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抜き身の刀

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「あれ・・・?あの人は・・・」


ザイルとクリフも馬車から降りてきた人物がアミルカと知って呆然としている。
アミルカの正体を知っている俺だって事前に聞いていながらにして今驚いているし無理もない。

(にしても・・・)


随分と厳重に護衛されながら進むアミルカは、それはもう遠目にもわかるほどはっきりとした白い装束に身を固めており、あぁなるほどあれが『聖女様』か・・・と何だか納得してしまう姿をしていた。


「・・・!」


そして遅れて俺は感じた。
アミルカから伝わってくる膨大な魔力を。
離れていてもジリジリと感じるほどの魔力の熱量のようなものを、俺は間違いなく肌で感じ取っていた。


「すごい・・・」


近くにいるドロシーも感じ取っているのか、その魔力の圧に感嘆の声を洩らす。



なるほど、これが聖女か。


かつての俺に婚約者であったキアラはランドール一・・・いや世界一とされた魔法使いと言われていた。
そんな彼女が魔法を使おうと魔力を解放したとき、全く同じような圧を俺は感じ取っていたのである。ちなみに普段は全くそんな気は感じなかった。曰く普段は隠しているものだという。手の内を見せないのは剣士も魔法使いも同じよ、と彼女は言っていた。

きっと、アミルカも同じなのだ。これまで俺は彼女から特に強力な魔法使いから感じるような気を感じたことはなかったが、それはキアラと同じく魔力を抑え隠していたのだろう。
離れているから何とも言えないが、今感じる魔力はキアラから感じていたそれより少し下回るくらいのものだが、それでも恐らくかなり強力な部類に入る魔力量なのだろう。近くにいる同じ魔法使いのドロシーの反応から見ても「圧倒的な魔力を持つ存在」であることは間違いないようだ。

彼女が魔力を放っている理由・・・それはここが戦場だからだろう。剣士で言うなら剣を鞘から抜いた状態。溢れるあの魔力は抜き身の刀だ。いつ何時襲われても、対処できるようにしているのだと思う。



「あっ・・・」


遠巻きにアミルカを見ていると、ふと、彼女と視線がぶつかり合った。
それは一瞬のことだったが、明らかに向こうは俺のことを意識した・・・と思う。
だが本当に一瞬だった。すぐに視線を前に向け、アミルカは護衛に守られながらゆっくりと歩く。彼女が歩いた先にはロクフェルが待っていた。

ロクフェルはアミルカの手を取り、展開されている指揮官用のテントへ入っていく。
それを見て俺は何とも言えないモヤモヤした気持ちになるのであった。
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