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刺激が欲しい
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先に言ったように、アルス教の聖騎士団の手が足りるようになり、俺たち冒険者の仕事は大分減った。
これまで過密に働いてきた俺は、いきなりやってきた平穏にすっかり研ぎ澄まされていた心が去勢されてしまったかの如く、すっかり燃え尽きたかのようになっていた。
読書をするどころか満足に睡眠をとることも出来なかった繁忙状態から、二日に一度、三日に一度・・・と、出動の回数が減るにあたって、余暇が増え続けて持て余すレベルまで来てしまった。
「このくそったれな紅茶をもう一杯」
俺は空になった器を前に出し、バーテンにお代わりを注文する。
「うるせぇここは酒場だ。頼むなら酒を頼みやがれ」
などと言いながらもバーテンは俺が付き出した器に乱雑にお代わりの紅茶を注いだ。ああっ、なんて適当な注ぎ方なのだ・・・
「はぁ・・・不味い」
不味さに溜め息をつきながら、俺はカップにある紅茶をゆっくりと飲み干した。
「この店で茶をストレートで頼むのはアンタくらいだぜ」
「だろうな」
俺の答えを聞いてバーテンはまた呆れ顔になる。
この店の・・・というかこの町で市井に出される紅茶は基本的に不味い。だからミルクで割って飲んだりするのが一般的だ。俺だってここに来たばかりのときはそうしていたが、ここ最近は不味い紅茶を堪能するという訳のわからない趣味に目覚めていた。
なんというか、一気に暇になってからありとあらゆることに大らかになってしまったのだ。
「ボケ老人かよ」
虚空を見つめながら呆ける俺にバーテンが言った。
ここ最近は同じようなことを何度も言われている。
俺は死人の種の以来の繁忙期に稼ぐに稼いだためか、当面は働かなくても良いくらいの蓄財が出来た。それもあってか、「どうせ暇になったのなら、少し休めてみるか」とあえて何も仕事をしないでいるようにしたところ、週に二回ほどの死人の種関連の仕事を除いて、本当に何もしない日々が続くようになってしまった。
アミルカ達は聖騎士団として死人の種の取り締まりに奔走し、かつて俺と行動を共にしていたザイル達は故郷に帰ったためにここにはおらず、つるむ相手がいなくなって刺激が無くなったせいか、本当に植物のような平穏の中に身を置いていた。
「おぉ、なんだショウ。昼からこんなところでぼーっとしてよ」
呆けていると、通りがかりの知り合いから声をかけられる。
この酒場で入りびたる中で最近出会った、新聞記者のリュカという男だった。
「暇なんだよ。何か刺激的なことないか?」
俺が冗談交じりでそう言うと
「俺の仕事はいつだって刺激的だよ。そんなに暇ならちょっと社屋に来てみるか?」
と、リュカから思いも寄らぬ提案を受けた。
「紅茶飲んで溜め息をついているよりは有意義なものになるかもしれないぜ」
他に何かをするわけでもない。する気力もない。
やる気が起きるまで、どうせなら何か新しい刺激でも探してみようか。そう考えて俺はリュカの提案に乗ることにした。
リュカの言う通り、それは新たな刺激になるのであったが、そのときの俺がそれを知るはずもなかった。
これまで過密に働いてきた俺は、いきなりやってきた平穏にすっかり研ぎ澄まされていた心が去勢されてしまったかの如く、すっかり燃え尽きたかのようになっていた。
読書をするどころか満足に睡眠をとることも出来なかった繁忙状態から、二日に一度、三日に一度・・・と、出動の回数が減るにあたって、余暇が増え続けて持て余すレベルまで来てしまった。
「このくそったれな紅茶をもう一杯」
俺は空になった器を前に出し、バーテンにお代わりを注文する。
「うるせぇここは酒場だ。頼むなら酒を頼みやがれ」
などと言いながらもバーテンは俺が付き出した器に乱雑にお代わりの紅茶を注いだ。ああっ、なんて適当な注ぎ方なのだ・・・
「はぁ・・・不味い」
不味さに溜め息をつきながら、俺はカップにある紅茶をゆっくりと飲み干した。
「この店で茶をストレートで頼むのはアンタくらいだぜ」
「だろうな」
俺の答えを聞いてバーテンはまた呆れ顔になる。
この店の・・・というかこの町で市井に出される紅茶は基本的に不味い。だからミルクで割って飲んだりするのが一般的だ。俺だってここに来たばかりのときはそうしていたが、ここ最近は不味い紅茶を堪能するという訳のわからない趣味に目覚めていた。
なんというか、一気に暇になってからありとあらゆることに大らかになってしまったのだ。
「ボケ老人かよ」
虚空を見つめながら呆ける俺にバーテンが言った。
ここ最近は同じようなことを何度も言われている。
俺は死人の種の以来の繁忙期に稼ぐに稼いだためか、当面は働かなくても良いくらいの蓄財が出来た。それもあってか、「どうせ暇になったのなら、少し休めてみるか」とあえて何も仕事をしないでいるようにしたところ、週に二回ほどの死人の種関連の仕事を除いて、本当に何もしない日々が続くようになってしまった。
アミルカ達は聖騎士団として死人の種の取り締まりに奔走し、かつて俺と行動を共にしていたザイル達は故郷に帰ったためにここにはおらず、つるむ相手がいなくなって刺激が無くなったせいか、本当に植物のような平穏の中に身を置いていた。
「おぉ、なんだショウ。昼からこんなところでぼーっとしてよ」
呆けていると、通りがかりの知り合いから声をかけられる。
この酒場で入りびたる中で最近出会った、新聞記者のリュカという男だった。
「暇なんだよ。何か刺激的なことないか?」
俺が冗談交じりでそう言うと
「俺の仕事はいつだって刺激的だよ。そんなに暇ならちょっと社屋に来てみるか?」
と、リュカから思いも寄らぬ提案を受けた。
「紅茶飲んで溜め息をついているよりは有意義なものになるかもしれないぜ」
他に何かをするわけでもない。する気力もない。
やる気が起きるまで、どうせなら何か新しい刺激でも探してみようか。そう考えて俺はリュカの提案に乗ることにした。
リュカの言う通り、それは新たな刺激になるのであったが、そのときの俺がそれを知るはずもなかった。
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