国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ

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膿が動く

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「い、今なんと・・・」


ここで初めて、一人の将校が声を上げた。


「ですから、もう諸悪の根源であるソーアの方をどうにかするしかないではないですか」


微笑を浮かべたままサーラは言った。


「いや・・・しかし・・・」


「それをやると・・・」


以前、一度はこの場にいる将校たちもソーアの肉親であるサーラのいないところで話し合ったことがあった。
ソーアの暴走が問題なのならば、彼らの独断でソーアを屠ればどうかという内容だ。だが、満場一致で「やるべきではない」という結論が出た。

ソーアは領民から絶大な支持を得ている。メディアも不自然なほど好意的に彼女を扱うので、マルセイユ領のみならず領外までもソーアは存在感を強めていた。どのようにうまく暗殺をしても、その死は不審なところが無いか念入りに調べられるだろうし、いろいろと噂も立つだろう。
そうすれば、どれだけうまく隠蔽しても海軍上層部が始末したという噂が流れることになる可能性が高い。海軍上層部と密輸商社、海賊との裏取引も既にあるものだという噂も流れているから、ソーアが死ねばそれが腐敗した海軍上層部の仕業であると市井は気付くだろう。

そうなると例え証拠が見つからずとも、領民は海軍の大元マルセイユに反旗を翻す可能性が高い。ソーアの熱狂的な支持を考えると、そうなって然るべきと言えるだけのものがある。実際にソーアを謹慎しただけで暴動が起きる寸前だったのだ。ソーアの殺害を決行すれば、自分達は一人残らず首を跳ねられる結末が待っているーー
そう結論付け、ソーア暗殺については見送ったという経緯が将校達にはあった。


「このまま放置していたら、どのみち私達は終わりを迎えます。そしてソーアの懐柔も不可能であると母シーラに伺いました。ならば、痛みとリスクを背負ってでも、我々はソーアを排除せねばなりません」


サーラの言葉に全員が息を飲む。


「ソーアの失職など中途半端にやると後々悪手となりえます。ここでしっかりと彼女を始末したほうが良いでしょう」


「・・・・・・」


皆言葉には出さなかったが、心の中では「それしかないか」と同調していた。もはや彼らにとってソーアは目の上のたんこぶどころではない。自分達の首を狩りに来ている死神なのだ。


「時間をかけて打ち合わせましょう。間違いがないように、確実に果たすために。この場にいる人達以外には他言無用です。もちろん母シーラに対してもです」


いつしかサーラの顔からは笑みが消えていた。今後の方向性が決まったことでいくらか気持ちが落ち着いたのだろう。

(恐ろしい人だ)


肉親であっても邪魔であるなら容赦なく排除する、そんなサーラを見てミルツは恐れを抱く。そして、この人には何があっても逆らってはいけないと心に決めたのであった。
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