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激昂

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ダグラスが急いでラルス達の元へ向かっている頃・・・ラルスはキアラに迫っていた。





「キアラ様・・・いや、キアラ。僕の想い・・・受け止めてくれませんか」



ラルスはキアラの手を掴んだ。
普段のラルスと違い、いたわるようなそれではなく、放さない、逃がさないといった意思を感じた。


「このレストランの上階はホテルになってましてね。一室借りています」


意図をまるで隠そうともせずラルスはそう言って迫る。
そう言って迫れば、キアラは拒むまい。形としては婚約者なのだ。ダグラスにもしっかり言い含められているだろう。ラルスは身勝手にもそう確信していた。だが


「お断りします」


凛としたキアラの声が、ラルスの心を凍り付かせた。


「・・・何ですって」


初めて聞くキアラの拒絶の言葉。ラルスはそれを聞いて呆然とした。
キアラの口からそのような言葉など、自分に向けては絶対に発されることなどないと思っていた。


「殿下。今日のところはこれで帰らさせていただいます」


そう言ってラルスの手をほどかせるキアラ。
これまでになくキアラが自分を出したかと思えば、まさか自分を拒絶することになるとは。ラルスは立ち眩みがしそうになりながらも、それでも気をしっかりと持った。

(万が一のことを考えていた甲斐があったな・・・)

ラルスの顔に思わず苦笑いが浮かぶ。


「キアラ」


ラルスは立ち去ろうとするキアラの腕を掴んだ。


「触らないでください!」


そういってラルスの手を振りほどこうとするキアラだったが、男の力でしっかりと捕らえるラルスの手が離されることはなかった。
今度はキアラの露骨な拒絶の言葉。ここまでくると、もう以前のような関係に戻ることすら困難だろう。だがラルスが止まることはなかった。


「力づくというのも悪くない」


ラルスの口から発せられたその言葉を聞いて、キアラは背筋がぞおっとするのを感じた。
気持ち悪い、とても気持ち悪い。
どうして自分はこのような男と結ばれなければならないのだろう。この男と結ばれることが本当に自分の幸せになるのだろうか?
ダグラスは常々キアラの幸せ、そしてルーベルトのためだと言ってラルスとの婚約を推し進めてきた。
長年婚約者として交流を深めてきたショウの裏切ってでもラルスと婚約しろと言ってきた。
母ブレアの遺言のこともあり、キアラはダグラスが母に代わり自分を幸せにするために最良を道を模索してくれているのだと信じていた。父の言葉は絶対だと思っていた。

ーーその結果がこれか。

ショウとは比較するまでもないくだらない男に、今無理に関係を迫られている。
ラルスとダグラスの希望で。

これがショウを裏切った報いかーーー そう報い。
報いであって、自分の意思ではない。自分の幸せではない。


そうだ、これは自分にとって嫌なことだ。
ならもう受け入れる必要はないだろう?

キアラは吹っ切れた。


「離せっ!!」


これほどまでに大きな声を出したことと言えば、ショウに冤罪をかけるときに悲鳴を上げたときくらいか?
それほどの大音量で叫び、キアラは激昂した。
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