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塩対応の王太子

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「キアラ様は『少々お待ちいただきたい』とのことです」


ラルスがルーベルト邸へ押しかけてからいくらか時間が経過してから、侍女の一人が言伝を預かってやってきた。
すぐにでも会いたいラルスは歯がゆさを感じるも、冷静になってみれば唐突に押しかけて来たのは彼のほうなのでこの場は仕方がないと「わかった」と返事をして我慢をした。

が、応接室にでも通されると思いきや、そのような様子はない。使用人の誰一人もラルスを案内するような素振りはなかった。それどころか皆してラルスをいない者であるかのように振る舞っている。


(この者らは・・・!)


キアラが自分に塩対応をするのは仕方がない。彼女は崇高な存在なのだ。むしろぞんざいに扱われると心のどこかが喜びの声を上げるーーー などとラルスは考えているが、しかし一介の使用人風情がラルスを蔑ろにするのは怒りを覚えた。

しかしラルスは怒りを抑え込む。
今日はキアラに事情を聴きに来たのと、場合によっては説得までしなければいけないからだ。ここで悪態をついて印象を悪くすることだけは避けたいと考えていた。
ちなみに使用人達がラルスを蔑ろにしているのは、別に仕事のやる気がないという理由だけではない。キアラから「別に構うことはないわ。放っておきなさい」と言われているからである。放っておけと主が言うのだからそうしているに過ぎない。
それに落ち目として有名であるラルスに媚びを売ったところで疲れるだけで何も実りがないということを彼らは理解していた。

そしてラルスが門前で待たされること一時間強・・・驚くほど素直に待っているラルスに、使用人達は眉を顰めていた。ラルスがキアラに懸想しているのは知っているが、それにしても一応は格上・・・というか王族である自分を異常なほど待たせて怒らないのだろうか?と当然の疑問を抱いていた。

しかしラルスはキアラに「待て」と言われると、それだけで何時間も待てるほどには彼女に心酔していた。
キアラに支配されたいとすら考えている今のラルスなら、夜まででも待つだろう。

それからしばらくして、ようやくルーベルト邸の屋敷の扉が開いた。


「キアラっ!」


ラルスは弾かれたように声を上げる。
外に出てきたキアラはその声に反応し、ラルスにほうを見やると


「あら・・・そういえばいたのね」


と、今の今まで忘れていたかのようにそう言った。
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