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ラルスの醜い執念

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「迷う必要などありません。やりましょう」


ラルスが悩んでいたとき、相談に乗った側近のラプスは何でもないことのように言った。
ラルスは耳を疑い、目を見開いた。
ラプスの言葉は、ラルスの「ショウ・ルーデルなどいなくなれば良いのに」との嘆きに対して向けられたものだからだ。



「王になる者です。自らの敵を排除することも時に必要なことでしょう」


「いや・・・それは・・・」


ラルスが心の底で待ち望んでいた言葉だが、実際に口にされると戸惑いが強くなる。
王家とて貴族を蔑ろにして良いわけではない。むしろ貴族の後ろ盾があって王家がある。排除したいなどと、ましてルード地方のルーデル家は国防の要。そこの次期辺境伯を排除するなど、いかに自分の恋のためとはいえ自殺行為以外の何物でもない。百戦錬磨でランドール最強と言われるルーデル家を敵に回し戦になれば、王都に多大な損害が出ることになるだろう・・・いや、その前に王都軍ではルーデル率いる黒の騎士団に勝てるかすら怪しい。


「現実的に無理だろう・・・」


「ではこのようにいたしましょう」


躊躇うラルスにラプスは囁いた。


「ルーデル家さえ敵に回らなければ問題ないのでしょう。そのように手筈を整えます」


それは理性で必死に自らの欲望を押し込めていたラルスにとって、まさに悪魔の囁きだった。


「そんなことができるのか・・・?」


「策があります、お任せください。殿下のご命令とあれば」


そう言ってラプスは試すようにラルスの瞳を覗き込んだ。本来ならばこの行為は不敬であるが、このときのラルスにそこの気が回る余裕などなかった。
だが、ラルスにとってその時のラプスは救世主・・・自分の希望を叶えてくれる微かな光だった。


「ラプス、君に任せよう」


ラルスは悪魔の勧誘に乗った。
そこに後悔は無かった。



以来、ルーデル家を敵に回さぬためにルーデルの後継をショウの兄リュートに挿げ替えるように手を回し、ダグラスにも手を回してキアラに協力をさせるようにと頼んだ。

全てがうまくいっていた。
そして実際にショウ・ルーデルに冤罪をかけることで、キアラとの婚約を破棄させることに成功。ショウの反撃を受けぬために即座に国外へも追放することができた。

だが、結果としてキアラと婚約を結ぶどころか、自分の地位を脅かされることになる。
ショウに与えられた威圧に恐怖し、彼の報復に怯え、そしてついには剣を握るだけで恐怖が蘇り動かない体になってしまった。自分が壊れた。

学園での地位も失った。
ショウの追放劇がどこかで漏れたらしく、学園中の生徒がラルスを蔑む目で見る。露骨に態度に出る者もいた。今のラルスは親ともども失脚する可能性についての噂まで流れていたのだ。このままでは学園どころか国内での地位も失うところまで来ている。

だが、そうまでボロボロになっても、身分剥奪の危機に迫っている今になっても、ラルスはキアラを欲していた。
彼女を妻とすることに執着を持っていた。
キアラさえ手に入るなら何でもよい。平民に落ちるというのならそれでも良いだろう。

やぶれかぶれになったラルスは、キアラを自分の物にするために、結婚するために、悪魔の手段を行使しようとしていた。
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