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「おいおいなんだありゃ?研修生か?」


ある晴れた日、黒の騎士団ことルーデル騎士団の合同訓練が行われた。
定期的に行われる訓練で、黒の騎士団は大体の騎士が問題なくこれをこなす。だが、この日はいつもと違った光景が見られた。


「はぁはぁはぁ・・・」


「し、しぬ・・・」


「・・・(バタン)」


リュートが要請し、王都から派遣されてきた新・リュート隊の面々が、訓練を半分も終えないうちから体力の限界を迎えて倒れていた。
彼らは元の家柄と身分が高いらしく、訓練前までは随分と威張り散らしていた。しかし今は黒の騎士団の面々に見下ろされ、介抱を受けている。騎士たちは新入りどもが少しでもトチったら盛大にバカにしてやろうかと最初は思っていたが、あまりにも軟弱で気弱なのですっかり毒気が抜かれてそんな気すらなくなっていた。
一緒に戦う仲間・・・というより、もはや一般人と同じく庇護の対象にすらなりそうな有様だ。


「・・・こりゃ1から鍛えなおしだな。辺境伯様にはそう言っとくか。にしてもあんな一般人に毛が生えたような連中、どうやって使ったもんかね」


訓練風景を見ていた騎士団長タルカスは頭を抱えた。
リュート隊と名付けてリュートのお抱え兵として扱うのはいい。だが、そんな彼らにも食わすために金がかかっている。そして金をかけている以上は何かしら使わないと他の騎士たちの溜飲が下がらない。


「あの辺境伯様も最近は屋敷に籠もってばかりだし、新入り達の使い方を聞きにいったところでこっちに丸投げされそうだしな。どうしたもんか」


腕組みして唸るタルカスのところに一人の男がやってきた。


「タルカス、良かったら私が彼らを引き受けようか?」


穏やかな笑みを浮かべ、そう申し出てきたのは副団長のブラホード。
彼は黒の騎士団でもタルカスと同じ古株であり、気心の知れた友人であった。


「おっ、お前が引き受けてくれるのか?」


タルカスはそんな申し出に対し、思わず声を弾ませる。扱いに困る騎士達を引き受けてくれるだけでも嬉しいが、ブラホードは騎士の育成が上手で、騎士団でも良い指導者として通って人望が厚かった。


「俺はちょっとああいう連中は苦手だから・・・引き受けてくれるなら助かる!」


タルカスはブラホードに頭を下げたが、ブラホードはそれを手で制する。


「やめてくれ。私は私にできることをやるだけさ。じゃあ、彼らのことは私に任せてくれるかい?」


「願ってもない」


タルカスはとりあえず扱いに困りそうな新入りをブラホードが引き受けてくれそうなんで、とにかく感謝した。
タルカスは個人の戦闘力と指揮能力は評価されているが、後輩の教育というものが苦手だった。ブラホードはそのタルカスの欠点を埋めてくれる貴重な存在だ。
「今度酒でも奢らないとな」とタルカスは考えていた。

こうしてリュートが騎士団を掌握するための足掛かりとして王都に要請した人員は、全て騎士団の副団長の預かるところとなる一方で、リュートはルーデルの財政問題にとりかかっており、とても新入り達をどうこうできる状況ではなかった。せっかく国王に都合してもらった兵力を、自身が使うことなく捨て置いてしまっている。

リュートによる騎士団の掌握は、こうしてほぼ不可能といえる状態になりつつあった。
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