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悪として生きざるを得なかったシーラ

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マルセイユ家の当主であるシーラ・マルセイユがマルセイユ海軍・・・青の騎士団の汚職に気が付いたのは、彼女がマルセイユ家の当主に就任してからだ。

先代、先々代の頃から青の騎士団は海の治安を守る傍ら、密輸業者と結託して利益を貪り、そしてそれを指示するマルセイユ家は莫大な財を得ていた。
それからもう一つ、王家の密輸にも目を瞑ることで、財だけでなくいろいろと王家から便宜を図られてきたのである。

シーラが当主を継いだとき、彼女はまだ若かったが、不幸にも彼女は若くしてマルセイユと王家の闇に触れ、これまでマルセイユが取ってきたスタンスを踏襲せざるを得なくなったのである。
マルセイユの闇は発覚すれば、マルセイユのみならず王家・・・果ては国が飛んでしまうほどの大スキャンダルである。シーラは良心の呵責に苛まれながらも、この闇を抱えたまま生きていくことに決めた。
これを暴くことによる混乱は計り知れないものがあるし、そもそも青の騎士団の腐敗の進み具合もシーラの想像以上のものがあり、実際シーラが騎士団の浄化を決断したところで実現できたかも疑問だったからだ。

最初こそシーラは罪悪感に苛まれていたが、時が経過するとともに慣れていった。
財政が潤うことで領地運営は全く問題なく進むし、海の治安についてもある程度はコントロールが出来たからだ。戦いに明け暮れる挙句、財政の潤わないルーデル辺境伯家と比較すれば、マルセイユ辺境伯家は実に恵まれていると言って良かった。

綺麗ごとばかりでは領地運営は成り立たない。
ちょっとした悪事に目を瞑れば、総合的に見て領地民の幸福度は高いものになるだけの豊かな治世を実現できる・・・清貧であることばかりが正しい領主であるとは限らない、シーラはそう言い聞かせて生きてきた。やがて生き方に疑問すら感じなくなった。


「けど、あの子は違うのね・・・」


シーラは自室にて、ワイングラスを傾けながら呟いた。
自分の夫であるシオンの血を色濃く継いだと思われる娘ソーア。彼女は父親譲りの正義感を持ち、真っ向から母である自分に対抗してきた。

押さえつけようとしたが、反発され、今は腐敗したマルセイユをひっくり返そうとしているほどの力と人望を持とうとしている。


「これが潮時かしら・・・」


シーラは溜め息をついた。
自分の時代が終わるときが来た・・・そういう確信が彼女の中にあった。


「果たしてどちらに転ぶかしらね。ソーアか・・・それともサーラか」


シーラはそう言い、部屋にある高価な柱時計を眺めた。
時刻はソーアとサーラが食事をする予定の時間を指していた。
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