国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

父と娘の逆転 その２

「あら、ご無沙汰しておりますチェスター叔父様」


執務室に入ってきたキアラは、チェスターの姿を認めると綺麗なカーテシーを披露する。


「あ、ああ・・・久しぶりだね」


対するチェスターは、動揺していて言葉少なに返すことしか出来なかった。
チェスターが気圧されているのは、最初に入室してくるときの態度だけのせいではない。キアラの黒を基調とした装いもチェスターの度肝を抜いていた。


（これではまるで・・・ルーデル家の模倣ではないか）


ここ数年のルーデル家を知っている者がいるのなら、誰もがそう気づくだろう。知らずにこのコーディネートになったなどあり得ない。なにしろキアラはかつてルーデル家のショウの婚約者だったのだから。


「随分と服の趣味が変わったのだね」


動揺を隠しつつ、チェスターが言った。触れて良いところなのかわからず迷ったが、それでも全く触れないというのも不自然かなと思ったからだ。


「えぇ。ショウに相応しい女性になるために、彼に合わせてイメージチェンジしてみたのです。やはり皆様最初は驚かれますね」


「・・・ぇ？」


きょとんとするチェスターは、どういうことだ？という言いたげに思わず隣にいるダグラスを見た。
ダグラスは苦笑いを浮かべているだけだったが、チェスターの内心を理解してかキアラが代わりに口を開いた。


「説明させていただきますと、私はこれまではお父様の意向でラルス殿下と婚約する予定でしたが、それを取り止めまして、ショウ・ルーデルとの婚約を結び直そうと考えているのです」


「・・・」


チェスターは完全に固まった。キアラの言葉に理解が追い付かない。仕方がないことである。この話を最初に聞いた近しい者は誰もが通る道と言える。


「ダグラス・・・どういうことだ」


ダグラスに説明を受けようと、チェスターはそう問うが、ダグラスではなくキアラがそれに答える。


「叔父様。私は、今後はお父様の言うことを聞くのは止めにしたのです。ショウとの復縁は完全なる私個人の意思なのです」


「な・・・何だって？」


驚愕するチェスターの横で、ダグラスは力なく笑うだけだった。