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考えることをやめた

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「とりあえず、あの山頂でのことは一旦全部忘れたほうが良さそうだ」


オミトの言葉にジンも頷いた。
王都の騎士団の輸送車に死人の種が積み荷としてあったことは、黒の騎士団どころか国そのものが関わっている大きな闇である。それに少しでも関わりをもってしまえば、今度はジンだけでなくオミトやライラももう平穏な生活は二度と送れないかもしれない。ジンは既に逃亡の身であるようだが、今度はブラホードだけでなく国にも追われることになるのだ。


「えっと・・・一体どうしたんですか?」


訳がわからず戸惑っているライラに、オミトはとりあえず死人の種のことは伏せつつ「山頂で見たことは全て忘れるように」とだけ念を押す。今はオミト自身が頭の整理をつける時間が欲しかったのだ。
乗り合い馬車が山頂に差し掛かったとき、山賊の気配を感じたときはオミトは半ば生きた心地がしなかった。
その危機を何とか脱した今、ようやく一息つけるかと思いきやまた一難やってきたといったところだ。こんな考え事ばかりしているようではまた髪が薄くなってしまう・・・などと考え、オミトははーっとため息をつく。


乗り合い馬車がようやく町に着いたところでオミト達とジンは別れることになった。
ジンは山賊達から分捕った装備を売り払い、まとまった金が手に入ったところでしばらくは違う町に移動してから気ままな生活でも送ってリフレッシュするという。
追われる身でありながら随分とタフな男だとオミトは思ったが、黒の騎士団の過酷な戦を何度も経験した身となってはどうということはないというジンの言葉を聞いて、ついつい失笑して納得した。


「ルーデルに戻るのだったら、ブラホードには気を付けて」


ジンは最後にそう言うと、町の雑踏の中に去っていった。



「ブラホードか・・・」


オミトの今の旅もそこそこに疲れることになりそうだが、終わってルーデル家に戻ってからはまた心労の絶えない日々が来ることになりそうだと、今からやるせない気持ちになるのだった。


(ブラホードどころか国まで関わってくるとなると厄介だぞ。くそ、こんなときに若がいないなんてな)


オミトはルーデル家にショウがいないことを心底悔やむ。お飾り現当主のリュートではこの問題を解決するのに何の役にも立たない・・・というかむしろ敵ですらありそうだと考えている。


(まずはエーペレス様にでも相談するべきか)


丁度オミトはそのエーペレスに会うために旅をしているので、とりあえず彼女に会ってから先のことを考えることにした。

とにもかくにも、ようやくオミトとライラは目的地マルセイユ領へと辿り着くのであった。
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