191 / 470
マルセイユの膿たち
しおりを挟む
ショウが隣国ブレリアでアミルカとの二週間を過ごしていた頃、ランドール国のマルセイユ家の騎士団「青の騎士団」の本部の一室では、海軍の重鎮など一部の者達による会議が行われていた。
この場にいる海軍大将のミルツを始めとした者達は、皆とうに汚職に手を付けている海軍腐敗の原因であり、まさに海軍の・・否、マルセイユの膿そのものが結集していた。
「さて、今日皆に集まってもらったのは他でもないわ。ここ最近の状況について報告してもらっていいでしょうか」
としてこの会議を取りまとめているのが、若くして海軍大将であり、次期マルセイユ当主が確定しているマルセイユ家の長女サーラである。海軍の一部重鎮の会議であり、今この場に当主のシーラはいない。
青い髪に穏やかな瞳。母シーラと良く似た美しい顔立ちで、正確も穏やかとイメージからして以前はまさにマルセイユを治めるに相応しい美しき姫などと持て囃されていた。
「・・・と、以上になります」
やや震える声で部下が報告を終えると、サーラはクスリと微笑んだ。瞬間、この場にいるサーラ以外の全員が戦慄した。
このサーラ・マルセイユは表向きこそ歴代マルセイユ当主のイメージ通りで、常に冷静で穏やかだと言われているが、それは表向きだけのことで、実際は心の内は激しい感情が渦巻くことが多々あるとこの場にいる者は知っている。
むしろ感情の振り幅で言うならば恐らく平均的なそれよりも大きい、それ故に怒らせたときのサーラは歴戦の勇者であるミルツすらも恐ろしく思うほどだ。
そして、先ほどのように微笑したときのサーラはまさに「皆が恐れるほど怒りを感じている状態」なのだということを皆は理解している。
「ふぅ、散々ですね。我々は協定を破り放題で、安くない違約金は払いまくり、破産して自棄にやって公に暴露しようとする商人の始末にも苦心する。その噂を聞いた他の商人も我々との関係を見直そうとしている。信用も財政も地に落ちそうですね」
この場にいる全員は海軍の不正に関わっている。その不正を取りまとめているのがこのサーラだ。
密輸商人より一定の賄賂を受け取ることにより、あえて摘発を見送る。ただし月単位の密輸量は規定量までとする。そうしたことで定期的に収入を得ることが出来、海軍の負担も軽減も出来る。
これまではうまく管理してきたが、ここ最近になって不穏分子が彼女の管理していたシステムを目茶苦茶に引っ掻き回していた。
そう、ソーアのことである。
ソーアが思い思いに摘発を続けることで、既に協定の意味が無くなりかけていた。そうなると高額の賄賂を払っていた商人は黙ってはいない。今は規約金でなあなあで済ませられているのがほとんどだが、これが続けばこれまでの関係を公に暴露しようとする動きが増えるかもしれない。違約金も馬鹿にならず、既に海軍の財政は傾いていた。このままでは海軍どころかマルセイユそのものが没落しかけない、そんな流れになりつつあった。
「はぁ・・・困った妹の暴走のせいですわ本当に。誰に似たのでしょうか」
サーラ以外誰も言葉を発しようとしない。サーラの怒りが頂点に来かかっているのを皆、肌で感じ取っていた。
「仕方がありませんわね。ソーアを始末するしかないということでしょうか」
そう言って首を掻っ切るジェスチャーをしたサーラを見て、皆は絶句した。
この場にいる海軍大将のミルツを始めとした者達は、皆とうに汚職に手を付けている海軍腐敗の原因であり、まさに海軍の・・否、マルセイユの膿そのものが結集していた。
「さて、今日皆に集まってもらったのは他でもないわ。ここ最近の状況について報告してもらっていいでしょうか」
としてこの会議を取りまとめているのが、若くして海軍大将であり、次期マルセイユ当主が確定しているマルセイユ家の長女サーラである。海軍の一部重鎮の会議であり、今この場に当主のシーラはいない。
青い髪に穏やかな瞳。母シーラと良く似た美しい顔立ちで、正確も穏やかとイメージからして以前はまさにマルセイユを治めるに相応しい美しき姫などと持て囃されていた。
「・・・と、以上になります」
やや震える声で部下が報告を終えると、サーラはクスリと微笑んだ。瞬間、この場にいるサーラ以外の全員が戦慄した。
このサーラ・マルセイユは表向きこそ歴代マルセイユ当主のイメージ通りで、常に冷静で穏やかだと言われているが、それは表向きだけのことで、実際は心の内は激しい感情が渦巻くことが多々あるとこの場にいる者は知っている。
むしろ感情の振り幅で言うならば恐らく平均的なそれよりも大きい、それ故に怒らせたときのサーラは歴戦の勇者であるミルツすらも恐ろしく思うほどだ。
そして、先ほどのように微笑したときのサーラはまさに「皆が恐れるほど怒りを感じている状態」なのだということを皆は理解している。
「ふぅ、散々ですね。我々は協定を破り放題で、安くない違約金は払いまくり、破産して自棄にやって公に暴露しようとする商人の始末にも苦心する。その噂を聞いた他の商人も我々との関係を見直そうとしている。信用も財政も地に落ちそうですね」
この場にいる全員は海軍の不正に関わっている。その不正を取りまとめているのがこのサーラだ。
密輸商人より一定の賄賂を受け取ることにより、あえて摘発を見送る。ただし月単位の密輸量は規定量までとする。そうしたことで定期的に収入を得ることが出来、海軍の負担も軽減も出来る。
これまではうまく管理してきたが、ここ最近になって不穏分子が彼女の管理していたシステムを目茶苦茶に引っ掻き回していた。
そう、ソーアのことである。
ソーアが思い思いに摘発を続けることで、既に協定の意味が無くなりかけていた。そうなると高額の賄賂を払っていた商人は黙ってはいない。今は規約金でなあなあで済ませられているのがほとんどだが、これが続けばこれまでの関係を公に暴露しようとする動きが増えるかもしれない。違約金も馬鹿にならず、既に海軍の財政は傾いていた。このままでは海軍どころかマルセイユそのものが没落しかけない、そんな流れになりつつあった。
「はぁ・・・困った妹の暴走のせいですわ本当に。誰に似たのでしょうか」
サーラ以外誰も言葉を発しようとしない。サーラの怒りが頂点に来かかっているのを皆、肌で感じ取っていた。
「仕方がありませんわね。ソーアを始末するしかないということでしょうか」
そう言って首を掻っ切るジェスチャーをしたサーラを見て、皆は絶句した。
10
お気に入りに追加
645
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り
あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。
しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。
だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。
その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。
―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。
いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を
俺に教えてきた。
―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。
「――――は!?」
俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。
あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。
だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で
有名だった。
恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、
あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。
恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか?
時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。
―――だが、現実は厳しかった。
幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて
出来ずにいた。
......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。
―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。
今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。
......が、その瞬間、
突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり
引き戻されてしまう。
俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が
立っていた。
その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで
こう告げてくる。
―――ここは天国に近い場所、天界です。
そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。
―――ようこそ、天界に勇者様。
...と。
どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る
魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。
んなもん、無理無理と最初は断った。
だが、俺はふと考える。
「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」
そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。
こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。
―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。
幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に
見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと
帰還するのだった。
※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる