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ブレアという女

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縁談がまとまる前からブレアはダグラスのことを知っているようだった。
ダグラスは才女で有名なブレアのことを当然知っていたが、まさかブレアの方から凡庸たるダグラスのことを気にかけているとは思ってもいなかった。

実はダグラスは魔法使いとしての才能は欠落こそしていたものの、それでもあくまで魔法学に対して貪欲で、貪るように魔術書を読み漁り、知識を蓄えるダグラスのことは魔法使い界隈ではある意味で有名ではあったのだ。そして魔法学に入れ込み過ぎて婚期を逃しつつあることも。
そんなダグラスは多くの者に見下される対象でもあったが、中には勤勉な彼を尊敬する者もいた。ブレアもその一人であったのだ。


「魔法学に対してひたむきなところが、以前から気になっておりまして・・・」


ダグラスとブレアが初顔合わせをした際、ブレアは頬を赤く染め、熱い眼差しをダグラスに向けた。

見た目麗しく、魔法の才能も王国でも抜きん出ていたブレアは、ダグラスからすると遥か高嶺の花だったはずの存在だった。しかし、ダメ元で父に頼み釣り書きを侯爵家に送ったところ、意外にも色よい返事が来たのである。それにはブレア自身の意向が反映されたという。
家の爵位で言うとダグラスの方が上だが、実質的な影響力で言うと断然ブレア自身と彼女の家のほうが強い。それにダグラスはブレアよりもそこそこ歳を重ねており、本来ならばやんわりとて断られて当たり前の縁談が、拍子抜けするほどあっさり認められたというこの事実は、ランドールの貴族中を震撼させた。


「お前にはこれ以上ない縁だ。ブレア嬢に感謝をすることだな」


先代である父は、引っかかる物言いでありながらも息子の婚約を祝福した。仲違いこそしていても、それでも愚直なまでに学ぶ姿を見てそれなりにダグラスを気にかけていたのであった。




「私はね、いつか身分も経済力も関係なく才ある者は魔法使いになれるような、そんな社会を作りたいと思っているんだ」


ダグラスがいつかブレアに語った夢物語。
ランドールは当時でも世界で魔法学において断トツのレベルの高さを誇っていたが、それでも魔法使いとして大成できる者はまだ限られていた時代であった。身分か金か、どちらかがないと魔法使いとしての素質があってもそれを学ぶ機会すら与えられないというのが当たり前であった。
ダグラスは自身が凡庸であったが故になおのこと、国のそういった環境に何とか一石を投じたいと考えていた。


「私も、貴方の夢を叶える力になりたいと願っております」


ダグラスの熱い夢を聞き、ブレアはそう言った。

そんな二人の夢を叶えるための近道が示されることになったのは、それからややもしないうちのことだった。



「魔法研究所・・・ですか?」


ある日、魔法学について調べに調べているダグラスでさえ、聞いたこともない施設の職員にならないかと誘いが来た。これがダグラスに対する『闇』への誘いであった。
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