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気楽な人と酒と失態

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「最初に剣術で習ったことといえば、まずは素振りだな。感謝の素振り1日1万回。朝と夕で分けるんだが、最初は到底半分にも到達しないで腕が動かなくなったよ。こうなるとどうなるかわかるか?食事すら満足にできない。食べ物を口に運ぶこともできなくなるくらい腕が上がらなくなるんだ。僅かに食器で食べ物を持ち上げて、顔を食べ物に持っていく。動物になった気分だ。当面、これが毎日続いたのさ」


「壮絶だね・・・剣士って皆そんな感じなんだ」


「剣士が全員こういった修練になるのか知らないが、俺が使うドウダヌキって剣に適した剣術を習いたいって言ったら、このメニューになった。1日1万、できるようになるころには、これが6時間はかかるってことに気付く。この剣と同じ重さの木の棒を持って、1日の大半を素振りで過ごすわけだ。ここの冒険者たちが俺の太刀は重そうだと常に言ってくるが、こういった修練が元になっているのさ。決して俺が元々力持ちだったり、異能があったりするわけじゃない」


ビールが進み過ぎた俺は、なんだか舌がノってしまいあれこれ普段話さないようなことをアミルカにベラベラ話していた。なんでか知らんがいつの間にか俺の剣術の話になっていた。
女性にこんな泥臭い話なんかしてもつまらないだろう。素面だったら絶対こんな話なんかするはずもなかったが、酒をいささか飲み過ぎて判断力の鈍った俺は、頭のどこかで「いやこれやめないと」と思いつつも、すっかり止まらずに話を進めてしまっていた。
しかし、アミルカは面白興味深そうにそんな俺の話を熱心に聞いてくれている。
いい子だ。


しかし、今思えばこれはかつてのエーペレスさんから見れば失態もいいところだったろう。
酒は飲んでも飲まれるな。多量に酒が飲めることを示すことは大事だが、それによって我を失い、酒に飲まれたところを知られることは大恥に値すると言われた。
もし酒に飲まれそうになるときは、うまく理由をつけて酒の席から離れろと何度も注意を受けた。だが、それも相手次第だ。目の前にいるアミルカに去勢をはる必要はない。俺という人間を必要以上に強く見せる必要もない。友達同士、気楽に飲み交わせればそれでいいのだ。


「なんだショウってお酒好きじゃないって言ってたけど意外とイケるじゃん。すみませんマスター、お代わり!」


アミルカは手でチョキをつくってマスターに見えるように掲げてお代わりを注文する。
2杯の注文・・・アミルカのコップも空なので、自分も飲むということだろう。
俺はすっかり顔が火照っているが、アミルカは素面でいるようにすら見える。きっと俺なんかよりずっと酒が強いのだろう。

しかし、こうして気楽に飲める相手と飲んでいると楽しい。
これまでは酒を飲むのは義務みたいなものだった。ルーデル家の次期当主としての強い自分を演じるために、強くあるために飲むだけだった。
だから、こうして友達と飲むのはこれが初めてだった。そして、それがこんなに楽しいことだと知ったのも初めてた。

「酒なんてね、酔うために飲むようなもんですよ」

昔、酒の味とか良さがわからんと言ったら、騎士団の一人がこう言った。
そのときは言っていることの本当の意味が理解できなかったが、今なら理解できるような気がする。
こうして酒というものが好きになったり、馴染んでいくものなのだろうか。
ちょっぴりだけ、俺は大人になったんだろうかと思った。


「・・・で、だな、俺の剣術は気合を充填させることが基本ってなってるわけだ。これが一撃に重みを増す。だからここぞって一撃には気合が必要不可欠なわけだ。決して煩くしたくてしてるわけでもないし、ましてキャラ付けとか目立ちたいからなんて理由じゃねぇんだ。そこのところをだな・・・」


興が乗り過ぎて余計な事まで話してしまっていた。
これはまだ大人になれていないということなんだろうか。いや、駄目な大人ということなんだろうか。
後で思い返せば、エーペレスさんなら往復ビンタ10回はやってきそうな醜い失態をアミルカに見せてしまっていた気がする。
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