293 / 470
氷の爆発
しおりを挟む
時は戻りレストラン。
ラルスはキアラの手を取り、熱のこもった目で見つめる。
いつの間にか給仕は姿を消していた。VIPルームであるため他の客もおらず、今この空間はキアラとラルスの二人だけであった。
息が詰まる・・・
手を取られている不快感もさることながら、このラルスという男と二人きりでいるという事実が更にキアラを不快にさせた。
気持ち悪い。
すぐにでも手を離してほしい。
ショウとだったら全く気にもならないのに。
ショウが婚約者だったときは、父ダグラスは「婚姻前なのでスキンシップは極力避けること」とキアラに厳命していた。だからショウに触れられる機会は少なかった。
だがラルスが婚約者に代わって以来、ダグラスはそう言ったことを言わなくなった。
ただ「失礼のないように」としか言わない。こうして過度にスキンシップを取られていても、それがどれほど不快でも、私の意思で跳ね除けてはいけないのだという。
明らかにラルスに忖度しているダグラスの矛盾。
それに気付いていながらも、これまでは特にそれを気に掛けることはしなかったキアラは、ここに来て唐突にその矛盾に理不尽さを感じ始める。
「キアラ・・・どうか、どうか私と・・・」
ラルスがキアラにつらつらと愛を語り掛ける。
だがキアラの耳には彼の言葉が半分も入ってこない。
やめろ。
そう言いたいのを堪える。
黙れ。
無理矢理にでも口を閉ざしたくなる衝動を押さえつける。
ラルスがいつも以上に強く愛を注げば注ぐほど、キアラは言いようのない嫌悪感に身を搔きむしられそうな思いをした。
心が動じないキアラはこれまではこうした感情も抑えられてきたはずだった。
だが小さな心の負荷は、やがて鉄壁だったはずの心にヒビを入れ、大穴を空けようとしている。
自分が父の命令でショウを陥れてしまったこと。
結果、仲の良かった幼馴染達と決別してしまったこと。
その大元の理由はこのラルスであるのに、そんな彼が気持ち悪く言い寄ってくること。
そんな彼を拒否することが許されないこと。
キアラの心を苛み続けていた理不尽の全てが、今ここで彼女の感情を爆発させようとしていた。
「キアラ、どうか私とこれから」
「黙ってください」
キアラの手を取っていたラルスはヒュッと息を飲んだ。
普段寡黙なキアラが口を開いたかと思えば、聞き間違えかと思うほどの冷たい声で自分の言葉を遮った。
今起きたことが信じられず、ラルスは息を飲む。
「手を離していただけますか?」
いつものような無表情なそれではなく、嫌悪感で顔を顰めたキアラの顔がそこにあった。
ラルスはキアラの手を取り、熱のこもった目で見つめる。
いつの間にか給仕は姿を消していた。VIPルームであるため他の客もおらず、今この空間はキアラとラルスの二人だけであった。
息が詰まる・・・
手を取られている不快感もさることながら、このラルスという男と二人きりでいるという事実が更にキアラを不快にさせた。
気持ち悪い。
すぐにでも手を離してほしい。
ショウとだったら全く気にもならないのに。
ショウが婚約者だったときは、父ダグラスは「婚姻前なのでスキンシップは極力避けること」とキアラに厳命していた。だからショウに触れられる機会は少なかった。
だがラルスが婚約者に代わって以来、ダグラスはそう言ったことを言わなくなった。
ただ「失礼のないように」としか言わない。こうして過度にスキンシップを取られていても、それがどれほど不快でも、私の意思で跳ね除けてはいけないのだという。
明らかにラルスに忖度しているダグラスの矛盾。
それに気付いていながらも、これまでは特にそれを気に掛けることはしなかったキアラは、ここに来て唐突にその矛盾に理不尽さを感じ始める。
「キアラ・・・どうか、どうか私と・・・」
ラルスがキアラにつらつらと愛を語り掛ける。
だがキアラの耳には彼の言葉が半分も入ってこない。
やめろ。
そう言いたいのを堪える。
黙れ。
無理矢理にでも口を閉ざしたくなる衝動を押さえつける。
ラルスがいつも以上に強く愛を注げば注ぐほど、キアラは言いようのない嫌悪感に身を搔きむしられそうな思いをした。
心が動じないキアラはこれまではこうした感情も抑えられてきたはずだった。
だが小さな心の負荷は、やがて鉄壁だったはずの心にヒビを入れ、大穴を空けようとしている。
自分が父の命令でショウを陥れてしまったこと。
結果、仲の良かった幼馴染達と決別してしまったこと。
その大元の理由はこのラルスであるのに、そんな彼が気持ち悪く言い寄ってくること。
そんな彼を拒否することが許されないこと。
キアラの心を苛み続けていた理不尽の全てが、今ここで彼女の感情を爆発させようとしていた。
「キアラ、どうか私とこれから」
「黙ってください」
キアラの手を取っていたラルスはヒュッと息を飲んだ。
普段寡黙なキアラが口を開いたかと思えば、聞き間違えかと思うほどの冷たい声で自分の言葉を遮った。
今起きたことが信じられず、ラルスは息を飲む。
「手を離していただけますか?」
いつものような無表情なそれではなく、嫌悪感で顔を顰めたキアラの顔がそこにあった。
10
お気に入りに追加
646
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~
秋鷺 照
ファンタジー
強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
【短編】追放した仲間が行方不明!?
mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる