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仮初の延命

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サーラによる包囲戦を撃破され、散り散りになったサーラ派の海軍は武装船を思い思いに処分して徒歩で港へと帰還した。
ソーア暗殺を失敗した以上、犯行のバレる船で帰港できるわけがなかったからである。
その夜、ある場で元サーラ派の重鎮達による緊急会議が開かれていた。サーラ亡きあと、ミルツが取りまとめを行っていたが、そんな彼は抑揚のない声で言った。


「今後、我々はソーアに身をゆだねるしかあるまい」


その言葉にその場にいた全員が息を飲んだ。

サーラが討たれたことで、汚職に手を染めていた彼らの立場は大きく揺らごうとしている。シーアもサーラも汚職に勘しては寛容だったが、よりによってその汚職を殲滅せんと動いているソーアにサーラが討たれたということは、今後彼らは甘い汁を啜り続けるどころか、普通に生活することすら出来るかが危うい状態になったことを指す。


「ソーアを排除するわけにはいかないのか?」


その場にいた一人、税関の所長が発言した。
これまで散々汚職で利益を得ていた一人だった。


「不意を突いて完璧な包囲網を敷いた上で、それを破られた。今後ソーアは警戒するだろうし、二度と今回以上の機会は訪れないだろう。次は逆に罠を張って待っている可能性だってある。もうソーアを暗殺することは難しいだろうし、それをしくじりさえすれば今度は我々は現状の立場すら維持することは出来ないだろう」


ミルツはそう言って深く溜め息をつく。
ソーアは帰港してからミルツのことを呼び捨てにしていた。それはミルツとソーア間では既に上下が逆転しているというソーアの意思の表れであるとミルツは取っている。事実ソーアはサーラによる暗殺未遂について全て知っているぞと言わんばかりの態度であった。


「ソーアの気分一つで我々は首を取られる。生き永らえるには、大人しく彼女に従うか、ソーアを排除するしかない。だが、後者はもはや不可能・・・となると」


ミルツの言葉に皆が押し黙る。
結論は出ていた。もはや誰一人としてソーアに弓を引こうと思う者はいない。
一時的の仮初の延命であることにあるいは心のどこかで気付いている者もいたが、それでもソーアと戦おうとはしなかった。

こうしてマルセイユの膿どもは、ソーアにその運命をゆだねることを受け入れた。
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