ反対側の屋根の下で、雨宿りをしている女性が視界に入った。突然の雨に迷惑そうに顔をしかめている。髪が少し濡れていて、寒そうだ。蓼丸は、傘をもう一つ持っている。「アイドルが人にものを貸したりしていいのか!?いや、でも困っている女性を見逃すわけにはいかない。うん、貸すしかないだろう。」そう思った蓼丸は、道路を渡った。もちろん、ちゃんと横断歩道で。交通ルールはしっかり守る男は大抵いい男、これが蓼丸家の言い伝えである。蓼丸は、その女性に向かってズカズカと歩いて行った。その女性が、蓼丸の方を見た。
「え……?」
蓼丸はその女性の顔を見て、一瞬戸惑ったが、とりあえず折り畳み傘を差し出した。
「あ、あの、よければこの傘使ってください。僕は、これがあるので。」
「あ、ありがとうございます。」
その女性は、とても聞きなれた声でお礼を言った。間違いない。蓼丸は抑えきれずに言った。
「あの……杉菜さ、杉菜遥娘さんですよね?」
その女性はフッと微笑むと、
「やっぱり分かってくれましたか。蓼丸さんですよね。分かってたんですけど、ちょっと試したくて、ごめんなさい。」
と言い、舌をペロッと出した。その仕草は、狙っている風でもぶりっ子風でもなく、単純に素なのだということがすぐに分かる、非常に何気ない仕草だった。蓼丸は、初めて会った麗亜ちゃんの中の人に、感動を隠せずにいた。
「はぁぁぁぁ!杉菜さん!はじめまして!いつもありがとうございます~!」
ペコペコと頭を下げる蓼丸。
「ふふふ!予想どおり面白い方。今からご予定ありますか?」
蓼丸は顔を上げ、口を開けた。
「今から何をされるんですか?」
杉菜は、ニコニコしながらもう一度蓼丸に問う。
「あ、あぁー!ひ、暇ですよ!暇です!この辺りでご、ご飯でも食べようかなぁと思っていたところでして……。」
蓼丸、超動揺。麗亜を前に(?)テンションが上がってろれつが回らない様子。すると杉菜は嬉しそうに、
「じゃあ、一緒に食べましょうよ!私、オススメのお店ありますよ?」
と言った。
「え?あ、い、いぃどぅしゅ」
「あっ!」
いよいよ舌がおかしくなった蓼丸を気遣ってか気遣わずか、杉菜が蓼丸を遮った。
「あ、でも蓼丸さん、そういうの色々と大変ですよね。撮られちゃったりしたらやっぱりまずいですか?」
「あぁ。……。……。大丈夫です!僕には麗亜ちゃんがいることは、みんな知ってるでしょうし!」
杉菜は困ったように微笑んだ。
「芸能界、そんなに甘くはないと思いますよ。」
杉菜の冷静な一言に突然我に帰る蓼丸。蓼丸は色々なことをよくよく考えた。杉菜はなぜ自分を誘っているのだろうか。自分に気があるのだろうか。もし雑誌なんかにこのことが載ったらまずいのだろうか。難しい問題ばかりだ。そういう時は直感に託すのが賢太郎流だ。
「行きましょう。僕と杉菜さんだ。怪しまれやしませんよ。」
どこからそんな自信が湧いてくるのだろうか……。蓼丸は杉菜と一緒に☆ごぉです☆の話がしたい、という直感を選んだだけだろう。
「蓼丸さんがそう言うなら……。じゃあ、ついて来てください!」
そう言うと、杉菜は歩き出した。蓼丸は、ついて行った。雨はいつの間にか止んでいた……。
アニドル13『杉菜遥娘』へ続く!
