国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

ダグラス・ルーベルトの変化 その４

「君は・・・自分が何を言っているのかわかっているのか？正気か？」


チェスターの口から思わずそんな言葉が漏れていた。少なからず動揺している・・・そんな自身の感情を表に出してしまうという、貴族としてはあるまじき失態を犯していたが、しかし今はそれに構っている余裕すらチェスターには無かった。

何を食った？頭を打った？病気になった？

何か衝撃的なきっかけでもないと、到底起こりえない変化がダグラスに起こったことにチェスターはそれだけ驚愕していた。


「やれやれ随分な言い様だね・・・だが、まぁこれまでの私を見て来た君からすれば、当然の反応だ」


ダグラスはそう言って自虐的に笑う。
チェスターは自分が白昼夢を見ているのではないか、あるいは目の前にいる男がダグラスの影武者か何かなのではないか、そんなことをまだどこかで考えていた。


「そういえばもう一つ爵位については考えているんだ。それは、私の娘キアラに継がせることだ」


これ以上驚くことはあるまい・・・そんなことを考えていたチェスターの耳に、更に驚愕する言葉が届く。


「キアラに公爵家を継いでもらうことも考えている」


再度、ダグラスははっきりと言った。

ランドールでは女性でも爵位を授かることができる。マルセイユ家が良い例である。
もちろん、男性と比べて風当たりが強いのは確かであり、極めて少数であるが、それ相当の実績があれば決して不可能なかった。


「実績については、キアラなら問題ないだろう」


ダグラスの言葉に、チェスターは「確かに」と内心納得する。
キアラはランドールのみならず、世界でも一番と噂される天才大魔法使いであり、魔物退治など国防の実績から見てもキアラは貴族当主に名を連ねることに問題はないと言えた。


「ただ領地運営に興味あるのか、それだけが問題なんだ。いくらキアラでも、名ばかり公爵になってしまうのなら、私だって爵位を譲ろうとは思わない。そういう意味でも、本当はチェスター・・・君に譲るのが一番なんだが」


穏やかに笑みさえ浮かべるダグラスを見て、チェスターは背中をかきむしりたくなるほどの居心地の悪さを感じた。


「どうした？一体、君に何があったんだ？こんなことを言いだすような人間じゃなかっただろう」


ルーベルト公爵家当主という座と名誉に誰よりも執着していたはずの男が、こんなことを言うわけがない。
そんな気持ちが溢れ、思わずダグラスの口から言葉を発させていた。
ダグラスはチェスターの質問を受け、ハハ・・・と力なく笑い、そして答えた。


「私はね。キアラに去勢されてしまったのだよ」と。