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備えあれば・・・
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オミトがマルセイユ領を出発する人の話である。
「オミト。これを持つようにしなさい」
オミトはエーペレスからある物を渡された。
それは札のようなものであった。
「これは・・・一体何でしょう」
オミトはそれを目にするのは初めてだった。
「それは魔術符よ。ソーアが使ってる矢にも使われている、魔法が使えない人間にも、魔法の発動が出来るようになる使い捨ての札なの。それを掲げて念じるだけで札に込めてある魔法が発動するようになっているわ」
「なんと・・・」
オミトは渡された魔術符をじっと見つめた。
魔術符というものは、魔法強国のランドールにおいてもいまだ普及してなどいない高価で希少な代物であることはオミトも理解していた。
黒の騎士団でも使っている通信装置をはじめとして、まだニッチな存在であるが確かに有益な様々なものを世に生み出している魔科学技術研究所が出している、非常に高価な札である。
「ルーデル領までの帰路・・・いえ、帰ってからもオミトには、死人の種のことを巡ってこれから様々な危険が迫る可能性があるわ」
エーペレスがそう言って、魔術符を持つオミトの手の上に自分の手を重ねた。
「こちらでも死人の種というものについては調べてみるけど、ルーデル領の方でも不正に採取しているという話が事実であるのなら、それを知ったオミトもこれからは無事でいられるかはわからないわ。だから、万が一のときのためにこれを持っていて欲しいの」
心配そうにエーペレスは言う。彼女も当然、オミトの体のハンデについては知っていた。
「心配しなくても、これは戦女神の予算からじゃなくて私のポケットマネーで買ってるものだから、気にしないで使って」
「そ、そうは言いますが・・・」
札一枚で中古の家くらいは買えそうな金額はするはずじゃないかとオミトは思い出す。気にしないで使えと言われてもとオミトは考えるが、エーペレスの真剣な表情を見て、それを口にするのはやめて頷いた。
「わかりました。ありがたく使わせていただきましょう」
自分のスタミナが切れたとき、まだ敵が健在であるのなら、有難くこれを使わせてもらおう・・・
オミトはそう考え、札を大事に胸ポケットに忍ばせた。
ーーーーー
「まさか・・・あれからそう時間も経たないうちに使うことになるとは」
オミトは残った札を眺めながらそう呟いた。
襲撃者の不意打ちに関しては、札とともにエーペレスに貰った人の気配に反応して鳴るベルが作動し、うまく事前に察することが出来た。
そして戦いにおいても、スタミナが切れる直前に刀での戦いを止め、札を使っての攻撃に切り替えたのでうまく切り抜けることが出来た・・・
どちらか一つでも足りなければ、今頃は死んでいた可能性が高いだろう。
エーペレスが言った、自分の身に危険が迫っているという状況が、今になってようやくオミトは本当の意味で理解することになったのだった。
「オミト。これを持つようにしなさい」
オミトはエーペレスからある物を渡された。
それは札のようなものであった。
「これは・・・一体何でしょう」
オミトはそれを目にするのは初めてだった。
「それは魔術符よ。ソーアが使ってる矢にも使われている、魔法が使えない人間にも、魔法の発動が出来るようになる使い捨ての札なの。それを掲げて念じるだけで札に込めてある魔法が発動するようになっているわ」
「なんと・・・」
オミトは渡された魔術符をじっと見つめた。
魔術符というものは、魔法強国のランドールにおいてもいまだ普及してなどいない高価で希少な代物であることはオミトも理解していた。
黒の騎士団でも使っている通信装置をはじめとして、まだニッチな存在であるが確かに有益な様々なものを世に生み出している魔科学技術研究所が出している、非常に高価な札である。
「ルーデル領までの帰路・・・いえ、帰ってからもオミトには、死人の種のことを巡ってこれから様々な危険が迫る可能性があるわ」
エーペレスがそう言って、魔術符を持つオミトの手の上に自分の手を重ねた。
「こちらでも死人の種というものについては調べてみるけど、ルーデル領の方でも不正に採取しているという話が事実であるのなら、それを知ったオミトもこれからは無事でいられるかはわからないわ。だから、万が一のときのためにこれを持っていて欲しいの」
心配そうにエーペレスは言う。彼女も当然、オミトの体のハンデについては知っていた。
「心配しなくても、これは戦女神の予算からじゃなくて私のポケットマネーで買ってるものだから、気にしないで使って」
「そ、そうは言いますが・・・」
札一枚で中古の家くらいは買えそうな金額はするはずじゃないかとオミトは思い出す。気にしないで使えと言われてもとオミトは考えるが、エーペレスの真剣な表情を見て、それを口にするのはやめて頷いた。
「わかりました。ありがたく使わせていただきましょう」
自分のスタミナが切れたとき、まだ敵が健在であるのなら、有難くこれを使わせてもらおう・・・
オミトはそう考え、札を大事に胸ポケットに忍ばせた。
ーーーーー
「まさか・・・あれからそう時間も経たないうちに使うことになるとは」
オミトは残った札を眺めながらそう呟いた。
襲撃者の不意打ちに関しては、札とともにエーペレスに貰った人の気配に反応して鳴るベルが作動し、うまく事前に察することが出来た。
そして戦いにおいても、スタミナが切れる直前に刀での戦いを止め、札を使っての攻撃に切り替えたのでうまく切り抜けることが出来た・・・
どちらか一つでも足りなければ、今頃は死んでいた可能性が高いだろう。
エーペレスが言った、自分の身に危険が迫っているという状況が、今になってようやくオミトは本当の意味で理解することになったのだった。
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