国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

修羅・・・場？

オミトはハッと息を飲んだ。
まさか自分が訪ねてきた相手が思いの寄らぬ場にいるのだから。


エーペレスはにっこり笑ってオミトを見つめている。オミトは自分の恥ずかしいところをエーペレスに見られ、すっかり唖然としてしまっていた。
ライラは「え？誰？」と言いたげた表情でオミトとエーペレスの両者の顔を交互に見ている。


「堅物だと思っていたオミトが、まさかね・・・中々隅に置けないわね」


オミトもライラも気付いた。エーペレスの笑顔の奥に冷たいものがあることを。
オミトは心当たりにすぐに気づき、さぁっと顔を青ざめる。オミトはエーペレスと大事な話をするためにマルセイユ領まで来ていたのだったが、それを現地に着いておきながらエーペレスに会うことなく、若い娘を連れて楽しそうにしていれば何かしら勘ぐられて仕方も無いだろうとオミトは考えた。


「ここは私のお気に入りのお店なの。けど、まさかオミトにここでばったり出会うことになる時がくるなんて考えてもみなかったわ」


後で聞いてみると、この店は女性やカップルに人気のカフェであるということだった。


「いえ、エーぺレス様・・・これはそういうことではなくてですね」


「いえ、いいのよ別に。邪魔するつもりはないから」


取り付く島もなく、エーペレスは「詰め所で待っているわ」とだけ言ってその場を去っていった。
これまで見たことのないエーペレスの迫力に、オミトはすっかり萎縮していたが、やがて何を思ったかそのまま食事を再開した。


「えっ、いいんですか？」


追いかけなくて・・・と聞こうとしたライラだったが、「今は食事に集中するさ」とだけオミトは返した。どうせ誤解を解くにも時間がかかるだろうし、後でやれば済むことだとさっぱり割り切って、とりあえず今は食事を堪能することにしたのだ。
そんなオミトにライラはおずおずと質問する。


「あの人って一体、オミトさんの何なのですか？」


先ほどのオミトとエーペレスを見れば当然抱く疑問だろう。ライラは我慢できずについ訊ねた。


「ん？なんというか・・・」


答えようとして答えに窮するオミト。オミト自身もエーペレスとの間側を何と言って良いかわからなかった。
仕える人、というのはエーペレスは既にルーデルから除籍されているから正しくはない。仕事仲間というのも該当しない。なんというのが適切か・・・食事する手を止め、少し考えた後に


「仕えていた方の娘・・・私にとってのお嬢様とでも言おうか・・・あぁ、そうだな、娘も同然の私のお嬢様だ」


なんとも曖昧にオミトはそう答えた。


「娘さん・・・向こうはそんな感じじゃなさそうでしたけど」


ライラのそんな呟きは、食事を再開したオミトの耳には入らなかった。