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不審な父

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「お父様が・・・?」


ここ最近は多忙で食事の時間もズレこんでいる父ダグラスが、キアラを呼んでいるという知らせを侍女より聞いてキアラは少しだけ驚いた。この半月ほどはほとんど姿を見たこともない。心なしか日に日に痩せこけていく・・・そんなダグラスを見て気にはかけていたが、まさか呼ばれることになるとはとキアラは思った。


「すぐに行くわ。支度をお願い」


寝起きを状態なので最低限の身だしなみを侍女に頼み、準備を終えた後にキアラはダグラスのいるという執務室へ向かった。


「入りなさい」


キアラが扉をノックすると、扉の向こうからは抑揚のないダグラスの声が返ってきた。
執務室に入ると、ダグラスは執務机の上で両手を組み、じっと目を瞑り何やら熟考していた。キアラが目の前に来てもその姿勢を崩そうとせず、少し時間が経ち、怪訝に思ったキアラが口を開きかけたところでようやくダグラスは言葉を発した。


「明日、ラルス殿下がいらっしゃる。失礼の無いようにな」


いつも通りラルスがキアラに会いに来ると、ただそれだけの内容だった。
だが、ダグラスから発せられたのは絞り出したかのような声。キアラは他に何かあるのかと思うが、それ以上ダグラスは何かを口にすることはなく


「用件は以上だ。下がって良い」


そう言ってキアラを下がらせた。
流石に変だ、とキアラは思う。ダグラスの態度は明らかに普通ではなかった。彼は耐えがたきを耐えているような、悲痛な表情を浮かべていた。
これまでダグラスがラルスが来るとキアラに伝える時は、あのような態度ではなかった。喜びこそすれ、渋面を浮かべるようなことなどただの一度もなかったのだ。

ラルスが来ると言われるとき、キアラは何も感情を抱かない。いや、否定感情を僅かに抱くくらいか。面倒だな、とか、他にやりたいことがあるな、とかその程度のものだ。
だが、今回はダグラスの態度から不穏なものを感じていた。明日のラルスの訪問はいつもと何かが違ったものになる・・・キアラはそう直感する。
胸騒ぎがしたが、流石に考えすぎだろうとキアラは頭を振って部屋に戻った。

翌日、キアラのその後の運命を大きく変える出来事があろうとは、その時彼女は知るはずもなかった。
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