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初めての事態
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「それではそろそろ作戦開始となる」
アミルカがテントに入り、数分してからロクフェルだけがテントから出てきて、俺のところにやってきた。
「我々が村を制圧してから、聖女様に村の浄化を行っていただく。それには完全に村の制圧が完了していないといけない。失敗は許されないぞ」
無意識にテントの方へ視線をやってしまっていたのを気付かれたのかロクフェルが言った。
「聖女様の浄化というのは、今使うのは駄目なのか?」
俺は胸の内にあった素朴な疑問を投げかけた。
聖女の浄化は死人の種を死滅させるという。ならば、取り付いた人間は元に戻せないまでも、まだ寄生先を見つけていない死人の種があるならそれを消滅させることができないかと考えたのだ。少なくともこれから村に突入する俺達はそうやって浄化してもらってからのほうが感染リスクなく安心して戦いに集中できるではないかと。
「それは出来ない。聖女様の浄化の能力は使える範囲が狭い上に、既に宿主を見つけた死人の種を刺激してしまうのだ」
俺の疑問に対し、ロクフェルは首を横に振って即答した。
「刺激?」
「そう。浄化を使うと宿主を見つけた死人の種も自身の消失を察し、宿主の体を駆使してどうにか生き永らえようとあがくのだ。つまり自我を失った感染者が狂暴性を増してしまうんだ。それは制圧するときの支障にしかならない」
「・・・なるほど」
感染者が狂暴になるだけならば、確かに浄化を行うメリットはない。
聖女であるアミルカは俺達が制圧したポイントを順番に浄化していくという。俺達の役目はアミルカが安全に浄化を行うための露払いというわけだ。
「それでは準備しておいてくれ。上空に合図の信号弾を打つから、それが突入の合図だ」
ロクフェルに言われ、俺達冒険者は聖騎士とは違うポジションについた。
メインの村は聖騎士団が受け持ち、俺達は村のはずれ・・・つまり逃げてきたり打ち漏らした標的を討つためのポジションだ。
「・・・なんだか落ち着かねぇな」
キースがちらりと後ろに目をやってぼやいた。
後ろには聖騎士団の騎士が数名サポートとしてついていた。
一応は不慣れな俺達のサポートとという体で来ているが、実際は俺達がきちんと仕事をするか、情に絆されて感染者を見逃したりしないかの監視の意味でつけたのだろう。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ふと見ると、ザイルの息が荒かった。
「落ち着け、落ち着くんだ」
初めて遭遇する事態に、どうやら緊張して落ち着かないようだ。俺はザイルの肩に手を置いて声をかけた。
しかし気が付くとクリフやドロシーもまた深呼吸を繰り返したり、そわそわしたりしていた。
(慣れてなければこんなものか・・・)
魔物でもない、悪党でもない、ただ不幸にも感染してしまった犠牲者を屠る仕事をするのである。経験の無い者が及び腰になってしまうのは当たり前だった。
このとき俺はそう思っていた。
だが、実際には少しだけ違っていたのだ。それが分かったのはこの戦いが終わってからであったが。
アミルカがテントに入り、数分してからロクフェルだけがテントから出てきて、俺のところにやってきた。
「我々が村を制圧してから、聖女様に村の浄化を行っていただく。それには完全に村の制圧が完了していないといけない。失敗は許されないぞ」
無意識にテントの方へ視線をやってしまっていたのを気付かれたのかロクフェルが言った。
「聖女様の浄化というのは、今使うのは駄目なのか?」
俺は胸の内にあった素朴な疑問を投げかけた。
聖女の浄化は死人の種を死滅させるという。ならば、取り付いた人間は元に戻せないまでも、まだ寄生先を見つけていない死人の種があるならそれを消滅させることができないかと考えたのだ。少なくともこれから村に突入する俺達はそうやって浄化してもらってからのほうが感染リスクなく安心して戦いに集中できるではないかと。
「それは出来ない。聖女様の浄化の能力は使える範囲が狭い上に、既に宿主を見つけた死人の種を刺激してしまうのだ」
俺の疑問に対し、ロクフェルは首を横に振って即答した。
「刺激?」
「そう。浄化を使うと宿主を見つけた死人の種も自身の消失を察し、宿主の体を駆使してどうにか生き永らえようとあがくのだ。つまり自我を失った感染者が狂暴性を増してしまうんだ。それは制圧するときの支障にしかならない」
「・・・なるほど」
感染者が狂暴になるだけならば、確かに浄化を行うメリットはない。
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「それでは準備しておいてくれ。上空に合図の信号弾を打つから、それが突入の合図だ」
ロクフェルに言われ、俺達冒険者は聖騎士とは違うポジションについた。
メインの村は聖騎士団が受け持ち、俺達は村のはずれ・・・つまり逃げてきたり打ち漏らした標的を討つためのポジションだ。
「・・・なんだか落ち着かねぇな」
キースがちらりと後ろに目をやってぼやいた。
後ろには聖騎士団の騎士が数名サポートとしてついていた。
一応は不慣れな俺達のサポートとという体で来ているが、実際は俺達がきちんと仕事をするか、情に絆されて感染者を見逃したりしないかの監視の意味でつけたのだろう。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ふと見ると、ザイルの息が荒かった。
「落ち着け、落ち着くんだ」
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しかし気が付くとクリフやドロシーもまた深呼吸を繰り返したり、そわそわしたりしていた。
(慣れてなければこんなものか・・・)
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