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潰される研究所

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キアラが演劇を鑑賞しているその頃、かつてダグラスが所長を務めていた極秘である存在の魔法研究所では、所員達が気だるげにデスクについて談笑していた。
以前は朝から晩まで黙々と研究付けであったというのに、ここ最近の彼らの中で今も研究をしている者などほとんどいなかった。


きっかけはダグラスの退任だった。
本人から一言あったわけでもなく、ただそう記されて張り出された紙切れ一枚によって所員達は彼の退任を知った。

次の人はいつ来るのだろう?どんな人だろうか?
所員達はその程度に考えていたが、しかし待てど暮らせど後任が来ることはなかった。
そうこうしているうちに金を始めとして所長の決済がなければ1ミリも動かない案件が溜まっていき、ついに研究所は実質業務を停止することになった。
魔法研究の素材として必須である死人の種の搬入も大きく鈍り、もはや研究所は物理邸に機能を停止していた。
魔法研究所は極秘の存在である。万が一のときにはその建物ごと証拠隠滅させられるシステムになっているくらいだ。
だから所長がいなければお上・・・国とやり取りすることもできないのだ。

流石にここまで来ると所員達は気付いた。「あぁ、やはりこの研究所は潰されるのだろうな」と。
魔法技術の研究ばかりに心血を注いでいた多くの所員達は、ランドール王家で政変が起きようとしていることについて知らなかったが、今実質的に権力を握っているダリスは、国王に返り咲いた際には魔法研究所を正式に閉鎖するつもりでいた。

上王ダリスは元々ランドールの国策で行われていた死人の種を使った魔法研究について、強く否定的な考え方をしていた。
今日のランドールの魔法技術における優位性は、確かに死人の種による功績が大きかったが、しかし世界的に禁止されているそれを持つことのリスクをダリスは恐れていた。
そしてキアラの母、ブレアが研究によって命を縮めたことについても心を痛めていたが、国益のためだと断腸の思いで研究所を潰すことはしなかった。しかしダリスは今になってその決定を覆すことに決めたのだ。


「俺達どうなるんだろうな・・・」


所員達はぼやくが、誰もそれに答える者はいなかった。誰もがわかりきっていた。極秘研究に手を染めていた彼らは、法外なほどの高額報酬と引き換えに、研究所閉鎖や機密漏洩が起きた際には口封じとして始末されることが決まっていたからだ。
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