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教団の歪

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「おお、すまん。今のは個人的な見解だ。忘れて欲しい」


ロクフェルはそう言うと破顔した。
アルス教の高位者であろうはずの彼だが、野戦続きの騎士団で長を務めているせいかざっくばらんな人だ。まぁ俺も人のことは言えないが・・・

それにしても個人的見解だからと随分と聞き捨てならないことを言ったものだ。到底「忘れて欲しい」で忘れられるような話ではない。
俺も無意識のうちに眉間に皺が寄ってしまったのか、ロクフェルはそんな俺の顔を見て口角を上げる。


「世界中の人々の平和と心の安寧を支えるはずのアルス教は、結局のところ一枚岩ではない。恥ずかしい話だが様々な思惑と派閥が存在して、まだら模様になってる有様だ。結局巨大になった組織とは必然的にそうなってしまうものだ。そういったものは良くわかるだろう?ショウ・ルーデル」


貴族である俺に対する問いかけ。これには頷かざるを得ない。アルス教だけではなく、何であっても組織が肥大化すれば必ずどこかに歪が生まれる。


「何代にも渡り、死人の種を殲滅するが聖騎士団の最大の使命であった。あれの危険性は知っているだろう?あれを野放しにすればそれは世界情勢をひっくり返すほどの危険な種になりかねない。だが、それを望んでいる者もあれば、その機を利用し人儲けしようとしている者もいる。教団内にね」


「なるほど・・・そういった連中が今の俺らのに貢献してくれるってことか」


死人の種の殲滅に死力を尽くす聖騎士団がいる一方で、どうやら教団内部からそれを阻害する動きもあるらしい。
俺達冒険者が日頃死人の種の仕事で苦労しているのは、それのとばっちりを受けているということのようだ。


「密輸業者の徹底して取り調べをしているが、どうにも大元まで情報を手繰り寄せようとすると、唐突にして糸が切れてしまう。今少しの権限を持たせてもらえれば大元が叩けるのに、それを認めてももらえない。とんだ茶番だよ」


ロクフェルはそう言って悔しそうに顔を歪ませた。
アルス教団の上層部の政争のとばっちりで現場である聖騎士団は無駄に命を賭けるはめになり、そして同じように俺達冒険者にもしわ寄せが来ている。今は俺達のところで止められている範囲だが、やがてそれすら維持できなくなると、そのときは死人の種による世界秩序の崩壊が懸念される。
それを防ぐにはすぐにでも大元を叩かねばならないが、ロクフェルの言う通りならどうやら大元は教団の派閥の一つがそれらしく、今や世界情勢はアルス教の政争の結果一つで傾こうとしている危険な状態だ。


「私はね、この聖騎士団でただただ役目を終えて果てるつもりはないんだ。今のこの歪な状況を、せめて私の代で一つくらい亀裂を入れてやろうと思ってる。私をただの駒だと思って油断している奴らに一泡吹かせてやりたい」


そう語るロクフェルの表情は鬼気迫るかのような怒りを感じるそれであった。

なるほどプライドが高い。高すぎる故に・・・ここにもアルス教の「歪」の一つが出来上がってしまっているようだ。
アミルカの婚約者としてどんな男か見てやろうとしたが、どうやらそれどころじゃないとんでもないものを垣間見てしまったようだ。
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