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氷の爆発

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時は戻りレストラン。


ラルスはキアラの手を取り、熱のこもった目で見つめる。
いつの間にか給仕は姿を消していた。VIPルームであるため他の客もおらず、今この空間はキアラとラルスの二人だけであった。

息が詰まる・・・

手を取られている不快感もさることながら、このラルスという男と二人きりでいるという事実が更にキアラを不快にさせた。
気持ち悪い。
すぐにでも手を離してほしい。
ショウとだったら全く気にもならないのに。

ショウが婚約者だったときは、父ダグラスは「婚姻前なのでスキンシップは極力避けること」とキアラに厳命していた。だからショウに触れられる機会は少なかった。

だがラルスが婚約者に代わって以来、ダグラスはそう言ったことを言わなくなった。
ただ「失礼のないように」としか言わない。こうして過度にスキンシップを取られていても、それがどれほど不快でも、私の意思で跳ね除けてはいけないのだという。

明らかにラルスに忖度しているダグラスの矛盾。
それに気付いていながらも、これまでは特にそれを気に掛けることはしなかったキアラは、ここに来て唐突にその矛盾に理不尽さを感じ始める。


「キアラ・・・どうか、どうか私と・・・」


ラルスがキアラにつらつらと愛を語り掛ける。
だがキアラの耳には彼の言葉が半分も入ってこない。

やめろ。
そう言いたいのを堪える。

黙れ。
無理矢理にでも口を閉ざしたくなる衝動を押さえつける。

ラルスがいつも以上に強く愛を注げば注ぐほど、キアラは言いようのない嫌悪感に身を搔きむしられそうな思いをした。
心が動じないキアラはこれまではこうした感情も抑えられてきたはずだった。
だが小さな心の負荷は、やがて鉄壁だったはずの心にヒビを入れ、大穴を空けようとしている。

自分が父の命令でショウを陥れてしまったこと。

結果、仲の良かった幼馴染達と決別してしまったこと。

その大元の理由はこのラルスであるのに、そんな彼が気持ち悪く言い寄ってくること。

そんな彼を拒否することが許されないこと。


キアラの心を苛み続けていた理不尽の全てが、今ここで彼女の感情を爆発させようとしていた。


「キアラ、どうか私とこれから」
「黙ってください」


キアラの手を取っていたラルスはヒュッと息を飲んだ。
普段寡黙なキアラが口を開いたかと思えば、聞き間違えかと思うほどの冷たい声で自分の言葉を遮った。
今起きたことが信じられず、ラルスは息を飲む。


「手を離していただけますか?」


いつものような無表情なそれではなく、嫌悪感で顔を顰めたキアラの顔がそこにあった。
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