国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

キアラの変化

訪問を受け入れるとしたキアラへの返事を送り、先触れにあった訪問日を迎えることになったハルトマン家。
大体の用件は予想はついているが、それでも実際に会うまでは何を言い出すかわからない。アーヴィガは表情にこそ出さないが、内心少し緊張していた。
アーヴィガは窓から外の様子を眺めながら、キアラが来るのを今か今かと待っていた。



そしてキアラがやってきた。
箒にまたがって空を飛んで。
そう言えばそういう芸当が出来たんだったかとアーヴィガは今更のように思い出した。

北方の地であるハルトマン家には万年雪があるが、キアラが飛んできた突風によって空中にその雪が舞い上がり、辺りを舞う雪が日光の反射によりキラキラと輝き、なんとも息を飲む不思議で美しい光景がアーヴィガの目に入る。その美しい光景の中心にいるのは絶世の美人と言われたキアラ・ルーベルト。なるほど、絵になるなとアーヴィガは感心した。

しかし惚けているのも束の間。アーヴィガは違和感に気付いた。

キアラは厚手のコートを着ていた。この地は王都とは比較にならないほどの極寒の地である、だから厚着をするのは当然であるのだが、問題はそのコートだ。

真っ黒なコートだった。
襟元にグレーが入っている程度の、飾り気のない漆黒のコート。これまでキアラが来ていた服は、公爵令嬢としての相応しい豪華で可憐なものであったのに、あまりに色気がない恰好だ。

しかしキアラの綺麗な銀髪と相まって、これもまた似合うように見えるから美人は何を着ても似合うなとアーヴィガは思った。
だが彼女は幼馴染を陥れた自分の敵。心を許すわけじゃない。
アーヴィガは執事からキアラ到着の報告を受けると、応接室に通すように伝える。


「ふぅ・・・」


襟元をただし、心を落ち着ける。
氷のような心を持って、キアラと接する。
昔は幼馴染として仲良くしていたが、今は敵だ。
彼女がどう泣きついてこようと、決して情には絆されない。手を緩めることはない。心を惑わされない。
そう自分に言い聞かせ、アーヴィガは応接室に向かった。

敵対した相手からは『絶対零度の白いカリスマ』と呼ばれ恐れられているアーヴィガ・ハルトマン。
そんな彼が新生キアラ・ルーベルトと相対しようとしていた。