国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

サドな姉

「あら、思っていたよりは持つのねぇ」


ソーア達戦女神が奮闘している様子を、遥か後方の一隻船からサーラ・マルセイユは望遠鏡で眺めていた。武装船ではない普通の船が数隻紛れ込み、その中で特等席とばかりにサーラはソーアが追い詰められる様をリアルタイムで鑑賞していた。
ソーアは特製の魔術矢で砲撃の脅威を持つ武装船を優先して撃沈するだろう。ならば武装船でない船を攻撃するのは後回しになるはずであり、その船はしばらくは安全でいられるということだと考えてこの船に乗っていた。そしてこの船は見た目こそ大きくなく普通の船だが、防護障壁も展開してあって簡単には沈まない仕様になっている。

こんな手の込んだことをしてまでも、サーラは戦女神殲滅作戦の完遂を自らの目で確認したいと思っていた。
一つは作戦の成功を確実に自分の目で確認しないと気が済まないため、そしてもう一つは、純粋なる趣味だった。自分の敵が自分の謀略によってじわじわと痛めつけられ殲滅される、その瞬間を見ていたくて仕方が無かったのである。

サーラはソーアとの話し合いが決裂した直後から、この戦女神殲滅を計画を進めていた。とはいっても武装船の用意から青の騎士団との調整から何まで、ほぼ出来上がった状態になってからソーアを食事に誘ったわけだが。

ソーアがサーラが持ち掛ける調停に応じなければ、即座に計画通りに事を進めるーー最初からそのつもりであり、そしてソーアは予想通りにサーラの差し出す手を振り払った。その瞬間からソーアの運命は決まっていたのだ。


「がんばるわねぇ・・・これは人的被害は1000人まで行くかもしれないわ。流石私の妹ね。ねぇ、貴方はどう思う？私の妹。凄いでしょ？」


サーラはそう言って望遠鏡から目を離すと、彼女の後ろの方で震えている一人の女に顔を向ける。

そこに立っているのは戦女神の隊員の服装をしている、先ほどまで戦女神にいたはずの新人の少女だった。
少女は青白い顔をしながら震え、目をきつく閉じている。


「どう思っているのかと聞いているのよ。聞こえなかった？」


サーラは顔こそ笑っているが、声は不機嫌そうに少しばかり低くなっていた。


「ゆ、許してください・・・」


誰に対して言っているのか、少女はそうとしか言わなかった。
少女は戦女神を戦場となる島へ誘導する情報を流した張本人だった。サーラの命令により、戦女神を裏切ったのだ。


「許して・・・？あぁ、貴方を信頼していた戦女神の仲間を裏切ったんですものね。許して欲しいわよね。故郷の家族の生活のために大金が欲しかったものだから仕方ないわよね？ウフフ・・・ソーアが貴方が満足するだけの給金を支給できなかったのが悪いのよね？」


意地の悪い笑みを浮かべながら、サーラは少女に詰め寄った。
少女は涙をボロボロと流しながら、ただただ「許してください」とだけ口にするしかなかった。


「あぁ・・・せっかくなら死ぬまでにこの女が自分を裏切ったことをソーアに教えてあげたいわぁ！最後まで生き残れたら、そうしてあげようかしら？ウフフ・・・」


サディスティックな笑みを浮かべ、サーラは再び望遠鏡を手に取った。