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壮絶なる浄化

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それは一瞬だった。
アミルカが手を組み、膝を折って祈るしぐさをすると、まるで照り付ける太陽が一瞬だけ暑さを増したような、薪をくべた暖炉の前を走って通り過ぎたときのような、そんな一瞬の温かみを肌で感じた。

折っていた膝を立て、アミルカがゆっくりと立ち上がる。どうやら今の一瞬で浄化は完了したようだ。
これが俺が肌で感じた初めての浄化だった。


「さぁ、次へ行きましょう」


そう言ってアミルカは次を促す。
広範囲に浄化は出来ないと聞いた。これをこれから村のいたるところで繰り返すのだろう。浄化をしている間は確かに無防備であるし、確かに護衛がついていないと出来ないことだと思った。


・・・だが、実際にはそれどころではなかった。







「さぁ、次へ行きましょう」


最初の浄化から一時間、ただの一度も休憩を挟むことなく、アミルカは浄化を続けている。
一度の浄化で完全に浄化のできる範囲というのは想像以上に限定的で、こまめにポイントを移動しては浄化を、そしてまた次にポイントに行っては浄化を、そうしたことの繰り返しであった。


「ふぅ・・・」


アミルカは無駄口を一切たたくことなく浄化に専念している。浄化をするとかなりの魔力を使うというが、魔力だけでなく体力のほうもいくらか使っているのか、アミルカはただの移動だけで出たわけではないだろうくらいの汗をかいている。浄化を進めるたびに呼吸が荒くなり、発汗もすごくなる。
それでも休憩一つ入れない。浄化が終われば次の浄化、それを繰り返している。


「はぁっ・・・はぁっ・・・」



そして浄化を始めてから三時間が経過。
村のいたるところに移動して行う浄化も、ここでようやく折り返しに入ったというところだった。村の敷地は人口こそ少ないが広大だったのだ。その全てを浄化させようとしているのだから、ある程度時間を消耗するのは仕方がない・・・しかし



「アミルカは・・・大丈夫なのか?」


俺はこっそりとローザに耳打ちする。
ローザは表情も変えずに答えた。


「大丈夫じゃなくても、彼女は止まらないわよ」


だから言っても無駄よ、と言いたげにローザはそこで会話を終わらせた。
そうなると俺はただ見ていることしかできない。アミルカのことを俺よりも知るドレッドもローザもただ黙って見ている以上、俺が止めるわけにはいかないのだ。


「はぁっ・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・」


残り三分の一だろうというところで、ついにアミルカが倒れた。
正確には意識があったが、立っていられずに膝をついた感じだ。
だが、アミルカは再び立ち上がり、浄化の続きをやると言い出した。それを俺以外の誰も止めようとはしなかった。携帯していた水を飲ませる程度のことはするが、休憩を促すこともしない。

途中からは、アミルカがついに吐いた。
吐しゃ物を地面にぶちまけながら、それでも水で口を濯ぐだけで休憩はしない。
ふらふらだ。目の下にクマをつくり、青白い顔をしながらも、それでもアミルカはやめない。そして誰も中断させようとしない。

俺は我慢しきれなくなって声をあげようとするが、それを察したローザに睨まれ、押し黙る。
ここで最初にローザが言ったことの意味を始めて理解した。
何があっても見ていろと、見届けろと。
アミルカが背負っているものを、俺が見て知るべきだと。


村の全ての浄化を終えたとき、アミルカは糸が切れたように倒れた。

そして彼女はそのまま丸二日間眠り続けたのだ。
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