国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

ハニートラップに気付かれる

「なんだ？誰も来るなと言ってあっただろう！！」


不意に部屋に響いたノック音に、リュートは不快感を露わにして声を荒げる。
人払いはしてあったはずなのにおかしいなとこれには隣室で聞いていたオミトも首を傾げたが、扉の向こうから現れた姿を見て、リュートは息を飲んだ。


「私でございます辺境伯様」


部屋に訪れてきたのはブラホードだった。
ブラホードは柔和な笑みを浮かべているが、纏う空気はピリピリしており、不機嫌さを現していたリュートもすっかり怒りが削がれてしまう。

ドロシーはブラホードから発せられる微妙な空気を察し、これ以上この場には残るべきではないと判断した。


「あの、どうやら大事なお話みたいなので、私はこれで失礼しますね」


手をヒラヒラさせて繕った笑みを浮かべながら退室するドロシーを、リュートは名残惜しそうに見送った。
普通の使用人相手であれば即座に追い出し、ドロシーと蜜月のときの続きをするのだが、ブラホード相手ではそうもいかない。
ブラホードは死人の種の共犯であるという立場から、ルーデル騎士団の副団長兼団長代理として必要最低限のとき以外は、リュートと接点を持たないようにするということになっていた。

そんな彼が部屋を訪れてきたということは、一応大事な用件で来たということである。これを無碍にするわけにはいかなかった。
それにドロシーは脈ありと考えていたため、今回が駄目でも次があるとリュートは気を取り直していた。


「単刀直入に言いますが辺境伯様。今後はドロシー・・・あの娘とお会いになるのはおやめください」


「えっ？」


しかし、ブラホードの口からドロシーとの接触禁止を提言され、リュートは目を丸くした。
そしてリュートよりも驚愕するのがそれを聞いているオミトである。


「探りが入っている可能性があります。・・・半分ちょっと以上の確率でしょう。ドロシー、彼女は我々の秘密を暴こうとしている人物であると考えるべきです」


リュートはあまりの衝撃に絶句するが、オミトとてそれは同じだ。


（不味いな・・・感づかれたか）


オミトは歯噛みした。