国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ

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ロクフェルという男

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ロクフェルはブレリアより一つ国を跨いだ国の公爵家の出身。
幼少期より聖女としての資質を見出されたアミルカとの政略結婚が決まっていた。
アミルカは孤児であり貴族ではなかったが、アルス教団に引き取られ聖女としての教育を受けていく中で将来高位なる立場に立つことがほぼ確定していたために、公爵家との縁談も相応のものとされていた。

アミルカは孤児院出身であるためか、アルス教団の厳しい聖女教育の合間の慈善活動にも積極的に参加した。幼い少女には大変な教育と修練にかかるプレッシャーも並たるものではなかったであろうが、それでも貧困生活からは脱することが出来たことにアミルカは多大なる感謝をし、かつての自分と同じ境遇の人らの力になりたいという思いからだ。
そうしてアミルカは人望を着実に集め、平民出の聖女ながら他のどの聖女よりも人に囲まれる存在となった。

一方で、公爵家の出という以外には少し抜きん出た剣術を使う、というくらいしか取柄を持たぬロクフェルはコンプレックスを抱いて育った。アミルカの名声が上がるととに、婚約者である彼はどうしても比較の対象となってしまっていたからである。
アミルカは婚約者であるロクフェルを蔑ろにしたことはなかったが、ロクフェルからしてみればいつ自分が婚約を解消され捨てられてしまうか気が気でなかった。

そしてある日事件は起こった。
アミルカと幼少からの顔見知りである同じ孤児出身の男が、アミルカに恋をして想いを打ち明けた。
ロクフェルはたまたま物陰からその現場を目撃することになったのだが、婚約者がいることを理由に断るアミルカのことを「いつかは心変わりして今の男に靡いてしまうかもしれない」と彼は思ったのだ。
婚約者がいるとわかってアミルカに迫った男も迂闊ではあったが、特に不幸なのはロクフェルに見られていたこと、そして彼の執念深さを知らぬことだった。





男はその日の夜に嫉妬したロクフェルによって斬り捨てられた。

「これでもうアミルカを奪われることはない・・・」

目撃者のいない時を狙ったつもりであったが、不運にも予期せぬ目撃者がおり、犯行はすぐにロクフェルによって起きたものであると知られてしまったのである。
だが、公爵家の人間であるということと、目撃者が一人しかいなかっただけというのもあり圧力によって事件の真相はアミルカにも伝えられることなく闇に葬られた。


しかし、いくら圧力で葬ったとはいえ、殺人を犯したロクフェルを公爵家に置いておくわけにはいかない。万が一にも殺人のことが世間に知られることになると、切り捨てておかねばならない弱味となるからである。

そして出家ということで彼は得意の剣術を生かしてアルス教聖騎士団へと入団することになった。
ここでは高位貴族であれ、家名を捨てることになる。これによって公爵家からすると体裁を保ちつつも半絶縁状態という形になった。

こうなるとロクフェルは公爵家の人間ではないが、アルス教聖騎士団所属ということでかろうじてアミルカとの婚約は維持された。
当初公爵家は婚約破棄を考えていたが、自棄になったロクフェルが暴走して殺人のことを自供して公爵家ごと自沈すると脅したからである。

ロクフェルはアミルカとの婚約に執着したが、婚約が維持されたからといってこれで安心ではない。
いち騎士と聖女では身分の釣りあいが取りきれているとは言えない。アミルカが心変わりしたり、教団の権威者が婚約者の変更を強引に進めてくる可能性は多いにあり、ロクフェルはそれを危惧した。

ロクフェルは聖騎士団の中でのし上がるため、実績積みと人脈作りに躍起になった。
そして人に言えないような汚いことにも平気で手をつけてきた。
ロクフェルは皮肉にも教団内にて覇業を遂げるだけの才能を持っていたのだ。
やがて彼は苦労の甲斐あり、聖騎士団のいち軍団長となるまでに出世した。
誰もロクフェルとアミルカの婚約を妨げることなどできなくなった。


だが、そんな彼の本質をアミルカは持って産まれた能力によって見透かしていた。
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