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天才キアラ・ルーベルト

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キアラ・ルーベルトは天才だった。
幼い頃から驚異的な速度で読み書きを覚え、絵本ではなく魔導書を好んで読むような女の子だった。

だが、キアラは生まれたときから感情に乏しかった。
怒りも悲しみもあまり感じることはなく、これといって特に欲することもない。同じ年ごろの子供が喜ぶような人形も、ドレスも、いずれにも興味を抱くことはなかった。
そんなキアラが好きだったものは、母ブレアの笑顔。
キアラとずっと一緒にいたブレアは常に笑顔を見せていたが、キアラはその母の笑顔を見るのが好きだったのだ。

キアラはある日、ブレアの持ち物であった魔導書に興味を抱いた。
そしてそれを読み、内容を理解したことを知ったブレアはキアラは将来大魔法使いになると大いに喜んだ。その反応を見たキアラは、ますます魔導書を読みふけるようになり、そしてついには魔法を実際に使うところまでいくところになった。

だが、大の大人が使える魔法を一通りできるようになった頃には、母ブレアはこの世を去っていた。
自分が魔法を理解し、使うことをできるようになったことを喜んでくれる大好きな母がいなくなったことで、キアラは幼いながらに生きることに空虚感を感じるようになる。


日々を空しく過ごすキアラ。祖父はそんなキアラを元気づけようとしてくれたが、それでもキアラの心が晴れることはなかった。
父ダグラスに至っては姿を見せることすら稀だ。

だがそんなある日、父ダグラスが遊びに行くぞと言ってキアラを外に連れ出した。突然のことに驚きしかなかったが、それでもキアラは黙って彼の言う通りついていく。



「キアラ。ここで思いっきり、火炎の魔法を使ってみなさい」



切り開かれた岩場に連れてこられ、突如自身に向けられたダグラスの言葉に、当初キアラはキョトンとした。
ダグラスはキアラに対し、これまでは思い切り魔法を使えなどと言うことはなかったのだ。危ないと注意されるので、両親が心配しない程度のこじんまりとした魔法しか彼らの前では見せたことがなかったのだが、どういうわけかその日は好きなようにしろという。それも使用に対して特にうるさかった火炎魔法を。


「わかりました」


だが、キアラは自身の魔法を気兼ねなく思い切り打てることに少しばかり興奮を覚えていた。これまで自分自身も見たことのない、全力の魔法。


「ナパーム!」


上位の火炎魔法をキアラは十数秒程度の詠唱で発動。
ダグラスですら使うことの出来ない上位魔法を使用したこと自体凄いことだったが、何よりその威力が凄まじいものだった。平均的なナパームの倍以上の威力を発揮したのだ。


「キアラ、その魔法・・・どれだけ打てる?」


「やってみないとわかりません」


「ではやってみせてくれないか」


キアラはダグラスの言う通り、どれだけの回数ナパームを放てるか実験してみた。
キアラが疲弊し、打てないようになるまで十二回のナパームを放った。

一般的な上位魔法使いはこの三分の一で魔力切れを起こす。これだけでも大事だが、キアラは言った。


「少し休憩をすれば・・・もう少し打てるようになる気がします」


その言葉の通り、休憩を挟んだキアラはそれから更に威力を落とすことなく5回ほどナパームを放つことに成功した。


「これは・・・十分だ。十分だよキアラ!」


ダグラスが破顔するのを見たとき、キアラは少しだけ、ブレアの笑顔を見たときのような充実感を感じた。
キアラはこうしてダグラスの言う通りに、しばしば魔法を使うようになる。
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