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キアラの反抗
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キアラはショウと婚約を結んでしばらくした時、ダグラスはルーベルト公の抗議を無視し、彼女を何度も戦場に立たせていた。
ルーベルト公が激しく反対してもそれを阻止できなかった理由は、キアラ自身が魔術の研究と実験の一環のために実戦経験をしたいと強く願ったからである。
キアラが家族に何かを強請るということ自体が他にないことであるため、ルーベルト公も厳重に護衛をつけることを条件に出して渋々キアラの頼みを聞き入れた。
キアラには護衛がつくことになったが、それでも元よりキアラが単身であるはずもなく、王都騎士団が常に戦場について回っていた。と、いうより、王都騎士団の作戦にキアラが混じっていると言うべきだった。主役がどちらかというとキアラになっているというだけなのだ。
基本は王都騎士団の作戦行動である以上、魔物討伐の手柄はキアラではなく騎士団のものになっている。例えキアラの魔法一つで片が付き、一度とて剣を振るう機会が騎士団に無かったとしても、魔物を殲滅すればそれは騎士団の手柄なのだ。キアラはあくまで騎士団の厚意で魔法の実験の場を与えてもらっている、形式上はこうなっている。
だが実際に戦場で功を為したのは誰なのか、それは現場の指揮官もわかっている。最低限の騎士団の作戦を述べ、魔法攻撃する標的の指示をする以外は、キアラに対し何も言わず好きにさせるようにしている。何一つ強要することはない。指揮官たちはキアラとのその距離感を保つように神経を遣っていた。何しろ戦場で一番の功労者様なのだから。
だが、ある時勘違いした者が指揮官となった。
それはとある荒原での魔物の討伐のときだった。キアラはその日、十分な戦果を挙げてから帰ろうとしたが、指揮官が彼女を帰らせなかった。
「後少しだけ、ご協力願えますか?」
既に十分な数の魔物を討伐したにも関わらず、指揮官は自身の手柄を少しでも大きくしたいがためにより戦果を挙げてもらおうしたのである。
「既に十分なほど、戦果は挙げたと思います」
普段のキアラならこの程度の願いは特に反論することなく聞き入れたであろう。だが、その日は早めに帰らねばならなかった。そうしないと、移動時間の関係で翌日の王都でのショウとの約束を反故にしてしまう状況であったからだ。
だからキアラは拒絶した。
指揮官は大袈裟に溜め息をつきながら、
「我儘は困ります、キアラ・ルーベルト様。あと少しだけの協力で良いのです」
あくまでキアラの言葉を聞き入れようとはしなかった。
キアラは従順で、大人に反抗することはないという話を聞いていたから、あくまで強く出ていればいうことを聞くと指揮官は思っていたのだ。
「・・・離して!」
「駄目です、まだ帰らせるわけにはいきませんよ」
指揮官はキアラの手首を掴み、放さなかった。
そうした問答をしばし繰り返していたが、それは唐突に終わった。
ルーベルト公が激しく反対してもそれを阻止できなかった理由は、キアラ自身が魔術の研究と実験の一環のために実戦経験をしたいと強く願ったからである。
キアラが家族に何かを強請るということ自体が他にないことであるため、ルーベルト公も厳重に護衛をつけることを条件に出して渋々キアラの頼みを聞き入れた。
キアラには護衛がつくことになったが、それでも元よりキアラが単身であるはずもなく、王都騎士団が常に戦場について回っていた。と、いうより、王都騎士団の作戦にキアラが混じっていると言うべきだった。主役がどちらかというとキアラになっているというだけなのだ。
基本は王都騎士団の作戦行動である以上、魔物討伐の手柄はキアラではなく騎士団のものになっている。例えキアラの魔法一つで片が付き、一度とて剣を振るう機会が騎士団に無かったとしても、魔物を殲滅すればそれは騎士団の手柄なのだ。キアラはあくまで騎士団の厚意で魔法の実験の場を与えてもらっている、形式上はこうなっている。
だが実際に戦場で功を為したのは誰なのか、それは現場の指揮官もわかっている。最低限の騎士団の作戦を述べ、魔法攻撃する標的の指示をする以外は、キアラに対し何も言わず好きにさせるようにしている。何一つ強要することはない。指揮官たちはキアラとのその距離感を保つように神経を遣っていた。何しろ戦場で一番の功労者様なのだから。
だが、ある時勘違いした者が指揮官となった。
それはとある荒原での魔物の討伐のときだった。キアラはその日、十分な戦果を挙げてから帰ろうとしたが、指揮官が彼女を帰らせなかった。
「後少しだけ、ご協力願えますか?」
既に十分な数の魔物を討伐したにも関わらず、指揮官は自身の手柄を少しでも大きくしたいがためにより戦果を挙げてもらおうしたのである。
「既に十分なほど、戦果は挙げたと思います」
普段のキアラならこの程度の願いは特に反論することなく聞き入れたであろう。だが、その日は早めに帰らねばならなかった。そうしないと、移動時間の関係で翌日の王都でのショウとの約束を反故にしてしまう状況であったからだ。
だからキアラは拒絶した。
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「我儘は困ります、キアラ・ルーベルト様。あと少しだけの協力で良いのです」
あくまでキアラの言葉を聞き入れようとはしなかった。
キアラは従順で、大人に反抗することはないという話を聞いていたから、あくまで強く出ていればいうことを聞くと指揮官は思っていたのだ。
「・・・離して!」
「駄目です、まだ帰らせるわけにはいきませんよ」
指揮官はキアラの手首を掴み、放さなかった。
そうした問答をしばし繰り返していたが、それは唐突に終わった。
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