十七時。蓼丸は、☆ごぉです☆グッズが全く集まらず不機嫌気味。そこに、追い打ちをかけるように雨が降ってきた。折り畳み傘を常備しているのに加え、今日は朝から雨が降ったため普通の傘も持っていた蓼丸に、特に不都合はないが、雨が降ると気分は沈むものだ。ドンヨリしながら蓼丸は仕方なく家にとぼとぼと帰り始めた。ふと、麗亜からのあの手紙と出会った小道を通りかかった。この小道は特別なルートだから、いつもは通らないのだ。「そういえば、あの日は何でこの道を通ったんだっけ……。気まぐれだったかなぁ。だとしたらすごい偶然だなぁ。もしあの時俺があの道を通っていなくても、この運命はやってきたのかなぁ。……。最近忙しくて、こうやって色々と思い返す余裕は無かったけど、忙しいのは全然悪い気はしない。これも全て麗亜ちゃんのおかげだ。☆ごぉです☆って、一体いつまで俺を救ってくれるのかな。これからもよろしく……。」などしみじみと思い返していた。
「あっ!」
蓼丸は道を間違えた。突然大きな通りに出て、蓼丸はやっと気づいたのだ。しみじみするにも程がある。そこは、知らない通りだった。オシャレなカフェやビルが立ち並ぶ、綺麗な通りは、完全にクリスマス仕様にされていた。イルミネーションがきらびやかに雨空には無い星の代役を務めていた。まぁ、夜空に星が輝くことは、この辺りではあまり無いが……。蓼丸は、この通りのどこかで夕飯を食べることにした。たまにはオシャレなのもいいだろう。幸い、蓼丸に気づくものはいない。オーラを消しているからだ。裏を返せば、蓼丸のオーラは消そうと思えば消せるのだ。それは蓼丸もどうかとは思うが、便利だからよくオーラは消す。傘を握りしめ、通りをウロウロしていると、ふと、道路を挟んだ反対側の屋根の下で、雨宿りをしている女性が視界に入った。突然の雨に迷惑そうに顔をしかめている。髪が少し濡れていて、寒そうだ。蓼丸は、傘をもう一つ持っている。「アイドルが人にものを貸したりしていいのか!?いや、でも困っている女性を見逃すわけにはいかない。うん、貸すしかないだろう。」そう思った蓼丸は、道路を渡った。もちろん、ちゃんと横断歩道で。交通ルールはしっかり守る男は大抵いい男、これが蓼丸家の言い伝えである。蓼丸は、その女性に向かってズカズカと歩いて行った。その女性が、蓼丸の方を見た。
「え……?」
蓼丸はその女性の顔を見て、一瞬戸惑ったが、とりあえず折り畳み傘を差し出した。
「あ、あの、よければこの傘使ってください。僕は、これがあるので。」
「あ、ありがとうございます。」
その女性は、とても聞きなれた声でお礼を言った。間違いない。蓼丸は抑えきれずに言った。
「あの……杉菜さ、杉菜遥娘さんですよね?」
その女性はフッと微笑むと、
「やっぱり分かってくれましたか。蓼丸さんですよね。分かってたんですけど、ちょっと試したくて、ごめんなさい。」
と言い、舌をペロッと出した。その仕草は、狙っている風でもぶりっ子風でもなく、単純に素なのだということがすぐに分かる、非常に何気ない仕草だった。蓼丸は、初めて会った麗亜ちゃんの中の人に、感動を隠せずにいた。
「はぁぁぁぁ!杉菜さん!はじめまして!いつもありがとうございます~!」
ペコペコと頭を下げる蓼丸。
「ふふふ!予想どおり面白い方。今からご予定ありますか?」
蓼丸は顔を上げ、口を開けた。
「今から何をされるんですか?」
杉菜は、ニコニコしながらもう一度蓼丸に問う。
「あ、あぁー!ひ、暇ですよ!暇です!この辺りでご、ご飯でも食べようかなぁと思っていたところでして……。」
蓼丸、超動揺。麗亜を前に(?)テンションが上がってろれつが回らない様子。すると杉菜は嬉しそうに、
「じゃあ、一緒に食べましょうよ!私、オススメのお店ありますよ?」
と言った。
「え?あ、い、いぃどぅしゅ」
「あっ!」
いよいよ舌がおかしくなった蓼丸を気遣ってか気遣わずか、杉菜が蓼丸を遮った。
「あ、でも蓼丸さん、そういうの色々と大変ですよね。撮られちゃったりしたらやっぱりまずいですか?」
「あぁ。……。……。大丈夫です!僕には麗亜ちゃんがいることは、みんな知ってるでしょうし!」
杉菜は困ったように微笑んだ。
「芸能界、そんなに甘くはないと思いますよ。」
杉菜の冷静な一言に突然我に帰る蓼丸。蓼丸は色々なことをよくよく考えた。杉菜はなぜ自分を誘っているのだろうか。自分に気があるのだろうか。もし雑誌なんかにこのことが載ったらまずいのだろうか。難しい問題ばかりだ。そういう時は直感に託すのが賢太郎流だ。
「行きましょう。僕と杉菜さんだ。怪しまれやしませんよ。」
どこからそんな自信が湧いてくるのだろうか……。蓼丸は杉菜と一緒に☆ごぉです☆の話がしたい、という直感を選んだだけだろう。
「蓼丸さんがそう言うなら……。じゃあ、ついて来てください!」
そう言うと、杉菜は歩き出した。蓼丸は、ついて行った。雨はいつの間にか止んでいた……。
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